え、隕石逸らす為だけに転生させられたんすか?   作:饅頭の皮

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6. 怪現象から事案まで

 

 

 

ツクヨミからログアウトして無事に現実世界に戻ってくる。

 

驚いた…あの月見ヤチヨが酒寄さんの母親だったとは。

 

物証自体は無いものの、そう考えると反応の辻褄が合う部分が多すぎる。

 

まぁ、酒寄さんのスレ具合を見るに、実家出る時はそれなりにヒートアップしてそうだったし。

 

多分連絡とかきてもほぼシカトしてるだろうしなぁ…。

 

そう考えると、連絡がつかない娘の様子を見るため、ひいては素面ではできないコミュニケーションを取るのに月見ヤチヨという立場は都合の良いものだったのだろう。

 

親は子供が自立しようが心配するのをやめられない生き物だというのを、何処かの本で読んだことがある。

 

実際にそういう親見るの初めてやな〜…。

 

僅かに熱を持ったスマコンを眼球から外す。

 

あでも、酒寄さんって…お母さんがやってるライバーのガチオタしてるってことになるよな。

 

あの感じ多分1ミリも正体に気づいてないっていうか…。

 

中の人ってなんですか彼女はAIですよ何ですか死ぬんですか殺しますよ殺しますね、なんて笑顔で言ってる酒寄さんが目に浮かぶ。

 

いやしかし…実情を考えると…傷を負うのは早いうちにした方が最終的なダメージ少ないし…。

 

あ〜…さ、酒寄さん。その…月見ヤチヨさんについてなんだけど…。

 

そう言った瞬間、机にだらしない顔で突っ伏していた酒寄さんの首が180°綺麗に回ってこちらを見る。

 

いやフクロウかお前は。

 

その目はまるで初めてテーマパークに来た子供のように非常にキラキラしていた。

 

聞いてもいないのに、ヤチヨに興味があるんですかあのですねヤチヨは8000歳で歌って踊れて分身もできるAIライバーでですねと語ってくる酒寄さん。

 

その圧の強さに本来言い出したかったことは言えず。

 

あ、そ、その…ら、ライブ凄い良かったよね〜…。

 

その一言を待ってましたと言わんばかりに、今日のライブの感想を息継ぎなしで語ってくる。

 

藪を突いたら油まみれの蛇が火に入っていきました。

 

助けを求めてかぐやちゃんの方を見ると、彼女は髪を七色に変化させながら「配信者 なり方」と検索していた。

 

かぐやちゃんの様子的に助けは見込めなかった。

 

徐々に距離を取ろうとした瞬間、逃さんとばかりに酒寄さんの両の手が俺の肩を掴んだ。

 

あ、あはは、そうっ…すよねぇ〜…よかった…すねぇ…。

 

そうだ。

 

わざわざ言う必要もないだろう。

 

テーマパークのキャストは、子供の前で着ぐるみを脱がない。

 

子供の夢を壊すことは大人の流儀に反するのだ。

 

決して酒寄さんの圧に負けて逃げるのをあきらめたわけではない。

 

ラッパーがマイク置いて逃げ出すくらいの速さで語る酒寄さんのオタク語りは、小2時間程度続くのだった。

 

なおこの出来事以降、酒寄さんからは何処となく同志という扱いを受けることになった。

 

ヤチヨさんについて調べとかんとなぁ…。

 

 

 

酒寄さんに解読不能な呪文を吹き込まれ続けて小2時間、ようやく解放されて自分の部屋に戻ってきた。

 

いやはや、流石の熱量だねぇ…。

 

正直会社の会議よりも疲労度が高かった。

 

なんでかって、あれ会話じゃなくて一方的な語りなんだよね。

 

こちらからの会話を挟む余地はなくひたすら相槌を打ち続ける。

 

それしかやる事が無いもんだから飽きるのなんの。

 

かといって1on1である以上、上の空で聞くわけにもいかない。

 

たまに、これってどう思います?みたいなフェーズ挟めてくるし。

 

オタクの皆んなも、語る相手や場所、語り方とかには気をつけようね…。

 

まぁとはいえだ。

 

我慢に節制続きの酒寄さんが、我慢しない、できないような趣味があるのは良い事だ。

 

無茶続きの彼女が息を抜ける場所がある事に安堵しつつ、脱衣所へ向かう。

 

上着を脱ごうと裾を掴んだ腕を上げている最中、それは目に入った。

 

...へ?

 

 

 

シャツの裾を掴んでいる俺の右腕の一部。

 

何故か腕にさえぎられた向こう側が見えるくらいに透けていた。

 

 

 

どわあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

 

ありえない現象に、夜だというにもかかわらず声を上げる。

 

思わず凝視するが、確かに透けていた。

 

付いている虫を掃うかのように腕を振ってみるが特に変化はない。

 

意味不明な出来事続きのここ最近だったが、自身の身に異変が起きたのはこれが初めてだ。

 

背中を嫌な汗が伝う。

 

反射的に透明になっている腕の部分を摩ろうとした。

 

はぁぁっ!!?

 

右腕に伸ばした左手も、同じように透けていた。

 

おいおいどうなってんだぁ...!!?

 

呼吸が荒くなる。

 

乱暴に洗面台の蛇口をひねって水を出し、透明になっている部分を濡らしながら擦る。

 

透明になっていても触った感触も触られた感触もあった。

 

だがもちろん人知を超えた現象などが水洗い程度で収まるはずもなかった。

 

さらにあろうことか、透明な部分が現在進行形で徐々に広がっていた。

 

いよいよ平静を保てなくなる。

 

この状況のせいで余計そう見えるだけのか、実際にそうなのか、透明度がさっきより上がっている気がする。

 

鞭のように腕を振るいながら、恐怖でその場から離れようとする。

 

焦りのせいか足が絡まってバランスを崩し、体が床にたたきつけられた。

 

起き上がろうと着く手の透明な範囲は、またゆっくりと、そして確実に広がっていた。

 

このまま、止まらなかったら...?

 

右腕の透明化をせき止めるように左手で強く握る。

 

止まれ止まれ止まれっ...止まれ止まれっ...!!!

 

血が通わなくなる感覚はあったが、透明化は止まらなかった。

 

正常な判断も取れなくなり、目を強く瞑って自身の右腕を搔きむしる。

 

なんだよこれ、どうなってるんだよ。

 

 

 

「...で...?ど......?」

 

「ちょっ......!...とう......!?」

 

 

 

このまま、全身が透明になったりとかしたら。

 

 

 

「うぇ...!?ひで.......の!?.......!?」

 

「さい....!?...かり....!!」

 

 

 

俺、消えるんじゃn

 

 

 

 

 

 

「ひでちゃん!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

突然聞こえてきた声にハッとする。

 

声の方を見ると、かぐやちゃんが悲壮な顔で俺の左手を掴んでいた。

 

いつ入ってきたんだろう、というか鍵かけてなかったわ。

 

そんないやに冷静で状況と不釣り合いなことを考える。

 

すぐ横には、今まさに救急にでも連絡しようとしたのだろう、スマホを片手に持った酒寄さんもいた。

 

ふと視線を透明になっていた右手と、それを引っ搔いていた左手にやる。

 

そこには、今までのはまるで幻覚でしたと言わんばかりに透過率0%の見慣れた状態に戻っていた。

 

強く握った時の左手の跡と、がむしゃらに引っ掻いたことでできた生々しい傷。

 

その存在が、自身の両手は確かにあることを証明しているように、痛みを主張してきた。

 

 

 

「それ...痛いから...止めよ...?」

 

 

 

泣きそうな声のかぐやちゃんが、引っ掻いている俺の左手を下ろしながら訴えてくる。

 

荒れた呼吸が徐々に落ち着いてきた。

 

依然血が流れ出る右腕を気にもせず、両手で顔を覆って深く息を吐く。

 

その間に、酒寄さんが状況を説明してくれた。

 

二人で寝る準備をしていたところ、突如俺の大きな声が聞こえた。

 

そのすぐ後に何かが倒れるような物々しい音が聞こえたので、流石に心配になって二人で見にきたらしい。

 

いざ部屋に来てみたら呼び鈴鳴らしても応答ないし鍵は空いてるし。

 

部屋に入ってみたら部屋の主がただならぬ形相で右腕を掻きむしっていたので止めに入っていたとのことだ。

 

話を聞く感じ、どうやら俺の右腕や左手が透けてる場面を見てはいなかったようだ。

 

 

 

「斎藤さん…何があったんですか…?」

 

 

 

心配そうな顔で酒寄さんが問いかけてくる。

 

何が…何が…あったんだろうな。

 

ご教授いただけるなら俺が知りたいところではある。

 

自身の身に降りかかった現象を反芻する。

 

馬鹿正直に全部言うか?

 

俺の手がどんどん透明になったって。

 

言ってどうする意味わからんだろ。

 

そもそもその現場を見てないんだぞ。

 

というか、すでにかぐやちゃんっていう未知の存在を抱き込んでいるんだ。

 

これ以上面倒ごとを増やしてどうする。

 

ほら、腕だって元に戻ってるのに、いつまで弱った感じ出してんだ。

 

泣きそうなかぐやちゃんの頭を優しく撫でる。

 

ご、ごめんな!夜だってのに大暴れしちゃって!

 

いやついさっきそこにゴキブリ出ちゃってさ!

 

俺って虫嫌いだからさ?驚いた勢いで叫ぶわ転ぶわで参っちゃうね本当!

 

 

 

「そ、そんなわけないz」

 

 

 

いや…虫だよ、本当に。

 

酒寄さんの友達に披露した演技は会心の出来だったのかもしれない。

 

だって今全力でやってたのにすぐバレた。

 

そんなわけないと異を唱える酒寄さんに、被せるように言う。

 

言外に何が起こったか言う気がないのを察した二人は、顔を俯かせる。

 

あぁ、随分と優しいなこの子達は。

 

仲良くなって一週間も経ってないだろうに、本気で心配してる。

 

駄目だな、子供にこんな顔させるようじゃ!

 

気合いを入れるように頬をパンっと両手で挟むように叩く。

 

ごめんね迷惑かけちゃって!

 

本当に俺は大丈夫だからさ!

 

さぁ、酒寄さんは明日も学校あるんだろ?

 

部屋に戻って早く寝ないと!

 

そう言って、心配してくれた二人に早く部屋に戻るよう急かす。

 

二人は目に心配を宿したまま、部屋の外に出た。

 

かぐやちゃんに本当に大丈夫かと聞かれたが、前世から板についた大丈夫で返答する。

 

ごめんねかぐやちゃん、明日までにはちゃんと戻すから。

 

自分の部屋に入る直前に酒寄さんが何か言いかけたが、結局なんでもないですと言ってそのまま戻っていった。

 

二人が部屋に戻るのを見送り、深く息を吐く。

 

自身の両腕を見下ろすが、そこには依然として見慣れた肌色の皮膚が腕を覆っている。

 

一体あれはなんだったのか。

 

考えてもわからないことはしょうがない。

 

浴び損ねたシャワーを浴びるために自室に戻る。

 

結局その日は、自身の左手を眺めているうちに気づけば眠りについていたのだった。

 

 

 


 

 

 

人気者になるというのは、まぁ当たり前に難しいものである。

 

人気者というのはつまるところ、複数の誰かが同じ人間にどんな形であれど好意を向けている状態のこと。

 

人の感性はというのは十人十色という言葉もある通り、人それぞれ違っていて100%同じとなるとまぁそうはいないだろう。

 

それに加え、時期によって興味なんてものは移ろいでいき、その色を薄くにも濃くにも変える。

 

それらのパターン分けをしたら、200色ある白なんて目じゃない位の数になるだろう。

 

人の感性がそれだけ分かれているのだから、万人受けするようなものなんてのは少ないわけで。

 

自分の持つ感性が万人受けする感性と一致する可能性がかなり低いのは、火を見るより明らかだ。

 

しかも、今の世は目を引ん剝くくらいに爆速コンテンツ消費の時代。

 

目に入れど留め続けるのは至難の業であり、バズッたとしても明智光秀かよと言わんばかりに一夜天下で終わるなんてのもざらだ。

 

そうなるとやはり、それなりに根気強く自分を見て応援してくれる第三者が必要になってくるのだが...。

 

まぁそういう人って得てして、時間をかけないと近くに寄ってこないからねぇ。

 

というわけで結論としては...!

 

俺の部屋の人をダメにするソファでだらけながら、配信者として人気になるための方法を問うてきたかぐやちゃんにいう。

 

うーん...やっぱり時間をかけてやっていくしかないね。

 

ありきたりな回答にえ~と文句を垂れるかぐやちゃん。

 

ゲーミング電柱との会合に始まり、かぐやちゃんの急速成長や謎の透明化。

 

そんな怪奇現象にも引けを取らない頓珍漢な出来事により、本来3連休によって楽になるはずだった一週間の平日を疲弊しながら乗り越えた。

 

今日はその週の終わりである土曜日。

 

バイトで酒寄さんが出て行ってしまっている為退屈になったかぐやちゃんは、俺の部屋を訪れていた。

 

お昼ご飯を食べようとした矢先に入ってきては、当たり前のように俺の隣に座りオムライスを注文してきた。

 

俺の部屋は飲食店じゃないんだが???

 

ていうかせめてチャーハン作る前に来てくれませんかね…。

 

材料はある筈なのでリクエスト通り作っていたが、その間に俺のチャーハンはかぐやちゃんの腹の中に収まった。

 

え、オムライス?それもかぐやちゃんの腹の中だ。

 

昼飯なんてねぇよ。

 

昼飯を作る気も食べる気も無くなり、そのまま使った食器や調理器具を洗っている際に、かぐやちゃんから質問された。

 

それが、配信者として人気になる方法だった。

 

ツクヨミでヤチヨさんからヤチヨカップの開催が告知されたあの日。

 

かぐやちゃんは配信者になることを決め、それ以降は配信に向けての準備を進めているようだ。

 

なんかちょくちょく配達の人がどデカい荷物を持ってくるのもその一環だろう。

 

そして、かぐやちゃんの目下の目標はヤチヨカップの優勝。

 

優勝条件は期間中に参加者の中で獲得した新規ファン数が最も多いということ。

 

ただネットの海に溢れかえっている凡百の有りふれたライバーでは、到底優勝できっこない。

 

それ故に人気になる方法を質問してきたのだろうが、俺は配信業に関して門外漢である。

 

ありきたりの事しか言えないのは自明の理。

 

まぁ汚いやり方みたいなのはそこそこ思いつくが、それは本人も求めてないだろうし、ツクヨミ側からも弾かれる可能性がある。

 

結果だけじゃなく過程も大事にする日本人の感性的にも、よっぽどの外れ値じゃない限りは時間をかけざるを得ないだろう。

 

ま、桃栗三年柿八年、実がなる為に時間は必要不可欠なものだよ。

 

その言葉に聞いて、かぐやは三日で喋れるくらいになったのに〜と不満を隠さずに返すかぐやちゃん。

 

そう言えばとんでもねぇ外れ値でした彼女は。

 

比べてやるなよ、可哀想だろ桃と栗と柿が。

 

そう思ったのも束の間、ソファに沈み込んだ間にもパソコンを操作して進めていた作業が終わったのか、出来上がったと声を上げた。

 

出来上がったのはオーバーレイというものらしい。

 

なんだそれ…レベルが同じモンスター2体でネットワークでも構築するんか?

 

頭の中にエビのような髪型をした決闘者がカットビングしていたが、それは1ミリも関係ないらしい。

 

聞くにどうやら、配信画面に表示されている枠とか装飾画像とかのことをそういうらしい。

 

話が途中からよく分からなくなったあたり、俺はやっぱりおじさんなのかもしれない。

 

この前の透明化なんてもしや老いによるボケが回ったのではと考えていると、かぐやちゃんが自ら作ったオーバーレイを自慢げに見せてきた。

 

そこには、外枠無しの飾り気0ピンク一色のコメント欄に、マウスで書いたであろうぐにゃぐにゃの線と乱雑な塗り方で表された月と竹と兎。

 

そして影や凹凸なんて概念のないのっぺりとしたテイストで、かぐやちゃんのツクヨミ内部でのアバターが描かれていた。

 

なんでアバターの方はちゃんと塗りつぶし機能使ってんだ…。

 

色んな意味で味わい深いオーバーレイを見せられ複雑な表情を浮かべる俺を、褒めて褒めてという文字が宙に浮かんで見える様な雰囲気でこちらを見てくるかぐやちゃん。

 

酷いと一言正直に言えれば楽なのだが、こんな純粋無垢で否定されると1ミリも思ってなさそうな彼女に、否定の意を唱えるのはあまりに心苦しい。

 

その結果、俺が口から捻り出した言葉は。

 

い、いやぁなんとも個性と芸術性に溢れた…最先端のアートというか…ぴ、ピカソの生まれ変わりかもねかぐやちゃんは!

 

なんとか言いたい事を察してくれという意思が満々の情けない言葉だった。

 

しかし月生まれ月育ち地球に越してきて一週間とちょっとのお転婆姫に、察してくれなんて無理な話。

 

ピカソって有名な画家さんだよね?かぐやって才能あるかもぉ〜!と嬉しそうにはしゃいでいた。

 

過度な旨味成分は苦味として味覚が処理してしまう。

 

先走り過ぎた芸術は大衆の理解を拒絶する。

 

娯楽芸術も無ければゆとりや誤差なんて言葉がなさそうな月を故郷とするかぐやちゃんに、過ぎたるは猶及ばざるが如しを理解する土壌は育っていなかった。

 

鼻歌混じりのご機嫌な様子なかぐやちゃんを尻目に、俺はキッチンで悲壮感を漂わせながら「泣く女」みたいな顔をする事しかできなかった。

 

一連の流れからそもそもそなぜ評価されてるのか気になって検索し始めた俺に、かぐやちゃんがもう一つ尋ねてきた。

 

それは作曲が可能かどうか。

 

どうやら、配信している傍らで流すBGMを作りたいらしい。

 

立ち絵とかもそうだけど、既存のフリー素材とかフリー音源とか使わないんだね…。

 

そう言うと、オリジナリティのある方がライバーとして注目を浴びやすいんだと返してきた。

 

その理由で一から全てを作ろうとするあたり、本当にかぐやちゃんの行動力には驚かされるばかりだ。

 

しかしオリジナリティか…ユニーク…独自性…芸術性…うっ頭が。

 

頭を過ぎる嫌な予感を隅に置き、作曲の話に戻る。

 

まぁ勿論、作曲なんて出来るわけがない。

 

楽器なんて小学校以降触った事ないし。

 

せいぜいカラオケに月一で行くか行かないかくらいしか、音楽に関係したことはやっていない。

 

その旨を伝えると、そっか〜と当てが外れた様でがっかりするかぐやちゃん。

 

個人的な意見だが、作曲はハードルがかなり高いイメージがある。

 

そもそも楽器弾けること前提みたいなとこもある気が勝手にしている。

 

それなりに知識とかも求められるだろうし、やっぱり既存のフリー音源を使った方がいいのでは?

 

ヤチヨカップには期間が設けられている以上、下手に時間をかけることもできない。

 

ていうかPC一つで作曲とか出来るのか?

 

うーん…色々問題ありそうだしBGMだけでも既存…え、なに?BGMじゃなくてジングル?ベルでも鳴らすのかい君は。

 

どうやらそもそも作りたかったのはBGMじゃなくてジングルというものらしい。

 

なんか、コーナー間に挟まる短めの音楽とかがそれに当たるとかなんとか。

 

そのピノキオみたいに鼻伸ばしながら間違い指摘するのやめてねかぐやちゃん。

 

それはそれとして、色々と作るのが無理そうな理由を挙げ連ねてみたがオリジナリティを捨てれないのか、かぐやちゃんはうんうんと唸っていた。

 

洗い物が全て終わり、手を洗った後にエプロンを元の位置に戻す。

 

しっかし、かぐやちゃんが配信者ねぇ…。

 

リテラシー的には不安しかないが、かぐやちゃんの気質を考えると結構楽しみなところはある。

 

この世のあらゆることに興味を持てる知的好奇心。

 

やりたい事を惜しまない積極性。

 

人を惹きつけるカリスマ。

 

まぁトラブルも一緒に惹きつけてくるんですけどね彼女。

 

とはいえ、トラブルメーカーというのも配信者として考えれば光る素質の一つ。

 

案外優勝というのも夢物語ではないのかもしれない。

 

…元々渡すつもりではあったし、いいか今で。

 

そう呟きながら、仕事帰りに複製した部屋の鍵を取り出す。

 

そして、うんうん唸っていたが何かを閃いたかの様な表情をしたかぐやちゃんに鍵を差し出した。

 

かぐやちゃん、ハイこれ、俺の部屋の鍵。

 

差し出された鍵を見て、なんでとごもっともな理由を聞いてくるかぐやちゃん。

 

そもそも近いうちに部屋の鍵自体は渡そうと思っていたのだ。

 

一応自立できるくらいの大きさになったとはいえ、色々と危なっかしいかぐやちゃんのフォローをする為に、酒寄さんとの協力関係は今も続いたままだ。

 

協力する上で、まぁ無いとは思いたいが緊急を要する様な出来事もあるかもしれない。

 

そんな時に一々連絡入れたり呼び鈴鳴らしたりとかするのは正直面倒だ。

 

しかも部屋が隣同士なので、余計にその細かい工程が煩わしく感じる。

 

その工程踏まずに普通に鍵開けて入ってきてくれた方が楽だ。

 

というわけで、協力関係が続いている間は、酒寄さんに鍵を預けようとしていた。

 

えなんで酒寄さんじゃなくてかぐやちゃんに渡そうとしてるのか?

 

今思ったけど、酒寄さんに直接渡そうもんならブチギレられるんじゃねぇかって。

 

不用心がすぎます!!!って。

 

かぐやちゃんに渡してもどうせ後から事実共有されて怒られるだろって?

 

それは…そう…だね。(諦観)

 

俺がJKにビビり散らかしてるのは一旦置いとくとして。

 

かぐやちゃんが配信者をやるなら、それなりにメリットもある。

 

俺のアパートはワンルームであり、それは酒寄さんも同じ。

 

となると、かぐやちゃんが配信する場合はそれなりの確率で酒寄さんも部屋にいるのだ。

 

そうなれば勉強だったりをしている酒寄さんと同じ部屋で、おそらく騒ぐことになるであろう配信というものをかぐやちゃんはやらなければならない。

 

まぁ揉め事になるのは容易に想像がつくだろう。

 

どうせ酒寄さんが折れるだろうけど多分、あの子チョロいし。

 

なんにせよワンルームという都合上、同居人がいる中で配信するとなると問題がそこそこ出てくる。

 

そこで俺の部屋だ。

 

俺は普通の社会人、お盆休みなんてものも無い為、基本この時期の平日は外に出ている。

 

この部屋をかぐやちゃんが配信部屋みたいに使ってくれれば、多少なりともマシにはなるだろう。

 

かぐやちゃんも周囲を気にする必要はないし、酒寄さんも自分の部屋で自分のことに集中できる。

 

まさにwin-winってやつだね!

 

協力関係云々の話は抜きに、配信部屋として使っていいという旨をかぐやちゃんに伝えた。

 

部屋の物もまぁ…壊したりしなければ使っていいことにしよう。

 

かぐやちゃんに掘り当てられた黒歴史ノートは燃えるゴミに出したし、R18な本は電子に移した。

 

問題ない事を頭の中で確認すると、ありがとうと言ってかぐやちゃんは鍵を受け取った。

 

そしてさっき何かを閃いたのが関係しているのか、部屋に戻るね〜と足早に去っていった。

 

あちょ…っと…ふふっ、嵐みたいな子だねぇ。

 

いついかなる時にも、何事に対しても全力投球なかぐやちゃんを見てると元気が貰えるし癒される。

 

癒されすぎて、妹じゃなくて娘を見てる感じになる。

 

そうか…これが…父性。

 

何故か生まれてきた父性と、これからのかぐやちゃんの配信者としての活躍への期待を胸に抱きながら、土曜の午後は過ぎていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにこの数時間後に、早速配信してみたよといいながらまた俺の部屋に戻ってきた。

 

かぐやちゃんが持ってきたPCに映されていたのは、それのアーカイブ動画だった。

 

廃墟の旅館に置き去りにされたボロいラジオから流れ出したかの様な、不気味すぎる不協和音みたいなジングル。

 

手作り感満載の立ち絵達に、やることが思いつかないからという理由で挨拶のみとなったコンビニ弁当もびっくり薄っぺらいボリュームの配信内容。

 

そして最後にはインカメにしてリアルの映像もお届けしてしまうサービス精神。

 

最早どうやって褒めてあげたかも覚えていない。

 

オーバーレイの時点で褒めた、褒めたんですよ!必死に!!!

 

その結果がこれ(おざなりな配信)なんです!!!

 

これ以上何をどう褒めろって言うんです!?

 

さらに夜になって晩御飯を食べようとしてる時に、バイトから帰ってきて鍵の事を聞いた酒寄さんが鬼の形相で部屋に上がり込んできた。

 

めちゃくちゃ怒られました、はい。

 

もう正座して縮こまってハイ…ハイ…って言うことしか出来なかったもん。

 

危機感って…成人男性の部屋に躊躇なく上がり込んでくるお前が言えるのかって、それ一番言われてるk

 

 

 

「なにか?」

 

 

 

ヒンッ…ナンデモナイデス…。

 

怒り続ける酒寄さんにおかずの豆腐ハンバーグを分け与えたところ、少しだけ怒りが和らいだ。

 

 

 


 

 

 

っていう感じで、危機感についてあーだこーだ説教されたのが大体一週間前かそこら。

 

そして今、なんということでしょう。

 

 

 

 

 

 

俺の部屋の俺の布団で、酒寄さんが爆睡しているではありませんか。

 

 

 

 

 

 

本当になんて事してくれてんだ匠お前。

 

部屋をリフォームしろって言ってんの、誰がお前刑務所で暮らせる様に手配しろって言ったよえぇ?

 

…いやリフォームしろってまず言ってねぇわ。

 

そんな事を考えるも、目の前の光景が変わるはずもなく。

 

一体果たして何故こうなってしまったのか。

 

かぐやちゃんに鍵を渡してからというもの。

 

どうやらそれ以降、順調に配信者としての活動を進めているらしい。

 

チャンネル登録させてもらったし、仕事終わりの帰宅中やご飯を食べる時などに、よくアーカイブ等を見させてもらっている。

 

どうやら独自性へのこだわりは少しなりを潜めた様で。

 

背景は多分フリー素材から。

 

立ち絵はツクヨミ内のアバターから引っ張ってこれる機能がそもそもツクヨミにあったらしく、それを使用している。

 

あの不気味なジングルも何処へやら、爽やかな感じのジングルに置き換えられていた。

 

後から聞いたけど、このジングルは酒寄さんが作ったらしい。

 

もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな。

 

配信内容としては、よくある雑談にゲーム実況が今の所のメインっぽさそうだ。

 

ヤチヨさんの目の前で啖呵切ったのが良い方に働いたのか、その件繋がりでそれなりに観に来てくれる人がいるのがコメント欄から伺えた。

 

あんなに先行き不安な初配信にも関わらず、順調な兆しを見せているかぐやちゃんの配信。

 

まぁでも、やはり問題は一つも無しとはいかない様だ。

 

平日の昼間はバイトで酒寄さんが不在だったり、俺の部屋に移動して配信したりで、上手い事やりくりできてるみたいだが。

 

夜となると俺が帰ってきてしまうので、結局酒寄さんの部屋に戻らなければならない。

 

しかし夜の時間は、配信者からすると新規さん掻き入れ時のゴールデンタイムだ。

 

ここで配信をしないという選択肢は、優勝を目指すかぐやちゃんの頭の中にはなかった。

 

しかし、大体その時間は勉強に当てている酒寄さん。

 

こうなると勉強と配信の時間がドン被りするわけで。

 

雑談するだけならまだ耐えれるらしいのだが…ゲーム実況みたいなリアクションありきのものとなると、気が散ってしょうがないらしい。

 

既に10を超えるアーカイブの中に、もう少し静かにしろと注意されてる様子が映ってる動画が二、三個あった。

 

更に、この問題自体はまだマシな方でして。

 

もっと辛いのは夜中である。

 

配信をやってるとまぁそれなりに長引くことは多々あるのだが、これが夜中の寝る時間まで伸びることは少なくない。

 

特にゲーム実況となると、目的を達成するまでやり続ける耐久配信なんてものもある。

 

これになるとまぁ大変。

 

そりゃそうだ、本来寝てる時間にゲームの音やらリアクションの声やらが聞こえてくるんだから。

 

壁の薄いアパートの為、その時は俺の部屋にも声が響いてくることはある。

 

俺はまぁ周りがうるさくても寝れるタチなのであまり気にしたことはない。

 

しかし、酒寄さんはそうではない。

 

同じ部屋に住んでる都合上、俺が感じてる以上に騒音によってストレスを浴びせられているのだろう。

 

夜中になっても寝る気配のない同居人に早く寝ろとキレる酒寄さんの光景は、デビューして間もないにも関わらずそれなりの回数見られている。

 

なんなら、いろPにまた怒られてる〜なんて名物的な扱いをされている。

 

てか気づいたら、ツクヨミ内の名前がいろPに変わっていた。

 

かぐやちゃんのプロデューサーという意味合いでPをつけたらしい。

 

本人は納得していなさそうだったが、かぐやちゃんに押し切られていた。

 

大概酒寄さんもかぐやちゃんにあまいよね。

 

まぁそんなあまちゃん酒寄さんでも我慢の限界というものがあったらしく。

 

今日も今日とて、ゲーム実況の配信を行いそのまま耐久に移行したかぐやちゃん。

 

それによって睡眠を妨げられる酒寄さん。

 

バイトや勉強の疲れ、同居人の騒音、削られる睡眠時間。

 

ストレスに揉まれ続けた酒寄さんの判断能力は著しく低下。

 

その結果、ボロボロの脳みそから弾き出された行動は、鍵を貰った隣人の部屋に逃げ込んで安眠させてもらうことだった。

 

酒寄さんは自分がJKなことをお忘れになってませんか…?

 

仕事に関する調べ物をしていた俺の部屋に、鍵を使ってエントリー。

 

事情を聞きに近寄った俺の肩を掴んで、ここで寝かせてくださいと一言。

 

あまりの危機迫る表情に気圧され、押し入れから来客用の布団を取り出す俺。

 

しかし眠気が限界に達したのか、酒寄さんがくる前に既に敷かれていた俺の布団にダイブ。

 

声にならない悲鳴をあげる俺を他所に、酒寄さんは10秒もしないうちに眠りについた。

 

そして、あれこの状況って事案じゃねぇ?と思い至り絶望する俺。←今ココ

 

一応布団は週一で干してるしシーツは毎日変えているが、それでも匂いとかまぁ気になるわけで。

 

え大丈夫かな臭くないよね俺。

 

とりあえず腕を鼻に寄せて嗅いでみるが、慣れ親しんでしまったが故に臭いかどうかもわからなかった。

 

おかしい…何故…俺は…こんな状況に…。

 

誰だぁ!!!うら若き女子高生が部屋に上がりこめる様な状況を作り上げたのはぁ!!!

 

………お、俺だぁ!!!鍵渡したのも俺だぁ!!!

 

いや違うんすよ…こういう事がしたくて鍵を渡したんじゃなくて…。

 

もっとこう…危機的な状況下で上がりこめる様に…。

 

……あれ、今って酒寄さん的に結構危機的な状況だったのでは?

 

てことは鍵を渡した目的は果たされているわけで…。

 

…あ…あれぇ?

 

こんな筈ではなかったと胸の前で十字を切り神に懺悔を始めていると、酒寄さんが悩ましげな声をあげながら寝返りをうった。

 

寝返りによって見える様になったその寝顔には、マシにはなったが未だに消えることのない隈があった。

 

今も隈が残るくらいしか寝れてないのに、かぐやちゃんに配信を止めろと言わないのは、まぁ彼女の優しさだろう。

 

力ずくで止めに行く事も出来ないわけではないだろうに、自分の方が移動するっていう方を選択してるわけだし。

 

かぐやちゃんには普段ツンケンしてるくせに、こういう所で優しさ出しちゃうんだなぁ…。

 

なんでも出来る感じを出してる割に、変なところで不器用だねぇ。

 

人に頼るのとかめっちゃ下手くそだし。

 

こっちの気も知らないで安心しきった表情で眠り続ける酒寄さん。

 

その寝顔を見て、こちらもまぁいいかと苦笑いしながら息を吐いた。

 

んまぁでも…今回俺を頼ってくれたことは満点だな。

 

そう呟きながら寝返りによって蹴飛ばされたタオルケットを、酒寄さんの体に掛け直す。

 

つけていたPCの電源をオフにし、部屋の電気も消す。

 

窓を開けると、夜だというのに少し熱気を孕んだ生ぬるい風が頬を撫でた。

 

隣からは、依然として続いているのだろうゲームに熱中するかぐやちゃんの声が聞こえた。

 

プログラミングの技術書を本棚から取り出し、窓枠に腰掛け、月明かりを頼りに読み進める。

 

安らかな寝息と時折聞こえるはしゃいだ声をBGMにしながら、俺は結局一睡もすることなく酒寄さんが起きるまで、そこで本を読み続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

因みに目を覚ました酒寄さんは、俺の部屋にいると分かるや否や、身体を抱いて身を寄せる様に部屋の隅へ後ずさった。

 

いや連れ込んでねぇよ君から来たんだろ俺の部屋に。

 

 

 

 







テンパったら身体の何処かを掻きむしるの、妹の光ちゃんとよく似てるね良かったね。因みに母親譲りだよ、その癖。

皆んなは隣人が暴れるような奴だったら即引っ越ししましょう。百害あって一利なしです。彩葉も早く引っ越したほうがいいよ。そいつほっといても消えていなくなる運命だから。

主人公は前世の暮らしで余裕が無かった時に食べ物とかを妹達に全部渡したりとかしてた都合上、食事に関してはセルフネグレクト気味です。一日一食or食べないがデフォで、今世もそんな生活してる為ガリガリになってます。
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