地球の温暖化というものは年々ひどくなっていく一方だ。
2000年代初頭から今にかけては平均気温が3℃近く上昇している。
35℃を超える所謂猛暑日になる回数なんかは、二倍近くに跳ね上がっているらしい。
レンタカーの中でクーラーにより快適に過ごしていた俺は、駐車を終え車外に出て思わず顔をしかめた。
あっっっっっっつ!!!!!!
余りにも気温の上下動が激しすぎるために、令和ちゃんという概念に対して温度調節が下手という批判が集まる昨今。
令和ちゃんに中指をブチ立てキレ散らかしている俺は、なんともまぁ珍しいことに海に来ていた。
前世含めて人生で一度も行ったことのない海になぜ来ているのか。
まぁなんとなく察しが付くであろう、例のJK四人組の保護者兼送迎係に任命されたからである。
俺の戦闘スタイルがお見せできない有様だったために、不本意ではあるが色々と爪痕を残すことになったJK四人組+俺での初コラボ配信。
その反応は意外や意外、好意的なものがほとんどでなんなら続編を望む声もちらほらあった。
お労しや...どうやら視聴者の皆々様は夏の暑さで頭がおかしくなっておられるようだ。
不安視されていた視聴者からの反応は上々。
人気ゲームKASSENの新モードのプレイ配信ということもあり、視聴者数も他コンテンツより高め。
ヤチヨカップ優勝を目指すかぐやちゃんにとって、最早やらない理由は無くなった。
流行り物がアツい間はこすり続けるというインフルエンサーの鉄則。
それにのっとりJK四人の予定が合った日は、KASSENの新モードの配信を積極的にするようになった。
そのたびに人数合わせのため俺が招集される始末。
炎上はしなかったけど、配信で挨拶をするたびにうわ出たってコメントされる俺の身にもなってほしい。
若干恒例になりつつあったKASSEN配信だったがその甲斐あってか、かぐやちゃんの順位はさらに上がっていった。
確か...二百八十位だったかな?
依然優勝には届いていないが、始めたての新人としては異例の順位だろう。
まぁそんなこんなでせっせこコラボ配信をしていた最中なんだが。
その途中で海に行くという話が出てきた。
どうやら元々酒寄さんと綾紬さんと諌山さんで行く予定だったらしいが、かぐやちゃんもせっかくだから誘おうという話になったらしい。
もちろん断るはずもなくかぐやちゃんはこれを快諾。
そのまま海水浴の話になっていったのだが、聞くにどうやら当初は別のビーチに行きたかったらしい。
そっちの方が綺麗だし景色も映えるとかなんとか。
ただそっちのビーチに行くとなると車が必要になるらしく、送迎を頼める親も都合がつかず泣く泣く別のビーチにしたとのこと。
あら〜残念やねぇと他人事で聞いていたら、かぐやちゃんが一言。
「ひでちゃん免許持ってるからそっち行こうよ!」
ナチュラルに遊びに行く面子に組み込まれた。
ていうかまずなんで免許持ってるの知ってんだこの子は。
俺の部屋を物色してたら車両免許の学科試験の問題集を見つけたらしく、そこからどうせ持ってるやろと推測したらしい。
いやまぁ確かに持ってますけども。
とはいえなぁ…JK四人の命背負って車を走らす気はなぁ…。
しかも夏休み、高速道路なんて混むのが目に見えてるこの時期に。
世の父親達が連休に出かけるという提案に顔を顰める理由が、今この瞬間によく分かった気がする。
フルフェイスの骸骨お面を貫通するくらいに、いやだ行きたくないというオーラを出す。
かぐや…あんたまた勝手に、なんて人の事を勝手に移動の足として組み込む豪胆さに注意を入れる酒寄さん。
しかしそのクソデカい狐の着ぐるみの頭は、チラッチラッと期待を込めた視線を複数回俺にぶつけるように動いていた。
ぬ、ぬぐっ…いやしかし此処は譲れない。
お盆休みの無い弊社にとって、この土日を潰されるのは非常に辛いのだ。
既に揺れ動いている心に喝を入れ、フンっとそっぽを向くように顔を背ける。
そ、そうだよと遠慮したように発言する綾紬さん。
おほぉ〜流石四人の中で一番思いやりのある子だぁ〜助かるぅ〜。
とか思っていたのも束の間。
流石にそこまでしてもらうのは…という綾紬さんの視線は、期待が込められた感じでチラッチラッと複数回俺に向けられていた。
おめぇもかよぉっ…。
こうなってしまっては男側に人権なんてない。
最後の一押しと言わんばかりに、肩ポンしながら行きますよね?なんて言ってくる諌山さん。
四人の水着がどんなもんかリークしろだのお前には水着の情報を共有する義務があるだの、カスみたいなコメントをしている視聴者達。
いい歳した大人が女子高生の水着事情探るなよ気色悪い。
味方のいない俺は、結局夏休みとかいう激混み確定期間に車を走らせることになった。
そのストレスをぶつける様に、その配信では体力が少なくなった瞬間に肉薄してダイナマイトで相手もろとも自爆する戦法を乱用した。
その後、運営からお前いい加減にせぇよホンマプレイスタイル改めろやという旨のメッセージ(警告文)が届いた。
お、おでは日々のストレスを発散する事すら許されないっ…!
そんなこんなで当日。
免許は持っていても、勿論車なんて持っていない。
駐車場ないしね、うちのアパート。
そんな訳でレンタカーで八人乗りのミニバンを借りて、目的地へと向かうことに。
みんなを迎えにいく途中に、休日にも関わらず同僚がまた天体の話をトークアプリで送ってきたが、面倒なのでブロックした。
なんだよ牡羊座無理ありすぎって、知るかよんな事。
………イヤベツニキニナッテネェシ……いや、これは流石に無理あるだろ。
そんなこんなで最寄駅の前に集合している彼女らを拾い、目的地へ出発。
女三人寄れば姦しいなんて言葉もある通り。
片道一時間半の道のりにも関わらず、車内の会話は途切れる事を知らなかった。
最近流行りのファッションとか美味しかったお店とかかぐやちゃんの新曲の話とか。
あ、因みにかぐやちゃんの新曲については酒寄さんが作りました。
お前は本当に何を持ち得ないんだ???
その内、無量〇処の一つや二つでも打ちだすんじゃないですかね。
あと、俺の学生時代の話が聞きたいとかもちょろっと出てきた。
ん~前世の範囲ならいろんな意味で面白い話はできるけど、今世は特になんにもなかったんだよなぁ~...。
なんて思っていたが、祖父母とか親とかの話を軽くしていたら目的地付近についたのでそのままお流れになった。
途中かぐやちゃんがどうせなら配信する?なんて言っていたが、流石に身バレが怖いので断念。
車内は終始盛り上がりながら、目的地へと辿り着いたのだった。
JK四人組は目的地のビーチ付近で最低限の荷物だけ持たせてそのまま降ろした。
そして、ちょっと離れた駐車場に車を駐車しにいって今に至る。
地軸傾きすぎて赤道付近に日本が来ちまったかと、あまりに強すぎる日差しに突拍子もない疑いを持ち始める俺。
顔に降りかかる日差しを遮るように手をかざす。
しかしその手は、日光を遮る事はなくそのまま陽の光を眼球に通すのだった。
手…また透けてるな…。
腕の一部分が唐突に透け出すというトンチキ現象に見舞われたあの日。
それ以降、周期は分からないが定期的に肌が透けるようになった。
それと、どうやらこの現象は俺だけに見えているらしい。
右手が透けている状態で酒寄さんに何色に見える?なんて聞いたが、不健康そうな白さの肌色ですね、もう少し外に出たらどうですかと返してきた。
日常会話に言葉のナイフを持ち出してくるのは良くないと思いますっ!
とまぁ反応的に透明化が他の人の目に映っていないことが確定。
一応皮膚科にも行って事情を説明してはみたが、受診後普通に精神科を勧められた。
いやはい…頭おかしいこと言ってるのは分かってるんですけど…もう少し手心…。
結局俺にしか知覚できない現象のため、一旦は幻覚ということで飲み込むことにした。
最初の二、三回はそこそこにびっくりしていたものの。
悲しいかな、人間慣れるとリアクションすら取らなくなる。
最早透けたら透けたで、今日いいことあるかもなみたいに考えるくらいにはどうでも良くなったね、うん。
透けた右手をポケットに突っ込み、ビーチへと向かう。
途中、SNSの動画撮影中であろうヤリラフィーの横揺れにぶつかられるというアクシデントはあったものの、無事ビーチに到着。
有料の更衣室で手早く着替え四人を探す。
結構混み合っていた為、探すのに時間かかるかなぁとか思っていたが、その考えは杞憂に終わった。
いやだってクッッッソ目立つもん、彼女達。
更衣室を出て三十秒、可愛い子達が集まってるなんてヒソヒソ話が、見知らぬ客の口から俺の耳に入る。
その情報を頼りに進んでみると、案の定そこに四人とも居た。
かぐやちゃんの両肩に手を置く綾紬さんと腰に手を回す諌山さん。
あと何故か蟹の軍勢に襲われている酒寄さん。
ていうか…なんか…あれだ。
非常に近づきがたいなこれは。
この世界の住人は、基本的には皆んな顔整い族なのだが。
四人に関しては、頭ひとつ抜けて顔が整っている気がする。
シンプルに作画のレベルに違いがあるっていうか。
こうなると顔面偏差値普通組の俺は入りにくいったらありゃしない。
なんか…一人くらいモブ顔の友達とかおらんのかね君達。
そう思いながら取り敢えず合流する。
なんか皆んな良い感じの水着を着ていた気もするが、極力視界には入れないようにした。
いつセクハラだって訴えられるか分かったもんじゃないからねしょうがないね。
え?視聴者の頼み?
知るか、ラノベの挿絵で我慢してろ陰キャは。
最近は褒めることすらもハラスメントに入るらしいからな〜…。
最早トラップ…一度視界に入れて言葉を紡ごうものなら、その瞬間断頭台にその首を固定されるのだ。
おぉ、くわばらくわばら。
だがしかし、そんな危険があると知ってなお対策無しでのこのこ出向く俺ではない。
対策として、結構色が濃いめのサングラスも装備している。
多少視線が向いてしまったとしても、サングラスがあれば多少の誤魔化しがきく。
これで警察の厄介になることもないなガハハ。
なんて事を考えていたら、こちらに気づいたかぐやちゃんが俺の前に来て私の水着はどうかと質問してきた。
断頭台なんていらないね、死神が直接鎌をフルスイングしてきてんだから。
顔は正面で視線は横に、いい感じなんじゃないかな〜あははと誤魔化しにかかる俺。
しかしまともに見ていないことがバレたのか、かぐやちゃんは不機嫌そうに膨れた。
残りのJK三人はそれぞれ、22、14、0と書かれたプラカードをあげていた。
どっから持ってきたそれ。
えてかそれは…点数?もしかしなくても百点満点ですか?M1より採点きついやん。
お兄ちゃんなんだから別に褒めてあげてもいいのでは…?と疑問を口にする22点の諌山さん。
色とかフリルとか結構言及できるポイントあると思うんですけど…と苦笑いで14点を挙げる綾紬さん。
0点をつけた挙句、そんなんだから今だに独り身なんですよと煽り立ててきたのは酒寄さん。
蟹と乳繰り合いしてたもんだから恋愛対象が甲殻類になったんじゃないかって心配したぞMs節足動物愛好家。
売り言葉に買い言葉、今にもお互い掴みかかりそうな形相で対峙する俺ら二人を他所に、諌山さんと綾紬さんはお腹空いたね〜なんて会話をしていた。
そういやあれか、ぼちぼちお昼時か。
そんな事を考えていると、納得いかないと俺の腰に抱きついてくるかぐやちゃん。
褒めてくれるまで離さない〜ととんでもない力で腰を締め付けてきた。
いやしかしだね…昨今の風潮的にも配慮とか人の目気にしたりとか色々な色々がね?あるわけだからその…なんというk
「やっぱり…かぐやには…水着似合わない…?」
あーもうすっっっげぇかわいいよぉかぐやちゃん!!!
オレンジとかもう天真爛漫なかぐやちゃんのためにあるみたいな色だからね!!!
めっちゃ似合うね!!!肩回りのフリルとかも最高にいいね!!!
な、波打ち際に踊るマーメイドみたいな!!?人魚姫だよね実質もう!!!うん!!!
似合わないわけないだろ!かぐやちゃんに水着が!と心の中で絶叫した俺は、脳内のボキャブラリーをひっくり返しあらん限りの思いついた言葉でかぐやちゃんをほめちぎった。
私が指摘したポイントしか触れてないような…とか言っている綾紬さんは一旦スルーする。
立川一と噂される美容ガールのお眼鏡にかなう尺度で褒めることができるわけっ…ないだろっ!
これが彼女いない歴=年齢の成人男性が出せる精一杯なんだっ…!
とはいえ、言葉に宿る意志に嘘はないと言える。
だってクッソ似合っているのは変わらない事実だし、俺も本当にそう思っているし。
その部分がちゃんと伝わっていたのか、かぐやちゃんは満足げな表情で俺の腰から離れていった。
かぐやちゃんがまぁ喜んでいるっぽいし良しとしよう。
な…なみう…ぶっ…まぁめい…んふっ…とビーチベットの上で腹を抱えている酒寄さんもいますが勝手に良しとします。
これ以上この話を続けても俺がボロを出して傷つき続けるだけなので、パンっと手をたたき別の話に切り替える。
とりあえず、お昼時だし今から海の家行ってなんか買ってくるけどリクエストあるかい?
そういうと四人は数秒考え、結局特になかったのか俺のおまかせになった。
唯一、諌山さんだけは自分で選びたいとのことで俺についていくことになった。
綾紬さんは、このタイミングでお手洗いに行くとのこと。
ということで、一旦俺等は三つに分かれて行動することになった。
軽く足についた砂を掃ったり身だしなみを整えている諌山さんを待って、二人で海の家に向かうのだった。
海に家に向かう直前、なんで褒めるの変に躊躇してたんだろ?、見えもしないコンプラと無益な独り相撲でもしてたんでしょ、なんていうかぐやちゃんと酒寄さんの会話が聞こえた。
聞こえてんぞ酒寄ぃ!!!
諌山さんと並んで歩き、茹だるような日差しにさらされながら海の家へと向かう。
なんかあんまりない組み合わせだなぁとか心の中で思っていた。
というのも、かぐやちゃんや酒寄さんは言わずもがな。
綾紬さんとはKASSENでツーマンセルを組む機会がそこそこあったので、意外にも接点が多い。
だが諌山さんに関しては、特段個人として触れ合う機会はなかった。
別に普段話さないとかではない。
ただ単純に酒寄さんや綾紬さん抜きで交流する機会が、今まで巡ってこなかったのだ。
その事実に気づいたのは海の家に向かい始めた後。
いまさらやっぱ俺一人で行くとも言えず、会話に困って気まずくなるのでは~なんてことも思っていた。
しかし特段気まずくなることもなく、普通にテンポよく会話することができた。
というのも、なんというか諌山さんは良い意味でマイペースっぽい。
それこそ初対面の時から警戒したり、変に気を使ったりしている感が全くない。
怪しい宗教勧誘…?あれは根も葉もない噂だし酒寄さんの陰謀なのでノーカンです。
綾紬さんとはラフにしゃべれるようになるまで結構かかったからな~…。
なんだろう…ガツガツ来ない系のコミュ強みたいな感じ。
人との距離感図るのくっそ上手いし、相手に合わせてある程度ノリとか変えれるタイプ。
友人グループに一人はいてほしい奴すぎる。
そんなコミュ強諌山さんにのせられるかのように、会話を弾ませながら海の家に向かう。
JK三人の馴れ初めの話とか、普段の学校の様子とか…あっ、水着の話はしないですよ〜振らないでくださいね〜その話題。
うえぇ!?練習と思ってったってよぉ…。
んー…い、良いんじゃないすかセパレート…あとチェック柄が可愛い…。
そこまで頑張って捻り出すと、手で体を覆いニヤニヤしながらいや〜ん口説かれてる〜彼氏いるのに〜と言ってきた。
君から褒めろって言ってきたから頑張ったんだかねぇ!!?
……えてか待って彼氏いんの諌山さん!!?
はい、ちゃんといました、今通っている高校でできたらしい。
はえ~…なんか意外…でもねぇか。
よく考えたらJK三人の中で彼氏いそうなの諌山さんしかおらんわ。
残りの二人はあれだ、近寄りがた過ぎて逆に男子から若干距離取られるタイプっぽいし。
…なんか、そう考えると酒寄さんって結婚できるのかね?
三十半ばになっても釣り合う男がまともにいない上に無意識で選り好みしちゃって、敗戦帰りの居酒屋で泥酔しながら号泣してそうなイメージあるわ。
「ふんぬぬぬっ…!!!」
「彩葉、どうしたの…?」
「失礼なことを言われた気がしたから、発言者にありったけの殺意を送ってる。」
「えぇ…どういうこと…。」
ぞくぞくぞくぞくぅっっっ!!!
なんか今すっごい嫌な予感というか悪寒というか悪意みたいなものを感じ取ったんだが!!?
…一旦、このことについて考えるのはやめよう。
猛烈に墓穴を掘りそうな予感がしてならない。
鳥肌によって逆立った全身の毛を戻しながら、諌山さんとの会話に意識を戻す。
え?スタジオジ〇リくらい毛が逆立ってますよ?それは相当だな…。
あと点数ももうつけなくていいよ…さっきより10点くらいしか上がってないし。
そんなこんなでいろんな話をして、今の話題は諌山さんのインフルエンサーとしての活動についてだ。
諌山さんは配信よりも動画やSNSでの活動が多いタイプのインフルエンサー。
その動画も種類があり、食品レビューと店舗に足を運んでの食レポが大半を占めている。
が、俺が興味を示しているのはその動画ではない。
数は少ないが自分で料理を作っているレシピ紹介系の動画だ。
諌山さんがグルメ系のインフルエンサーと知ってからというもの、彼女が紹介するレシピに関しては結構な数を使わせてもらっている。
やっぱり献立ってマンネリしがちだからありがてぇ~…いつも助かってます。
お礼を諌山さんに伝えたら驚愕した顔で、え?光合成で栄養取ってるんじゃないんですか…?と言われた。
俺のこと植物に見えてます???芽も葉も花もないよ???
目と歯と鼻…あるじゃないですか、ってめっちゃ得意げに返された。やかましいわ。
冗談ですよと笑いながら、動画視聴のお礼を言ってくる諌山さん。
いやほんと助かってるよ冗談抜きで。常備野菜とか漬物とかのレシピめっちゃこすってるもん。
って言ったら恐ろしいものを見るような目で共食いですか…?と言われた。
だから植物じゃねぇって。
その言葉にまたコロコロと笑いながら冗談ですよと繰り返す諌山さん。
不思議なもんだ、さっきからからかわれてばっかりなのに一ミリも不快感がない。
これも彼女の人となりというか、マイペースさと愛嬌が為せる技なのかねぇ…。
とはいえちょっと大人に対するリスペクト少ない気がするねぇ〜諌山くぅん?
演技で軽く怒ってる風を出してみるも、見透かしたようにうぇ~こわ~いごめんなさ~いと適当に返してくるのであった。
そうこうしている内に海の家が見え始め、俺等はテイクアウト用の列に並ぶ。
並んだ途端に諌山さんが、ここで奢ってくれるような大人の人だったらな~尊敬しちゃうな~とチラチラ露骨に視線を送ってきた。
ふぅ…あのね、大人ってのは人生経験豊富だからそんな見え見えのおねだりなんて通用しないんだよ。
そう言ってフンッと大袈裟にそっぽを向く俺。
しかし右手には既に万札が一枚握られていたのだった。
手に持ってるお金を見て、いぇ~いごちそうさまで~すと素直にお礼を言ってくる諌山さん。
ちょ、ちょろくねーしぃ?元から全部出すつもりだったしぃ?
…というか、素直に奢られてくれる歳下って新鮮かも。
いつもだったら酒寄さんと奢るvs折半の不毛な争いが必ず発生するからなぁ…。
ん?何?次の動画のリクエスト?
そ~だなぁ…家に大量に送りつけられた夏野菜で炊き込みご飯とかできない?
…へ?ヴィーガン?いや違うけど…あ~、好みがね、そっち側に寄ってるところはある。
なんて雑談をしている間に列の処理が進み前に進んでいく。
メニュー表の看板が見える位置に来たので、それを元に買うものを適当に選んでいった。
んー…フランクフルトとイカ焼きに焼きトウモロコシも数本…お、カレーいいじゃん。
飲み物は…かぐやちゃんはコーラで、あとはお茶とスポーツドリンクでいいか。
諌山さんはどうする?…焼きそば?行きの道中で買ってなかったっけ。
酒寄さんに食われた!?んまぁなんて横暴な…。
おにいさんがなんでも買ってやるからな…おのれぇ、許さん…許さんぞ酒寄ぃ!
あ待って冗談ですから告げ口しないでくださいお願いですぅ…。
最近酒寄さんからの対応がより一層雑になってきてるんです…後生ですから…。
何とか告げ口を回避したところでそもそもなんで食べられたのかを聞いたところ、新規客層の取り込みの方法として酒寄さんが来ている着ぐるみのキャストオフを提案したようで、その黙殺と報復をかねてだそうだ。
あ~…まぁ確かにファンは増えそうだけど酒寄さんだったら絶対やらないわ~…。
共同チャンネルとはいえ主体はかぐやちゃんだし、その辺の区分ちゃんとしそうだし、なにより身バレ(ツクヨミ内だから身バレもくそもないけど)とか絶対したくないだろうし。
よっぽどのことがない限りはあきらめた方がいいねなんて会話をしていると、前の人が注文をし終わったのか横に掃けて俺らの番が来た。
目の前にいるのになぜか注文を一回無視されたが、鋼の意志を持っているのでくじけずにもう一回注文した。
店員にめっちゃ驚かれたが二回目はちゃんとオーダーが通った。
細すぎて一次元の存在になったんじゃないんですかと笑っている諌山さんの体を押しながら、受け取り口の方へと二人で掃けていく。
今こうしてっ!あんたの体を押せているのがっ!三次元の存在である何よりの証明でしょうがっ!
わ~大きな三次元ベクトルを感じる~と、押している俺の腕に体重をかける諌山さん。
君たちって文系じゃなかったっけ…と思いながら、なんとか邪魔にならない位置まで諌山さんを押し運んだ。
二人並んで受け取り口で注文した品の完成を待つ。
自然に会話が途切れた。
焼きそばのソースやカレーのルーの匂いが鼻腔をくすぐる。
海で遊ぶ人の声や波の音が、やけに遠く聞こえた。
ふと諌山さんが口を開き、一つ俺にお礼を言ってきた。
JKに財布出させるほど器量の狭い大人ではないと肩をすくめたら、ありがたいけどそっちの話ではないと笑いながら言った。
それ以外に心当たりがなかったので、じゃあなんのことだったんだと質問する。
どうやら以前より酒寄さんが明るくなったことに関するお礼だそうだ。
俺とかぐやちゃんが来てからというもの、酒寄さんの様子が随分良くなったとのこと。
まぁ…社畜の俺でも大丈夫かって思うくらいに、酒寄さんの様子はひどかったしねぇ…。
つっても負担の分割とか金銭面のサポートを半ば強引にしたようなもんだしなぁ…逆に遠慮で気を揉んでたりするのでは…?
うーん…明るくなった要因のほとんどはかぐやちゃんで、俺は特に何もしてないよ。
思ったことをそのまま口にし、お礼を言うならかぐやちゃんにしてあげなと返す。
しかし余計なお世話だったか、俺が合流する前にかぐやちゃんにはお礼を言ったそうだ。
えらいねぇ~なんてほっこりしていたのもつかの間、諌山さんの口から個人的にはびっくりの事実が発せられた。
曰く、学校で酒寄さんがすごくお世話になっているし頭が上がらないとい言っていたとのこと。
頭が上がらないのに手を上げてくるんすよあの子。
まぁまぁ信頼あってのじゃれあいだっていうのはちゃんと理解しているが、裏で良い感じに言われてるっていうのは毛ほども思ってなかった。
こき下ろされてるもんだとばっかり…。
驚いてきょとんとしている俺を見て、意外でしたか?と笑みを浮かべる諌山さん。
それに…と続けて、俺と接しているときは随分リラックスしているというか良い意味でユルんでいると言った。
態度どころか口もユルむもんだから、たまに罵詈雑言飛ばしてきますもんあの子。
冗談めかして言ったら、それは多分そっちが悪いのではと苦笑いされた。
げ、解せぬ…。
冗談とわかっているからか笑いながら、でも実際にすごく助かっていると思いますよ〜と言う諌山さん。
そう思ったのもつかの間。
今までよく顔を出していた笑顔が鳴りを潜め、その表情に影が差した。
「私と芦花の二人だとできなかった事だったので〜…。」
…なんというか、最近の子って随分と優しい子が多いねぇ。
酒寄さん然り諌山さん然り綾紬さん然り。
血の繋がっていない他人にそこまでの優しさを配れるのって、現代社会じゃ希少種でしょ。
若干俯きがちの諌山さんの視線には、自身の非力を憂う気持ちが混ざっていた。
いや〜あんまり力になれてなかったのかな〜なんて…あはは…と、戯けたように言っては自信なさげに言葉尻が萎んでいく。
友達にこんな顔させるなんて、酒寄さんは悪女だねぇ。
そう思いながら口を開く。
ん〜、そうとは思えないけどね、適材適所ってやつでしょ。
金銭面でどうこうは大人の俺にしか出来ないし。
食事とか日常生活のプライベートな部分のサポートは、半ば居候してる親類のかぐやちゃんにしか出来ないし。
そういう所は学生の友人だったら、気にかけれはしても実際支えるってなると無理じゃん?
でも逆に考えればさ。
俺は異性で歳が離れてるから、同性で同い年じゃない分デリケートな話とかだと手が出せない。
かぐやちゃんは…えー…まぁ、ちょっと訳ありで学校行ってないからさ、学校行事や授業の事なんかあんまり知らないし学校内でのフォローとかは出来ない。
でもさ、君たちはそれができるじゃん。
それってさ、要は俺達ができないことをやってくれてるわけじゃん?
ほら、役に立ててるし力になれてる。
俺が学校に乗り込んで、酒寄さんが体調不良っぽいので帰らせますねっ!!!なんて言えないでしょ?
そん時は、君達から保健室行くように促すとか、引っ張って連れてくとかが正解。
餅は餅屋っつってね、なんでも専門にやらせるのが大体は一番良い。
インドカレーはインド人が作ってナンボだろ?
お互いがお互いに一番上手くやれる事をやる。
それが一番収まりいいし、なんやかんや上手くいくってもんよ。
そこまで聞いた諌山さんは震えた声で、日本にあるインドカレー屋の従業員は大半ネパール人ですよと言ってきた。
うぇえそうなの!!?…ていうか、そこは話の本題じゃないからいいんだよほっといて。
俺の言った事を頭で咀嚼し始める諌山さん。
しかしその顔には、分かりやすく不安の感情が残っていた。
頭ではわかってるんだけど…みたいな感じだろうねぇ…。
上手く飲み込めないのか、下がり気味の視線。
それに合わせるように、俺は諌山さんの目の前でしゃがんで目を合わせる。
大丈夫、君達はちゃんと酒寄さんの力になれてる。
君達が力になってなきゃ、俺達が来る前に酒寄さんは潰れていた筈だよ。
…それでも納得出来ないなら、この後また頑張って支えてあげればいいさ。
夏はまだ続くし、高校生活はまだ一年ある。
どうせ酒寄さんのことだ、まぁたすぐに無茶して超ムリ限界ギリになるだろうし。
ね?と笑いかけると、なんとなく想像に易かったのか確かに〜と再び笑顔に戻った。
納得出来てないし確信もない、けど折り合いつけて前を向いた…ってところかね。
何度でも無理をするなら何度でもちゃんと支えてあげないとね、と両手を胸の前に持ってきてフンスと意気込む諌山さん。
続けて、美味しいインドカレーを作れるインド人店員になれるように頑張りますね!なんて言っていた。
本当に話を聞いていたのかねこの子は。
このタイミングで注文の品が出来上がったようで、店の奥から店員さんが料理の入った袋を持って来た。
袋を受け取り、二人並んでまた来た道を戻り始める。
なし崩しとはいえ、悩みを聞いてくれたことに対して諌山さんがお礼を言って来た。
その姿はどこか吹っ切れた様子で、先程まで纏わりついていた暗い雰囲気は少しもなかった。
ふっふっふ…礼には及ばんさ…沢山悩み考え試したまえ若人よ。
自分の非力さに嫌気がさす程に心配しちゃう友人なんて、人生二周したって中々できるもんじゃないんだから。
実体験みたいな口ぶりというツッコミに、実際に2周目だしね〜と心の中で返答する。
その時何かを思いついたのか、諌山さんが軽くニヤつきながら口を開いた。
曰く、私達の出来ない事をやってくれているんだったら来年以降も続けてやってくれないと困ると。
来年…うーん、かぐやちゃん次第かな〜。
なんて、濁して返したものの来年どころか明日すらもどうなるかなんて分かったものではない。
俺とこの子達の関係の中心であり核なのは、間違いなくかぐやちゃんの存在だ。
もしかぐやちゃんにお迎えが来たら、俺がここにいていい理由も無くなるだろう。
そん時はちゃんとみんなとお別れするけど。
まぁ…でも、願わくば。
奇妙ではちゃめちゃで、それ以上に楽しいと思えるこの関係が長く続く事を祈っておこうか。
煮え切らないな〜フッと消えたりしないでくださいよ〜?なんて言ってくる諌山さんに、マジシャンじゃないんだから消えれるわけないでしょ〜と戯けて返す。
みんなの元へ帰る二人の足取りは、行く時よりもはるかに軽いものだった。
海編、書いてみたらクソ長くなってしまったので2話に分割しますスンマセン。
諫山なのかい!諌山なのかい!どっちなんだい!って筋肉ルーレットしようと思いましたが、公式サイトの文字が諌山っぽかったので、この話以降はこっちを使うようにしたい所存です。
ちょwwwおまwww俺氏マジシャンじゃないんだがwww消える訳ないンゴwww ← なお数か月後(
ちなみに真実が買い物に同行したのは、自分で料理を選ぶためでなく、彩葉が明るくなったことに対して主人公にお礼を言うためです。とても良い子なんです真実は。フッと消えたりしないでくださいね〜と言ったのは、いつぞやの酒寄さんみたいにフッと居なくなりそうな雰囲気を主人公にうっすら感じたからです。良い勘してんねぇ!
かぐやとヤッチョがいるから100%ありえないんだけど、三十路後半行き遅れ酒寄彩葉概念が結構好きなんすよね僕。高学歴高性能超美人のせいで男性が二の足踏んで寄り付かなくなっててほしい。紅葉因子の表面化によってなんで私ができるのにあなたはやらないのみたいな言動で男に露骨に避けられ続けてほしい。お見合いとか婚活とか延々と負け続けてほしい。負けた腹いせに居酒屋でえげつない酒の飲み方をして泥酔+号泣してほしい。隣に座る勇気もない芦花が対面の席でめちゃくちゃ複雑な顔して悶々としながら慰めててほしい。乙事照 琴もそう言ってます。な?そうだよな?お前もそう思うだろ?言えって。言えよ。なぁ、おい。あ、彩葉誕生日おめでと〜♡