研究所全体が揺れていた。
警報は鳴りっぱなし。
防衛結界は既に第三防壁が破られ、格納庫側ではレギオン部隊が交戦を開始している。
モニターには赤い表示が溢れていた。
『高密度呪力反応』
『特級相当個体を確認』
『研究区画Bブロック損壊』
『負傷者発生』
「五条さん!」
伊地知が叫ぶ。
「第三呪力炉が不安定です!」
「真依はまだなの?」
「今、配置につきました!」
「繋げて。防壁構築」
悟は端末を操作しながら答えた。
視界の隅では六眼システムが膨大な情報を処理している。
敵。
味方。
結界。
レギオン。
呪力炉。
そして終夜。
全てが繋がっていた。
そして。
敵もまた理解している。
この研究所の急所を。
「嫌な感じだなぁ」
悟は呟いた。
偶然ではない。
明らかに調べられている。
内部構造も、防衛機構も、終夜の存在も。
全部。
「羂索か」
誰にも聞こえない声でそう呟いた時だった。
電源が一瞬落ちて、非常用電源がすぐに稼働して電気がついた。
「五条さん、夏油さんとシェルターへ」
護衛であり自分の武に自信のある傑は悔しそうな顔をするが、終夜は夏油の生得領域、つまり内部にある。それに五条は下半身が動かない。避難が必要だった。
指揮権をエリオットに任せて移動を始めようとした時、警報が鳴った。
『侵入反応』
空気が凍った。
「傑」
「下がってくれ、悟」
傑は即答した。
大量の呪霊が展開される。
終夜が呑気に笑うのを感じる。
赤子に状況を理解しろと言っても無理だ。それより、さすが自分の子だ、胆力が違うと思う。
だが終夜が狙われている以上、ほんわかしてもいられない。
「無理するなよ」
「誰に言っている」
「傑に」
「それは無理だな」
傑は笑った。
そして消える。五条悟の術式を借りて転移したのだ。
呪霊の群れを引き連れて。
悟は少しだけ息を吐いた。
ああいう所だ。
ああいう所が好きなのだ。
本当に困る。
「お父さん!」
制御室へ飛び込んできたのは優人だった。
顔が真っ青だった。
「何してるの。先に避難してなかったの」
「手伝う!」
「駄目」
「でも!」
「駄目」
即答だった。
優人が何か言い返そうとする。
その時。
研究所全体が大きく揺れた。
今までとは比べものにならない。
轟音。
衝撃。
そして。
六眼システムの表示が一斉に乱れた。
「何だ?」
悟の顔色が変わる。
六眼が理解する。
理解してしまう。
だからこそ。
背筋が冷えた。
研究所全域。
終夜。
東京結界。
呪力炉。
六眼システム。
それらが同時に接続されている。
そして今。
終夜が暴れている。
子供の笑い声が脳内に直接響く。
「まさか」
悟は身じろぎした。
しかし、悟の下半身は動かず、それが精一杯だった。
「終夜!」
モニターに映る胎児の顔。
くすくすという笑い声。
大量の呪力。
完全にホラーである。
まだ生まれていないはずの子供が、遊んでくれるのかとはしゃいでいる。
「傑!」
まずい。そう思って声を上げた。
その時、呪霊が飛び込んでくる。攻撃。
「お父さん!」
優人が飛び込む。
反応したのは優人だけではなかった。
「駄目だ!」
遅かった。
いや、間に合っていたとしても、赤子に言葉など通じない。
終夜が持つ膨大な呪力。
東京結界。
研究所。
六眼システム。
父と兄の危機。
全てが共鳴する。
世界が軋む。
空間が裂ける。
「お父さん!」
優人が叫ぶ。
空間が裂けて、悟と優人と車椅子を飲み込んでいく。
20年前に分たれた、最も近い世界へ。
知らない座標。
知らない世界。
あり得ない場所。
パラレルワールド。
「最悪!」
悟は優人だけでも逃そうとする。だが、優人は悟にしがみついて離れない。
間に合わない。
裂け目が修復される。
「優人! お父さん!」
制御室へ駆け込んできた新が、絶句する。
空間にわずかな残滓を残して、世界にできた傷は閉じていた。
◇
「……え?」
新は立ち尽くしていた。
制御室の中央。
何もない空間を見つめる。
そこにいたはずだった。
悟が。
優人が。
いたはずだった。
なのに。
いない。
跡形もなく。
消えている。
呪力がひび割れの形にこびりついて、それも風に流され消えていく。
「お父さん?」
返事はない。
「優人?」
返事はない。
周囲では警報が鳴り続けている。
研究員が走っている。
誰かが叫んでいる。
理解できない。
理解したくない。
「新くん!」
伊地知が肩を掴む。
「しっかりしてください!」
「……」
「まだ終わってない!」
終わっていない。
確かに。
終わっていない。
終夜もいる。
研究所もある。
敵もいる。
だから。
立たなければならない。
でも。
それでも。
新は初めて思った。
研究なんてどうでもいい。
補助演算も。
会議資料も。
六眼システムも。
全部どうでもいい。
ただ。
取り返したい。
お父さんを。
優人を。
家族を。
その想いだけが残った。
そして。
それが後に、
『五条救出プロジェクト』
と呼ばれる計画の始まりになる。
五条と夏油がしていたペアリング
基本機能
・術式共有
・呪力共有
・命共有
・ 相互テレパシー
・負ったダメージの分割
・一度嵌めたら外せない
その他の効果
・無下限の影響により、互いの場所に転移・呼び寄せ可能
・ 呪霊取り込みは夏油のみ
制限
夫婦関係が前提
最低一か月に一度、呪力を互いに供給しなければならない。
体液を介して行う。
* 唾液
* 血液
* 精液
など。怠ると衰弱していき最終的に死に至る。
マシュマロ
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