呪術廻戦二次創作一発ネタ集   作:かりん2022

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カースチェイン〜第8話・喪失〜

 悟がいない。

 その事実は、言葉にするとひどく簡単だった。

 しかし、カースフューチャーラボにとって、それは建物の支柱が抜け落ちるのと同じだった。

 警報は既に止まっている。襲撃してきた呪霊も処理された。負傷者は医療区画へ運ばれ、損傷した設備には仮復旧用の術式が走っている。研究員達は走り回り、技術者達は端末に向かい、戦闘員達は再襲撃に備えて各所へ配置された。

 すべては動いている。

 動いているのに、どこかが止まっていた。

 

 誰も、所長席を見なかった。

 

 見てしまえば、そこに悟がいないことを認めなければならないからだ。

 夏油は中央制御室の端に立っていた。普段なら悟の車椅子がある位置。その少し後ろ。いつもの場所だ。そこに立って、悟が乱暴に出す指示を聞き、足りない部分を補い、行き過ぎた時には止める。それが夏油の役割だった。

 

 だが今、その前にいるはずの背中がない。

 

「副所長」

 

 伊地知が声をかけた。顔色が悪い。もっとも、この場に顔色のいい人間などいない。

 

「第三区画の封鎖完了しました。負傷者は十一名、重傷者は二名です。命に別状はありません」

「終夜は」

 

 夏油の声は、自分でも驚くほど静かだった。

 

「現在安定しています。生得領域接続率は九十二パーセント。一時的に低下しましたが、補助炉を回して持ち直しました」

 

「そう」

 

 頷く。

 

 まずは終夜。

 

 次に研究所。

 

 それから負傷者。

 

 順番は分かっている。

 

 分かっているのに、思考の奥でずっと同じ名前が鳴っている。

 

 悟。

 

 悟。

 

 悟。

 

 夏油は指輪に触れた。左手の薬指に嵌められた呪具は、普段ならそこにあるだけで悟の気配を返してくる。機嫌が悪い時の雑な呪力。研究に集中している時の鋭い流れ。甘いものを食べて満足している時の、無駄に穏やかな揺らぎ。

 

 今は、何もない。

 

 途切れている、というより、届かない。

 

 夏油は目を閉じた。

 

『悟』

 

 呼びかける。

 

 返事はない。

 

『悟、聞こえるかい』

 

 返事はない。

 

 胸の奥に冷たいものが落ちた。

 

 距離の問題ではない。この接続は、通常の通信ではない。東京の外だろうと、海外だろうと、結界越しだろうと、完全ではなくとも何らかの反応はあるはずだった。生きているなら、悟は必ず返す。たとえ喧嘩中でも、仕事中でも、眠っていても、こちらが本気で呼べば必ず応える。

 

 返事がないということは。

 

 夏油はそこで考えるのをやめた。

 

 考えてはいけない。

 

「座標追跡は」

 

「駄目です」

 

 答えたのはエリオットだった。アメリカ訛りの混じる日本語はいつもより速い。目の下には既に濃い隈がある。

 

「転移痕跡は残っています。しかし、通常の空間座標ではありません。少なくとも国内、国外、地球上、既知の結界領域、どれにも該当しません」

 

「異界?」

 

「近いですが、違います。五条所長が以前仮説を立てていた並行世界干渉に似ています」

 

 その言葉に、制御室の空気が変わった。

 

 並行世界。

 

 悟が何度か楽しそうに語っていた理論だ。実証は不可能に近い。倫理審査も通らない。総監部に知られれば即座に差し止められる。だから悟は、あくまで理論として遊んでいた。

 

 その遊びが、今、現実になっている。

 

「優人は」

 

 夏油が問うと、伊地知が一瞬だけ口を閉じた。

 

「五条所長と同時に消失しています。直前の映像では、所長を庇うように近付いていました」

 

 夏油は息を吐いた。

 

 優人。

 

 あの子もいない。

 

 悟に似た顔で、悟より素直で、けれど妙なところで傑に似て頑固な次男。怖がりなのに、いざとなるとためらわない子。

 

 悟がいて、優人がいる。

 

 なら、まだ生きている可能性は高い。

 

 そう思おうとした。

 

 けれど、悟は車椅子だ。研究所の外で、設備も補助もなく、優人だけを連れている。しかも指輪の呪力交換には期限がある。夏油自身も、その期限がどれほど残酷なものかよく知っていた。

 

 一ヶ月。

 

 それが限界だ。

 

 いや、悟の性格を考えればもっと短いかもしれない。食事を削り、睡眠を削り、優人を守るために無茶をする。想像できすぎて嫌になった。

 

「副所長」

 

 新の声がした。

 

 振り返ると、黒髪の少年が立っていた。顔は白い。けれど泣いてはいなかった。泣きたいはずなのに、必死に我慢している顔だった。

 

「僕にできることは」

 

 その言葉に、夏油は一瞬だけ答えられなかった。

 

 悟がいない。優人もいない。

 

 なら新を守らなければならない。終夜を守らなければならない。研究所を守らなければならない。夏油にも残された時間は一月しかない。

 

 けれど新は、守られるだけの子供ではいられない顔をしていた。

 

「まず、六眼システムの補助演算をお願いできるかな。転移痕跡の解析を進めたい」

 

「分かった」

 

 新は頷いた。すぐに端末へ向かう。その背中は小さい。年齢を考えれば当然だ。だがその小さな背中に、今この研究所の一部が確かに乗っている。

 

 夏油はそれを見て、奥歯を噛み締めた。

 本来なら、悟が新の頭を撫でていたはずだ。

 

『怖かったね。偉いね。さすが僕と傑の子』

 

 そう言って、何もかも冗談にして、子供に不安を背負わせないように笑ったはずだ。

 

 その悟がいない。

 

 だから自分がやらなければならない。

 

「黒瀬」

「はい」

 

 探索主任の黒瀬武道が顔を上げる。普段は飄々としている男も、今は表情が硬い。

 

「現場周辺の調査を。痕跡、残留呪力、敵の撤退経路、全部拾って」

「了解しました」

「エリオット」

「はい」

「並行世界転移の可能性を前提に、移送可能な設備を洗い出して。終夜の維持を最優先。その上で、研究所ごと動かせるか検討して」

 

 エリオットが一瞬だけ目を見開いた。

 

「研究所ごと、ですか」

「悟が向こうにいるなら、こちらから行くしかない」

「総監部が許可しません」

「許可は取る」

 

 夏油は即答した。

 

 制御室の何人かが息を呑む気配がした。総監部。研究所にとって最も厄介な相手。悟が生き残るために、何度も利用し、何度も出し抜き、何度も睨み合ってきた組織。

 

 そこに頭を下げる。東京呪力結界を託さなければ、研究所の転移は出来ない。

 悟なら嫌がるだろう。

 絶対に嫌がる。

 

 だからこそ、悟がいない今、自分がやるしかない。

 

「技術を渡す。利権も渡す。向こうが欲しがっていたものを餌にする。終夜と六眼システム中枢は渡さないけれど、それ以外なら交渉材料にできる」

 

「副所長」

 

 伊地知が苦しそうに言った。

 

「それは、研究所の根幹に関わります」

「分かっている」

「所長が戻られたら怒ります」

「怒らせればいい」

 

 夏油は淡々と言った。

 

「怒るためには、生きて戻ってこなければならないからね」

 

 誰も何も言えなかった。

 

 その沈黙の中で、夏油はもう一度指輪に触れた。冷たい。いつもよりもずっと冷たい気がした。

 

『悟』

 

 返事はない。

 

 ならば、こちらから行く。

 

 どれほど無茶でも、どれほど対価が高くても、どれほど嫌な相手に頭を下げることになっても。

 

 悟が死ぬよりはましだ。

 

「副所長」

 

 新が端末から顔を上げた。

 

「転移痕跡、少しだけ拾えた。座標じゃないけど、方向性はある。完全な消失じゃない」

 

 その言葉に、夏油は初めて呼吸が楽になった。

 生きている。

 まだ決まったわけではない。

 それでも、消えていない。

 

「よくやった」

 

 夏油が言うと、新は少しだけ目を伏せた。褒められて嬉しいのに、嬉しがっていいのか分からない顔だった。

 

 その表情を見て、夏油は思う。

 

 この子にも、必ず悟を返さなければならない。

 

 優人にも。

 

 終夜にも。

 

 研究所にも。

 

 そして何より、自分に。

 

「全員聞いて」

 

 夏油は制御室を見渡した。

 

 悟がいない研究所で、自分が命令を出す。喉の奥が焼けるようだった。それでも声は震えなかった。

 

「負傷者対応と防衛復旧を最優先。その後、転移計画へ移行する。総監部との交渉資料をまとめて。渡せる技術、渡せない技術、失ってもいい利権、絶対に守るものを分類する」

 

 研究員達が動き出す。誰も反論しなかった。する余裕がなかっただけかもしれない。それでも、研究所は再び動き始めた。

 

 悟がいないまま。

 

 悟を取り戻すために。

 

 夏油は所長席を見た。空席。そこにいるはずの白い髪も、軽口も、甘いものの包み紙もない。

 

「待っていてくれ」

 

 誰にも聞こえないほど小さく呟く。

 

「絶対に迎えに行く」

 

 指輪は何も返さない。

 

 けれど夏油は、その沈黙に向かって誓った。

 

 悟が諦めても。

 

 世界が違っても。

 

 一ヶ月しかなくても。

 

 自分だけは、絶対に諦めない。

 




五条が夏油に惹かれた理由

婚約事件が決定打。
小学生の禪院真依と五条悟が結婚させられそうになって夏油傑と結婚した事件。
発端は五条家に伝わる術式共有の呪具。

研究者の五条にとって構築術式は有益だったし、その頃すでに技術者として成果を上げていた五条を取り込むのをやぶさかではなかった禪院家にも利益はあった。

真依は親と言ってもギリギリ通りそうな五条との婚姻は嫌だったし好きな人もいた(おませさん!)。
五条も、五条が危険なら命を共有している真依を殺せばいいと思っているのが丸わかりで乗っ取る気満々なので困っていた。

そこに夏油が乱入して指輪使用。五条と真依に対する完全なる善意で自分が指輪をはめる。

呪霊が仕事を手伝えるし護衛にもなれるよ! やったね!!

男と結婚させられるくらいなら幼女の方がマシじゃね? という最もすぎるツッコミを受け、言われてみれば! と七顛八倒して謝り倒す夏油に完全に恋に落ちた。底抜けに善良でちょっと抜けてるところが好きすぎる。

五条は夏油の顔も好きだが、どちらかというと性格が好きすぎて知れば知るほど惹かれていって、そのうち全部が好きになったタイプ。

後に自分に都合が良すぎて騙されてないか心配する。

好きな人が自分から指輪嵌めて上に乗ってくれるってマジ?

でも動けない人に乱暴を働くなんて無法はできないよ、なんていう夏油が愛しすぎて爆発すると思った。
お前自分から騙されに行くタイプだろ。善良すぎなんだよ、俺だけにして。

全方位に優しいしその事に嫉妬するけど、そういう所も好きなのでどうしようもない。

クールにしてて夏油への強すぎる想いは表に出してないつもりだし、自分ばっかり夏油を好きだと思ってる。
夏油以外は全員五条が夏油にベタ惚れなのが駄々漏れていると思っている。



マシュマロ
https://marshmallow-qa.com/lucaluca
返信不要の場合は返信不要と書いておいてください。


https://odaibako.net/u/karin2022v
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