呪術廻戦二次創作一発ネタ集   作:かりん2022

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魔性の男G〜無様な恋に堕ちて行く〜2

 夏油は、猿を糞だと思っている。

 だが同時に、術師だけの世界だって同じくらい糞だとも思っている。

 どちらが正しいかではない。

 結局は、その人間自身が、いい人なのかどうかだ。

 

 本当の善を知り、本当の悪を知った今では、そう思っている。

 

 その基準で言えば。

 夏油は、どうしようもなく悪い子で。

 虎杖は、底抜けにいい子だった。

 虎杖は眩しくも懐かしい、夏油にとって失ったキラキラしい過去だった。

 

 幼女を二人抱えたまま、異世界に転移した。

 

 ヒーローに助けられ、圧倒的な善意を知った。

 

 AFOに囚われて、圧倒的な悪意を知った。

 

 そこから先の記憶は、あまり思い出したくない。

 

 

 

 体を弄られた。性別すら弄られた。

 

 術式を解析された。個性を埋め込まれた。

 

 自分の力で、自分が嫌悪することを何度もさせられた。

 正義感を利用され、正義の基準を何度も揺らされ、最終的に自分を騙すことすらできない悪に堕とされた。

 

 自分を騙してまでも正義の側に立とうとした自分は。

 

 滑稽なほど、無力な道化だった。

 

 私はヒーローではなく、筋金入りの偽善者だった。

 

 私は善を為したいのではなく、善の側にいたかっただけだと思い知った。

 

 気がつけば。

 

 大義さえ、掲げられなくなっていた。

 

 

 

 だからこそ、虎杖に出会った時。胸の奥が、じんわりと温かくなった。

 忘れていたものを、思い出した。

 

「……綺麗事、か」

 

 ぽつりと呟く。

 あの男は、それを本気で信じている。

 

 疑いもせずに。

 

 折れもせずに。

 

 愚かだ。

 

 眩しすぎる。

 

 ――そして。

 

 救われてしまう。

 

 私もかつて、無邪気に純粋に、善意を信じていた時があったのだ。

 何よりも大事な親友とのキラキラした日々。決して戻れない青。

 

 悟が、未来であり太陽だとするなら、虎杖は、過去であり日向でありアルバムだった。

 

 焼き尽くすような光ではなく、容赦無く蝋の翼を溶かす圧倒的な高みではなく。

 

 ただ、そこにあって、見ているほど胸が暖かくなる。

 

 虎杖くんとなら、虎杖くんの為なら。

 もう一度だけ、頑張れる気がした。

 

 そして両面宿儺なら。

 あの呪いの王なら。

 この魔王を、倒せるはずだ。

 

 だから。

 

 隙を見て、協力を願った。

 指を集め。

 

 呪霊に膝を折り。

 

 器を整え。

 

 限りなく完全に近い状態で、呪いの王を個性の女王にぶつけた。

 

 ――結果。

 

 叩きのめされた。

 

 

 

 

 

 呪いの王が。

 

 

 

 呪いを持たない、非術師の女に。

 

 

 

 

 

 理解が、追いつかない。

 だが、このままでは絶対にまずい。

 

 呪いの世界に、この者達を招いてはいけない。

 

 呪いだけでも厄介だというのに、そこに“個性”が混ざる。

 

 呪術は、心に沿う。憎しみが力となる。

 だが。

 

 

 個性は――

 

 個性は、心を添わせる。凶悪な個性が凶悪な心を産む。

 

 卵が先か、鶏が先かと個性社会のものは言うが、夏油からしたら結果は明らかだ。なにせ幼児の心構えがもう違う。

 

 そして、異形の姿で 異形の心を持ち、異形として扱われて異形に成り果てる。最悪の連鎖。一度ヴィラン向きの個性で生まれてしまえば、這い上がる事は至難の業だ。

 

 

 

呪いの世界の闇が薄闇から徐々に暗くなる闇なら、個性社会の闇はメリハリのある黒だ。ヒーローという圧倒的な光からそれた途端、真っ暗で這い上がれない闇と化す。

 

 

 

 

 

 

 ーーAFOは、すでに動いている。

 

 

 静かに。

 確実に。

 呪いの世界へと、根を張っている。

 

 最初に削るのは。

 

 ――悟だ。

 

 非術師に対して呪術は使えない。だが、個性は呪術ではない。その“隙間”を突く。

 ルールを守る者は、ルールに縛られる。

 ならば。

 ルールそのものを、歪めればいい。

 六眼で見ても、個性の持ち主は“ただの人間”。

 

 いくら悟でも、いや悟だからこそ、見えない敵意はたやすく刺さるだろう。

 

 

 ――悟。

 

 ーーごめん。

 

 ーー君を守りたかった。

 

 

 

 

 

 ――美々子。菜々子。

 

 

 

 ーー許してくれ。

 

 

 

 暗い地下室。光はない。

 ただ、沈むだけの空間。

 頭を突如掴まれて、目の前の圧倒的存在感を認識する。

 つい一瞬前まで、何も感じ取れなかった。

 個性の女王。

 

 あまりにも個性的すぎる女。 

 女が口早に命令した。それもまた命令という名の個性。

 

「五条悟についての全てを思い出せ」

 

 記憶が、引きずり出される。

 

「あああああっ!!」

 

 悟との時間。

 

 笑った日。

 

 喧嘩した日。

 

 全部。

 

 全部、勝手に。

 

 暴かれる。

 

 止められない。

 

 何度も。

 

 何度も。

 

 何度もリピートする。

 

 

ーーやめろ。

 

ーーやめろ。

 

ーーやめてくれ。

 

やがて満足したのか、女は頭から手を離した。

 

「夏油 傑」

 

 声が、落ちる。

 

「あなたには、五条悟に嫌われてもらうわ」

 

 息が止まる。

 

「……百鬼夜行でもするかい?」

 

 皮肉。

 だが。

 

「あの五条悟が、その程度で貴方を嫌うはずがないでしょう」

 

 即座に否定される。

 理解している。

 悟という人間を。

 正確に。

 

「だから、虎杖くんにメス堕ちしている所を見せつけてもらうわ」

 

 静かに。

 冷たく。

 

「手順は、追って通達します」

 

 決定事項として。

 

 抗う余地など、最初からない。

 

 覚悟は、していた。

 AFOは私を母体に使うと常々言っていた。器として優れているから、別の意味で器として優れている虎杖くんと掛け合わせたいと。

 

 だが。

 

 それでも。

 

 悟にだけは。

 

 見られたくなかった。

 

 涙が、落ちる。

 

 止まらない。

 

 

「……数多様」

 

 声がする。

 

「骸。どうしたの?」

 

 AFOの側近の女の声。

 私と同じスペアであり実験体の一人。

 

「虎杖悠仁が行方不明の件で、五条悟が責任を問われる可能性があります。秘匿死刑を求刑されているとか」

「虎杖くんは解放します」

 

 結論が先にあるかのような早口。

 

「ただ、いくつか縛りを結ばないとね」

 

 それだけ言って悪魔は、去っていく。

 

 ――おかしい。

 

 まるで、慌てて庇うかのような。

 

 だが。

 

 そんなはずはない。

 

 あの女が。

 

 あの悪魔が。

 

 ――五条悟を、気遣うなど。

 

 あり得ないのだから。





マシュマロ
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