呪術廻戦二次創作一発ネタ集   作:かりん2022

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四章の研究所サイドです。
大体26話くらいまで。


カースチェイン〜第17話・救出作戦開始〜

 転移実験は成功した。

 

 少なくとも装置の判定はそう告げていた。

 

 術式は正常に起動し、研究所全体を包み込んだ呪力の流れも理論値から大きく外れていない。爆発もなければ死傷者もなく、機材の損傷も最小限で済んでいる。だが、それでも誰一人として成功を喜ぶ者はいなかった。むしろ研究所の空気は異様なほど重く、全員が自分達の置かれた状況を理解しようと必死になっていた。

 

 最初に異変へ気付いたのはエリオットだった。

 

「GPSがおかしい」

 

 その一言で研究所中が動き始めた。

 通信設備の確認。衛星情報の確認。位置情報の照合。外部環境の分析。結界観測装置の起動。研究員達は持ち場へ散り、数時間後には膨大なデータが会議室へ集められていた。

 

 大型モニターの前で腕を組んだエリオットは、険しい顔のまま結論を口にする。

 

「ここは私達の知ってる世界じゃないね」

 

 誰も反論しなかった。

 

 東京呪力結界は存在しない。

 

 研究所の登記も存在しない。

 

 呪力工学という言葉そのものが検索に引っ掛からない。

 

 六眼システムもレギオンも存在しない。

 

 それでいて歴史の大半は一致している。

 

 過去ではないし、未来でもない。世界時計は研究所のそれと同じ時を指していた。

 

 ならば答えは一つしかなかった。

 

「並行世界、か」

 

 黒瀬の呟きに、重苦しい沈黙が落ちる。

 新は膝の上で拳を握り締めた。

 父親達は本当に別世界へ飛ばされた。

 理論上は想定していた。実験計画書にも可能性として記載していた。だが、実際にそれが起きるのとは話が違う。

 まして消えたのは五条悟と優人だ。研究所にとって最も失いたくない二人だった。

 

「オッケー。転移は成功した。まずは情報収集だ」

 

 黒瀬が端末を開いた。

 

「五条さんと優人を探す一応、こっちの五条さんと夏油さんも探しておく」

 

 誰も異論はなかった。手早くネットの調査をしていく。

 できればすぐに見つけて早々に連れ帰りたい。本音を言えば今日中にでも。

 

 それから数時間。

 研究所総出のネット調査がひとまず終わった。

 だが、成果は思った以上に乏しかった。

 

 五条悟。

 

 検索。

 

 出てくるのは断片的な情報ばかりだった。

 

 有名研究者でもなければ、呪力工学の第一人者でもない。東京呪力結界を作った人物でもない。あれほど目立つ人なのに、写真すらほとんど見つからない。

 

「少なすぎるな」

 

 真希が眉をひそめる。

 

「向こうの父さんなら検索結果だけでサーバーが悲鳴上げそうなのに」

「研究成果が存在しないからな」

 

 エリオットが肩を竦めた。

 

「少なくとも一般社会では無名らしい」

 

 今度は夏油傑を調べる。

 こちらはすぐに見つかった。

 むしろ嫌になるほど情報が出てくる。

 村落大量殺人事件。

 逃亡中。

 指名手配。

 両親も死亡。

 行方不明。

 10年前のニュース。

 

「夏油さん、こっちにもいるな」

 

 黒瀬が画面を見つめながら呟いた。

 これほどのバッドニュースを前に、浮かんだのは安堵だった。

 研究所の空気が僅かに緩む。

 もちろん喜べる情報ではない。だが、夏油がそう簡単に死ぬとは思えないし、こっちに存在しているだけで、希望が出てきた。

 夏油が五条を保護している可能性である。

 

 もし悟が無事なら。

 もし優人が父親を頼ろうと考えたなら。

 辿り着く先は夏油傑かもしれない。

 

 誰も口にはしなかった。

 

 だが全員が同じ希望を抱いた。

 

 少なくとも絶望しかない状況ではなくなった。

 

「問題は呪術界だ」

 

 黒瀬が椅子にもたれた。

 

「一般ネットじゃ全然出てこねぇ」

 

 高専。

 

 総監部。

 

 御三家。

 

 術師社会。

 

 その辺りの情報は綺麗に隠されている。

 そこでメカ丸が手を挙げた。

 

「まずは偵察してみる。高専の位置はわかってるんだ。結界も、俺がいるなら呪力が一致しているだろうからセキュリティもスルーできると思う」

 

 遠隔端末による潜入。

 本人が動く必要はない。

 危険も少ない。

 全員が賛成し、その日のうちに小型ロボットが東京都内へ送り込まれた。

 

 慎重に。

 

 極力目立たないように。

 

 情報だけを集めるつもりだった。

 

 ところが数時間後。

 

「見つかった」

 

 メカ丸と共に映像を見ていた研究員達が固まった。

 モニターへ映し出されたのは白髪の男だった。

 長身。

 黒い制服。

 サングラス。

 そして何より、自分の足で立っている。

 

 五条悟だった。立っていると、大きく見える。

 

 研究所が静まり返る。

 

 男はカメラを覗き込み、少しだけ首を傾げた。

 

「あれ?」

 

 軽い声だった。でも自信のある男特有の芯の通った声だった。

 

「メカ丸?」

 

 全員の背筋が凍る。

 

 知っている。

 

 向こうにも与幸吉がいる。

 

 当然と言えば当然だった。それを期待してセキュリティの穴をついた。

 

 だが実際に名前を呼ばれると衝撃は大きい。

 

「こんな所で何してるの」

 

 サングラスの奥で笑う。

 

「ここ立入禁止だよ」

 

 さらに覗き込む。

 そしてひらひらと手を振った。

 

「まあいいけど。次からは気を付けないと怒られるよ」

 

 五条が端末を回収する。通信が切れる。

 

 しばらく誰も喋らなかった。

 

 最初に口を開いたのは新だった。

 

「歩いてる」

 

 ぽつりと漏れた言葉に、誰も反応できなかった。

 研究所の五条悟は車椅子だ。

 だが今の五条悟は違う。

 

 健康で。

 

 強そうで。

 

 恐ろしく自然に立っていた。

 

 そしてもう一つ重要な事実があった。

 

「五条悟は生きてる」

 

 黒瀬が静かに言う。

 その言葉に研究員達の表情が変わる。

 五条悟が生きている。

 

 もし最悪の事態が起きても。

 

 もし五条と優人が見つからなくても。

 

 この世界には五条悟がいる。

 

 指輪の仕組みを考えれば、夏油傑だけは助けられる可能性がある。

 

 完全な詰みではなくなった。

 

 それだけでも大きかった。

 

「さて」

 

 黒瀬が気持ちを切り替える。

 

「潜入だな」

 

 直接交渉という話にはならない。

 総監部に五条の情報を渡せるほどお花畑ではなかった。

 総監部は味方縛りの実質敵である。

 高専の調査、高専視点での捜査網を使っての夏油の捜索、夏油の調査。

 既に準備に1週間も経っている。時間は1分だって無駄遣いできない。

 候補者を挙げていく。

 

「俺は無理だ」

 

 最初に黒瀬が手を上げた。

 

「非術師だからな。高専に入った瞬間に追い出される」

「私も却下だ」

 

 真希が続く。

 

「向こうにも私がいる可能性が高い。禪院家に見つかったら面倒だ」

「私も無理ね、虎杖はどうかしら」

「俺も無理じゃないかなー」

「俺も無理だ。総監部の元で働いてると思う」

 

 メカ丸が肩を竦める。

 

「伊地知さんも無理だよね」

「私も所属は総監部ですからね……

 

 候補が次々と消えていく。

 その時だった。

 

「なら俺達だな」

 

 静かな声が響く。

 脹相だった。

 その後ろでは壊相と血塗も頷いている。

 

「俺達は五条の研究で受肉した」

「向こうで受肉している保証がない」

「仮に受肉をしていても、外見が違う可能性は高い。俺達は改造されている。顔が一致している可能性は低い」

 

 確かに最適解だった。

 そして何より。

 脹相は迷わなかった。

 

「弟を探すのは兄の仕事だ」

 

 新が目を見開く。

 

 優人も。

 

 終夜も。

 

 脹相にとっては本当の弟だった。

 

 その言葉に反対する者はいない。

 伊地知が市役所をハッキングし、戸籍作成の準備を始める。

 エリオットが装置を使ってちょいちょい。マイナンバーが出来た。

 手慣れている事に夏油はもやもやを感じるが、緊急事態なのでスルーする。

 黒瀬は呪詛師社会への潜入経路を洗い始める。幸い、呪詛師御用達サイトのアドレスは一緒だった。

 

 メカ丸は偵察用端末を増産する。

 そして脹相達は、この世界へ溶け込むための身分を手に入れる準備を始めた。

 残された時間はやく20日。

 

 五条悟と優人を取り戻すための戦いが、静かに始まろうとしていた。




マシュマロ
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https://odaibako.net/u/karin2022v
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