そろそろ感想欲しいなって
黒瀬武道は、自分が高専へ潜入できないことを最初から理解していた。
非術師だからだ。
研究所では大した問題にならない。呪力を観測する機械があり、呪霊を可視化する装置があり、必要なら術師が隣に立つ。五条悟の研究所は術師と非術師の境界を埋めるための場所だった。だから黒瀬も当然のように研究へ参加し、当然のように現場へ出て、当然のように呪力工学へ関わっていた。
だが、この世界は違う。
呪術界は閉じている。
非術師は外側だ。
どれほど知識があろうと、どれほど技術があろうと、高専へ入る理由にはならない。
だから役割分担は最初から決まっていた。
脹相が高専を探る。
黒瀬は裏社会を探る。
夏油傑を探す。
それが自分の仕事だった。
しかし、現実は思った以上に難しかった。
夏油傑の名前は出てくる。
村を滅ぼした男。
危険な呪詛師。
元高専生。
そんな断片は集まる。
だが居場所へ繋がらない。
どこにいるのか分からない。
生きているのかも分からない。
目撃情報も曖昧だ。
宗教団体で教祖をやっている、なんて眉唾な話もあった。
黒瀬は地道に情報を積み上げた。
だが成果は出ない。
研究所の支援がある。
身分も用意された。
大人として行動できる。
それでも見つからない。
黒瀬は知らない。
この世界へ落ちた優人が、既に夏油傑へ辿り着いていることを。
研究所の支援もない。
身分もない。
資金もない。
小学校一年生の身体ひとつで。
それでも優人は見つけた。
黒瀬はまだ知らない。
だがその瞬間、調査という一点において、彼は教え子へ敗北していた。
もっとも、研究所の誰一人として、優人にそんな才能があるとは思っていなかったのだが。
優人は無邪気な良い子だ。
頭の回転は悪くないという認識はある。
将来有望だ。
だが天才と思っている研究所職員はいなかった。
研究所には新がいる。
あまりにも優秀な兄がいる。
だから誰も気付いていなかった。
優人もまた、五条悟と夏油傑の息子なのだということに。
「見つからねえな……」
黒瀬は端末を閉じた。
夏油傑を直接追うのが難しいなら、別の方法を取るしかない。
まずは生活基盤を作る。
この世界の通貨を手に入れる。
裏社会へ顔を売る。
情報網を広げる。
そのために呪詛師向け依頼を受け始めた。
大型トランクを開く。
中から現れたのは五号レギオン。
黒瀬がもっとも格好いいと思っているレギオン。
虎杖や優人がナイトくんと呼んでいる機体だった。
正式名称より通称の方が定着してしまっている辺りが研究所らしい。
「起動」
ナイトくんが静かに浮上する。
続いて補助端末が起動した。
偵察や索敵を担当する小型支援機。
研究所では羽虫と呼ばれている機体だ。
こちらの世界では存在しない技術だった。
依頼は低級呪霊の討伐。
報酬は安い。
だが現地通貨を得るには十分だった。
羽虫が索敵を行う。
ナイトくんが狙撃する。
呪霊は一方的に排除された。
研究所では珍しくもない光景だ。
だが、この世界では違う。
依頼を重ねる度に噂が広がっていく。
見たことのない機械。
呪力を使う兵器。
非術師らしい男。
所属不明。
目的不明。
そして、夏油傑を探しているらしい人物。
黒瀬は知らない。
自分が少しずつ目立ち始めていることを。
情報を集めるために流した小さな波紋が、思った以上に遠くまで広がっていることを。
異質な噂だった。
術式ではない。
呪具でもない。
それでいて呪力を扱う。
そんな存在の噂は、やがて羂索の耳にも届くことになる。
もっとも、その時の黒瀬はまだ知らない。
自分が夏油傑を探しているつもりで、逆に誰かから探され始めていることを。
マシュマロ
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