脹相が暴れるのと、特級呪霊の襲撃で警報が鳴るのはほぼ同時だった。
脹相は即座に総監部の手下を締め上げて、弟達の確保に動いた。
脹相が裏切ったという一方はすぐに生徒達に広がった。未来人の可能性があるとも。
感想は、だろうな、だった。
だってあまりにも脹相は詳しかった。
黒瀬の使っていたドローンの切り方だって知っていた。
未来人なら納得がいく。100年未来とかいってもそうだろうな、と思ってしまう。脹相の異常さは未来人という響きの異常さを超えている。
この業界だ。同級生が呪詛師になって殺し合う可能性は常に存在する。
脹相は初めからその兆候があった。
銃の開発で東京の方に来ていた真依も一緒に迎撃しようと、玄関に走る。
「あら。おねぇちゃん。初めまして、さよなら」
真依そっくりの女が笑って何らかの装置をコンセントに刺した。
ブレーカーが落ちて真っ暗になる。
何かが投げ込まれる。
その瞬間、廊下に壁が生えて、玄関には行けなくなっていた。
真っ暗なのにさらに煙幕が広がる。
「ゲホゲホッ 何よこれ! こんな大物、構築術式で作れるはず……!」
「真依、落ち着け! しかし、未来人? 真依も私も、同じ年齢に見えたが」
次第に意識を失っていく仲間達。
一瞬だったが、あからさまなロボット兵器を連れて一団の中にいた。知った顔もいた。自分もいた。明らかにおかしな状況だった。
真希はとにかく、この怪しい煙幕を追い出そうと窓を開けた。
薬の効き難い真希と人外のパンダだけが動けていた。
東京高専を覆う結界は正面突破でナイトくんに爆撃され、黒瀬開発の睡眠煙幕がばら撒かれていく。研究所の面々は正々堂々正面から殴り込み、手早く要所を確認していく。普段研究所から出ない真依だが、研究所のピンチにここぞとばかりに暴れてくれていた。
探すのは五条悟と優人。脹相。この世界の脹相達。
そして拘束された黒瀬の同位体と、高専が持っている夏油傑の情報。
この世界の五条悟も。
全て奪う。取りこぼしはなしだ。
五条悟がこの場にいたら、研究所の面々は一掃されただろう。
だが、総監部は脹相に尋問をする関係上、無理やり緊急任務で遠方へと飛ばしていた。
地下施設は想像以上に厳重だった。
結界。
封印。
監視設備。
「これ学校だよな? 随分物騒だけど」
黒瀬が呟く。
兵器を引き連れて襲撃している側には言われたくないだろう。
襲撃中に、エリオットが提案する。
「天元の結界は日本を覆っている。これを利用すれば五条所長を見つけられないか?」
「エリオット凄い。どうせ呪庫にはいくしね」
新は提案を飲む。止める者はいない。倫理などクソだった。
殺しをしないことが唯一の理性だった。五条先生への気遣いだった。
地下を襲い、黒瀬を助け出す。
拘束されていた男が飛び上がる。
「俺!?」
「本当に俺だ!」
「俺だ!!」
「俺!?」
「俺だ」
殺気が溢れた。
「後にして」
新が言う。
「すみません。おい俺、助けに来たぞ」
「えっ」
黒瀬は困惑した。公務員より兵器を従えた自分のそっくりさんの方がやばそうだからだ。ついていっていいのか。
「面倒くさいから拘束して」
「了解」
ダメだった。
超能力研究者の黒瀬は絶望した。
ヒョイっとナイトくんに抱え上げられ、SFに触れた喜びと恐怖に震える。
手早く他の場所も調べていく。
五条悟も優人もいない。見つけられない。
やはり呪庫か。
総監部のメンバーを拘束して人質兼道案内にする。
「五条悟の子供だと!? こんなことをしていいと思っているのか!」
「父親はどういう教育をしているんだ!」
「未来の五条悟はここにはいない、単なる鎌掛けだ、こんな事をしても無駄だ!」
「六眼!? バカな、どういうことだ!」
「天元様を襲撃すると話していたが、何を考えている!」
喚き立てる総監部。
父がここにいない。
その可能性は当然考えていた。
だが認めたくなかった。
「外れですか……」
伊地知が呟く。
重い沈黙が落ちる。
その時だった。
「これ」
真依が資料を持ってきた。
夏油傑追跡報告。
全員の動きが止まる。
資料を開く。
密かに国外に移動したらしい事が書かれていた。
呪霊を使って、アメリカに行ったらしいと。
そこから足取りは途絶えている。
「アメリカ……」
絶望する。天元様の結界でも調べられない。
「エリオットの所に行ったのかも。ほら、五条さんって目立つし、飛行機にそのまま乗せられないだろ? むしろ無事な確率は上がったと思う!」
「そうかも……そうかも!!」
空気が明るくなる。
生存が確定したわけではない。だが、希望はできた。
それと同時に、五条傑が絶対に三日以内に配偶者に接触できないことも確定する。
アメリカまで行くだけで、指輪の期限は尽きるだろう。五条傑は死んでしまう。五条悟の協力がなければ。
絶対に五条悟を捉えねばならない。
メカ丸と脹相から、呪胎九相図の確保の連絡も来た。
それらしい呪具はないと言う発言も。
「撤退しますか? 人質は誰を連れて行きますか?」
伊地知が聞く。五条以外の欲しいものは確保できた。
人質を使えば、五条の協力も得られるかもしれない。
「そうだね。撤退しよう。この辺のお偉方全員縛り上げちゃって」
そうして、発信機などで追跡されないように、一切武器など隠しもてないように、人質の服を剥いでいく。そこに容赦など存在しなかった。
作業をしている最中、伊地知は焦って助けを求める自分の声を聞いて1人移動した。補助監督が怪我をしたのかもしれない。死人は出したくない。
しばらくして伊地知は戻ってきた。
「戻るよ、伊地知」
「はい、お待たせしました」
彼らは撤退していく。
五条悟が駆け付けたのは、翌朝。
全てが終わった後のことだった。
「全く、くだらない企みで僕を排除して自分たちが襲われたら世話ないね。夜蛾学長も、何やってんの」
「返す言葉もない」
2人は歩く。
そして、地下室に足を踏み入れた。
「や、伊地知。未来人なんだって?」
縛られて目隠しをされた伊地知が、顔を上げた。
マシュマロ
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