呪術廻戦二次創作一発ネタ集   作:かりん2022

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カースチェイン〜第32話・エリオット〜

 エリオット・カーターは受付からの内線に眉をひそめた。

 

『お客様です』

「アポイントは?」

『ありません』

「断ってくれ」

 

 そう答えたところで、受付の女性が少し言い淀んだ。

 

『その……伝言がありまして』

「何だい?」

 

『リーザさんのことを覚えていますか、だそうです』

 

 エリオットの手が止まる。

 一瞬だった。

 本当に一瞬。

 

 だが確かに止まった。

 

 リーザ。

 

 昔付き合っていた女性の名前だった。

 

 今では連絡も取っていない。

 

『それと』

 

 受付が続ける。

 

『認知してほしいそうです』

 

「は?」

 

 思わず素の声が出た。

 

 認知。

 

 認知?

 

 何を?

 

 いや待て。

 

 まさか。

 

「相手は子供なのか? リーザが来ているのか?」

『お子さん1人です。9歳くらいです』

 

 年齢は。

 

 合う。

 

 いやいやいや。

 

『エリオットさんに褒めてもらう為に研究資料も持ってきたと言っています』

 

 意味が分からない。

 だが。

 リーザの名前を知っている以上、無視もできなかった。

 

「通してくれ」

『はい』

 

 電話が切れる。

 エリオットはしばらく天井を見上げた。

 リーザが何も言わずに産んでいた?

 

 いや。

 

 いやいやいや。

 

 そんな馬鹿な。

 

 その時、受付からファイルが送られてくる。

 研究資料らしい。

 子供が父親に認知してもらう為に持ってきた研究。

 健気すぎる。

 

 9歳ならば、電池の直流と交流あたりについてだろうか?

 

 そう思いながら開いた。

 

 そして。

 

「……何だこれは」

 

 手が止まる。

 

 ページを戻る。

 

 もう一度読む。

 

 さらに進む。

 

「お化けの電力変換システム?」

 

 題名は子供らしくて微笑ましい。

 科学者を志す、夢いっぱいでフィクションと現実の区別のついてない年齢の子供の、興味深い研究。

 論文の内容は全く微笑ましくなく、難しい数式や設計図が並んでいた。

 困った事に、正しそうに見える。少なくとも、9歳の書いたものには見えない。

 

 資料をスクロールしていくと、実証実験の結果まである。

 

 でっちあげでしかないはずなのに、あまりにもそれらしい。

 ハリウッド映画に出て来たら百点を挙げるだろう。

 それくらいそれらしくできている。

 

「馬鹿な……」

 

 呟いたところで扉が開いた。

 入ってきた少年を見て、エリオットは少しだけ目を見開く。

 

 白髪。

 

 蒼い瞳。

 

 信じられないほど整った顔立ち。

 

 だが何より目だった。宇宙を閉じ込めたような不可思議な瞳は自信に満ちていて落ち着いている。

 

 自分の研究が価値あるものだと知っている目だった。

 

「こんにちは」

 

 少年が言う。

 

「エリオットさんですね」

 

「ああ」

「良かった、会ってもらえて。五条 優人です」

 

 少年は少し笑った。

 

「会えて嬉しい」

 

 エリオットは思わず額を押さえる。

 

「まず聞こう。君は私の子供ではないね」

「はい」

「どうして嘘を?」

「エリオットさんにどうしても話を聞いていただきたくて」

「親は」

「僕がエリオットさんの協力を取り付けるのを待っています」

「つまり、君の親は君に嘘をつかせたのか。自分の研究を売り込むために」

「僕の意思でもあります」

「君は誰だ」

「五条 優人。半呪霊のしがない量産品です」

 

 優人は冗談っぽく言った。

 

「リーザをどうして知っている」

「惚気話を聞いた事があったので」

「研究資料を書いたのは?」

「僕とお父さんです」

「お化けが本当にいるとでも?」

「証明します。道具を出しても?」

「構わないが」

 

 優人はニコニコと手を差し伸べ、空間が揺らいだ。

 そして、宙から機材を出し始めた。

 

「何を!?」

「道具を出す許可は取りました」

 

 大型端末。

 

 測定装置。

 

 見たこともない試験機材。

 

 エリオットは絶句した。

 

「待て。今何をした」

「生得領域から機材を出しました」

 

「どこだって?」

「生得領域」

「何だそれは」

「後で説明します」

 

 優人は慣れた様子だった。

 エリオットは慣れていなかった。全く慣れていなかった。

 優人はそこからゴーグルを拾って起動した。

 

「掛けてください」

「何故」

「お化けが見えます。それを今から電気に変えます」

「電気に変えたらお化けは死んじゃうんじゃないかな」

「牛だって食べると死んじゃうよ」

 

 エリオットは天を見上げた。

 だがここまで来た以上付き合うしかない。

 ゴーグルを装着する。

 会議室のど真ん中にいたお化けに腰を抜かした。

 

 人型。

 

 だが人ではない。

 

 黒い塊。

 

 歪んだ顔。

 

 こちらを見ている。

 

「……何だあれ」

「お化け。正式な名称は呪霊です」

「ARでは」

「ホログラムがこういう事できます?」

 

 呪霊が机を持ち上げた。

 エリオットは無言になった。

 

 そして、這いずりながらなんとか椅子の上に座った。

 優人のプレゼンは順調に進んでいた。

 

 車の中。

 五条はレンタカーの中で、呪霊の視覚情報を投影していた。

 隣には夏油がいて目を見張っていた。

 

 優人。

 

 会議室。

 

 呪霊。

 

 エリオット。

 

 全て見えていた。

 

「上手くやってるね」

 

 五条が笑う。声は聞こえずとも、エリオットを圧倒しているのがわかる。

 誇らしそうに笑う五条。夏油は素直に感心した。

 

「子供だけで大丈夫かと思ったけど、さすがは君の子供だね」

「傑の子供でもあるからね。プレゼン交渉はお手のものだよ。僕にそっくりだと思っていたけれど、こういう所は傑に良く似てる。それに、あの子は受肉体だからね。普通の子供じゃないし、知識のインストールも初めからされてる」

 

 間接的に褒められて、夏油は苦笑する。

 夏油は投影映像をじっくりと見つめる。

 優人は堂々としており、研究を胸を張って説明していた。

 

 父親を気絶させて拉致監禁するお子様だけあって、優人の能力には感心させられるばかりだ。

 

 並行世界の自分のだけれど、自分の子供と知って夏油はちょっと誇らしく感じてしまう。優人はとても可愛い子供で、とっくに情が移っていた。

 

「エリオットは役に立つかな」

「傑。役立てるんじゃなくて、力を借りるんだよ。僕の技術は、術師と非術師の垣根を0にする。そこは納得してもらわらないと。大丈夫。エリオットは君を傷つけない」

「わかったよ、悟」

 

 全て見透かされているようで、優しく諭され夏油は痛みを飲み込んだ。

 飲み込まなくてはならない。呪霊をこの世から無くすのに、非術師は無関与ではいられない。

 五条は戦闘能力はないけれど、頼もしく大きく偉大だった。

 

 世界が違っても、悟は悟だ。

 

 夏油は、投影された映像を複雑な表情で見つめる。

 

「それ」

「何?」

「私の術式」

「ああ」

 

 五条は頷く。

 

「便利だよ。傑にはいつも感謝してる」

「そうじゃなくて。私はこれ、出来ないんだ」

「メカ丸と協力して訓練したんだ。傑もできるようになるよ」

「教えてくれるかい?」

「もちろん」

 

 ありがたいと思うと同時に、劣等感を感じる。

 

 呪霊操術。

 

 本来なら自分の術式だ。

 

 なのに悟の方が上手く扱っている。

 

 研究も。

 

 術式も。

 

 悟はいつだって凄くて、偉大で、凡人の傑を追い越していく。

 その事実に小さな劣等感が生まれる。

 

 けれど。

 

 肩に軽い衝撃。隣の男がふらついたのだ。顔色が青かった。

 

「悟」

 

 反射的に支える。

 体温が高い。

 顔色も悪い。

 無理をしていた。

 どうして気づかなかった!

 

「大丈夫。ちょっとこの使い方難しくてね。僕の体力じゃキツくて」

「なんで言わなかった」

 

 夏油は慌てて水を出してキャップを開けて、悟に飲ませる。

 体勢を整える。

 毛布を掛ける。

 いつものように。

 自然に。

 悟の介護がいたにつきつつあった。

 

「ありがとう。傑がいなくちゃ外も出られないよ」

 

 夏油は言葉に詰まった。

 見上げてばかりの自分が醜く思えた。

 悟だって、全てに恵まれているわけではないのだ。

 

 夏油は五条を見た。

 

 体が弱くて、夏油がいなければ1日だって生きてられなそうな男。

 そして、夏油の希望であり、世紀の科学者。

 

 ようやく、五条を見た気がした。自分の知る親友でも、自分の作った虚像でもない、目の前の五条悟を。

 

「悟。すまない」

 

 何に誤っているのかわからなかった。でも、謝らなければならない気がした。

 傑は電話を取る。優人に電話を掛けた。

 投影はすでに途切れている。

 

「夏油さん?」

『悟が体調を崩した。一旦戻ろう』

「わかった。エリオットさん、今日はもう失礼します。連絡先をいただけますか」 

 

 エリオットは眉を上げた。

 

「夏油さんと悟とは?」

「夏油傑と五条悟。共同研究者と僕の父です」

「体調が悪いのか」

「父は幼い頃の怪我が原因で下半身が動かなくて、体調を崩すのもいつもの事なので。でも、すごい科学者なんだよ。僕を作ったし」

「君を作った。半呪霊と言っていたが」

「俺は、5年前にお父さんの傑好き好き愛してるって思いにエネルギーを与えて肉体に定着させた存在なんだ。あっ 赤ちゃんを乗っ取ったわけじゃなくて、ちゃんと魂のない体を培養したものに宿らせてるよ。僕はすっごく優秀で顔もいいから、同型機を欲しいって大人気なんだよ」

 

 自慢のように言われた言葉は、エリオットの良心を刺激するのに十分だった。

 

「君は」

 

 エリオットはいいよどむ。

 

「幸せなのか。お父さんを愛しているか」

「うん。俺、お父さんの為ならなんでもするよ」

 

 優人は少し言葉を切る。

 

「このまま行けば、お父さんは二十日くらいで死んじゃうんだ」

 

 エリオットは固まった。

 

「だから」

 

 優人は機材を片付け始める。

 

「それまでに研究を継いでお父さんを安心させたい。夏油さんも1人じゃダメな人だから、俺が助けてあげなくちゃ。一番はお父さんが治療を受けてくれる事だけど、お父さん頑固なところがあるし。僕の戸籍を手に入れたり、研究設備を用意したり、夏油さん達を匿ったり、しないといけない事が山積みなんだ」

 

 その声に悲壮感はなかった。

 ただ事実を述べているだけだった。

 優人は、5歳と名乗った子供は、年齢的にはもう少し上に見える。

 それでも、9歳ほど、小学生の年齢なのに変わりはない。アメリカでは1人にするだけで親が逮捕される年齢だ。

 

 エリオットは決めた。

 未知の研究が興味深いからではない。

 

 名誉を得られそうだからではない。

 

 新たなエネルギーの研究に資金を得られそうだからでもない。

 

 この、あまりにも優秀で、あまりにも哀れな子供を救うために。

 

 力を尽くそうと。

 

「待て」

 

 優人が振り向く。

 

「医務室がある」

「え?」

「連れて来い」

「でも」

「連れて来い」

 

 有無を言わせなかった。

 

「研究設備も」

 

 エリオットが言う。

 

「戸籍も」

 

「保護も」

 

「協力する」

 

 優人が目を丸くする。

 

「本当?」

「本当だ」

 

 エリオットは真剣に頷いた。

 

「研究資料のためだけじゃない」

 

 優人を見る。

 

「君の為だ」

 

 優人は驚いた。

 

「僕の為?」

「そうだ。君が、得て当然のものを得るためだ」

 

 優人は全て持っている。

 

 力も、頭脳も、悟の愛も。申し訳なくなるほどに。

 

 これ以上、何を望めばいいかわからなかった。

 

 でもエリオットからしたら、圧倒的に足りないらしい。

 

 優人はこの世界で、親よりも絶対的で、大きな味方を手に入れたのだった。




マシュマロ
https://marshmallow-qa.com/lucaluca
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https://odaibako.net/u/karin2022v
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