呪術廻戦二次創作一発ネタ集   作:かりん2022

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R18の36.5話
https://syosetu.org/novel/415951/2.html

短いですがよろしくお願いします!


カースチェイン〜第37話・予兆〜

 

 研究所からの通信が届いたのは翌日の夕方だった。

 

 暗号化されたデータは何重にも分割され、アメリカ側の技術者達が総出で復元を進めている最中だった。それでも断片的な情報だけは先に取り出せる。

 

 会議室の大型モニターに文字列が並ぶ。

 

 高専襲撃。

 

 研究所健在。

 

 新、生存確認。

 

 夏油傑の渡米を確認。

 

 その数行だけで十分だった。

 

 優人は思わず椅子から立ち上がった。

 

「新お兄ちゃんだ!」

 

 画面へ駆け寄る。

 

 五条も安堵したように息を吐いた。

 

「よかった……」

 

 その声は小さかった。

 

 優人は知っている。

 

 悟は平気そうな顔をしていても、実はずっと心配していた。

 

 新は責任感が強い。

 

 だから無理をする。

 

 所長と副所長がいなくなればなおさらだ。

 

 研究所のみんなもそうだ。

 

 だから悟は毎日平然と研究を続けながら、誰よりも心配していた。

 

「帰れるね」

 

 優人が言う。

 

 五条は少しだけ笑った。

 

「そうだね」

 

 だが、その笑顔はどこか複雑だった。

 

 アメリカで始めた研究。

 

 保護計画。

 

 優人達の教育。

 

 夏油の問題。

 

 何も終わっていない。

 

 帰還の目処が立ったからこそ、逆にやるべき事が増えていた。

 

 会議が終わった後も研究者達は慌ただしく動き回っていた。

 

 通信経路の確保。

 

 研究所との定期連絡。

 

 帰還方法の検討。

 

 やる事は山ほどある。

 

 その最中だった。

 

 警備室から緊急連絡が入ったのは。

 

「エリオット」

 

 若い研究員が駆け込んでくる。

 

「どうした」

 

「日本で動いていた調査班なんですが」

 

 その声色だけで嫌な予感がした。

 

「三名と連絡が取れません」

 

 会議室の空気が変わる。

 

「事故か?」

 

「分かりません。ただ全員、同じ調査ルートを使っていました」

 

 資料が回される。

 

 エリオットは目を通した。

 

 消えたのはただのスパイではない。

 

 政府筋の人間。

 

 経験豊富な調査員。

 

 そんな人間がまとめて消えるのは異常だった。

 

「潰されたな」

 

 誰かが呟く。

 

 エリオットも同意見だった。

 

 偶然ではない。

 

 誰かが気付いた。

 

 誰かが調査を止めた。

 

 問題は誰が、だ。

 

「警備レベルを引き上げる」

 

 エリオットは即座に決断した。

 

「研究棟は二十四時間体制。保護対象の単独行動は禁止。外出も許可制にする」

 

「予算が」

 

「後でどうにかする」

 

 即答だった。

 

 優人は少し離れた場所でその会話を聞いていた。

 

 嫌な感覚があった。

 

 胸の奥がざわつく。

 

 六眼が何かを捉えたわけではない。

 

 呪力の気配でもない。

 

 それでも落ち着かなかった。

 

 自分でも理由は分からない。

 

 だが。

 

 研究所で何度も経験した感覚だった。

 

 襲撃の前。

 

 事故の前。

 

 何かが起きる前。

 

 世界が静かになる瞬間。

 

 優人はエリオットの袖を引いた。

 

「ねえ」

 

 エリオットが視線を向ける。

 

「なんか嫌な感じがする」

 

 エリオットは冗談として流さなかった。

 

 優人は賢い。

 

 賢すぎる。

 

 そして護衛として育てられている。

 

 そんな子供が言う直感を軽視するほど愚かではなかった。

 

「どんな感じだい?」

 

「見られてる気がする」

 

 優人は少し考えて続けた。

 

「研究所が襲われる前みたいな感じ」

 

 周囲の大人達が顔を見合わせる。

 

 優人はしばらく考え込んだ後、急に表情を引き締めた。

 

「分かった」

 

 何かを決意した顔だった。

 

「俺、探してくる」

 

 エリオットは反射的に言った。

 

「駄目だ」

 

「え?」

 

「駄目だ」

 

 優人は不服そうに眉を寄せた。

 

「なんで」

 

「なんでじゃない」

 

「だって護衛だよ?」

 

 優人は当然のように言った。

 

「護衛だから危ないの探すの俺の仕事だもん」

 

 研究所では当たり前だった。

 

 強い人間が前に出る。

 

 戦える人間が戦う。

 

 だから優人もそうしてきた。

 

 エリオットは深く息を吐いた。

 

「優人くん」

 

「なに」

 

「君は何歳だ」

 

「九歳」

 

「五歳だ」

 

「九歳」

 

「五歳だ」

 

 優人は不満そうに頬を膨らませる。

 

 しかしエリオットは譲らない。

 

「君が強いのは知っている」

 

「うん」

 

「優秀なのも知っている」

 

「うん」

 

「私なんかよりずっと強い」

 

「うん」

 

「だからこそ駄目なんだ」

 

 優人は首を傾げた。

 

 意味が分からないという顔だった。

 

 エリオットはしゃがみ込み、目線を合わせる。

 

「子供を危険な場所へ送り出してきた連中に私は腹を立てている」

 

 優人は黙った。

 

「なのに私が同じ事をしたら意味がないだろう」

 

 その言葉に優人は反論できなかった。

 

 理屈は理解できる。

 

 理解できるから困る。

 

「でも」

 

 優人は小さく言う。

 

「悟お父さん守れるの俺だよ」

 

 その言葉にエリオットは少しだけ笑った。

 

「違う」

 

「違う?」

 

「君を守るのが私達だ」

 

 優人は目を丸くした。

 

 研究所では聞いた事のない言葉だった。

 

 戦えるから守る。

 

 強いから前に出る。

 

 そう教わってきた。

 

 だから守られる側だと言われると困ってしまう。

 

 その時だった。

 

「エリオットの言う通りだよ」

 

 穏やかな声が聞こえた。

 

 振り返る。

 

 車椅子の五条がいた。

 

 その後ろには夏油もいる。

 

「悟お父さん」

 

「君は頑張りすぎ」

 

 五条は笑う。

 

「たまには大人に任せていいんだよ」

 

「でも」

 

「それに」

 

 五条は少しだけ真面目な顔になった。

 

「嫌な感じがするのは僕も同じだから」

 

 会議室が静まり返る。

 

 五条がそう言うなら話は別だった。

 

 六眼の持ち主。

 

 研究所の頭脳。

 

 そして誰よりも危機を潜り抜けてきた男。

 

 その五条まで同じ感覚を抱いている。

 

 偶然とは思えなかった。

 

 エリオットは表情を引き締めた。

 

「警備をさらに強化する」

 

 誰も異論を唱えない。

 

 窓の外では夜が深まっていた。

 

 誰もまだ知らない。

 

 海の向こうで、自分達を見ている存在がいる事を。

 

 その存在が、研究所よりも。

 

 総監部よりも。

 

 遥かに厄介な敵である事を。

 

 そしてその敵が、既に次の一手を打ち始めている事を。




マシュマロ
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https://odaibako.net/u/karin2022v
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