「夢か……」
ぼんやりと目を覚ます。
起き上がることはしない。一人ではもう起き上がれないから。
「悟。おはよう」
優しく低い声がして、ベッドが動いて上半分が持ち上がっていく。
五条 傑。元総幹部のスパイで、最愛の人で、相棒。
傑がコーヒーを持って優しく声をかけてくれていた。
空調の静かな音。遠くで稼働する呪力炉の低い振動。負の感情は僕の呪力に包まれ、呪力炉に吸引され、電力に変換される。枕元のモニターが、僕の呪力に反応して少しだけ針を動かしていた。心拍のギザギザが、傑の手でセンサーを外されて沈黙していく。
「おはよう、傑」
コーヒーを受け取る。
「すまない。魘されていたのはわかっていたが、君に少しでも睡眠をとってほしくて放置した」
傑が、静かに言った。
「別にいいよ。たいしたことない」
傑が僕の着替えを手伝ってくれる。
ついでに目覚めのキスをする。僕と傑に填められたお揃いの指輪が、呪力を吸っていく。
この指輪は、術式を共有できるようになる。その代わり、命も共有される。
互いに定期的に呪力を供給しないと、徐々に衰弱して命を落とす。もちろん外せない。
世界で一番優しくて、一番格好良くて、一番強い傑を僕に縛り付けるための鎖。
呪力の交換は少し苦労する。
呪力は負の感情を乗せて使うのがこつだ。でも、傑とこうしていると僕は幸せで満たされて、負の感情を乗せるのが難しい。でも、それだけキスの時間が長くなるから困ってはいない。僕がどれだけ傑を好きか、きっと傑にはわからないだろう。傑の愛情は海のようで、広く深く、誰にでも開放されているので。
僕を抱き上げて車椅子に乗せ、体調管理表に記載をして体重を測って少し眉を寄せる。
「少し痩せたかい? 朝食を増やしてもらおうか」
「朝から重いのはちょっと」
「肉を食えとは言わないけど、栄養ゼリーとサプリメントだけは良くないよ。いつも言ってるけど」
「傑が食べさせてくれるなら食べようかな」
「いいよ。あーんしてあげる。とっくに一人で食べられるようになった優人の目の前でね」
「うっ」
「優人、君のまねしておかしばっかり食べるんだ。君のすべきことは?」
「お肉と野菜を食べます……」
「よろしい」
傑にやりこめられて、しおしおとする。傑がスイッチを入れて車椅子を押すと、自動ドアが開いた。
「どんな夢?」
「足を失ったときの」
「……そうか」
傑の声は静かだった。慰めるでもなく、怒るでもなく、ただそこにある。僕はその声音が好きだった。自分を壊れ物扱いしない。けれど、壊れていないふりもさせない。
「今日は終夜の定期接続日だろう」
「うん。午前中に見る。午後はレギオン三号機の鎖制御試験」
「午前中だけで疲れる予定を、午後にも入れるな」
「三号機が拗ねる」
「機械は拗ねない」
「拗ねる機械も作れるよ」
「作るな。君一人で十分だ」
「新と優人は?」
「残念だけど、あの子達は君より大人だからすねないんだ」
「嘘でしょ!?」
「あの子達がすねて困らせたことがあった?」
「ない。ない。えっ ほんとに? 嘘でしょ?」
本気で戸惑う僕に傑は笑った。
寝室を出ると、研究所の朝が始まっていた。
カースフューチャーラボ。
正式にはそう呼ばれている。アメリカ資本も入った呪力工学研究機関であり、東京結界システムの中枢管理組織であり、総監部から僕達を守ってくれる、半ば独立した要塞でもある。
アメリカの富豪を夏油が意図せず誑かしたのが縁だったのだけど、その事を聞くと夏油は嫌な顔をする。
別に誑かしていない。ただ、呪霊による暗殺未遂を処理し、ついでに精神的に弱っていた相手の相談に乗り、結果として莫大な資金援助と国際的な後ろ盾が手に入っただけだ、と本人は主張する。
僕からすれば、それを世間では誑かしたと言うのだと想うのだけれど。
廊下へ出ると、壁面の表示が東京全域の呪力循環を示していた。夜間発生した負の感情由来呪力、野良呪霊反応、結界変換効率、電力供給量。かつて祓って終わりだったものが、今では全自動で吸収され、エネルギーとなり、都市を動かしている。
呪霊を祓うのではなく、エネルギーとして制御し、利用する。
その発想は、最初こそ狂気扱いされた。今でも総監部の古い連中は顔を顰める。だが東京の呪霊被害は特級クラス以外消滅。電力供給は安定し、非術師が呪いに食われる数は明らかに減った。
結果が出れば、生き残れる。
子供の頃の悟はそう考えていた。
今でも、その考えが完全に消えたわけではない。
「お父さん!」
曲がり角から小さな影が飛び出してきた。
優人だった。
小学三年生くらいの外見を持つ次男は、製造して5年経つ。白い髪と明るい目を持ち、僕によく似ていた。勢いよく駆け寄ってくるけれど、直前で傑の視線に気づいて急停止する。一代に一人だけのはずの六眼。長男の新も持ってるし、製造中の終夜も持っているし、何ならこの研究所のマザーコンピューターにも六眼システムが搭載されている。
かわいい子供達の輝く蒼の瞳を見るたび、僕は達成感を得る。やってやった。もう六眼が欲しいから僕を処分するなんて言わせない。
傑は優人に優しく言い含める。
「走らない」
「走ってない。速く歩いた」
「屁理屈は悟に似なくていい」
「えー」
優人は不満そうにしながらも、悟の膝に両手を置いた。
「お父さん、今日、三号機動かす?」
「動かす予定」
「見たい!」
「授業は?」
「終わったら」
そこで廊下の向こうから、もう一人の少年が歩いてきた。
新だ。
中学一年生位に見えるが、実際は8歳。僕はちゃーんと20歳、大人になってから子作りをしたのだ。もちろん男同士で子供はできないから、産んだのではなく製造なのだけど。黒髪で、顔立ちは傑に似ている。年齢の割に落ち着いていて、優人よりずっと周囲を見ている。そのせいで、時々必要以上に大人びた顔をする。理屈っぽいところは傑そっくりで、僕の頼れる助手。気遣いのできる所も傑そっくりで、本当に可愛い。
「優人、朝食前に研究区画へ行かない約束だっただろう」
「行ってない。廊下で待ってたもん」
「研究区画手前の廊下。しかも扉を開けてた」
「でも中には入ってない!」
「身を乗り出してた」
新はため息を吐いた。
「お父さん、検査前に優人を甘やかさないでください」
「まだ何もしてない」
「目が甘やかす気でした。ただでさえ学校に行ってないんだから、ルールを守ることの大事さを……」
「俺、悪い子……?」
「もちろん優人はいい子だよ!」
新はぷくっと頬を膨らませる。かわいすぎか。
僕は新を抱き寄せた。
今はリミッターと思考領域をシステムに繋げてることがあり、呪霊操術は三体まで、無下限は物体停止まで、六眼も長時間は使えない。けれど、呪霊と感覚共有ができるし、呪霊に対して人間を仲間と誤認させる認識阻害システムと六眼と呪霊操術と無下限という、フルスペックをすべて詰め込んだ最初の作品にして最高傑作だ。東京結界の未来を変える可能性を持つ、最初の子供。新たなる時代の始まり。若干出力が不安定な所もあるけれど、研究の手伝いまでしてくれる、僕の大切な宝物。
もちろん、優人も大切だし、新が可能性の塊の最高傑作ならば、優人は完成された最優秀作だ。全てのパラメーターが高くまとまっていて、認識阻害システムはないし、感覚共有も一度に一体の一体の視覚を共有する程度だけれど、六眼も無下限も呪霊操術も十全に使える。傑から戦闘訓練を受けており、めきめきと成長している。まさしく生まれながらの完成品、ミスターパーフェクト。
そして、製造中の終夜。呪いの夜を終わらせるという意味で名前をつけた、僕にもその可能性が計りきれない、可能性を超えた先の傑作(予定)。
特にいいのが、この三人は呪術的には呪霊枠に分類されること。
僕が生まれた時みたいに、呪霊が急激に強力になることはない。
六眼は一代一人。
それが世界の法則だった。
だから僕は、真っ正面から粉砕させてもらった。
いや、僕たちか。僕一人ではできなかった。全ては傑がいたからこそだ。
自分の呪力から作られた存在を受肉させる。呪胎九相図の研究を応用し、夏油の生得領域と機械を接続し、肉体と術式と魂の境界を再設計する。
倫理的にどうかと言われれば、そんなものはないと断言してやる。
五条家としてではなく、六眼としてではなく、五条悟の手で勝ち取った宝。
関係のない有象無象が狙ってはいるけれど、誰にも奪わせはしない。
「優人もぎゅーさせて」
悟が腕を広げると、優人は少しびっくりした顔をして、慌てて抱きついてきた。優人はたまにこんな顔をする。僕からの愛をあんまり信じていない感じがするあたり、自信のない僕にそっくりだなと思う。さすがに信じてほしいけど。
傑に見守られて、好きだよ、という思いを込めて、二人ともぎゅー。
最高に幸せな瞬間だった。
あの病室で死なず、切り捨てられず、ここまで来た。
東京結界を作った。呪力を電力に変えた。呪霊を可視化し、解析し、制御した。ドローン兵器を作り、宿儺の指をコアにした兵器レギオンを作り、六眼の複製を作り、呪術を隠すだけの時代を終わらせ、開示された呪術社会を作った。
やり過ぎた自覚はある。
敵も増えた。
総監部からは今も警戒され、羂索からは憎まれ、宿儺からは殺意を向けられている。
それでも、後悔なんてしていない。完全無欠に僕の勝ち。やってやった。運命に勝てた。
「お父さん?」
新が不思議そうに見上げてくる。
「何でもない」
「また寝不足ですか」
「違う」
「魘されていたんだよ、今日」
夏油が横から告げ口した。
「傑」
「事実だろ」
新の眉が寄る。優人も顔を上げた。
「怖い夢?」
「昔の夢」
悟がそう言うと、優人の腕に力が入った。新も何か言いたそうに唇を引き結ぶ。
子供に心配されるのは、くすぐったい。
同時に、少し申し訳ない。
「大丈夫。今は幸せだから」
本当に。心から。
「おなかすいた! 早くご飯食べて三号機見に行こう!」
「そうだね」
「今日はヒレカツ定食だよ」
「やったー!」
「朝からそれは重くない?」
「君はいつも軽すぎるんだ」
新が小さく笑い、優人が「甘い卵焼きがいい」と主張する。
廊下の向こうでは研究員達が慌ただしく行き交い、表示板には東京全域の呪力循環が流れ続けている。遠くの格納庫では、レギオンの制御試験準備が始まっているはずだ。終夜の接続状態も確認しなければならない。
今日も忙しい。
今日も危険で、面倒で、研究課題は山ほどある。
それでも最高に幸せだ。
生き残った。
死にたくないと願った子供は、ここまで来た。
そして、これからも幸せは続く。
僕はそう信じていた。
僕はわかっていなかった。追い詰められて我武者羅でどんな方法でも何でもやる。それをするのは僕だけじゃないって。そうして、僕は自分の周囲をひたすら追い詰めすぎていたんだってことを。
パラレル五条 悟
幼少期に羂索の策謀による特級呪霊襲撃を受ける。
結果、 下半身不随、六眼保持、無下限保持となる。
立場
本来、六眼は一度に一人しか存在できない。
そのため、成果を上げられなければ「出来損ないの六眼」として処分される可能性があった。
最強の術師にはなれなかったため、呪力工学の天才科学者となる。
開発技術
呪力→電力変換技術
六眼システム
呪霊可視化技術
ドローン兵器
呪力解析システム
レギオン技術
子供達
戦闘能力
銃火器運用可能
無下限は限定運用
接近戦は苦手というか車椅子なので近接になった瞬間詰み
ドローン
護衛ロボット
指輪による術式共有で得た呪霊操術で操る呪霊
夏油の護衛を前提とする。
立ち位置
「最強」ではなく「歴史的転換点」として存在する。
新に対する意識
傑に外見が似ていて可愛い。なおかつ自分と同じ蒼い目でまさに二人の子供って感じでめちゃくちゃ可愛い。
頭が良くて理屈っぽくて傑に似てて可愛い。傑に似て優しくて気が利くところも可愛い。
助手してくれて最高。何でもお願い聞いちゃう。超かわいい。
優人に対する意識
幼少期の僕に似てしっかりしていていい子。もちろん愛してる。
そのうち誰より強くなる。あり得た自分の未来より優秀になるんだろうな。楽しみ。
自分に似ているので放っておいても一人で育つ逞しい子。傑の訓練も順調なようだしほんと先が楽しみ。
一人で勝手に強くなれて僕なんて邪魔だろうけど、それだと寂しいからたまには構わせてね。
終夜に対する意識。
マジで期待。嬉しくてどんどん機能込めちゃう。想像を超えてすごくなりそう。
研究がうまくいきすぎて怖い。終夜に対する呪力チャージを理由に傑とイチャイチャ出来て最高。
マシュマロ
https://marshmallow-qa.com/lucaluca
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