三号の見学をした後。
新は訓練場の観覧席に座り、膝の上のタブレットへ視線を落としていた。
本来なら研究棟へ戻っていてもよかった。午後の会議資料はまとめ終わっているし、六眼システムの補助演算も片付いている。三号機の制御ログも確認済みだ。
それでも席を立たないのは、訓練場の中央に優人がいるからだった。
「もう一回!」
「来い」
元気のいい返事と共に、優人が足を振り上げる。
向かいに立つのは傑お父さんだ。
当然ながら手加減はない。
優人の蹴りはそのまま受け流され、体勢を崩され、床を転がる。だが本人は全く気にしていなかった。すぐに飛び起きると、悔しそうな顔どころか楽しそうな顔でまた構え直している。
新は小さく息を吐いた。
羨ましい。
そう思う自分がいることを認めたくなかった。
優人は強い。
六眼も無下限も呪霊操術も高い水準で扱える。傑に直接鍛えられ、任務にも同行し、実戦経験も積んでいる。
お父さんが作り上げた完成品。
誰もがそう評価していた。
それに対して自分はどうだろう。
新は視線を落とした。
オリジナルの六眼と違い、優人の場合は目を凝らさないと呪力の流れは見えない。
全力稼働は30分がせいぜい。呪霊操術は感覚共有はできるものの、三体が限度。無下限は飛んできたものを制止させるのが限度で、マニュアル式なので何でも防げるわけではなく、反射神経の間に合う範囲だけ。オリジナルに比べると、笑ってしまうチャチさだ。
オリジナルとほぼ同じかより高い水準で扱える優人とは大違い。
研究員達はよく言う。
『新はプロトタイプだからね』
もちろん悪意なんてない。
むしろ誇らしげに言う人までいる。
最初の成功例。
記念すべき第一号。
そういう意味だと理解している。
けれど、新にはどうしても別の意味に聞こえてしまうのだ。
試作品。
旧型。
完成前。
失敗作とまでは言わないけれど……。
優人が生まれた時点で、自分は一つ前の世代になった。
どうしたって考えてしまう。新は普通の子供ではない。「作品」だ。
そして、作品は後になるほど完成されていくものだ。
「おーい、新」
呼ばれて顔を上げると、悟お父さんがこちらへ手を振っていた。
モニターに囲まれた車椅子の上で、相変わらず楽しそうな顔をしている。
「補助演算終わった?」
「とっくに終わってます」
「早いね」
「簡単でしたから」
「天才」
いつものやり取りだった。
新は少しだけ笑う。
研究は好きだ。お父さんと話すのも好きだ。新しい理論を考えたり、システムを改良したりする時間は楽しい。だから研究担当であることに不満はない。
ただ。
それとこれとは別だった。
訓練場では優人がまた吹き飛ばされている。
痛そうなのに、本人は笑っていた。
そして立ち上がる。
何度でも。
何度でも。
自分だったらああする、こうすると考えながら試合を見るけれど、どうシュミレートしても、やっぱり新では基本スペックが届かない。優人はもちろん、傑お父さんにも。
新は悟お父さんと傑お父さんの呪力を元に作ったのだから、2人の「すごい」をプラスされて作られたのだから、それぞれを凌駕できてなきゃおかしいと思う。傑お父さんより強くて当たり前。悟お父さんより賢くて当たり前。であればこそ、最高傑作というものだ。本物の子供とは違うのだから。
なのに、新はオリジナルにすら届かない。まだ体の小さな優人と違って、新は中学生ぐらいに体は成長してきている。
ため息をついて、試合を食い入るように見る。
「よし!」
傑お父さんの展開した無下限を優人が突破して頬に傷を作った。
優人が飛び上がる。ぴょんぴょん跳んで喜びを表現する。
「見た!?」
「見た」
「すごかった!?」
「すごかった」
傑お父さんの口元が少しだけ緩む。
優人はそれだけで嬉しそうだった。
その様子を見ていると、新まで嬉しくなってくる。
悟お父さんが、傑お父さんを傷つけた優人を叱ろうとして烈火のごとく怒った傑お父さんに逆に説教を受けている。優人はケラケラ笑っている。
優人は弟だ。
大好きな弟だ。
だから褒められている姿を見るのは好きだった。
それでも、ほんの少しだけ胸が痛むのは許してほしい。
傑に鍛えてほしい。
優人みたいに訓練してみたい。
任務にももっと出てみたい。
配下の特級呪霊をより強く、より便利なものに更新したい。
そんな気持ちがないわけではない。
でも、それを口にすることはできなかった。
研究員達が言うように、自分はプロトタイプなのだから。
完成品であり実用品である優人とは違う。
強いて言えば、出来た時点で実験成功という役割を果たし終えている。
プロトタイプの役割とは何だろう。
その後、博物館に飾られることだろうか。
総監部は最初、新を「提出」するよう五月蠅かったが、優人が生まれて以来、優人への要求は増えても、新についてはパタリとやんだ。
試作品。旧型。そう言っていたのと聞いたことがある。
だから新はタブレットへ視線を戻す。
お父さんがそうしたように、プロトタイプである以外の僕である必要性が必要だった。
研究ならできる。研究は好きだ。成果も上げてる。お父さんも喜ぶ。
それで十分だ。十分なはずだった。
そう思い込もうとしていることにだけは、新自身も気付いていた。
また組み手を始めた二人を見る。
どうあがいても、「出来る」だけの新の低スペックでは、高水準にまとめられ、ブラッシュアップされた優人に勝てそうにはなかった。
そして、いずれ終夜が生まれてくる。
明確に指揮官型と銘打たれた弟。
きっと頭も新よりもずっといい。
その完成の日が新は少し怖い。
五条 新 設定
五条家長男。
体は中学一年生。
実際は生まれてからまだ8歳。
全体的に夏油似だが瞳の色だけは五条。
能力
・六眼(ただしパッシブではなくアクティブ)
・呪霊との感覚共有
・呪霊3体使役(三体とも特級)
・物体停止
・低級呪霊に敵と認識されない。(知恵があるのはダメ)
特殊機能(機密)
リミッター
思考装置をシステムに一部組み込んでいる。
呪霊認識阻害システム(呪霊操術の応用。周辺の呪霊に人間を呪霊、つまり味方だと誤認させる)
評価
歴史に残る革命的存在。
しかし本人はコンプレックスを感じている。
理由
・出力不足
・無下限を自在に操れない
・呪霊を三体までしか操れない。
・優人の方が強い
・プロトタイプ扱い
研究をすでに手伝っているが、戦闘訓練は護身術程度(夏油基準)なのを気にしている。
本当はもっと強くなりたいと思っている。
日下部に悩み相談したら頭をグリグリされてキレられる。
マシュマロ
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