雨ノ宮隼人の怪異事件簿 −天神小学校編− 作:unknown505
雨ノ宮隼人は、簡易セーフルームにした教室の外で深く息を吐いた。
護符の淡い光がドアの隙間から漏れているのを確認し、彼は再び天神小学校の奥へと足を進めた。対霊拳銃を右手に、ライトを左手に構え、足音を殺して階段を上る。
3階の捜索を始めた隼人は、薄暗い廊下を慎重に進んでいた。雨の音が屋根を激しく叩く中、古い床板が時折軋む。
角を曲がったところで、隼人はふと足を止めた。
・・・足音が聞こえた。
廊下の奥から、ゆっくりと近づいてくる足音。子供のものではない。大人の歩幅で、少し疲れたような、しかし確かな足取り。
隼人は即座に壁の影に身を隠し、息を潜めた。ライトを消し、対霊拳銃の安全装置だけを外す。
足音は徐々に近づいてくる。影が壁に長く伸び、ゆっくりとこちらへ移動している。
隼人「(子供の霊ではない・・・人間だ・・・)」
隼人は意を決して、影から静かに身を乗り出した。
ライトを点け、銃口を向けた先――
そこに立っていたのは、宍戸結衣だった。
白いブラウスに膝丈のスカートという、いつもの教師らしい服装が、埃と雨で少し汚れている。眼鏡のレンズがライトの光を反射し、ショートカットの髪が乱れていた。
彼女は驚いたように目を丸くしたが、すぐに隼人だと分かり、表情を緩めた。
隼人「っ!結衣!」
結衣「隼人君!無事だったのね!」
二人は同時に駆け寄り、互いの無事を確かめるように顔を見合わせた。
結衣のブラウスは袖が少し破れ、左腕に軽い擦り傷があるが、命に別状はなさそうだ。隼人もホッとした息を吐いた。
結衣「他の生徒さんたちは?」
隼人「中嶋さんと篠原さんは見つかったが・・・未だ他の生徒は見つかってない。」
結衣の顔が青ざめた。
結衣「そう・・・私も教室でみんなと一緒にいたのに、突然穴が開いて気がついたらここにいたの。生徒たちは散り散りになってしまって・・・」
隼人は周囲に警戒を向けながら、低い声で言った。
隼人「この建物は天神小学校だ。数十年前に潰れたはずの場所が、まるごと現れている。「しあわせのサチコさん」が原因かもしれねぇが、空間ごと引きずり込まれたみたいだ。」
結衣「やっぱり、そうなのね。私も薄々感じてた。生徒たちがおまじないをやった直後に・・・。」
二人は互いに背中を預けるような位置で立ち、暗い廊下を見渡した。
雨の音が遠くから響く中、廃墟の空気は重く淀んでいた。
隼人「ここは危険すぎる。俺と一緒に動いて生存者を捜しながら、脱出ルートを探す。」
結衣「ええ、お願い。生徒たちを、絶対に見つけましょう。」
隼人は再びライトを前方に向け、結衣と共に廊下を進み始めた。
少し歩いたところで、廊下の奥に一箇所だけ明かりが灯っている教室が見えた。蛍光灯がチカチカと不安定に点滅している。
隼人と結衣は顔を見合わせ、慎重にその教室へ近づいた。
ドアが少し開いていた。中を覗くと――
隼人・結衣「「っ!!」」
鈴本繭が、教室の中央に立っていた。
彼女は笑顔で、二体の小さな子供の霊と楽しそうに話している。
繭「ねえねえ、みんなも学園祭楽しかった? 私、クラスでコーヒー屋さんやったんだよ! 次は一緒に遊ぼうよ〜!」
子供の霊たちは無言で繭の周りをくるくると回りながら、時折小さく笑うような声を漏らしている。繭はまるで本物の友達と遊んでいるかのように手を差し伸べ、霊たちもその手に触れようとしている。
その光景はどこか歪んでいて、不気味だった。
隼人「まずい・・・!」
隼人は即座に教室のドアを押し開け、中へ踏み込もうとした。結衣も慌てて後を追う。
隼人「君!そいつらから離れろ!」
結衣「鈴本さん危ないわ!!」
しかし、二人が教室に入った瞬間、目に見えない強い衝撃が隼人と結衣を突き飛ばした。
隼人「ぐあっ!」
結衣「きゃあっ!」
二人は廊下の壁に激しく叩きつけられ、よろめく。対霊拳銃が隼人の手から吹き飛び、床を滑って遠くへ転がった。
その隙に、子供の霊たちが素早く動き、鈴本繭の両足を掴んだ。
繭「え・・・? ちょっと、離して・・・!」
繭の身体が一瞬で逆さ吊りにされ、頭が床すれすれに浮かぶ。子供の霊たちは無言で繭を引きずり、教室の出口へと向かい始めた。
隼人「くそっ・・・!」
結衣も倒れたまま手を伸ばすが、身体が動かない。
繭は恐怖に顔を歪め、必死に抵抗しようとするが、霊の力は強く、彼女の身体が徐々に教室の外へ引きずり出されていく。
その直前――
廊下の奥から鋭い発砲音が響いた。
パン! パン!
二発の霊子弾が正確に子供の霊の頭と胸に命中した。
子供の霊たちはビクンと痙攣し、繭の足を離した。
繭「きゃあっ!」
繭の身体が勢いよく地面に落ち、床に激しくぶつかる。
結衣はすぐに立ち上がり、倒れた繭に駆け寄って抱き起こした。
結衣「鈴本さん! 大丈夫!?」
繭「う、うん・・・!」
隼人は這うようにして体勢を立て直し、廊下の奥に視線を向けた。そこには1人の男性がいた。
徹「遅くなったな。」
その男性は、対怪異特戦群の隊長・佐伯 徹だった。