仮面ライダー kaleid heaven   作:春風れっさー

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1-3 カラカラ廻る欠片たち

「………」

 

 気がつくと、ライカは再び廊下を歩いていた。

 状態を確認する。身体に痛みはない。傷もない。炎に焼かれたハズの彼女には、煤一つついていない。

 腕章は、ない。目の前を歩くのはレベッカ一人。

 ライカは喉の震えを堪えながら口を開いた。

 

黒祝(くろいわ)先生……」

「ん? どうした、恋魔(いこま)

「私って、転校初日……ですか?」

 

 ライカの質問に首を傾げながらも、レベッカは頷く。

 

「ああ。今日が初日になるが……何の確認だ?」

「……いえ……なんでも、ないです」

 

 ライカは確信した。

 また、ループした。

 

(私が死ぬと、ループする)

 

 ライカは覚えている最期の瞬間を思い返す。確実に死んでいたハズだ。

 となるとやはり、死んでループしていると考えるのが普通だ。

 

(心当たりは、まるでない。でも……)

 

 するべきことは分かっている。

 何よりも、まずは。

 

「よしお前らー席につけ──」

 

 三回目になる自己紹介からだろう。

 ライカはレベッカに促され堂々と入室した。

 

「今日から聖ナハティガル女学院に転入してきました、恋魔ライカです」

 

 引き攣らずに笑顔を浮かべることができたかは、自信がない。

 

 

 

 

 

 自己紹介して、エンテ寮であることを明かし、エレンたちと顔を合わせて友だちになった。

 特にエレンとリシチカと友だちになる流れは抑えておかなければならない。でなければライカの学校生活が暗黒に染まってしまう。このループが続くかは分からないが、もしエレンたちと友達でない状況で途切れたらライカの青春は真っ暗になる。それは避けなければならない。

 

 しかし、その後の流れは変えた。

 ライカはエレンから提案された学校案内をやんわりと断り、とある場所に向かった。

 

 そこはかつて──最初のループで転びかけた階段だった。

 その途中に立ち、ライカは待ち続ける。

 しばらく待って現れた人影に、ライカは声をかけた。

 

「やっと来てくれましたね──ルイスさん」

「!!」

 

 その場に現れたのは、クラスメイトである咲陶(さいとう)ルイスだった。ローズピンクの瞳は驚愕で見開かれ、ライカの姿を見つめて揺れている。

 

「あなたが、ロードナだったんですね」

 

 そしてライカを二度助けた騎士、ロードナの正体でもある。

 

「やはり、記憶が……」

 

 そのルイスの呟きでライカは確信する。

 

「やっぱり、ルイスさん。あなたもループしている」

 

 おかしいと思ったのは、二度目のループ……いや、最初かもしれない。

 足を踏み外したライカはこの階段でルイスに助けられた。たまたま下にいてくれた彼女が受け止めてくれたからこそ、ライカは大怪我をせずに済んだ。

 それだけならば違和感はあっても、運のいい偶然で終わっただろう。しかし、二度目のループでも、ルイスはライカのことを助けようとした。

 それはおかしい。……ルイスにループの記憶がなければ。

 

「教えてください、これは、何が起きているんですか?」

 

 やっと見つけた自分以外のループの記憶を持つ人間。ライカは縋り付くように状況を問おうとした。

 しかし、

 

「……なんで」

「……ルイスさん?」

 

 ルイスは頭を殴られたかのように抑え、ふらりと揺れる。

 その様子にライカが違和感を覚えた直後……ルイスはライカの肩を強い力で掴んだ。

 

「なんでっ!!」

「っ!?」

 

 間近でライカを睨むルイスの表情は、今まで見たことがないくらい歪んでいた。

 

「どうしてキミに記憶があるんだ。なんで、なんで、なんで……!」

「そ、それは、私にも分からな……」

「それじゃあ、ボクのやってきたことが……!」

「ルイス、さん?」

 

 ルイスの尋常ではない様子にライカは戸惑う。

 どうするべきかと迷っていると、階上から声が降ってきた。

 

「説明してやろうか?」

「え……あ、あなたは!?」

 

 ライカが肩を掴まれながらも振り返ると、そこに立っていたのはウルフカットの少女だった。インナーカラーは、緑色。

 

「ジェダの!」

「やっぱり、記憶があるみてェだな。それなら話が早い」

 

 ジェダの少女はクイ、と親指で上を示す。

 

「ちょっとツラ貸せよ。そこのバカ騎士と一緒にな」

 

 

 

 

 

 ジェダの少女に続いてやってきたのは屋上だった。巨大な校舎の面積に相応の広さを持つナハティガル高等部の屋上は、木が植えられたりベンチが置かれたりとちょっとした空中庭園のようになっている。

 

「開放はされてるんだがな、中庭と比べるとアクセスが悪い所為で利用するヤツは少ねェんだ。だからこういう内緒話をするには最適なのさ」

 

 そう言ってジェダの少女はベンチの一つに腰掛けた。足を組み、まるでこの場の主人のように尊大だ。

 

「ま、座れよ」

「えっと、はい」

 

 向かいのベンチを薦められ、ライカは大人しく座った。昼食などを食べるためのスペースなのか、中央にはテーブルも置かれて憩いの場として相応しいようになっている。……もちろん、ライカの心境がそれで和むことはないが。

 

「お前も」

「………」

 

 ジェダの少女はルイスにも促したが、ルイスはそれを無視してライカの傍で腕組みをして立つ。

 ルイスもライカと同じようについてきていた。しかし馴れ合うつもりはないらしく、少女に向けて鋭い気配を放っている。動揺からは立ち直っていたが、ライカとも目を合わせようとしない。

 

「ケッ、まぁいいさ」

「それで、その……えっと」

「あぁ、自己紹介からか」

 

 自分をなんと呼べばいいか分からず戸惑っているのを察し、ジェダの少女は鼻を鳴らした。

 

「オレは忌羅(きら)ジーナ。見ての通りの二年生。精々敬えよ、一年生ども」

「は、はぁ……あ、私は恋魔ライカです!」

「恋魔ね、覚えた覚えた。……あぁ、そっちはいいぜ、有名人だからな、咲陶」

「………」

 

 無言を貫くルイスとジーナの間には火花が散っている。ライカはその威圧感に気圧されながらも、ジーナに問う。

 

「その、ジーナさんも記憶がある、んですよね」

「あぁ。お前と同じように、な」

 

 ジーナはルイスから視線を外し答えた。

 

「んで恋魔、お前は……前回から、だな」

「は、はい。気づいたら、今日に戻ってて……」

「ああ、そうだ。……このナハティガルは、ループしてるのさ」

「!!」

 

 ジーナから、ライカの求めていた答えが返ってくる。

 やはり、時間が巻き戻っているのだ。

 

「ま、オレも詳しくは分かってねェんだがな。分かっていることは、三つ」

 

 ジーナは指を折りながら説明する。

 

「一つ。誰かが死ぬと、三学期の初日に戻る」

「……誰かが、死ぬと」

 

 ライカは胸をギュッと抑えた。やはり、あの時自分は死んでいたのだ、と。自身の死を確信し心臓に冷たい恐怖が染み込む。

 ジーナが続ける。

 

「二つ。そのきっかけは怪人だ」

「怪人……あの、魔導士?」

「ああ。今回はアランブラだな」

「……今回?」

「事件ごとに別の怪人が現れるのさ」

 

 つまり、事件とやらは今回が初めてではないということ。

 いったい、何度ループしてきたのか。まだ二度しか経験していないライカには想像もできない。

 

「オレは怪人どもを【フェイト】と名付けた」

「……フェイト?」

「ああ。フェイ(・・・)クの使()……ってところだ。ヤツらいかにも作り物っぽいからな。ピッタリのネーミングだろう?」

「は、はぁ」

 

 ネーミング云々は分からないが、ライカはその名前を脳に刻み込む。

 フェイト。それが、この学院の平和を見出す怪人。

 

「フェイトは生徒の欲望から生まれる。この学校のどこかに親である奴がいて、フェイト自身かその親を潰せば消える」

「潰せば、って」

「殺人をする奴を野放しにするってか?」

 

 ジーナに睨まれ、ライカは黙り込む。

 

「んで……」

「待て」

 

 ジーナが続けようとすると、ルイスが口を開いて止めた。

 

「あァ?」

「そのフェイトならば、アランブラ以外にももう一体いるだろう」

「……あ」

 

 ルイスの言葉にライカも思い至る。ジーナがジェダに変身して戦う時、その隣には常にもう一人……一体の影があった。

 

「ヤツはどこにいる?」

「……チッ、分かりやすいように後回しにしてただけだよ。そんなにお望みなら呼んでやる」

 

 そう言ってジーナはポケットからスタンプを取り出した。白い押印の表面には、トカゲをモチーフとしたレリーフが付いている。

 ライカはそのスタンプを知っていた。

 

「あ、変身する時に使っていた……」

「そ、【バイスタンプ】っていうらしい。変身にも使えるが……こんなこともできる」

《バシリスク!》

 

 ジーナはスタンプを起動し、自分の胸に押し付けた。

 

「出てこい、ビアン」

「ああ、我が契約者よ。仰せのままに」

 

 ジーナが呼ぶと、彼女の身体からインクのように影が染み出し、その隣に人影を作った。

 見上げるほどの高身長。男の体躯をしているが、人間と見紛う者はいないだろう。なぜならその顔は、乳白色をしたトカゲの頭なのだから。

 

「と、トカゲ人間……」

「人間ではない。悪魔だ。……我が契約者の言葉を借りるなら、フェイトの一種ということになるか」

 

 執事服を着たトカゲ頭の怪人は、低く響くようなテノールボイスで答え、慇懃に頭を下げた。

 

「ビアンと申す。以後、お見知り置きを」

「は、はぁ……」

 

 明らかな怪異。しかし友好的な態度で腰を折る彼に、ライカは困惑を隠せない。

 

「ビアンはオレの相棒だ。確かにフェイトと同一の存在ではあるが、オレとの契約を違えることはない……少なくともお前らと話している間に牙を剥くことはねぇぜ。……これで満足か、咲陶」

「……隠れられているよりはマシだな」

「ソイツは何より。……話が逸れた、続けるぞ」

 

 ジーナは面白くなさそうに鼻を鳴らし、手にしたバイスタンプを弄びながら言った。

 

「ループに関して、判明していること、三つ目。それは……コイツだ」

 

 そう言ってジーナは、バイスタンプをテーブルの上に置いた。

 

「……このスタンプが?」

「正確に言うなら、コイツの【元】、がだな」

「元?」

 

 スタンプをしげしげと覗き込むライカをジーナはジッと見つめた。

 

「……お前、“願いごと”を抱いたことは?」

「え?」

「『ああなりたい』『あれが欲しい』……そんなことを思ったことはあるか?」

「それは、もちろんありますけど」

「なら、これをやったこともあるだろ」

 

 ジーナは指で宙空に線を描いた。上から、斜め下へ落ちるように指先を動かす。

 

「【流れ星】。三回唱えるのか、一度でいいのかは知らないが……星が消える前に願い事をして、叶いますようにと祈るのさ」

「それは……はい」

 

 幼少のみぎり、ライカは家族と見上げた流星群を思い出して頷いた。何を願ったかまでは覚えていないが、純粋な幼心で願い事をしたことは覚えている。

 あのキラキラと消えていく星々は、何か素敵なことをしてくれる予感がしたから。

 

「……もし」

 

 ライカの目をまっすぐ見つめ、ジーナは言う。

 

「叶うと、したら?」

「え?」

「願いが叶う星が、現実にあるとしたら、どうする」

「……そんなの、あるワケが」

 

 咄嗟にライカは否定した。

 そんな都合のいいものが、この世にあるワケがない。

 願いは自分で叶えるか、幸運を待つしかない。

 祈りだけで実現するなら、誰も努力などしない。

 

「………」

「………」

 

 しかしルイスも、控えるビアンも、それを笑い飛ばさない。

 

「──あるのさ」

 

 ジーナは真顔で告げた。

 

「この学院には、ある。強い願いが、奇跡を引き起こす、魔法の石が。──その名前を、オレはこう名付けた」

 

 ──【ミーティス】。

 

「……ミーティス」

「ああ。流れ星(ミーティア)(ストーン)、略してミーティスだ。イカしてるだろ?」

「……うーん」

 

 ジーナのネーミングセンスはさておき、ライカには信じ難い話だった。

 そんな都合のいいものがあるなど、信じる方が難しい。

 ライカのそんな考えを見透かしたように、ジーナは告げた。

 

「目の前にあるぜ」

「えっ」

「そのバイスタンプは、ミーティスが変化したものだ」

「ええっ!?」

 

 驚いてライカはテーブルの上に置かれたバイスタンプを見つめた。一見は古びただけの押印に、まさかそんな力が秘められているとは。

 

「……ま、コイツにはもうなんでも願いを叶える力なんてない。もう、叶えた後(・・・・)、だからな」

「叶えた……?」

「さっき言っただろう。【元】、だとな。……お前には、まだもう一つ、大きな疑問があるハズだ」

「……あっ」

 

 そうだ。この場に集ったライカ以外の全員に共通する事項。ライカの知らない大きな謎。

 

「あの、変身……」

「ああ。……咲陶、お前も出せよ」

「………」

 

 無言だが、ルイスは言われた通りにポケットから何かを取り出し、テーブルの上に置いた。

 それは錠前のように見えた。ただし、鍵を差すべき場所に黄色い果実を模したレリーフが置かれている。

 

「これは……」

「【ロックシード】。(よろ)うための果実を呼び出すための錠前。そして……」

 

 続いてルイスが取り出したのは、黒い機械だった。小さな黄色い小刀が付いている。

 それを見てライカは思い出した。

 

「ロードナの、バックル!」

「ああ。コイツもな」

 

 ジーナもまた、同じように水色の機械を取り出した。ライカはそれも、ジーナが腰に取り付けて変身するところを見ている。

 そう、変身するところを。

 

「フェイトっつー怪人に対峙して、ただ無力に蹂躙されることを選ぶ人間ばっかりか? ンなワケがねェ。だからオレやコイツは願った──戦うための力を」

「それが……変身の力」

「そう。【仮面ライダー】になったのさ」

 

 仮面ライダー。その名前がライカの胸に落ちる。

 文字通り、仮面を被った騎士。しかしライカには何故か、それ以上の意味が込められているような気がした。それがどうしてかは、分からないが。

 

「ミーティスを掴んで強く願った結果、オレたちは仮面ライダーの力を得たってワケさ」

「それじゃあ……私も、仮面ライダーになれるってことですか?」

 

 その理屈ならば、ライカもまた変身できるようになる可能性がある。そうすれば、あのアランブラに殺されずに済む。

 

「やめろ」

 

 希望を口にした瞬間、ルイスから低い声が落ちてきた。

 見上げると、鋭くなったローズピンクの瞳が睨んでくる。

 

「……どうして、ですか」

「戦えない人間が力を身につけたところで邪魔なだけだ。キミは引っ込んでいろ」

「でも……!」

「あー、オレもそれが知りたくて今日ここに呼んだんだよな」

 

 ジーナが言う。

 

「え?」

「こんな風にオレが色々説明しているのがただの親切だと思ってたか? 慈善事業じゃないんだ。オレが知りたいのは、恋魔……お前が戦力になるかどうか」

 

 エメラルドグリーンの瞳が細められる。

 

「単刀直入に言う。お前の願いごとは?」

「私の、願いごと……?」

 

 問われて、ライカは考え込む。

 しかしジーナはその一瞬だけで答えを出した。

 

「あー、ダメ。全然ダメ。お前、ちっとも素質ねーわ!」

「えっ!? ま、まだ何も言ってな」

「パッと出てこないだけでダメなんだよ、お前」

 

 頭を掻いてジーナは立ち上がった。時間を無駄にしたと言わんばかりに息を吐いて。

 ライカへと向けられた冷たい視線からは既に興味の熱が消えていた。

 

「迷ってる時点で無理なんだよ。ミーティスは願いを叶えるって言ったよな。だけどな、弱い願いは叶えてくれねェんだ」

「弱い、願い……」

「『なんか美味しいものが食べたいなぁ』とか、『とりあえずお金が欲しい!』みたいな、なんとなくの願いごとさ。そういうのはいろんな雑念が入って、純粋な願いじゃなくなる。絵画にテーマ外の要素を入れすぎてグチャグチャの意味分かんない汚物になるようなもんだ」

 

 ジーナは手にしたバイスタンプを見て言った。

 

「それ以外に何も要らない──だから叶えてくださいって言うような、強い願いだけが力になる」

「それが、ミーティスの条件」

「ああ。だからテメェはもう失格だ。ミーティスを掴んだところで、何にも起きねぇだろうぜ。つまり、変身できねェ。……チッ、せっかくループからの覚醒者が出たっつうに、これじゃ無駄足だったな」

 

 そう言い捨ててジーナは完全にライカから背を向けた。

 

「ビアン、帰るぜ」

「ま、待ってください!」

 

 追い縋ろうとするライカ。しかしその行く手にビアンが立ち塞がる。小柄なライカと平均的な成人男性よりも背の高いビアンでは、まさに見上げるほどに聳える壁だ。

 

「うっ……」

「悪いが、我が契約者がこう仰せなのでな。ご遠慮いただこう」

 

 ビアンの口調こそは丁寧だったが、有無を言わさない迫力を帯びていた。無機質にも見えるトカゲの瞳に射抜かれて、ライカはグッと息を呑む。

 

「でも……!」

「安心しろ、次こそは守ってやるよ」

 

 一旦立ち止まり、ビアンを挟んだ向こう側で面倒くさそうにジーナは言う。

 

「オレの目的はループからの脱却だ。人が死ぬとループする。だからテメェを守って、アランブラの野郎はぶっ倒してやる。……そこの奴に邪魔さえされなければな」

「………」

 

 ジーナの人睨みに、ルイスは何も言わなかった。

 

「じゃあな。精々巻き込まれないように端っこで蹲っとけ」

「あ……」

 

 そして今度こそ、ジーナはヒラヒラと手を振って屋上から去っていった。

 

「では、拙もこれで」

 

 頭を下げ、ビアンもまた影に溶けるようにして消えた。

 残されたのはライカとルイスのみ。

 二人きりとなった屋上で、ライカは俯いた。

 

「どう、しよう……」

 

 ループ。フェイト。ミーティス。……仮面ライダー。

 一度に多くの情報を流し込まれたことで、ライカの頭が追いつかない。

 

 混乱して考え込むライカの隣で、ルイスは言った。

 

「……気に入らないが、奴の言った通りではある」

「……え?」

 

 ルイスは顔を上げたライカと視線を合わせずに続ける。

 

「キミは下がっていた方がいい。戦うのは、ボクたち仮面ライダーがやる」

「でも、ルイスさんは、アランブラを倒そうとはしていないですよね?」

「………」

 

 そう、まだ謎は一つ残っていた。

 ルイスの行動だ。

 

「どうして、ルイスさんは誰とも戦おうとはしていないんですか……?」

 

 戦いの場に介入はする。しかしアランブラに対してもジーナたちに対しても積極的な攻撃はしない。三方向からの攻撃を受けて、ひたすら守るだけ。ライカにはその行動も理解できない。

 

「……キミには関係ない」

 

 そう言って、ルイスまでも屋上を去ろうとする。

 

「待ってください、ルイスさん!」

 

 今度こそライカは追い縋る。追いついて、ルイスの手を掴んだ。

 

「!」

「関係なく、ないです。だって……!」

 

 振り向いたルイスの顔を見上げ、ライカは言った。

 

「だって、ルイスさんは私を庇ってくれた!」

 

 それは真実だ。

 ルイスの行動の多くは不可解だ。しかしライカを守ったという事実。それは揺るがない。

 

「どうして、なんですか」

「……それは」

「ジーナさんみたくループさせないためですか? でも、私にはそんな風には思えません」

 

 ライカにはルイスの行動が打算的なものとはどうしても思えなかった。

 

(だってあの時の叫びは、とても感情が籠っていた)

 

『──ライカぁ!』

 

 アランブラの大魔法によってライカの命が奪われる瞬間に発された、ルイスの声。それにはとても悲痛な感情が乗っていた。

 ただループを引き起こさせないために、守っていたとは思えない。

 

「教えてください、ルイスさん。──貴女にとって、私はなんなんですか?」

「………」

 

 ローズピンクの瞳とオッドアイが交差する。二人はしばらく視線を絡ませ合い……。

 

「……全て、ボクの独断に過ぎない」

 

 先に逸らしたのは、ルイスだった。

 強い力で手を引き、ライカの手を振り払う。

 

「あっ……!」

「キミは……何もせずに、ただ逃げてくれ。それで、いいんだ」

 

 そう言い残して、ルイスもまた屋上から去った。

 

 

 

 屋上へ繋がる扉を閉じ、ルイスは壁に背を預け項垂れた。

 

「……そうだ……全て、ボクの、ボクのわがままのためだ……」

 

 そう呟くルイスの両拳はキツく握られ、血が滲んでいた。

 

 

 

 

 

「……どうしよう」

 

 屋上に一人残されたライカは途方に暮れた。

 空はいつの間にか夕焼けに染まり、夜に向かって光を失っていくその寂しさはライカの心を映しているかのようだった。

 

「色々分かっても、結局どうすればいいのか分からない……」

 

 この学院ではループが起こっている。

 それはフェイトと呼ばれる怪人のせい。

 怪人を倒すには仮面ライダーにならなければならない。

 しかしミーティスに願いを認められなければならない。

 

「そして、私にその資格はない……」

 

 今こうして考えても、自分の願いはスッとは出てこない。

 確かにこれでは、純粋な願いが必要だというジーナの条件には届かないだろう。

 

「じゃあ、私にできることはない……?」

 

 ジーナには見放された。ルイスは何も言わない。

 そして仮面ライダーになれないのでは、怪人を倒すこともできない。

 

「先生に相談? いえ、それは流石に荷が重いですよね……では警察に言う? ……異常者扱いされないでしょうか……」

 

 誰かに相談しようにも、その相手が思いつかない。それにもし再びループしてしまえば、それで全てなかったことになってしまう。

 ついでに言うならば、そんな簡単なことをジーナとルイスが試していないとも思えなかった。

 

「……では、このままただ流されるままに、また殺される?」

 

 そう呟いた瞬間、ブルリと身体が震えた。

 氷塊も炎も、ライカにとっては一瞬の出来事だった。それでも死の恐怖はその脳裏に強く刻まれている。

 暗転する視界。消えていく意識。死に際の後悔。

 何度も味わいたいものではない。

 

「……待って」

 

 その時、ふと思った。

 

「もしかしたら、私以外の誰かも死ぬ……?」

 

 確かに前の二回の周回では両方ともライカが死んだ。

 しかし次もライカだけが死ぬ、とは限らない。

 

(もし単なる偶然だったとしたら、次は別の誰かが巻き込まれる、かも)

 

 実際、前の周回ではルイスが死にかけていた。

 ライカの代わりに、死んでいたかもしれない。

 

「──それは、ダメです」

 

 ライカの震えがピタリと止まる。

 

「誰も……死なせない。絶対、そんなことはさせません」

 

 恐怖に震えていたのが嘘だったように、オッドアイに決意が漲る。

 

「絶対、止めてみせます! ……でも、どうすれば」

 

 しかし結局、そこに戻ってくる。

 変身できないなら、ライカにできることは……。

 

「……ん、止める? そうだ……」

 

 ライカはジーナの言っていたことを思い出す。

 

「フェイトを発生させる、親がいるということでしたね」

 

 フェイトは学院の生徒の欲望から発生するとジーナは言っていた。

 生徒。つまり、この学内にいる。

 

「その人を探して、フェイトの発生を止めれば……!」

 

 それならば、力のないライカでもできるかもしれない。

 思考の手応えに、ライカは鼻息荒く立ち上がった。

 

「よーし! やりましょう! 名付けて【話せば分かる作戦】です!」

 

 ライカはおー!と、夕暮れの空に拳を突き上げた。

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