俺は冷蔵庫の中の作り置きの煮豆を皿に盛り、箸と一緒に少女に渡す。
「おいしいの?」と問いかけてくる。
「ああ。うまいぞ。」と俺。料理には自信があるからな!(なお煮豆しか作れない)
少女はぱくりとひとくち食べ、
「まずい」
と言った。ええ............(絶句)
依然、少女は段ボール箱の中に座ったままだった。俺は地べたに座り込んで少女の近くで煮豆を食べている。うん、自分的には美味しい...ちょっと薄味かもだけど
黙々と煮豆を口に運ぶ少女。アンドロイドは
実を言うと、今のアンドロイドはここまで進化できていない。まだまだ動きはギクシャクしたままで、機械《ロボット》らしさを残している。
だから、この少女型アンドロイドはなにか不自然だと思ったのだ。
とりあえず、ずっと黙々と食べている少女と会話しようと試みた。
「名前は?」
「2J。型式番号。よかったら.....なまえ付けて」
名前....名前...か。これがいいかもしれない。
「千景《ちかげ》。千景がいいな。」
「千景....。ありがとう。貴方の名前は?」
「蓮。影山蓮だ。」
「蓮...いいなまえ。」
千景は少し微笑んだ。なんだこの可愛さは....。おっと、ロリコンじゃないぞ?
しかも、不気味の谷現象が全く発生しないアンドロイドを見るのは、これが初めてだった。
「それで...どうしてここにいるんだ?千景は」
「わからない。記憶がない。脳ブロックのメモリーは空。」
「メモリーが空...か。じゃあ、あの武器とかは...?」
俺は、謎の武器が入った段ボールを指さした。
「それはプログラムされている。超弾性合金とセラミック、チタンを使った護身用の武器。」
護身用....。でも、
日本は銃刀法があるため、一般人に銃は買えず、ましてやロボットやアンドロイドには絶対に渡してはいけない物だ。
このまま段ボールに置き去りにするのも良くないから、取《と》り敢《あ》えず父の部屋に居てもらおう。
「立てるか?今は父さんの部屋にいてくれ。俺はもう少しやらなきゃいけないことがある。」
「ん。部屋のまどりはプログラムされていた。すぐに行く。」
そう言って千景は立ち上がると、階段を登って二階へ行った。
もちろんその動作も人間そっくりで、機械が動いているようには見えない。
「いつまでも機械と割り切っているわけにはいかないな....。さ、在庫のシーケンサーを処分しないと。」
そう独り言をつぶやき、在庫処理を始めようと立ち上がった時だった。
突然外にスキール音が響いた。俺は外を恐る恐る見てみる。
そこには、黒塗りの高級車と自衛隊の装甲車がウチの工場のシャッター前に止まっていた。
そして、高級車のドアが開いたと思えば、黒服の男が降りてきて、シャッターの中を覗いた。
黒服の男は肌が異様に白く、調子が悪そうだ。
「影山
高次は父の名前だ。俺は在庫の山になっている部屋から出て、シャッターを開ける。
「はい。ですが、父は一週間前に他界しております。」
「そうでございましたか。この度は、ご愁傷さまでございます。心よりお悔やみを申し上げます。」
「はぁ....」
黒服の男は俺に向かって頭を下げる。一体何がしたいのかさっぱりわからない。
「中に入ってもよろしいですか?今から話す内容は極秘事項ですので」
「はぁ....どうぞ。」
正直困惑していた。とりあえず中に入れて話を聞いてみるのもありかもしれない。もしかしたら千景関連なのかも。
黒服の男は工場の中に入ると、シャッターをご丁寧にも閉めてくれた。
俺は、黒服の男を工場のこぢんまりとした休憩スペースに案内し、座ってもらう。
「それで...なんですか?極秘事項って」
俺は座り、茶も出さずぶっきらぼうに聞いてみた。
「私達は日本政府が立ち上げた研究機構....国立研究開発法人人型兵器開発研究機構、略称
「はぁ....」
そう率直に黒服の男は答えた。いや研究機構の名前長いな!ほとんど聞き取れなかったぞ。
「んで、その国立ナントカホニャララ機構の人が何の様ですか?」
俺は少し目つきを悪くし、帰って欲しそうに喋ってみた。
まぁ事実とっとと帰ってほしいんだが。
「実は、私達が進めている『ミチバシリ計画』の一つ、5年前に建造した人型戦闘用アンドロイドの8号機が脱走したんです。そして調査を続けていたところ、この工場で起動信号をキャッチしました。単刀直入に言います。その8号機はここにいます。なので...」
そして沈黙し、こう言った。
「返却してもらえませんか?8号機を。」
きっと人型戦闘用アンドロイドというのは、千景のことなのだろう。
なんだって?
あんな記憶の欠片もなくなった
そう、黙考していたときだった。
「蓮。どいて」
透き通った声が耳を通って脳の奥を突く。そして見たものは、
レーザーサイトを光らせ、腕から拳銃と変わらないサイズのレーザー銃を出した、千景の姿だった。