【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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9話 悲壮感

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 ひとしきり説教を受けたポルクとマルクという男の子たちが走り去る。それを目で追ってから、トウカは人に話を聞いてみようと提案してきた。……またトウカのイケメンっぷりを見せられるのは嫌だ。

 

 とりあえず今度はドルマゲスのことを知っている人のほうが少なそうなので、聞いてもしょうがない。トラペッタはドルマゲスの師匠がいたぐらいだからドルマゲスを知っている人がわりといたけど……。

 

 代わりに聞き込みしたのは最近変わったことがあったかどうか。とはいっても普通の農夫さんに話を聞くときには別にトウカは普通の青年だった。

 

 するとあったわけだ。痛ましい事件。少年たちがあんなに警戒していたわけが分かった。

 

「どうやらアルバート家の坊ちゃんが殺されたらしいでがすね」

「だから暗いのかな、とても慕われていた人だったみたいだし……」

「……」

 

 素朴な空気の中にある悲しい雰囲気の原因も分かった。あと、気になるのはその殺人犯の正体。時期的にもドルマゲスが犯人で全くおかしくはない。僕達が訪れるほんの少し前なのだから。

 

 だけど、その殺されたアルバート家の人はマスター・ライラスと違ってドルマゲスとの接点が思い当たらないんだ。聞いた限りではドルマゲスと同年代でもないし、住んでいる所も違う。ドルマゲスはマスター・ライラスの弟子で、都会のトラペッタにいたんだから、田舎のリーザス村までわざわざ普段は来ないはず。

 

 そして噂だけで判断することになるんだけど、穏やかで良い人らしい被害者の青年がドルマゲスを怒らせるような「何か」をするとは考えにくい。一応、犯人は盗賊って言われてるけど。この村に殺人を犯してまで盗む価値のある有名なものがあるのかな……。

 

 ……あ、彼がやられてしまったのは、ここからでも見えるリーザスの塔なのか。じゃあ、そこにあったの?

 

 駄目だ、僕には考えても分からない。考えこんでいる所悪いけど、トウカにも話を聞いてみようかな。

 

「ちょっと考えが行き詰まったんだけど、トウカ」

「……ん?」

「ドルマゲスがどこに行ったのか、とかさ」

「……今考えているから待って……。ていうか、エルトのポケットからトーポが脱出して走ってるけどそっちはいいの?」

「えっ」

 

 ……確認してみたら確かにトーポは脱走してたけど、ごまかされた感じがする。それより追わないと……。

 

「どうしたの、待ってよ!」

 

 小さいけどトーポは早い。そして動きといえば転がる、駆ける、転がる。その上小回りがきくから見失いそう。追い打ちを掛けるように地面の色と同化しているし……。

 

 あっという間に距離を引き離されて、それでも何とかトーポを目で追っていると、その先には立派な建物があった。村人から話を聞いていたけど、あれはここいら一帯を統治しているアルバート家、かな。

 

 って、待って。開いた扉からトーポが家に飛びこんだのが見えたんだけど。こそこそ入る気はないけど、人様の家とはいえ、流石に鼠を放ってしまったなら回収しても怒られない、よね。なんでいつもはポケットの中で大人しいのに今日に限って飛び出すかな。

 

 こっち来い、みたいな素振りもあったけど……なんで?

 

「すみません」

「……何かな」

 

 明らかに急いで息を切らして走ってきた旅人なんて怪しいに決まってる。分かってる。村の奥にはこの建物ぐらいしかないんだから用がここにあるに決まってる。だけど、喪に服した家に走ってくる馬鹿なんて普通はいないんだろうな。

 

 ……僕だってこんなに慌てて走りたくはなかったよ……。横で息を整えるヤンガスにめちゃくちゃ警戒してるし……この守衛さん。当たり前の反応だけどなんか心に刺さる……って刺さっている場合でもない。

 

「僕の飼っている鼠が今、抜け出してこの家に飛び込んで行くのが、見えました……」

「何っ」

「まだそこまで奥には行っていない筈です、入れてくださいますか」

「……まぁ、元より入るのは自由だ。さっさと探してくれ」

 

 かすかな同情の目線で見られた。え、何これ恥ずかしい。

 

 しかもトウカは走りもせずのんびりと散歩のように来た。腹立たしい。急がなくても見失わないよって、嘘つけ。少しでもトーポが向こうに行ってしまう前に追いかけないと!

 

 ……余談だけどトーポはペットじゃなくて僕の家族だけど……こういう時にわざわざ説明まではしていられないから「飼っている」なんて言ったけど、本当はすごく嫌だ。

 

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「さて、と……」

 

 私は剣士だから、気配を探ったりするのは戦いに身を置くものとして心得ているつもりだ。だけどもそれは人間や邪心を持つ魔物や危険な動物限ってのことであり、正直小動物は専門外。

 

 最近知り合ったヤンガスよりはトーポのことを知っているかもしれないけど、エルトと比べてしまえば私なんて……名前と見た目しかわからないよね。残念ながら見つけれる気が一切しない。いっそ素晴らしい程、きっぱり言い切れる。

 

「……ボクはメイドさんとかに聞き込みするからね」

「早々に探すのを諦めたね?」

「流石は十年付き合いのある親友だ、分かってるね」

「そんなに自慢げに言われても……」

「ぶった斬ったり、突き刺したり、ぶん投げたり、すっ転ばしたりするのは得意だけどボクは探し物みたいなカンが必要なことは苦手だよ」

「トウカ自慢の野生のカンはどうしたの」

 

 ……戦いにならそういうのは使えるんだけどね。殺気とか、敵意とか、闘争心とか、悪意とか。そういうものはいくら隠されたって私には分かるから、野生のカン的なものがはたらくんだけどなぁ。今のトーポにそういうものは無さそうだ。

 

 だいたい走っているトーポが若干楽しそうに見えたっていうか、遊び半分に見えたんだ。そんなトーポが私に感じ取れるほどの殺気を出してくれるわけがない。

 

「小動物相手に気配察知をやったことはないね。無理だよ」

「……諦めの早いことで」

 

 呆れ混じりのエルトに溜め息まで吐かれてしまった。ヤンガスは既に探してくれているんだよ? 私たちも早く探さないと。迷惑かけていられないよ。

 

「それじゃあ後で」

 

 ひらりと手を振って、とりあえず前方にいるメイドさんにでも話を聞こうかな。……背負ってる剣とか、不審に思われなかったらいいなぁ。

 

 それと、この隻眼ルックが不安。いや、かっこつけとかじゃなくて本当に今の私は隻眼なんだけどさ。厨二病を患って右目隠しているんじゃないし……。でも不審者度上がるよね?

 

・・・・

 

「そこのメイドさん」

「は、はいっ」

「ボクは旅人なんだが、連れの相棒の鼠がこの屋敷に走っていってしまってね。守衛には話を通して邪魔させてもらっているんだが、それらしいものは見なかったかな?」

 

 男装したら少しだけ気持ち男前にみえる……と思いたい。全力で、当たり前だけど女顔の見た目だけど……半分しか見えない状況なら性別不詳になったから、フル活用させてもらう。断じてナルシストではない。わざわざそうなるように幼少期から頑張った結果だから。

 

 ……今は昔ほどやってるつもりはないけど、培ったもののせいでなかなか性別はばれない。高いままの声は魔導具で男声になっているから、うん。何とかはなってる。一応、見てるだけで不快な不審者には見えない……はず。頼むから悲鳴だけはやめて下さい。

 

 あ、メイドさんの顔真っ赤。ごめんね……エルトなら本当に正真正銘のイケメン男子なのにね……。 私は雰囲気だけだから、あとでたっぷり本物を摂取してください、目で。


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