【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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100話 慎重

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 ゼシカ本来の優しさはどこに行ったんだろう。目の前のゼシカの体をした「何か」はなんなんだろう。頭の中ではドルマゲスと同じく目の前のゼシカが危険な存在だって理解してるのに、体は仲間に剣を向けたがらないんだ。

 

「悲しいわね……ここで貴女とお別れするのは。あたし、貴女の事、好きだったのよ。仲間じゃなくて、有力貴族の一人娘とせいぜい地方良家の娘の関係じゃなくて、同じ村の友人同士だったら良かったのにって」

「なんで、そんな事、言うの……」

 

 どこからともなく現れた無数のシャドーたちにエルトもヤンガスもククールも拘束されてしまった。いや、ここにいるリブルアーチの街の人たちも、黒い犬も、みんな。動ける者はゼシカ……の姿をしたこいつしかいない。

 

 でも、こいつは確かにゼシカなんだ。ゼシカの気配がして、ゼシカの茶色の髪をして、ゼシカの声で喋るんだ。心がゼシカじゃない、と言いきれたら操られていると済ませられるのに、心も半分ぐらいはゼシカだった。

 

 闇に堕ちた、惹き付けられてしまった、魅入られた、乗っ取られた。どれが正しいんだろう。原因は、何だ?

 

 剣を奪われたところで私は戦えなくなったりしない。それを理解しているのかシャドーたちに私を拘束させたというのにゼシカは武器すら取り上げようともせず、私の前に立っていた。悲しいなんて言いながら、悲しそうに、愉快そうに私にひたすら話しかけている。

 

 私を殺すつもりなんだろうか。あぁゼシカなら出来るだろう、ゼシカは魔女だ、私の知る中で最も攻撃魔法に特化した、素晴らしい才能と魔力を持った、まだまだ伸びしろのある人だ。だから、彼女のメラゾーマがあれば私は骨も残らないかもね。良くて骨の欠片が残るぐらいだ。

 

「ふふふ、ねぇ、トウカ。知らないかもしれないけど教えてあげるわ、冥土へのお土産にね。知りもしない死んだ母親に伝えてくれると嬉しいわ」

「……」

「あたし、貴女の父親を知ったわ。その者を喚び戻さないと、いけないのよ。あたしのためにも、彼のためにも」

 

 ……私の父親? 本当の父親も母親も私は知らない。なのになんでゼシカは母親が亡くなっていると言い切れる? 父親を知っている?

 

 ゼシカと私はこの旅で出会った。正真正銘、初対面だったし、私が養子であることを知っている人はいても私が捨て子だったのを知っている人はいない。

 

 なら、つまり、それを言い切れるならば、目の前のゼシカの体の中でゼシカを「使っている」のは、……何か邪悪な存在だ。

 

 あぁ、これで分かった、会ったことのない両親なんてどうでもいい。私は古き黒き血を引く「モノトリア」。どうでもいいんだ、今はただ、ゼシカがゼシカの意志で行動していないことさえ分かれば。

 

 シャドーは魔法を使って私を押さえ込んでいる訳じゃない。数で、力で押さえ込んでいるんだ。そして、ゼシカと喋っているうちにかかる酷い頭痛と共に髪の毛がすっかり脱色して……戦闘には使い物にほぼならないけど、力だけは誰よりも強くなった私なら、こいつらを振り切ってみんなを開放できる。

 

 ゼシカには、一旦気絶してもらえばいい。それから対処は考えよう。

 

「あぁ……とっても悲しいわ。貴女を生贄にするのが一番手っ取り早いのよ、アーノルドの娘……どうして貴女がここにいるのか、どうして……あの時死んでいなかったのか分からないけど、『あたしは貴女と過ごしたかったから!』」

 

 ゼシカが杖を振り上げたその瞬間、私は跳んだ。

 

 普段よりどうしてかツーテンポほど遅れて発動したメラゾーマは誰もいない大地を焦がし、その時には既に私の真空刃は主にシャドーを切り刻んで、残念ながら加減できなかったせいで一緒に切り刻まれたみんなに見慣れた緑の優しい光が降り注ぐ。

 

 その温かい光は私にも。ククールのベホマラーだ。ゼシカが振り返るその前に、剣を捨てて私は、内蔵を破壊しないことだけ気をつけて、背後から掌底を放った。

 

 途端、跳ね返ったのは激しい衝撃。効いていないわけじゃない、なのに悪意を持たずに放ったそれは、ゼシカに狙いの半分もダメージを与えなかったみたいだ。おかしい、スクルトでもこんなダメージカットの仕方をしないのに。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 すぐに私の意図を理解したエルトが槍を地面に突き刺し、棒幅跳びの要領で飛んできた。武器は不要だと踏んだのか、飛んできた手に握られていたのは槍じゃなくて、何故か、やわらかチーズ。

 

 なんで、と思った瞬間にちっちゃなトーポが体の半分くらいあるサイズのチーズを丸呑みするなんていうあんまり見たくなかったぷにぷにほっぺの所業を見せつけつつ、なんか息を吐き出す。

 

 ……ルカニかな、ルカナンかな。予想外だけどトーポ、そんなことで来たんだね。これで聞きやすくして当てやすくって、ことかな。

 

 トーポをポケットに戻したエルトはゼシカが唱えるラリホーマを無視して首を狙う。私は脳を揺らすことに専念する。……トロデーンの秘宝の杖で胸を定期的に貫かれそうになるのを避けつつ。

 

 それってククールにもゼシカにも嫌な思い出しかない攻撃方法だと思うんだけどな! 操ってる? 黒幕は嫌な奴に違いない!

 

 あぁそれにしても、なんて胸の踊らない戦闘なんだ。早く終われなんて思うの、なかなかないんだけど!




ククール「俺がなにしてるかって?マホカンタしてベホマかザオリクの待機だぜ。……あとヤンガスはずっとスクルトだ」

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