【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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101話 火柱

 ゼシカはちっとも私に攻撃が当たらないのをイライラした顔で見る。おっかないよ、顔色が悪いのに憤怒の表情なんだから。彼女に対して、私は多分……泣き笑いみたいな顔だろうね。私の掌底も見切り始めたゼシカの軽い身のこなしがなかなか当てさせてくれなくなっていく。

 

 本当は攻撃したくないのに、これじゃあ、ククールが治してくれるとふんで、骨の一本や二本や三本や四本……下手したら全身の複雑骨折で止めるって事になるかもしれない……当たらないから、力を上げる。

 

 そもそも阻まれているからかなり力を込めてるのに……私みたいな体力馬鹿じゃないんだから、魔法特化の女の子に向けるもんでもないよ……試合でもね。

 

 かなり早い発動のメラゾーマが私を焼こうとし、それを避ければ降り注ぐのはマヒャド。マヒャドって……ゼシカは使えなかったのに……この「ゼシカ」は本人の資質でも引き出すんだろうか?そんな無茶なやり方で? ゼシカの体に間違いなく負担がかかってる……。

 

 でも、相手を殺す気で戦っている者と動きを封じよう、気絶させようと戦う者はやっぱり差が大きい。ゼシカが狙いすましたメラゾーマは、避けた私の着地点を狙っていて……嗚呼、世界が真っ赤。

 

 ごうごうと音を立てて燃える炎の中に入るなんて感覚、今までちっとも分からなかった。彼女に焼かれた幾多の魔物たちもこんな気分だったのかな……。あまりのことにどうしてかちっとも熱くない。……あれ?

 

 ……紫色のあの結界が、私を包み込むように展開し、メラゾーマはまったくもって無意味とばかりに弾かれている。街に似つかわしくない巨大な焼け跡が地面に刻まれ、さっきから二人分のベホマが飛んできてるけど、それも無意味で。

 

 なんだか私は客観的に物語でも見ている気持ちで、思わず拳を下ろしてしまう。すぐに思い出して切り込んだけど。手刀で。びっくりしたのか、予想外だったのか無事、ゼシカの意識を刈り取ることには成功したけど……。

 

「……」

 

 なんともなかった私に周りもびっくりだよね。私もびっくりさ。ほんと。なにこれ。なんで? ドルマゲスの魔法が効かなかったのと一緒なの? ともあれゼシカの肌におもいっきり叩き込んだのは間違いないから、安静にしないと……まだ正気じゃないかもしれないから警戒しつつ。

 

 神父様にシャナクを唱えてもらうのも良いかもしれない。ああそうだ、あの不思議な泉に行ってあの綺麗な水を飲ませたら悪い何かなんて吹っ飛ぶよね。

 

 ……で、気のせいかな。明らかにゼシカじゃない何かが……さっきまでいくら「正気じゃなく」てもゼシカに違いはなかった……ゼシカの体を動かし、杖を手に起き上がっているのは。あれ、ゼシカじゃないよね……体はゼシカのだけど……。

 

『……その命、差し出せッ』

 

 声も明らかにゼシカじゃないし! 誰だよこの気味の悪い高い声は! 全部の元凶なの? もしかして……あの杖? ドルマゲスは、あれに操られてただけの単なる窃盗犯だったってオチなの?!

 

 ククールがとっさに私を引き寄せ、無言で目の前に……いや、ククールは私だけを守ったんじゃない。エルトを背にかばい、ヤンガスの延長線上になるように、して。展開したのは、これは……この魔法文字の羅列は、マホカンタだろう。とっさの詠唱破棄の魔法なんて、マホカンタなのにマホターンみたいに一発で崩れてしまうものだけど、ククールは正しかった。

 

 何故って。

 

 赤く目を光らせたゼシカが放った()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。跳ね返っていたら、大切な仲間を失い……マホカンタが無かったら、私たちは骨の欠片も残らず焼け死んだだろうね……。

 

 幸いというか、それで魔力を使い果たしたのか、いくら無効化出来たといっても反動はすさまじかった。だからゼシカは今度こそ意識を失ったみたいで、倒れる。こっち側の反動は体重……じゃなくて重量が重い私がククールの腰とエルトの肩を掴んで吹っ飛ばないようになんとか支える。ヤンガスは……振り返ることは出来ないけど、ふっとんだ気配はないから踏ん張ったんだろう。

 

 ……ゼシカは、ゼシカは。いくらゼシカが豊潤な魔力の持ち主でも、今のは……。急いで駆け寄ろうとしたら、今度は男の声に止められる。……ハワードさんだ。

 

 待てって? なんで。ゼシカは私達の仲間だよ。早く、助けないと。

 

 何さ。……駄目だ? 邪悪な気配が消えていない? ……。

 

 ……じゃあその、クラン・スピネルを使って完成した魔法を唱えて、ゼシカを返して……。早くしてね、今、私は貴方のクラン・スピネルの魔力を奪いたくてたまらないんだから。それ、私を狂わせるんだ。なあ、早くしてくれないか。

 

 なあ!

 

・・・・

 

 トウカの様子があまりにもおかしかったから、三人がかりでハワードさんから引き離したよ。そして一足先に宿に話を通してもらうってことであの場から離れてもらった。確かにこの期に及んで彼はかなり横暴で、町が反動の暴風で結構な被害があったみたいなのに気にもしない様子だから苛立つのは分かるけど、なんでだろう……。本人の言うようにクラン・スピネルのせいなのかな。

 

 トウカが何かを欲しがるなんて珍しいよ。やっぱりなにかあるんだろうな。戦闘ならそれはもう欲しがるけど、いつでも。

 

 あの後、ハワードさんの魔法でゼシカから邪悪な気配は消えた。それをすっかり確認してから今、宿屋にゼシカを運びこんで目覚めるのを待ってる途中。ククールのベホマに、一応神父様にシャナクをかけてもらって。すっかり眠っているゼシカは穏やかな呼吸をしていて、大丈夫そうだ。あんなに悪かった顔色も元に戻って頬に血の気がさしてるから。

 

 ……トウカがそっと、傍目から見てもわかるぐらい優しくゼシカの手を握っている。

 

 そのトウカは武器どころか手袋しか外さないで、ずっとさっきの格好のまま。心配でしかたがないんだろうけど、何故か怪我がなかったとはいえメラゾーマを浴びていたんだから少しは休んでよ。


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