【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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102話 黒犬

「……」

 

 チェルスさんを刺し殺したレオパルドを、トウカは素早い動きで蹴った。杖をくわえた黒犬の本来の心なんてやつはとっくに……ゼシカの話からすると……支配されきっていて、しかもレオパルドに対していい感情がないであろうトウカには蹴っ飛ばすことなんてわけなかったって、まぁ当然。

 

 にしても、鋭い牙を持つ犬だからか、随分な力で吹っ飛ばされてもなお杖を離さない。元々目つきが悪い犬なのに、もう凶悪も凶悪な目でトウカを睨んだ。

 

 亡くなったチェルスさんの遺体を回収したいのはやまやまだったけど、とりあえず僕はトウカの援護はほかのみんなに任せてその場にいた女性を屋敷の中に走らせた。扉を閉めて、これでまぁ……いいだろうか。というかこれでだめなら僕らやられて……いや負けるわけない。

 

 だって、振り返った時にはトウカはその場で犬の口から杖を引っ張って壮絶な取り合いをしていたんだけど。予想してなくて、ちょっと思考が停止する。トウカが鉄板入りブーツで踵落としを叩き込むのも見える。

 

 そして毎度お馴染みトウカの呪いやら何やらを弾く紋章が発動し、それを犬が振り払って紋章がバリンと砕ける嫌な音。一人と一匹の近くは邪悪な魔力が暴走したような暴風で、誰も近づけないし、って……あっ!

 

 どうやったのかレオパルドはトウカを振り払って、トウカを屋敷に叩きつけると飛び去ってしまう。飛び去る動きは目にも留まらぬほどではないから急いでべギラゴンを構築……しようとして間に合わない。……僕じゃだめか……ゼシカなら確実にメラゾーマを当てれただろうに。

 

 そしてヤンガスが、慌てて暴風の中のチェルスさんの遺体を飛ばないように、支える。ククールと僕はよほど酷く叩きつけられたのか、吐血して蹲るトウカを抱き起こす。受身も取れないなんて、なんて力の強さだったんだ。一番の重装備のトウカでこれなら、僕なら完全に挽肉だっただろう。

 

「が……ッ、」

「トウカッ!」

「わ、たしより、チェル、ス……さん、を……」

 

 打ちどころが悪かったらしいトウカを必死で抱き起こしたククールの腕の中でトウカが気絶する。ベホマを唱えようとしたら、今度はククールに先を越された。こっちはそもそも張り合えると思ってない。回復のプロだし……。回復の?ククールって、蘇生できたよね。ヤンガスとか、ゼシカとか、やってたよね?

 

 慌ただしく屋敷を飛び出したハワードさんの悲壮な声、そんな中ヤンガスにトウカをゼシカの代わりに宿に運んでもらったククールに、聞いてみる。

 

 でも、ちらりとチェルスさんを見たククールは難しい顔で頭を振った。

 

「出来るもんならオディロ院長にザオリクを唱えた十数人の誰かは成功してたと思うんだがな……」

「……そっか」

「魂が取られちまってるんだ。あの杖によ。……彼は残念だったがトウカが刺されなかっただけ……いや。そんな事は言っちゃいけねぇよな……」

 

 ハワードさんが膝をつく。傲慢で驕り昂って、一番大切な人を失った人間の嘆き。集まってきた街の人々の涙から、チェルスさんの慕われようと人柄が、はっきりわかる。

 

 だというのに。

 

 ”賢者の子孫”の死をもう、直接には……リーザスの塔の記憶を入れて三回目になってしまった僕は、悲しいとは思えるのに……悲しさよりも、自分の無力さや、迂闊さ、それから……またかという思い。そういうことに囚われてしまっているみたいで、自分に自嘲せざるをえなかった。

 

 目覚めたトウカは、俯いて、……彼の遺体に手を合わせ、長いこと祈っていた。なんでも、杖を取り合っていた時はまだチェルスさんは亡くなっていなかったらしい。だから魂を取り戻せるかも、と。……嗚呼。

 

・・・・

 

「……せめてものお礼って、あの人、すごい人だったんだね……本当は」

「ええ、そうね。……マヒャドもベギラゴンもすっかり使えるみたい。これからレオパルド……ラプソーンを追うのに役立つわね」

 

 場所変わって、いつもみたいに戦闘中。とはいえなんだか魔物が少なくて、だからこうやってお喋り出来てるんだけどさ。なんだか……少ないから早く倒せるんだけど、前より明らかに強くなってるような……? 今までも魔物は強くなっていったけど、ちょっと強くなりすぎ。数の暴力よりましだけどさ。

 

 うーん、こればっかりは考えたって答えが出なさそう。神の領域だ。ラプソーンは倒せたとしてもその思考の理由を理解出来る日は来そうにないな。

 

 ん? 本当の姿になる前に倒してしまうつもりだけど、強くなったって私たちも強くなれば良いって話だよ、エルト! 暗黒神なんて強そうな敵……戦わない方がいいのは分かってるけど、滅してみたいじゃない! 仇討ちさ、めためたにしよう!

 

 にしても秋風が涼しくていい感じだ。木々はすっかり紅葉して景色も新鮮。残暑も過ぎ去って、冬寸前ってね。旅の始まりは蝉のうるさい夏の地域だったよね。じゃあトロデーンは今頃残暑見舞いの季節かな?

 

 冬越しの教会というところで一休みしてから更に行ったところで洞窟が見えてきた。あれを超えたら確か、冬の世界。雪に閉ざされた氷の世界だ。あっちにいる七賢者の子孫の方、どうか私たちがたどり着くまで生き延びていてほしい。

 

 本音を言うならレオパルドをのせるぐらい強い賢者がいてもいいと思うんだけど……っ、そういえばギャリングさんって強盗に遅れをとる存在じゃなかったから、ダメだったっけ。どんどん魂を吸収し強くなるラプソーンに……私の力、どこまで通用するのかな。腕相撲なら負けない自信あるんだけど。

 




エルト「素早さで勝てない」

エルトは貧乏器用ではありませんが(一般論)、周りが特化しすぎでこのパーティでは貧乏器用のポジションに。

エルト→回復攻撃では攻撃寄りの中衛、雷光一閃突きを見れば火力は十分、攻撃魔法は通常の主人公よりやや苦手、近くの脳筋()のせい
ヤンガス→描写は少ないが役割はタンク?というよりは敵の攻撃を妨害している立場。攻撃力は十分だが足止めをする事が多い。手数の多い破壊力の強いバトルマスターのせい
ゼシカ→広範囲焦土製造者、最近イオナズンで地表のダメージを軽減することを覚えた
ククール→呼吸よりベホマ、一呼吸ごとにスクルト、ゼシカの次にナイトされてる
トウカ→滅多切りより頚動脈を切り裂く方がダメージが大きいような気がしてきた!踵落としで人が死ぬ、平手打ちでも首が飛ぶ

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