【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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海賊の洞窟編
112話 安息


 血まみれ満身創痍だった私達。アスカンタの宿の人は何があったのかってびっくりするし、とりあえずみんなも泉の水を飲んでたみたいで怪我だけはなかったからとっとと風呂場に追い立てられちゃった。

 

 いつもだったら私、男装してるしエルトたちのほうに連れていかれちゃうだろうけど、ゼシカの服を着てたからそのまま女湯に直行させられちゃった。急でびっくりしたけど辛うじて袋代わりの手袋はしてたから着替えには困らなくてよかった。ゼシカ、この服洗って返すね。

 

「そんなことを考えるのは後でいいわよ。ほらトウカ、血塗れなんだからさっさと洗いましょう」

 

 そうだね。ちょっと、いやかなり気持ち悪いし。

 

 服を丁寧にたたんで……タオルはいいか。今触ったらベタベタに汚れちゃう。

 

 風呂場に行くと、そこは室内に温泉を引いているみたい。いつも深夜や早朝に井戸水でザッと体を洗うなんて生活をしていた私には久しぶりの湯船だ。もわっと立ちのぼる湯気に、あんなことがあったばかりなのに胸が高鳴るのは現金すぎだよね。

 

 いやいや、私ってこれでも人並みに綺麗好き……じゃなくてこの世界の基準ではかなり綺麗好きだから。毎日お風呂の生活に慣れてたから、ね。

 

 それにしても泉の水の回復力は絶大だったみたいで見下ろしたどろどろに汚れた体には傷一つ見当たらない。幼少期から稽古に励んで結構傷を作ってきた私だけど、これでも母上が腕のいい魔道士だったおかげで回復魔法の使い手にコネがあって傷跡なんて、もともとあった首の一つしかない。

 

 ……魔法ってすごいなぁ。こんなにボロボロズタズタになっても治せてしまえば完璧なんだから。血をかなり失ったはずなのに貧血なわけでもないし。

 

 必死でたわわに実るゼシカから目を逸らしながら、温泉の湯を組み上げては血を流していく。なぜだかカジノのスロットはあるのにシャワーのないこの世界でお湯といえば沸かすか温泉。

 

 ともあれ石鹸を泡立てガシガシ。汚れをとるのは正直かなり時間がかかってそれだけでなんだか疲れたみたいだ。

 

 でもその分お湯に浸かったら体の芯までぽかぽかしてさ、体の疲れが溶けていくみたい。ここの湯はかなり気持ちよかったよ。これを観光のウリに押し出せばいいのにな、アスカンタ。

 

 いや、温泉といえば……極寒の地オークニスが有名だけどさ。

 

・・・・

 

「……大部屋だ」

 

 部屋の端っこには風呂上がりでステテコパンツ一丁だったらしいヤンガスには、ばさばさと毛布が被せられて蠢いていて、しっとりした濡れ髪のエルトは剣の手入れ、髪の毛を下ろしてラフな服を着たククールは腕組みをして黙っている。

 

 そしてなぜかククールはこちらをちらっと見ては逸らす。

 

 何、これ。

 

「湯上がりって……いいよな。レディたちが色っぽくて」

「あー、ハイハイ」

 

 エルト、雑っ。確かにゼシカ、綺麗だもんねぇ。髪の毛を下ろした姿はククール同様見慣れないから新鮮でさ、大人っぽくて色っぽいよね。

 

 ところで、なんで私たち大部屋なの? この宿いっぱいではなかったよね?

 

「死線を乗り越えた後は仲間といるものだって……」

「あぁ、気を使われちゃったか……」

 

 なるほどといえばなるほどかなぁ。私は今更気にしないし、ゼシカがいいならそれでいいかな。気にしない? うん、ならいいよね。

 

 にっしてもこの部屋やばいよ。右からワイルドイケメン、素朴系イケメン、クールイケメン、エレガント美女だよ。顔面偏差値が高いね。私みたいな普通の顔をした人間がいていいのやら。そろいもそろってお風呂上がりで良さが割り増しだし。

 

 まー、顔についてはどうしようもない。美男美女な父上や母上の血を引いていないんだからどうもこうもないよ。中性的ってことしか特徴ないし。

 

 さてさて、私も剣の手入れをしよっかな。

 

 その前に着ていた服が完全におじゃんになったから明日からの新しい服を選ばないと……。下に着てた鎖帷子は換えがあるからいいんだけど、同じ服なんて持ってないからなぁ。

 

 動きやすくて、丈夫。これに限る。

 

 ばさばさばさっと服を取り出し、礼服をガサガサ片付けて、パジャマみたいなのもさっさと回収、ローブ系も後衛じゃあるまいしと片付けて睨む。

 

「あら、服選び?」

「そう。明日着る服どうしようかってね……」

 

 礼服を片付けても残ったのはそこはかとなく貴族感ある奴ばっかり。うーん……動きにくいし引っかかるから着たくないんだけどなぁ……。

 

「うわ、リボンにタイツ……」

「エルト、こんなので戦ったら服が裂けると思うんだよ私は」

「だろうね」

 

 戦闘用に作られたわけじゃあるまいし、お貴族様のスタイルで我ながらアグレッシブな動きをしたらタイツがビリッ、インナーがバリッ。簡単に想像がつくことじゃないか。

 

「一着だけ戦闘に使えるやつ持ってるんだけど、分類が礼服なんだよねぇ」

「……まぁ、着て戦えないよりはいいんじゃないかな、後で買うにしても明日はそれを着たら?」

「だよねぇ、ありがとう」

 

 うーん。その礼服、剣士としての礼服なんだよ。デザインが少しばかりククールに似ててさ、こんなに月のようにキラキラ輝くイケメンと並んだら恥ずかしくなっちゃうさ。かたやレイピアの騎士、かたや大剣ぶん回しじゃあさ。

 

 まぁ、仕方ないか……。

 

 ぽいっと取り出した服をサイドテーブルに置いてベッドにダイブ。剣の手入れを手早く、でも丁寧に済ませると私はさっさと寝た。

 

 もし起きてたらエルトがまた怖い顔をすると思ったからね……。

 

・・・・

・・・

・・




無駄に衣装チェンジトウカ、カミングアウトしたのに男装に磨きがかかる剣士スタイルトウカです。服装の詳細は次話で言うかも知れません。
とりあえず黒に銀ボタンです。色にしか意味は無いです。

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