【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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124話 魔鳥

「愛を理解するなんて無謀だよね」

 

 少年の影はゆっくり立ち上がる。

 

・・・・

・・・

・・

 

「ミシャ、レティスってどんな見た目をしてるか知ってる?」

「それは……その。大きな鳥であり、美しく神々しいとしか……」

 

 エルトは駄目だ。あいつ、何の力を使っているか全くわからないがあっという間に取り入った。そしてエルトは気づかないうちに魔法かなんかにハマっちまった。

 

 とはいえ戦闘能力やあいつ以外に関わる判断能力は落ちていないみたいだし、無条件であいつを信頼しているかといえばそうでもない。ただただエルトがあいつを友人か何かのように見るようになるってだけみたいだな。

 

 そしてまずいことにヤンガスすらそれを不審に思わない。ヤンガスまで懐く様子がないのが幸いだが、まったくもってあの様子に関心すらなさそうだ。それはゼシカも同じだ。

 

 そしてトウカ。あれから顔を上げようともしない。まともに口をきこうともしない。魔物を見て剣を振るうのみ、あと何故か俺の影に隠れて行動する。役得なのは幸いだが、それは単にすでに懐柔されたエルトやトロデ王じゃ隠れる意味がないからだろう。消去法か。時折近寄りすぎて背中にぶつかってるが、これは……ぶつかってもいいくらいには進展してるってことだよな?

 

 一面荒野にしか見えない白黒の大地は不気味で、その上嫌な予感が止まらない。絶対この先、一筋縄じゃどうこうできない事態に突入するともはや確信できる。なのに誰も必要以上の警戒がない。警戒するべき魔物もあまり出ないからますます酷いものだ。

 

「……」

 

 不意にきゅっとマントを握られた。振り返っても相変わらず下を向いていてトウカの表情までは分からない。

 

 縋られてる、のか、これは?

 

「ねえククール」

「どうかしたか?」

 

 どうかした、とかそんな生易しい状況じゃないがな。もしもあいつが魔物の手先ならかなりやばい状況だ。……それはないだろうと、俺までなぜか感じるが、それすらもあいつの策略なら完全にはまってるかもしれない。一応弁明しておくとどれだけ警戒しても邪悪な気配やら怪しい魔力やらは感じない。偽装できるなら終わりだな。

 

 トウカは周りに聞こえないように囁くような声で言う。この状況で耳打ちは怪しすぎるだろうが、これくらいなら談笑に見える、といいがな。にしても親友が静かすぎるのにエルトが気づかないのはどうなんだ。普段はあれだけ……仲がいいのに。

 

「私も……おかしいんだ」

「なにか、されたのか」

「何にも。でもあのミシャが……その、他人に思えないんだよ。きっと兄上がいたらこんな感じだろうなって……」

「トウカの兄っつったら……」

「故人さ。そもそもお生まれにならなかったお方。私が成ろうとした目標」

 

 そっと皴になる前にマントを離された。そして皴になっていないか確かめるように撫でられる。その手つきはなんとなく、頼りなくおぼつかない。

 

「気持ちが先行するんだ。今すぐ駆け寄って話したい。頼りたい。そんな気持ちでいっぱいで……でもおかしいよね、初対面なんだから……」

 

 自分を律しないと。そう決意するように呟いて、でも言ったそばから彼女は彼に手を伸ばしかけ、踏みとどまって、しばらく迷った顔をしてからまた俺の影に隠れた。

 

「ちょっとの間、頼むね。悪い人じゃあないだろうって、思うんだけど、それもどうなんだろうって」

「……」

「ククールも思うでしょ、悪い人じゃないだろうって」

「人間、一目で極悪人だと分かるほうが珍しいけどな」

「それは言えてる」

 

 おかしそうにトウカは笑って、そしておもむろに剣を……剣を?

 

「殺気がするね、みんな、来るよ!」

 

 大剣を引き抜いたトウカは迫りくる蒼が鋭い爪で切り裂いてくるのをひょいと躱して、続くくちばしの連撃を次々と剣で受け止めた。

 

 俺はといえば、トウカが俺が剣撃に巻き込まないように吹っ飛ばしてくれたおかげで着地に必死だった。

 

・・・・

 

 蒼く美しい羽、見たこともないほどの巨大な姿。神の鳥とはまさに言い得ていると分かる、そんなレティスは全く奇襲じみた勢いで俺たちに襲い掛かってきた。

 

 早速二撃目に吹っ飛んだエルトにベホマ、一拍も置かずにスクルト、ターゲットにされれば迫りくる巨体めがけてバギクロス。

 

 意識がそれた一瞬に全速力で走って逃げる。俺みたいな後衛が傷を負えば戦線は崩れるってな。エルトにすれ違いざまにスカラ、空中で吹き飛ばれたトウカにベホマ、地面に爪を振り下ろされたヤンガスにベホマ、凍てつく波動を浴びた瞬間にトウカにバイキルト、続けて飛んでくるのは……あれは。

 

 見覚えのある蒼い雷光。エルトお得意のライデインじゃねえか……? 雲が光り、反射的に目の前にいた味方の誰かにベホマを放つ。

 

 その瞬間、容赦ない雷は、例外なく襲い来た。じりじりと内臓が生焼けにされる痛みは……下手に腕を切られるようなものよりもよほどきつい。

 

 加えて、衝撃がきつすぎて無様に地面に叩きつけられた。なんとか吐血だけはこらえ、骨折がないかを確かめた。案の定バキバキに折れているが、腕は後回しだ。足だけを治し、俺が狙われていないのを確認して焼けこげながらもレティスめがけて斬りかかるトウカにベホマを唱える。

 

「なっにが、神の鳥……だ」

 

 人間を次々とついばみに来る姿がもはや魔鳥にしか見えない。四肢をだれも欠損しないのが不思議なくらいだ。捕食というには殺気が強すぎ、排除というには詰めが甘い。何が目的だ。

 

 雷で体がしびれてまともに起き上がれなくても舌が回るなら魔法を唱えるぐらいはできる。ベホマラーの七面倒な詠唱を完成させると光で目立ってしまったのか狙われたような気がして、咄嗟に転がってその場を離脱した。

 

 ……直後、俺のいたところが盛大にえぐれる。レティスが巨体で体当たりに近い攻撃を仕掛けたから、らしい。ものすごい勢いですっとんできた、ベホマラーで取り合えず回復したらしいエルトが俺を小脇に抱えて走る。その細腕のどこから槍と盾と荷物と俺を持って全力疾走出来る力が出るのか……。有難くぶら下がりながら俺は腕の骨を繋いだ。

 

「あいつに負わせた傷は?」

「さっきトウカが着地して背中にさしてちょっと羽根を毟ってたくらい。ヤンガスが蒼天魔斬を遠くから当てて、魔法は効きにくいみたいだから、ゼシカにはサポートに徹してもらうことにしたから。ククールは全員があのライデインを耐えられる体力を維持できるようにして」

「了解、そこらで下してくれ」

「うん」

 

 しびれはすでに消えた。まだ全身くすぶっている気がするが、それくらいは日常茶飯事だ。見ればレティスに乗っかって剣をぶっさすトウカ。急いで彼女にスカラを重ね掛けして、遠距離攻撃を仕掛けるヤンガスとゼシカのいる場所の反対側に走る。

 

 状況はまずい。エルトの槍なら投げれば当たるだろうが、次がなくなる。あの分じゃせいぜい近寄ってきたときにカウンターを仕掛けるぐらいだろうな。レティスのあまりに重い一撃になんとか耐えられたとしてもそのまま地面に叩きつけられることが判明した今、エルトは横から飛び出して救出する役目を買って出たらしい。我らがリーダーは賢明だ。

 

 雷は二度とごめんなのでマホカンタを唱え、トウカが振り払われて地面に落下するのを確認する。危なげもなく着地したのはいいものの、完全に狙われているようで凶悪なくちばしの降り注ぐ連撃を受け止めている。ベホマラーをもう一度唱えてからレティスの背後に回って蒼天魔斬を繰り返し、必死に意識をそらさせようとするヤンガスから距離をとってゼシカの方に近づいた。

 

「状況は」

「見ての通りよ」

「トウカが狙われすぎちゃいないか」

「剣で背中を何度も裂かれたからじゃないかしら」

 

 ああ、鬱陶し気にヤンガスが吹っ飛ばれた。俺がベホマを唱え、回復した瞬間にエルトがヤンガスをかっさらう。今度はエルトに狙いが定まった瞬間にトウカがレティスに飛び乗って剣をぶっ刺す……狙いが逸れ、そしてまた振り払われ、その隙にヤンガスが背後から狙いを……。パターンに入ったのは向こうにもあっという間に察せられた。

 

「次はこっちに来るな?」

「そうね、鳥の姿でもあれだけ頭が大きければ賢いでしょうし」

「特攻をかければ片目をやれると思うんだが」

「やめて、回復に死なれると困るのよ」

 

 まあ、そうだ。こっちにばっさばっさと飛んできたレティスを引き付けるように走る。間に合わず、背中に激痛、というよりも最早熱さを感じ、連撃ゆえにただの応急処置と化しているベホマを口ずさみながら、足がもつれて転ぶ前に振り返りざま、レイピアを目にめがけて突き出した。見切られていたのか強烈な蹴りが飛んでくるが、ダメージの瞬間に回復できれば衝撃はともかくダメージは大したことはない。

 

 ぶっ飛ばされて地面に叩きつけられ、ついばまれる瞬間にトウカが俺とレティスの間に割り込む。圧倒的な体重と力を込めて叩きつけてくるのを正面から受け止め、カウンターを仕掛け、時間を稼ぐ。俺が離脱した瞬間に懐に飛び込んで思いっきり切り裂く。が、少しばかりの羽毛が散っただけだった。

 

「剣が通らない!」

 

 悲鳴のような声が耳をつんざく。上から思いっきり突き刺すならともかく、あのトウカの腕力で切り裂いてもダメージが通らないとかどうなっていやがるんだ……!




レティスの強化
・守備力アップ
・ライデインのダメージ増加、確率でスタン、確率で軽度のマヒで動きにくくなる
・攻撃力アップ
・通常攻撃、鷲掴みに確率でスタン効果をつける
・ひどすぎるので眩しい光、ベホイミは削除
・PS2版なのでメダパニーマはなし
・魔法耐性はもともと高いのでそのまま
・通常攻撃を連撃に

強敵ポイント
・ゼシカが鞭ではなく杖・短剣のスキル構成で振っているので双竜打ちがない
・エルトがダメージソースにならない
・別にチーズ縛りはしていないがエルトがそれどころではなくはりきりチーズなどで支援できない
・ヤンガスは蒼天魔斬よりもかまいたちの方がいい気がしてならない
・武器を手放しても素手でみかわし率UPなどの有利な状況にならない
・ククールの武器は剣、魔力の自動回復はなし、まだ描写していないがMPの回復で回復が遅れている

緩和策
・このままでは数十回トウカが死ぬのでライデイン一発は耐えられるようにしている(本来なら乱数によっては死ぬ程度だが確定で耐える)
・レティスの通常攻撃をトウカは正面からでは確実に武器ガードできる、スタン中ではもちろん不可
・レスキューエルトが攻撃から味方を守る(トウカはレスキュー出来ない)
・エルトはライデインに耐性があるので確定でスタン回避
・凍てつく波動の頻度は原作(18%だったはず)より低め、原作通り無駄波動はない

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