【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

128 / 173
127話 歪

--いったい何が……っ!

 

 爆発音を聞いてか、レティスが大慌てで飛んできた。そして卵の惨状を見るや、足にがっしり掴まれていたミシャがその辺に放り出されて。ぐえっと伸びてる姿を放っておけず、その腕を引っ張って起こした。

 

--私のわがままで付き合わせてしまったのに、……嫌な思いをさせてしまったようですね。

 

 悲しげに、でも僕たちを責めずに。煙をあげる卵は、もちろん殻が粉々になっていて無事だとは到底思えない。あの爆発が相当激しかったのか、近くにゲモンの体も一欠片も見つからなかった。残っているのは僕らの血が地面に散っているだけだ。黒い血はどこにあるのかもわからなくなっていた。

 

「ごめんなさい、レティス……謝って済むことでもない、こと、だけど」

 

 ククールの肩に捕まってなんとか立っていたトウカが耐えきれずに剣を地面に落とした。ガランと重い音がする。次いで、両膝をがっくりとついた。ククールが慌てて支えてベホマを唱えたけれど魔力切れらしい。ククールの持ち物から杖をとったゼシカが応急処置に祝福の杖を振りかざす。

 

--そもそも私の問題でした。それを皆さんを巻き込む結果となったのは申し訳ないことでした……。

 

 レティスがばさりと羽根を広げると僕たちの傷が癒えていく。でも……卵には変化がない。ザオリクはどうだろう、と一瞬考えたけれど、駄目だろう。魂はともかく肉体のない体にどうやって宿すというのだろう。

 

 諦めたように彼女は僕たちに背中に乗るように言って、そして。

 

--待ってください、お母様!

 

 小さな小さな声に目を見開いた。卵の殻の残骸から現れた、小さな黄色い鳥は……レティスそっくりの姿をした、無垢な魂がそのまま現れたものだったんだ。

 

・・

・・・

・・・・

 

『主のため、ね。自分のためでしかないのにね』

 

 流れ星のように空を飛ぶ。体がないから出来ること。目標はもちろん、ミハエル。その場にとどまるという選択以外に選べるのはそもそもそれしかないし。

 

 魂をたどろうとすれば勝手に体は空を飛び、半身のもとに連れてゆかれる。便利だよね。魔力も体力も使わないから省エネでもあるね。

 

 さしずめ今の俺は灰色の流れ星ってとこ? ちょっと()()()か。周りの感性はこういうの平気らしいけど俺は背中がかゆくなってくる気がするからあんまり好かないな。魔法とか最たるものなんだけど。ミハエル……ミシャとかその権化だし。見てて結構辛いものがあるね。

 

『あー……移動してる。追いかけないと、止めないと……』

 

 半身が欲望に動くなら、俺は使命に従おう……ってわけでもないけどね。相手は人間だってことも理解せずにやらかした大馬鹿者の命令なんてあんまり嬉しくないし。俺はやりたいことをやるんだ。皮肉にも、もし俺が普通に生まれていたら出来なかったことを叶えるんだよ、それだけ。

 

『あーもう、やっぱり殺すしかないのかな。せめてあの子に会いたかったのに』

 

 体……はないか。魂が引っ張られる向きがぐいっと変わる。あっちは大馬鹿者のいる方向。ミハエルが馬鹿をしでかしたら、背後からでも殺してしまおう。そうでもしないと決めたことには角の立派なサイみたいに突っ込む性格の馬鹿を霞ごとき俺が止められるわけがないんだし。

 

 まあ、いっか。本当は天使の名前をもらっても俺と同じで死ぬはずだったのにのうのうと生き延びてたわけだし。俺を縛り付けてくれたわけだし? 本当はミハエルだって生まれなかったはずなのにね、ああずるい。なら俺が引導を渡したっていいさ。

 

・・・・

・・・

・・

 

「ところで、ミシャのお願いをかなえてもらわなくていいの?」

 

 魔力はすっからかんだけど体は元気になった僕たち。降ろされたところはやっぱり止り木だった。レティスは表の世界に僕たちを送っていこうとして、そして思い出したようにここに降ろしたんだ。僕たちは……残念な結果になったとはいえ、レティス、もとい神鳥の力を借りることは出来たし。神鳥の子供の力を借りてあのレオパルドを追いかけれるし。

 

 でも、この力は闇の世界では使えないって教えてくれた。ならミシャはレティスの力を借りなきゃいけないよね。ミシャの主のいるところ……なんか力がいるとか言ってなかったっけ。一刻を争う事態にも思えるけど、正直もう魔力が足りなくて、傷はないけど疲労困憊で今日はもう無理なんだけど……。

 

「ええ、叶えていただかなくてはなりません。……このような出来事のあった後に言うのは、心苦しいのですが、こちらもそう待ってもいられません。この身にも時間が迫っているのを感じます」

--そうですね、確かにあなたには時間がない。では今から私がエルトたちをこの世界に連れてきたようにあなたを向こうの世界に送ればいいのでしょう? あなたが向こうの世界で過ごすことは今の私でも叶えられます。

「……いいえ、いいえ! 神の鳥よ、そうではありません!」

 

 ミシャは叫んだ。僕はふと、彼が恐ろしくなって後ずさりをしてしまった。相変わらず彼が敵だとか、害をあるとかは思えない。なのに、怖かった。長い髪を振り乱して叫ぶ姿は半狂乱では済まなかった、からなのかな……。

 

--気の毒なことですが、もう因果は反転しています。あなたの先祖が光の世界の人間であったとしても、年月が経ちすぎました。あなたはもうこの世界の住人でしかない。その上死者を縛り付けてまで生きることは許されることではありません。

「ああ、そうではないのです、神の鳥よ! 因果が反転しているならばまたひっくり返せばいいだけではありませんか! 熱望(ルゼル)! それをずっとしてきたのです! どうか憎き(元凶)のもとに運んでくださいませんか! どうせ、どうせこの身が滅びれば同じです! そうすれば意味はなくなる! なら眠る主を叩き起こしたって同じじゃありませんか!」

 

 トウカが僕の腕をつかんでぐいっと引っ張った。そしてそのまま背後にいたククールにぽいっと投げ渡された。ククールは重い防具を着ていない僕程度にはよろめかずに受け止めて嫌そうに引きはがす。……女の子じゃなくて悪かったね。あと、ククールって比較対象が悪すぎるだけで本当はかなり力強いんじゃ?

 

 いや、今はそれよりも。手袋を外して、腕まくりして、ミシャの背後に向かってすたすたと歩いているトウカが問題だよ。顔が笑顔なのも怖いんだけど。しかも笑顔が嫌な感じも怖い感じもしないっていうのもかなりホラーじゃない?

 

「そもそも、白黒(モノトリア)だけ向こうに送ればよかった! 僕たち(カラド)を送り込んで、閉じ込めて、色を奪って、世界を奪った! そんな奴が安らかに眠っているなんて我慢ならないのです、もうすぐ死ぬこの身にどうかご慈悲を!」

「あっ、だから君がとても素晴らしく見えたんだね、お・に・い・さ・ま!」

 

 え?


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。