【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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143話 救命

 ずらりと並んだ甲冑の兵士。兵士というのには面構えが騎士のよう。忠義は兵士にも必要だろう、でも、君たちはそういうものじゃあ、ないはずなのに。

 

 緊張した面構えの面々は、急ごしらえとはいえ前の大剣と同じくらい重い剣を肩にかついだ私に大注目だ。その私が公式には騎士ではないって言うのがなんとも皮肉。

 

 彼らは前から私のことを知っている。心の中でどんな反発があろうが、今この瞬間から一時的に使える主よりも私の命令に従わなきゃならないのは多少同情すべきこと。いくら知ってるからって、しばしの間主を変えなきゃいけないのは本当に申し訳ない。

 

 一般市民の生命が掛かっているから、許して欲しい。

 

 ついでにヴェーヴィットの一件で性別まで知られているけど、もうこれについては開き直る方向で行こうかな。幼い時から私を知っている古株の兵士はともかく、新参者はちょっと顔が面白いことになっているのは、なんでかな。腕力にびっくりしてるのかな。

 

 なるべく堂々と後ろにみんなには立ってもらって、威厳ってやつを見せたいんだけど……それがききすぎたのかも。レベル差が激しいから。

 

「お久しゅう、ヴェーヴィットの兵士たち。細かい指示はもう聞いているだろうが、私からの命令は覚えているだろうか」

「はっ」

 

 ざっと胸に手を当ててサザンビーク式の敬礼をされた。返答に私は胸に拳を当てた。エルトが反射的にトロデーン式の敬礼をしたらしく、バラバラの動きにククールがちょっと吹き出した。

 

 ククールも順当に、何事も無かったらトロデーン式の敬礼はやるんだけど。……いや、今は考えるのはよそう。顔が真っ赤になってたら格好がつかない。

 

「自分の命を優先せよ。民を守る前に己が生き残らなくてはならない。私の命令が、もし自分の命を脅かすと思ったならキメラの翼でも使って逃げてしまえ。私はそれを許可する。戦前逃亡は罪だが、状況によって罪を問わない。罪を問うたとしても……そうだな、叔父上がなんと言おうとも、死だけは私が許さない。安心して逃げてくれ。

これは戦いではない。これは、戦争ではない。これは単なる、『暗黒神』という災害に対する活動だ」

 

 ちりっと、右目の奥が痛んだ。多分気のせいだ。

 

「栄光を讃えよ! 我らは必ず勝利する! この古き血に誓って!」

「モノトリアよ、永遠なれ!」

 

 このくだりを考えたのがあのひとなら、私は一言物申したいことがあるよ。それにこの人達は、ごくごく薄くてもたいていモノトリアの親戚だ。あの人はなんてことをしてくれる。最高潮の士気を見つつも、私は引き攣りそうになった顔をなんとか抑え込むことに成功した。

 

 あぁ、素直に永遠なれと思っていたら、すべての始まりこそ元凶だ。元凶は私で、なんとも言い難い、真実を両親に伝える日が……怖いような。

 

 私情はいい。とりあえず全員でキメラの翼での移動を始めよう。とはいってももう既にゴルドの島にはいるんだけど。尖兵として送り込んだ者の報告によると、入口自体は解放されていて、内部の巡回の方が問題に見えると。

 

 席を立つことは許されないながら迫真の演技で体調不良を訴えて外に出たところがすごいよ。私にはそんな小細工はできそうにないし。

 

 

 

 

 

 

 さて、突入、この人数では当然、速攻マルチェロにバレて四面楚歌。

 

 さっきから私は民間人の誘導、そしていのちだいじにで行こうと言っているわけだけど……ぶっちゃけこちらに向かってくる聖堂騎士は首でもカッ捌いて転がした方が早い。早いけど、人道的理由でそれはしない。

 

 峰打ち……といきたいけど獲物が両刃で困ったね。死なせないように柄でガンガンいこうぜするしかない。エルトたちは神鳥のたましいであっちへ飛んで、もうマルチェロとやりあっているんだけど、私は指揮があるからまだ座席側に残っててさ。

 

 幸い、観客たちは大方外に出れたみたいなんだけど……兵が囲まれたり腕掴まれたりして残ってるし、私は多勢に無勢だし。事前に言ってたからキメラの翼でどんどん離脱してくれているのがありがたいんだけど、その間にも本当にただの人間を相手にするのはうっかり殺ってしまいそうで怖い。

 

 相手はエルトのように私の動きになれているわけでも、ヤンガスのように頑強な訳でも、ゼシカのように素早いわけでも、ククールのように傷を負った瞬間には回復しているわけでもないし。

 

 おかげで怪我はなくても鎧が傷だらけだし、せっかく被ってた兜は吹き飛んでどっかいっちゃったし。兜はかぶるもんじゃないね。飛び回ってたらどっかにすぐいっちゃう。

 

 あー、やだやだ、体重があの期間に落ちたせいで体力まで無くなったみたいだ。正直しんどい。手加減するのがさ。向こうは私をほとんど殺す気だよね?私はせいぜい気絶までしかできないのに、鬱陶しくなったからって蹴ったら、蹴りが強すぎてどうせ死んでしまうんでしょう。

 

 こういうとき、私に魔法が使えたらちょちょいのちょいでぱーっと吹き飛ばせるのかな?あ、そうだ、せっかく魔力があるんだから少し上から押しつぶすようなイメージでさ。

 

 ちょっとお試しに人がいないところ目掛けて……えいっ。

 

 うん、出来ない。私に手加減は無理そうだ。魔法は向いてないな。観客席が一瞬で木っ端微塵だよ、相手が魔物でもちょっと躊躇する。思わずといった調子の後ずさりの隙に兵が全部逃げてくれたのがラッキーだけど。

 

「化け物……」

「大いに結構」

 

 むしろあの父親の片腕を見たらその子は化け物で納得でしょ。もう何でもかわまない。もう、なんでもいいんだ。とっととあの杖を、ラプソーンを不思議な泉にでも投げ込んでどうにかしてしまわないといけないのに君たちなんて相手にしている場合じゃないんだ。

 

「君たちも死にたくなければ逃げた方がいい。私はこれでも手加減してる。うっかり殺しそうになるのを我慢しながらね? ちょっと力加減を間違えたら死ぬよ。首の骨を折られて死んで、かわいいお嬢さんのお世話になりたいの?」

 

 ククールは、このあとそれどころじゃなさそうだ。ゼシカもこの三日でザオリクを習得できたらしい。私ができるか分からないザオリクをためすよりは温情だよね?

 

「君たちを殺す方が私にとっては死なせないより簡単だ。分かるだろ?」

 

 脅しを兼ねて思いっきり踏み込みながら、隊長格を壁に追い込んだ。足元に出来た小さいクレーターと、気絶しない程度の衝撃は彼の剣を取り落とさせるのには十分だったらしい。

 

「わかりますとも……あなたはだから、死んだ」

「あの時、人質でも取られてたのかな、あの時。君はサヴェッラにいたの? 質問に答えてくれるかな……」

「……」

「まぁいいよ。君一人の犠牲でほかの人が理解して、撤退してくれるなら安いものさ。さて……選んで。部隊ごと撤退するか、君を殺して無理やり撤退してもらうか、どっちがいい?」

 

 ゆっくりと、でも着実に後ずさる聖堂騎士たち。睨みつけると一人が駆け出す。すると、蜘蛛の子を散らすかのように逃げていく。

 

 もういいはずだ。私は隊長格をそのへんにほっぽり置いて、舞台に向かって跳んだ。

 

 直後、マルチェロから放たれたグランドクロスがククールのグランドクロスにぶつかって爆発が起こった。


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