【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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147話 無慈悲

 攻撃の応酬は激しい。トウカの剣も、僕の槍も、ヤンガスのオノも、火花を散らして悲鳴をあげる。そのうえ相手は魔法をふんだんに使ってくるんだから!

 

「不発!」 

「おう!」

 

 でも、なぜかラプソーンへの攻撃はトウカに届かないときがある。その時、完全に届かない。攻撃はトウカに当たる前に完全に受け止められるか、すり抜けて後ろに当たったりする。そのたびに回復がいらないって意味でトウカとククールの声が聞こえる。そのたびにラプソーンの機嫌が見るからに悪くなって少しひやりとする。

 

 それは攻撃の事に浮かび上がるあの紫の魔法陣がしていること。今なら、きっとトウカの父君がなにか細工したんだってわかる。トウカの攻撃は今のところ届いているけれど、トウカの顔の歪みっぷりを見るにこっちからも何かしらのペナルティになっているみたい。明らかにあっちの方が不利になっているけれど。

 

 トウカの防具は僕のものより重くてしっかりしてるけど、彼女の耐久力は僕の半分くらいしかない。だからまぁ助かってる。

 

 猛攻を互いに仕掛けていれば疲れてくるのも仕方ない。でも、今までの戦いの激しさのおかげで僕はまだまだ平気だったし、むしろこんなものかと思うくらい。魔法も、ブレスも、正直痛い。でも、死ぬほどかと言われたらそうじゃないから。

 

 凍えつくようなブレスのせいで手はとっくに霜焼けになっていてぴりぴりする。指がもげたわけじゃないんだ、僕はそのままひび割れるのも気にせずに突く、薙ぎ払う。それを受けたラプソーンの体も結構傷が目立つ。

 

 なんだか、なんだか。そこまで強くないと思うのは慢心なのかな。それとも力を隠している?

 

 僕の五月雨突きがフルヒットするなんてあるの。なんで避けないんだろう。今までの敵なら半分は当たらなかったのに。肉体についていけていないとか? ゼシカのフバーハのあとにわざわざブレスしてくるぐらいだし、周りも見えていない。

 

 チャンスなんだけど、怪しすぎて色々と勘ぐってしまう。それくらいラプソーンはトウカを忌々しそうに睨んでいた。

 

「その魔力、その目、すべてアーノルドのものだったはず」

 

 トウカの父親への心境はわからないけど、少なくとも不快だったのは間違いなさそうでトウカの猛攻はいっそう激しくなる。杖で受けながらもラプソーンは角を折られ、オレンジ色の体から液体を零しながらも喋るのをやめない。

 

 トウカは僕の方をちらっと見た。目は普通に黒だよとアイコンタクトすると、だよねとばかりに頷く。ついでに髪の毛だっていつもの茶色。本当に顔立ちがアーノルドさんに似ているのは間違いないけど見間違えるほどかな。明らかに体格が違うのに。

 

 妄執はきっと、いろいろ目を眩ませる。

 

「その命を捧げればあの忌々しい封印から救ってやれるはず! もう一度、もう一度、私にはアーノルドが必要なのだ!」

「父さんは少なくともお前のことを恨んでいたのに?」

 

 トウカの隣にいた僕は不穏な気配を感じて、最後にラプソーンに一撃を入れると飛び退いた。トウカの声は静かで、怒っているふうではなかった。でも、囁くような声はたしかに怒ってる。僕にはわかったし、ヤンガスにも、ゼシカにも、もちろんククールにもわかったろう。

 

 でもラプソーンはそんなことわかりやしなかったし、分かろうとも思わなかった。

 

「捧げるってどうすればいいんだろう。捧げたら死者を蘇らせることも出来るのかな?

お前はとっても力が強そう。七人の罪のない人たちを殺し、その過程で職務を全うする兵を殺し、人々を恐怖のどん底へ落とし込んだ暗黒神。さぞかしいい贄になるだろうね」

 

 トウカは普段笑顔だ。僕に向く柔らかい笑顔、ククールへ向く太陽のような笑み。そのどっちでもない冷たい表情で、トウカは剣を振るう。成すすべもないというほどじゃないけど、一方的に攻める。

 

 僕はそっとベホマで支援しようとしたけれど、ククールに当然のように先を越された。ヤンガスがトウカにスクルトを唱える。ゼシカが察してバイキルトを唱える。ククールは祈るようなポーズのまま固まっている。回復はしっかりする。

 

 あぁわかった。「捧げる」がダメなんだ。兄君の死因だから。

 

「私を捧げなくなってどうぞ会えばいいじゃないか。どうして会いに行かないの? きっと私より『秘宝』が効いているみたいだから楽に殺してくれるのに」

 

 振り上げた剣が突き刺さる。僕はそれを眺めながら、もし七賢者の子孫たちを生き返らせることが出来るならどれだけいいだろうと考える。無理だ。わかってる。死後時間が経ちすぎている。死後ひと月くらいのトウカでさえあんな状態だったんだ。そもそももうマトモな遺体が残っているはずもない。

 

『いいや、楽には殺さないね。そもそも価値観が違いすぎた。やったことの重大さを理解できない相手を楽に殺すほど慈悲はないよ。って言ってる』

「兄上、通訳させられてるの?」

『俺は元々向こうの人間だからね。繋がりやすいみたい。トウカに直接やらないのは……なんでだろう。照れてるんじゃない?』

 

 トウカの胸元から聞こえる不思議な声はトウカの兄君のもの。トウカは僕らが近づけないほどいっそう激しく攻め立てながら、きっと微笑んだ。

 

 なんとか隙を見て僕も雷を落として手伝う。でもこれ、もう終わっちゃうだろうな。

 

 なんとも呆気ない。ゼシカの火柱が降り注ぐ。トウカはうまくそれを避けながらますます激しく切り刻む。反撃もあるけど、明らかにこっちが優勢だ。

 

『残しておいてほしいとは言わないけど、残ったら責任をもって引き取るって。たっぷり話があるから』

「ありがとう兄上。お力は父上と母上と話す時のために取っておいてね」

『それが案外平気なんだよね。トウカが魔力垂れ流しだからわりと元気』

「じゃあ今日お話しましょう!」

『うん、もちろん。生きて帰ってね』

 

 トウカは会話が終わった途端、無慈悲に無遠慮にラプソーンを真っ二つに切り捨てた。そして何の変化もないことを確認してから振り返ったトウカはゼシカとククールのところへ真っ先に向かって、トドメを譲れなくてごめんと詫びていた。




PS2が逝きました
3DSのソフトはなくしました
スマホ版めちゃくちゃ操作しづらいですが ドラクエ8は名作です

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