【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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148話 瓦礫

 頭を倒しても何も起きない、と見たつもりだったけど。

 

「こ、これ、まずいんじゃない?」

「……そうだね」

 

 さて引き返そうと歩き出したその時、城全体が崩れ落ち始めたと分かるくらい揺れ始めた。主を失ってエネルギーを得られなくなった浮遊している城がどうなるか、もっとよく想像して退路を確保しておけばよかった!

 

 しかも、ここ、リレミトが効かないらしいし!

 

 どれだけ防御を上げても、どれだけ頑張っても、こんな上空から瓦礫と一緒に落ちたら間違いなく死ぬよ。下が海でも地面でも同じ。

 

 下は……多分ゴルドの奈落かな……。

 

「逃げろ!」

 

 一斉に私たちは駆け出す。来た道をそっくりそのまま引き返す。

 

 幸い、本当の最初の最初まで戻る必要はない。空が見えれば、あとは神鳥の魂で戻ればいい。

 

 悪趣味な回廊で足止めしてくるモンスターはエルト、ゼシカ、ククールが魔法で吹っ飛ばした。なんだか強そうなやつが一匹いたけど、ゼシカの魔法でも燃え残っていたから頭から真っ二つにしたら多分倒せた。硬かったけど。刃こぼれしなくてよかった。

 

 回廊の出口にいた、私たちの姿を模した悪趣味な像は順番に剣やら蹴りやらで砕けば問題なかった。魔法までコピーしてくることにはびっくりしたけれど、私の像はちゃんと剣を構えてるくせに台座で殴りかかってくるものだから、相手にもならない。所詮は岩の塊。

 

 二匹のピンクのドラゴンは撒けそうになかったからまとめて首を落としておしまい。まともに戦えばそれなりに強そうだったけれど、首が落ちて生きてる生物はあまりいないからね。

 

 しぶとくバタバタしていた体を刻んで締めて終わり。

 

 普段なら強い相手に敬意を払うんだけど。正直、それどころじゃない。命あっての物種とはよく言ったものだよ。庇って死ぬでなく、討伐して巻き込まれて死ぬとか勘弁して。

 

 足止めのために配置された魔物以外は先に脱出したのか、崩れゆくこの城に取り込まれたのか、主を失って姿を保てなくなったのか、ともかくいない。

 

 だから、走れ、走れ! 私は殿を務めた。用心のためだったけど、後ろからの気配は何も無い。

 

 強いていうなら、そこらじゅう禍々しい殺意や悲しみ、憎しみの感情まみれでどこに何かがいてもわからない。言うならば、城そのものが生き物みたいだった。でも、どう見ても崩れていく建物にしか見えないわけで。

 

 わからない。けれど、ここから出なきゃならないから。

 

 私たちはやっと外へたどり着く。神鳥の魂を呼ぼうとエルトが鞄に手を伸ばすと、不意に瓦礫がこちらに激しく降り注ぐ。明らかに狙われて。

 

 それを凌ぐ。でも、それは時間稼ぎだったらしい。

 

 舞い上がった塵やら砂やらが晴れると、青い魔人が私たちを見下ろしていたのだから。

 

 暗黒の魔人。門番のいない魔神の居城の門番。そう、私たちを帰さないための。

 

 表情はない。ただ光る目が冷酷で、私たちをその巨大な拳ですり潰さんと、奴は襲いかかってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 強い強いとは思っていたけれど、トウカのパワーを見かけにわかりやすくしたらこんな感じなんだろうな。

 

 暗黒の魔人と完全に力が拮抗しているのを横目に、僕は作ってもらった隙に地獄の雷を叩き込む。なんとなく、外見が堅そうだったから。

 

 でもパワーだけの話だ。動きはゆっくりしていて、その圧倒的な力は誰かを一撃で葬りかねないけど、次の一撃が来るまでにククールかゼシカの蘇生が間に合うんだ。

 

 トウカは魔人の三倍は早いし、僕だって二倍じゃ足りないさ。あいつが拳を叩きつけるあいだに二回は攻撃できる。

 

 負けようがない。だけどやつは見るからにタフ。もしかして、僕たちをここで亡き者にしようとするというより、崩れる城の崩落に間に合わせるための足止めなんじゃないかとまで思う。

 

 とはいえこれから何があるかわからない。ククールの魔力はなるべく温存したい。だからトウカは剣を背中に背負って、振り下ろされる拳を真正面から受け止めて動きを封じるなんていう離れ業に出ていた。

 

 いくら力が強くても、重さは明らかに負けてるのにどうやって踏ん張っているんだろう。……足が地面に刺さってる。

 

 そのまま二人は力の限り無言で熾烈な争いを続けている。魔人はトウカを振り払って、そして拳を叩きつけるために。

 

 トウカはその拳を外圧で粉砕しようとしているみたいだ。無茶な。でもやるんだろう。

 

 先に僕らが魔人を討伐できれば良いのだけど、びくともしない。でも攻撃の手を休めるわけにはいかない。確実に削れてる。それはトウカが競り勝つのを早める。

 

 と、赤い目を爛々と光らせて、魔人はあらん限りの力でトウカから拳を奪い返した。その衝撃で地面が揺れて、僕らは地面に叩きつけられた。もちろん、トウカも。

 

 緑の光が炸裂する。意地でもククールは回復魔法を絶やさない。ベホマラーをかなぐり捨てて唱えられたベホマが瞬時に地面から足を抜いたトウカにしっかりかかる。

 

 動きの遅い魔人が再び拳を振り下ろす前にトウカは矢のように跳んだ。僕も槍をしならせ跳んで、頭に槍を叩きつける。魔人の頭が崩れ、露出した核らしき部分にトウカが手袋をしただけの拳を叩き込んだ。

 

 剣を使って、剣士さん!

 

 一瞬光った銀色の髪がすぐに見慣れた茶色に戻る。変色状態で良くある異次元のパワー……牢屋の格子を引き裂き、ドルマゲスを追い込んだあの力。

 

 制御できたのか、それとも偶然か。なんだっていい。よく併発する体調不良もないみたいだ。

 

 その一撃で暗黒の魔人は頭を完全に破壊され、全身バラバラの瓦礫に戻って……暗黒魔城から叩き落とされた。

 

 がらがらと岩の音がだんだん遠ざかる。みんなと一緒にそれを眺めていたけれど、僕は我に返って神鳥の魂を取り出した。その石に祈ると、体がふわっと軽くなる。

 

 僕たちの姿は金に輝く神鳥の子どもの姿に変わり、濁った空高く飛び立った。

 

 故郷へ返してあげましょう、と優しい神鳥の子の声が聞こえる。この姿で僕たちは喋れないけれど、心の中の返事はしっかり聞こえているみたいで、彼、または彼女は優しく微笑んでくれたような気がする。

 

 嵐の中へ、闇の渦巻く中へ、翼を羽ばたかせる。まだ一つ、波乱がありそうだなと予感しながら。


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