【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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17話 陸路

 私自身は……まあ、兵士だし、剣士だけど…………ん? 剣士としては決して弱いつもりはないけど……こんなに感動されるほどかな? 前世での感覚的にはおんぼろ道場の師範代ぐらい? そんなの感動する? ……ゼシカのお兄さんだって強かったんだよね?

 

「トウカ・モノトリアは世界最強の剣士でしょう? あなたが仲間ならドルマゲスだって絶対に倒せるわ」

「ねぇエルト……とんでもなく誇張された噂が飛び回ってるんだけど……」

「事実だからさっさと認めようよ」

「それからとても博識で賢いと聞いたわ」

「ねぇエルト、とんでもなく有り得ない噂が流れてる……」

「……それは、まあ、嘘じゃないじゃない?」

「トウカの兄貴に出来ないことはないんでがすよ」

 

 博識で賢いのは、父上と母上だからその養子だから……噂を又聞きした勘違いしたんだね。私は賢くなんかないし、思考回路が脳筋なのは認めてるし。

 

 さり気なくべた褒めされてる? やめてよ、恥ずかしいよ。照れちゃうよ。

 

「……そうなの? 何にせよ、強いんでしょ?」

「そりゃあ、戦力的にはこれでも兵士だから、一般人やそこらの戦士よりはね。単純な力なら強いんじゃないかな」

「頼もしいわね」

「頼るならエルトの方がイケメンだよ」

「確かにサーベルト兄さんに顔が似ているのはエルトの方ね」

 

 えっと。新しく仲間になった強気で勝ち気で美人でスタイル抜群で魔法使いなお嬢様は驚異のブラコンでした。……この後も話をする度に何かとお兄さんと比べられたり、懐かしまれたり……。

 

 勿論、それに水を差すほど無粋なことはしないんだけど……なんだろう、私……どっと疲れた……今日は疲れてばっかりだなあ……。

 

・・・・

 

「魔物は切り刻むものっ! ふっははーーっ!」

「無意味なドラゴン斬り!」

「かぶと割り! でがすっ!」

「……メラッ!」

 

 激しい戦闘をくぐり抜け、次へ次へと進む。先頭……というか、突出して前に突撃したトウカが、襲い来る数十匹の魔物を間引いていく。実に頼もしいトウカの、決して魔法的でない、物理的な五月雨剣で切り刻まれた魔物の血がピシャっと跳ねて地面に吸い込まれていった。

 

 それを尻目に勿論、僕も目一杯戦う。もうでんでん竜なら一匹や二匹は一人で片付けられる。……ホイミが使えることを考慮済みで。ヤンガスだってそうだ。ゼシカは戦闘の補助としては十分すぎるほどよく戦った。

 

 何より量産される悲惨な魔物の死体を見ても怯えたり青ざめたりしなかったから、強い人だなと思う。普通は気を強く持っても気分が悪くなってもおかしくないから。

 

 気は張り詰め続け、絶対に抜けない。 せっかくトウカが間引いてくれているんだ、好意を無駄には出来ない。

 

 そして、トウカが駆け戻ってくる。前方でヤンガスが最後の一匹の息の根を止めていいた。ああ、やっと怒涛の戦闘が過ぎ去ったんだ。

 

「はぁ……。それにしても、みんな、器用ね……あたしはもういっぱいいっぱいよ」

「疲れちゃった? じゃあ休憩にしようか……えいっ。ごめんね、一般人の体力はちょっと分かんなくて……。ん? 器用だって? 何で?」

 

 軽い休憩を取るために一つだけ聖水を地面に叩きつけたトウカ。因みにトウカはそれを結構向こうから行っていたにも関わらず、瓶が割れる頃にはこっちについていた瞬足を発揮していた。っていうかその距離で聞こえていたんだね。

 

 ヤンガスも何だけど二人して息を切らしていないなんて。僕だって、ちょっと疲れたのに。……ああ、これが噂の体力おばけか……。……何でもないよ。何でもないったら、何も言ってないよ、トウカ!

 

「……だって返り血を全然浴びないじゃない」

「ん?」

「それは慣れでがすな」

「ああ、それね。……僕は紛いなりにも、トウカのそばで十年生きてきたからそれぐらいは……」

「我が国の兵は優秀じゃろう?」

「有り難き幸せでございます!」

「ありがとうございます」

 

 陛下のお褒めの言葉に反射的に叫ぶトウカ。……隣で叫ばないで……耳が痛い。

 

 返事を聞いたゼシカは肩をすくめて、真似は出来ないと言う。僕も初めはそう思ってたよ?でもね、やれば人間何でも出来るんだよ。……出来るんだよ……出来ちゃったんだよ……。あはは……。

 

「ボクの服は白だよ、血が付いたら面倒じゃないか」

「強さを誇示してんじゃないの、白い旅の服は? 汚れるのにわざわざ白いのを着るなんて」

「……ちょっと作りがしっかりしてるけど、これは部屋着なんだよなぁ……持ち服で何故か一番丈夫だから着てるんだけど……デザインが地味で」

「…………、いい趣味してるじゃない」

 

 ……そういえば僕も普段着にブーツと剣と盾の武装だけだな。トウカは普段から武装してたけど……、違いって何かあるの?身一つ、な訳じゃないけど明らかに軽装だ。部屋着って、それはなんだよ。それはおかしい。

 

 ……まあ、僕が言えたもんじゃないし、ゼシカも似たようなものだけど。よくもまあ、そんな格好で魔物の群れに単身で突っ込めるもんだよ……。

 

「実はさ、見えているのは手甲だけだけど、防具は他にも腕当てと肘当てと鎖帷子と膝あてと足甲でさ、ブーツに鉄板入れてるんだ。要するに超重量装備ってわけ」

「……陛下」

「うむ。我が城の鎧を着た一般的な兵士よりは堅いじゃろう。しかもそれは近衛兵の量産品の支給品ではなく、子を溺愛するモノトリア当主が揃えたものじゃ」

「因みに服は二枚着てるよ」

 

 ……それは初めて知った。着痩せしすぎでしょ、トウカ……ちょっとごついぐらいで何で済んでるんだ……。

 

「腕捲りしたらこんな感じ。こんな高いもの汚したくない、ボクこんな高いもの汚したら罰当たるんだ……」

「……苦労してるのね、金銭感覚的に」

「そうさ、ボクは……庶民の味方だ……!貴族ってのはみんなおかしいんだ!50ゴールドで腹一杯食えるってのに果物に3000ゴールドかける阿呆にはなんて言葉をかければいいんだ……!」

「苦労しとるの、トウカや」

「あ、はい」

 

 ……苦労が背中にのしかかっている幻影が見える……。哀愁すら漂っているって……トウカ、ストレス大丈夫? さっきまで晴らしてたけどさ……。

 

「という訳でね、返り血が付かない斬り方を子供時代から研究してたんだ。だいたいこれで型は完成しててね」

「そう、努力家ね」

「……よせやい」

 

 照れて頬をピンク色に染めて、首をぶんぶん振る。下ろしているのは邪魔になったのか、耳の下で結った髪の毛が僕の顔に当たりそうなんだけどな……。痛っ……。

 

「あ、ごめん」

「……もう少しだけ落ち着いて」

「……うん」

 

 そんなこんなしているうちに聖水の加護が解けて、再び魔物の気配がし始める。欠伸をしたり伸びをしたりとリラックス気味だったトウカが、大剣を鞘から引き抜いて表情を引き締めた。きりりと眉が釣り上がる。僕も剣を引き抜いておいた。

 

「では、マイエラを目指して進みましょう」

「うむ」

 

 ぴりりとしたトウカの殺気が辺りに充満していって、好戦的にトウカが笑い声を少しだけ漏らした。そして、鋭い風のうなりを残して、前方へ突撃していった。


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