【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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18話 修道院

・・・・

 

 修道院は橋にもなっているから、此処から先のアスカンタ領に行くのにも通らなくてはならない。だからか、着いたマイエラ修道院には外にも人がいた。でも、一歩踏み入れただけで皆自然と無言になり、発せられる独特の雰囲気に呑まれていた。

 

 ……、そんなに無言が好きなわけではない私としては、建物にも入っていない今、無意味な静寂は要らないと思うのであえて空気を読まないでおく。これは前世で言う「えーけーわい」だな。あんまり流行りには敏感じゃなかったせいで十八年も経てばそんな言葉、あんまり覚えてないけどね……。

 

「……何回来てもここは雰囲気が厳かだなぁ」

「そうだね」

「あっしは居心地が悪いでがす……」

「ここ、魔力はあんまり感じないけど、なーんか嫌な予感はするわ」

 

 四人でめいめい勝手な感想を述べる。あれ、なんかデジャヴ。……ああ、ポルトリンクでやってたな、こんなこと。

 

 それにしても、魔法が得意なゼシカの、嫌な予感、か。私には何も感じない……いや、居心地の悪さと厳かさは感じてるけど、口に出すような予感はないよ。

 

 居心地が悪いと思うのは、神様が人を救うということをあんまり信じていないからじゃないかな。転生なんていう非科学的なことをしたから一応、存在は信じてるけどさ……全知全能?すべてを等しく見守っている?  

 

 信じ、敬虔になれば救われる? ……そんなのは到底信じられないようなことだと個人的には思ってるけど。あくまでも個人的に、だけどさ。私の勝手な意見だし、信じている人にわざわざ言う気もないけど。……何よりも、この世界は現代日本より宗教に対しては細かいからさ。弾圧されたくない。物理的に弾けるけど、それで人の心は開けないからね。

 

「お祈りしてからドニに行こうか」

「了解、エルト」

「分かったでがす」

 

 マイエラにはゼシカは来たことがなかったのか、きょろきょろと周りを見ているからちょっとゆっくりめに参拝しよっと。陽の光に輝くステンドグラスと綺麗な建物が何ともいえない美しさを醸し出す。

 

 ……現自宅の方がベクトルは違うとはいえど豪華なのには閉口するしかないんだけど、無駄にここは雰囲気が堅苦しいから新鮮に思う。来たことはあるけど、久しぶりだもの。

 

 ここは旅人も沢山訪れるみたいだからか、背負っていたり、腰に帯びている武器は何にも言われなかった。というかマイエラの人は誰も気にしてなかった。たまに歩いてる聖堂騎士団? 

マイエラ騎士団って名前だっけ?

 

 知らないけど、そんな人たちもレイピア持ってるからかな。……背中の大剣を見てぎょっとしてから私の小ささを再確認するのは何時もの事だよ。日常茶飯事さ……。ちっさいんじゃない、女性としては平均より高い……はずだ!

 

 建物に入り、その部屋の真ん中で祈りを捧げている人たちに混じって跪いて四人でめいめい祈る。ゼシカの、兄を悼む言葉、エルトの決意、ヤンガスの誓いが前世よりも耳の良くなった私にはよく聞こえた。

 

 ざわめくように、様々な人の祈りの言葉が渦巻く中で、立ち籠める厳かな空気が重くのし掛かった。自分については何も要らないから……取り敢えず私は皆の健康と世界平和を願っておいた。

 

「……どうか誰も大きな怪我をせず、病気にもならずに平和に旅を終われますよう……。ドルマゲスを早く倒せますよう……。今日も魔物を狩り、人には親切にしようと思います……。……ゼシカのように悲しい目に遭う人に救いを……。ヤンガスのように改心した者に愛の手を……。エルトのような努力家が、努力に報われますように……。陛下に平穏な日々を、姫に健やかなる時を、どうか……」

 

 そして最後に付け足す。

 

「悲しみにくれる人が一人でも減ることをお祈りしております」

 

・・・・

 

「じゃあ、次行こうか」

 

 場違いにのほほんとしているエルトは周りを見ずに結構な声量で言う。何にもマイエラで感じなかったのか、実は無神論者だったのか。何それ新情報。

 

 だってさ、ヤンガスはいまだに小声だし、ゼシカはまだ感動を引きずっているみたいだし。私? 私はあんな堅苦しい場所にいたから体中ばきばきになっちゃったから今すぐにでも柔軟したい。でも……そういう訳にはいかないでしょ。今は戦闘態勢になるために腕を伸ばすことしか出来ないな。

 

「そういえば、ドニの町には行ったことないな」

「え、でもドニって確か、マイエラ巡礼の人の為の宿場町、だよね? トウカは前にマイエラに来たときはどこに泊まったの?」

「義母上のルーラであっという間に我が家。行きもルーラ、帰りもルーラ」

「……そもそも日帰りだったんだね……」

「泊まりの旅行は今までで三回ぐらいしかしてないよ」

 

 当主である義父上があんまり家を開けるわけ無いよ。……私としてはマイエラ周辺の魔物と戦いたかったし、観光もしたかったからルーラ直行便は嫌いだったけど。

 

「だから楽しみだ」

 

 トラペッタの街には、この旅以前でも行った事が勿論あった。リーザス村あったし……勿論マイエラだって。だけどドニは行ったことがないんだ。その先のアスカンタも行ったことがあるのに間がすっぽ抜けてたんだ。

 

 

 それからは降って沸いてくるように次々と目の前に現れるでんでん竜やらげんじゅつし、リンリンなんかを剣で切り裂き、叩き斬り、手甲で殴りつけ、鉄板入りブーツで蹴り上げる。我ながら荒々しいにも程がある剣舞をしている気分だ。

 

 ドニへ行くことが楽しみ過ぎて、気もそぞろだったのが悪かったのか。一撃だけ、腕にリンリンの噛みつき攻撃が命中してしまう。手甲のお陰で刺さることはなかったけど、ぐっと強い圧迫感。血を止められ、じくじくと痛む。大きな痣でも出来たんだろうな、とどこか他人ごとのように考えながらそのリンリンを踏み砕いた。

 

 幸いにもダメージを受けたところを誰も見てなかったみたい……というか単騎突撃していた私よりも、普通に戦っていたエルトが手酷く攻撃を食らってて、それに気が取られたみたいだ。うん……あれは間違いなく私より痛い。血まで出てる。持ち物の中からアモールの水を掴み出し、遠投してぶつけておく。ぶつけるのは痛いって?そんなことはないよ。当たる前に原理がわからない魔法か何かで瓶が消滅するから。ぶっかかるのはアモールの水だけ。

 

「ありがとうトウカ!」

「気にすんな!」

 

 バトル漫画の主人公みたいに大剣をぐるっと体の周りに回転させ、担当区域を一掃。勢い良く腰の剣を投げつけて、遠方のゼシカを襲うでんでん竜の頭を貫き、右手の大剣を振りかぶる。唸りをあげて襲い来るげんじゅつしは魔力が尽きたのか体ごと突っ込んでくる。鬱陶しい。

 

 無意識に踏み抜き、そのまま別の魔物に向かって跳ぶ。げんじゅつしの体液をもろに被ってしまったが、その勢いのままリンリン三匹を纏めて切り捨てた。横薙ぎ一閃、という感じかな。これで一帯の魔物は殆ど倒した事になる。また沸く前にさっさと町に行かなきゃな……。

 

「……おぉう……気持ち悪い……」

「……これはすぐに宿に行くべきだね……湯浴びしないと」

「風呂に入りたいな……」

「そんな時間はないのに……ゼシカ、これがトウカだよ。常にマイペース」

 

 わりと酷い言いようじゃないかエルト。たしかに私はマイペースはマイペースだけど……風呂は其処まで珍しいものじゃないはず。私は風呂が短いからそれは問題じゃない。というか冗談のつもりだったんだけど、真に受けないでよ……。

 

「服の大部分が白いから気をつけていたというのに、やらかしてしまったこの気持ち。今すぐ服を洗いたい。あと恥ずかしい……避けるとか研究したとか言ったのに……」

「……ん? あれ、もしかしてかぶったの服だけ?」

「無論。染み込みもしてないよ」

 

 というかこの緑色、すごく気持ち悪い。魔物は血すら赤くないのか、それともげんじゅつしが特別なのか。取り敢えずこの物体とこれ以上関わり合いになりたくないなぁ。……芋虫色に嫌悪感を抱いても私は悪くない。


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