【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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警告します。
・ククールが別人です。
・ククールが結構気持ち悪い事になってます。
・サブタイトルで察せるとは思いますが、ククール→トウカ表現があります。
・ククゼシはこの小説に存在しないことをお伝えします。
・ククール視点のトウカがトウカじゃないです。

以上をふまえましてから、お進み下さい。読了後の「らしくない」「嫌だ」「気に食わない」「気持ち悪い」「誰だお前」は受け付けませんので、どうかご了承下さい。

この設定は小説を書く前から決めていましたので、本当に文句は受け付けません。



20話 恋

「あと二時間……」

 

 そっと自分のベッドに腰を下ろしたところで、トウカがむにゃむにゃと寝言を呟き始める。大半は何言っているかいまいち分かりにくい滑舌の悪さ。……って寝言に僕は何を期待していたんだ。太陽が出てるのに爆睡してるのを呆れてたのにうっかり別の意味で説教かますとこだよ。

 

 にしても……寝言を聞くのは初めてかもしれない。最近でこそお金の節約の為に部屋が一緒だったりするときもあるけど、親友ではあったけど、それ以前にあまりに大きい身分差があって。僕が見るトウカは何時もしゃんとしていた。眠そうな姿は見ても寝癖なんかない、身なりのきちんとした貴族のトウカしか見たことが無かった。

 

 兵士のトウカはそれはそれで、鬼気迫る勢いの、必死で昇進を目指すがむしゃらな姿ばっかりだったから。そりゃあ、ふざける姿だって見たし、軽口だって叩き合った。けど、それだけだったから。

 

「おやつ……食べたいな……」

「……」

「マシュマロ……」

「……?!」

 

 今、めちゃくちゃはっきり言わなかった? ……僕はトウカの趣味を新しく知ってしまったのかな。トウカはあまり好き好んで間食はしてなかったはずなんだけど……。普段からおやつなんか食べてたっけ?あんまり甘いのも食べてなかったような。

 

 え、もしかして内緒にしてたとか? ……いやいやいや。トウカもバリバリ働いているし、給金も貰ってるんだからおやつぐらい食べたっていいんじゃないか?家では食べてたとか?それは知らないけど……。でも給金を使うところがないって、トロデーンでこぼしてたような気もする。

 

「あははーー、マシュマロ」

 

 随分と楽しそうだな…………ぼ、僕は寝言を言わないよね。言ってないよね?いろいろ無自覚な願望とか口から垂れ流してないはずだよ、ね。うん、大丈夫。……だよね。こんなはっきりとした実例見てたらちょっと自信なくなってきた。早起きが得意なトウカより先に起きたことはないし、実はもう聞かれてるかもしれないなんて、気のせいだ。

 

 なんか、かなり居たたまれなくなってしまった。勇ましい上に戦闘狂な親友の女々しい趣味なんてこんなところで知りたくなかった。今度口にマシュマロを詰め込んでやろうか。……辞めとこう。喜んでも怒られても今以上に居た堪れなくなるだけだろうから……。

 

「……爆発……しろ……ぶつり……てきに」

「…………」

 

 恐ろしく空気が不穏になったから僕は部屋からそっと撤退した。音を立てていないことだけは確かだけど、寝ぼけたトウカがどんなのなのかを知らない今、剣を持っていようが槍を持っていようがすごく心細い。うん。逃げたんだって。 そこは言い訳しないさ……。

 

 その後、日が沈んでから部屋に戻った時にはトウカはいなかった。朝起きたら既に陛下の所にいたし、トウカはちゃんと寝たんだろうか。

 

・・・・

・・・

・・

 

 滑らかな白い頬の彼女に惹かれた。女ったらしと呼ばれた俺がだ。情けないとも思うが、今はそんなプライドはどうでもいい。どうしようもなく惹かれてしまったのだから。鎖帷子を纏う、戦乙女が。好みのタイプではないはずだが、一目惚れに理論はない。

 

 柔らかに耳の下で結われた茶色の髪、大きくぱっちりとした左目。如何にも優しげな表情。ボク、なんて紡ぐアルトの声。どうしても、あの瞳を両目とも見てみたい。小柄な彼女が愛らしい。俺の頭は妄想を止めてくれない。

 

 何よりも悔やまれるのは惹かれた彼女にではなく、彼女の姉であろうこれまた素敵なレディに聖堂騎士団の指輪を渡したことか。勝ち気なナイスバディの彼女も魅力的な女性だった。だからか、傍目にも目立つレディに指輪を渡してしまったのだ。

 

 大層な剣を背負い、全て本物かは分からないが武装までしていた逞しく勇ましい彼女に、女々しい行動をとってしまったら取り返しがつかない。ああいうレディは女々しいなよなよした人間が嫌いなもんだ。だから、俺は彼女には握手だけ、した。手袋を慌てて外す姿が小動物と重なった。

 

 綺麗な手だった。ほっそりとした繊細な指の持ち主だった。指にタコもあかぎれもない、皮が硬くなっているわけでもない。到底剣を扱う人間の手ではなかったと思う。あれは守るべき少女の手だ。剣が本物なのか、やや疑わしいぐらいだったが、鎖帷子の金属音は本物のようだった故に定かではない。剣が本物なのかは分からない。

 

 それから、彼女の仲間なのか、はたまた兄らしき青年は彼女を「トウカ」と呼んでいた。彼は彼女と仲が良く、羨ましかったがどうやら彼女を男だと勘違いしているようだった。……性別を間違えている以上、兄ではないか。にしても……あんな巨大な剣を細身の彼女が持てるわけがない。気が付くのが普通じゃないか。

 

 ともあれ、俺は彼女が男装をしなくてはならない理由が分からなかったのだ。だから仕方なく少年にでも接するような態度をとった。本当は初対面から口説きたいもんだが、彼女は姉同様、それに乗るようなレディではなさそうだった。

 

 ……緊急事態になんという妄想をしているのか、俺は。今はレディのことを考えている場合ではない。オディロ院長の危機だというのに、なんて馬鹿なことをしているんだ。どうにかして院長の安否を確認しなくてはいけないというのに……クソッ、あの石頭共がいなかったら……。

 

「あ、昨日の赤い聖堂騎士団員さんみっけ」

「……ククールだ」

 

 なんといういいタイミングか。悶々と考え込んでいる俺の眼の前に現れたのは昨日の彼女……と、その仲間だ。

 

 彼女はこの修道院に起きている異変にその仲間と同じく気付いているようだった。真剣で真っ直ぐな目に思わず見とれそうになって、無理やり目をそらし、旧修道院跡地からオディロ院長の元へ行ってくれないかと頼んだ。彼女はそこらの町娘よりは旅慣れていそうだったが、不安には違いない。だが、それを心配する時間は残念なことになかった。

 

 しかし彼女と仲の良い青年や目つきの悪い男は腕が立ちそうだったし、気の強いレディは魔法が使えるのが分かっている。彼らなら何とかなるだろう。

 

 二つ返事で彼女と青年……エルトというらしい……が頷くや否や四人は出口へ駆けだしていった。それを見送りながらもどうしようもなく不安になる。旧修道院跡地は決して安全ではない。恥ずかしいことに一目惚れしてしまった彼女を危険な場所に送り出してしまったことは悔やまれた。オディロ院長の安全の為とはいっても……。あそこは陰気臭いただの修道院の跡地ではない。今は強い魔物の巣窟なのだから。

 

「……神よ」

 

 こんなところで祈るとは。こうもまともに神に祈るのは久しぶりかもしれない。だが、祈りを捧げる。オディロ院長の安否を、そして彼女たちに危険が迫らないように。

 

 数日後、俺はトウカに多大なる幻想を抱いていたばかりか、失恋から自分にホモ疑惑までかけることになるとは考えもしなかったのだが。修道院にいる奴らと同じになるとはな……。

 


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