【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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21話 跡地

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 川沿いを結構なスピードで駆け抜ける。この辺りの魔物とは思えないほどの強さを持つさまようよろいは、悪いけど構っていられないから川に投げ込んだ。もがいている隙に私達は急ぐ。今度は間に合わせるつもりだ。マスター・ライラスやサーベルトさんは現場に間に合わなかったけど、今回は何とかなりそうだ。

 

 手袋から鍵となる指輪を呼び出すのももどかしい。現れた指輪を石碑のくぼみにねじ込む。するとククールさんが言うとおりに開いた。この階段の先に修道院の跡地があるのか。

 

 指輪をはめるだけで入り口が現れるなんてすごいとしか言いようがないね。やっぱり魔法はテクノロジーでは成し遂げれないことを軽々やってのけるんだね……その恩恵を受けている身としてはなんか感慨深い。使えないのが本当に悔しいよ。って、そんなことはどうでもいい。

 

 この先は明らかに危険があるであろう場所だが、止まってはいられない。皆で顔を見合わせて決心する。行こう、と。そして陰気な階段を皆で恐る恐る降り、私は先頭で、出てくる如何にも陰気な魔物をまとめてぶった切った。そう広くない場所なのに数がとんでもない。大きなハエまで居る。

 

「……若干今までよりも強い気がせんでも無きにしも非ずといった所だね」

「ゼシカ、ヤンガス! ここの魔物は相当強いみたいだから最大限に気をつけて!」

「おいエルト」

 

 そりゃあ今までよりも強いか弱いかだったら、間違いなく強いよ。攻撃は受けてないけど防御力とか素早さとかね。斬った感触で分かった。だけどそれは若干だよ。……気をつけるのは悪くはないけど。慢心するとこの前の私みたいに噛まれたりして痛い目見るからね……でもそれ過剰反応じゃないか? 皆強くなったと思うし……。

 

「……うげ」

 

 で、何時も通りじゃんじゃん単騎突撃して戦いまくってたら、わらわらと沸くミイラ男の、呪い玉の集中砲火を受けてしまった。というか今受けそう。後ろに下がることも出来ない、後ろの皆に当たってしまう。ああ、これは。避けれない。

 

 呪いは今まで効いたことがないとはいえ、ここまで大量の呪いを浴びたことなんて無い。気休めばかりに目の前のミイラ男を一匹だけ屠った。呪い玉を一つだけ潰したってわけだ。

 

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 呪いの玉を全方向からトウカは食らう。禍々しい紫色の光に埋め尽くされるトウカ、動きを止めたことに便乗して腕を振り上げるミイラ男。……でも視界の中で繰り広げられている親友の危険に手を差し伸べられるほど僕は強くなかった。助けれるほど速くもなかった。目の前の、自分の危機を回避することしか出来なかった。間に合わないけれど、必死で手を伸ばす。その手が、震える。

 

 と、光がぶつかる前に展開される魔法陣。ミイラ男の呪いよりもよほど禍々しく、見ているだけで恐ろしい、大きな魔法陣だ。ザバンとの戦いでも見た、あれ。それが呪いの光を吸い込み、トウカには届かない。そして元気な声が僕の鼓膜を震わせる。

 

「じゃかぁしい! 効かんわ!」

「心配した僕の気持ちを返せ!」

 

 魔法陣を気にせず、トウカが元気よく自分を囲んだミイラ男の首を次々と跳ねる。どうやら何の心配もなさそうだ。本当に僕の心配を返せ。

 

 それにしても……目に焼きつくあの魔法陣は紫色の光を打ち消すほど怪しい赤色だった。正直、「正義」や「勇敢」……いや、「勇猛」か。そんな言葉が似合うトウカに似合わないにも程がある魔法陣だ。……そうだった。彼は僕と同じく呪いが効かなかったんだ。心配するだけ無駄だったんだ。

 

「簡単に! やられないから心配しないで!」

 

 トウカの、物理的な剣撃が辺りの魔物を殲滅する。その上、僕がやっとの事で一匹倒せばトウカは十匹倒すし、ヤンガスがミイラ男一匹薙ぎ倒せばトウカは十匹は吹き飛ばす。ゼシカのメラが敵を燃やせばトウカの不可視の剣撃が魔物を何匹も倒している。……あれ、不可視の剣撃? 剣からなんか出てるよね?

 

「トウカいつ魔法が使えるようになったのさ……」

「残念! 物理攻撃しか出来ないよ!」

 

 会話しながら戦闘なんて先輩兵士に見られたら殴られそうだ。だけどもみな無傷で戦いに緊迫感は薄く、我ながらだれてしまう。……本当に親友はお強いようで。

 

「今トウカ、剣撃飛ばさなかった?」

「残念! 物理的に飛ばしたよ!」

「嘘よ! そんなのって!」

 

 ……かまいたちでも覚えたんだね、そうだよね。殺れば出来るんだよ、人間だもの。あ、殺ればは誤字にあらず、だよ。

 

 で、魔物は強くなってるから今までに比べればやや進度は遅いけど……多分並みの旅人よりは主にトウカのお陰でサクサクと進み、なにやら毒の水が充満する部屋に出た。

 

「……何があったらこんなひとところに溜まるんだ?」

 

 愕然として道を探すのを放棄したトウカは、まぁ道を開いてくれたからほっといて。休憩でもしててくれたらいいから完全に放置。何故か上手いこと毒に足をつっこまずに向こうにいけるような配置に箱やら瓦礫やらが積み重なっていたのでそこを回った。

 

 そして何やら着いて来たはいいものの、頭、というか目を押さえるトウカを見やる。嫌な予感がするんだけど、まさか……またなの?

 

「ちょっと、大丈夫なの?」

「……この先から強烈なほど何かを感じるんだけど、そのせいで目が痛いから。というかやっぱり右目だけが痛い。この役立たずが……」

「休憩するでがすか?」

「リーザスの塔と同じ現象ならそうそう治らないからいいよ……ありがとう」

 

 こんなところで嫌な予感なんて当たらないでいいから。トウカの謎の痛みは何が原因なんだろう。今回も前回も閉鎖的空間だけど、それは……トロデーンでかくれんぼしても何も起きなかったんだから違うんだろうな。

 

 何が原因? 前は神秘的なリーザスの像の目の宝石が原因だったみたいだけど、修道院の跡地の、こんな荒れ果てた所にあんなにきれいな宝石があるとは思わないし。

 

「……取り敢えずトウカは様子見つつ中衛ぐらいで居てくれないかな」

「そうだね……」

「で、話は変わるんだけど、個人的に僕がトウカの代わりに単騎突撃したらどうなると思う?」

「…………。エルト、それ、到底無傷じゃ済まないと思うよ。ボクも、何時も何発かは食らってるんだから」

 

 そりゃそうだよ。四方囲まれて戦うんだから。後ろの味方に攻撃が減るように囮になりながらも戦うんだから。その上大量に魔物を倒さないと下手すれば全滅するんだ。

 

「僕はトウカと同じで呪いが効かないから、呪いで動きが止まることがない。それにこの魔物の数でちまちま倒しながら進むのは埒があかないよ。もしも死にそうになったら得意の回復薬遠投でもしてくれたらいいから」

「……頑張れよ。そして死ぬなよ」

 

 危険だと分かってても止めないのはトウカなりの優しさだ。実際、あの数の魔物に囲まれて回復しつつも攻撃するなんて出来ないんだから。

 

・・・・

 

「ねえ、エルト、大丈夫なの?」

「死にはしないよ。エルトは自己評価が低いから、言っているよりもずっと強いさ」

 

 さっきまでエルトが居た位置で剣を無造作に振るう彼は、言葉の割にちらちらとエルトを窺いながら言った。何だかんだといいつつエルトを気にしているよう。ヤンガスはエルトに絶対的な信頼をしているのか目の前の敵に集中しているけど。

 

「……エルトには言ってなかったんだけど」

「何?……あぁもう、魔物は減らないわね」

 

 彼は相変わらず綺麗な剣捌きだと思うわ。近くで見ればやっぱりそれを思う。そして体調も悪くて、しかも喋りながらなのに乱れもしない。だけど……顔色は最悪ね。真っ白な血の気の引いた顔、それは貧血とは違う感じ。……本当にまずいとか言い出すの? 今倒れられたら……どうすればいいのかしら? 抱えて逃げるべき?

 

「実のところ、このまま痛みが増していくなら……最深部で私、立っていられる自信はないんだ。だからといってエルトやヤンガスに防具で重い私を運んでもらうわけにはいかない。……どうやら原因は最深部にあるみたいでね……勘だけど」

「見捨てろと言われても従わないわよ。……メラッ!」

「こんな所で犬死にする程私は弱くないさ。最深部について駄目そうだったら私は遥か後方から支援する。動ける場所から。……感じるよね、奥から流れるおぞましい力を、貴女なら」

「……そうね」

 

 痛みをこらえているからか、まだ見ぬ元凶を想っているからか、ドルマゲスのことを考えているのか。分からない、けれど彼の目は何時にもまして鋭く、険しかった。

 

 確かに、この奥にはとても邪悪な気配を感じる。それが、トウカの痛みの原因なのだろうか。

 

 目の前の魔物を切り捨て、彼は剣を収めた。そのまま手袋に仕舞う。そして、群がる魔物を蹴り飛ばした。いつの間にか、武器をすべて仕舞ったようだった。

 

「相当、……やばいね。剣すら掴んでいられない……」

 

 頼もしく、誰よりも強いと思っていた彼はとうとう、よろめいた。

 

 それでも素手でどれだけ魔物を倒しているのかしら。あたしやヤンガスでは到底無理な数を倒していく。遠くのエルトにアモールの水を遠投したり、仲間に降りかかる攻撃を弾き飛ばしながら、進んでいく。一歩進む毎に邪悪な気配と濃厚な魔力を感じる。

 

 原因……彼が前にこうなったと言うリーザスの塔との共通点は魔力、かしら。種類こそぜんぜん違うけれど、魔力に溢れている空気には違いないわ。魔力が濃いと気分が悪くなる、ぐらいなら聞かない事も無いけど……ここまで顕著なのは見たことも聞いたこともない。じゃあ、違うのかしら……。

 

 もう、トウカの顔色は真っ青を通り越して死人のようだった。時折、ちかちかと魔力がトウカの周辺ではじける。火花のようにトウカの周りで魔力が何故か爆ぜ始めたの。あたしのメラも、それに影響されたのか不規則に揺れた。

 

「……トウカ! もう進むのは無理よ!」

「大丈夫、私はまだ大丈夫。ほら、エルトも帰ってきた……」

「トウカの兄貴……」

 

 トウカを見て、慌てて駆け寄ってくるエルトにトウカを見て貰おうとすれば、さっと彼は身を翻して逃げた。まだ動けるよ、という意味らしいけど、もう貴男だけでも戻るべきよ。

 

「……先の方の報告すると、扉があった。中をうかがってみたらアンデット系の魔物が一体いたよ。魔力の根元みたいだった。それを倒せばきっとトウカも良くなると思う」

「……近寄るのは勘弁してもらいたいね」

「瓦礫がいっぱいあるから魔物に遠くからぶつけてくれるだけで助かるんだけど」

「……私はいつ、剣士から投石マシンにジョブチェンジしたの?」

「それだけ話せるなら大丈夫だよね……」

 

 それはそうかもしれない。辛そうではあるけど喋ることにさほど支障はないみたい。繰り返すけど、顔色は死人よ。何喋らせてるのよ、と思わないでもないわ。

 

「で、気になってたんだけどさ。トウカの髪の毛って点滅式?」

「……また白くなってんの?」

「……なってないわよ」

「魔力が光るときにトウカをよく見れば分かるよ」

 

 魔力がぱちんぱちんと、やけにトウカの周りだけ弾け始めた。さっきから爆ぜているのよりもずっと早く。確かに、よく見れば弾けるごとにトウカの髪の毛が真っ白に染まっているように見える。これは……何の現象かしら。あの軽薄な男の銀髪よりも、白という言葉が似合う色。

 

「……ダメだったら撤退するから。でも、私も行くからね」

 

 結局、トウカは自ら危険に飛び込んだ。……この後、彼はらしくなく足手まといになるんだけどね。というか役には立たなかったわ。




聖堂騎士団の指輪「痛いって」
ロンリージョー「」

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