【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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22話 亡霊

・・・・

 

 若干、トウカがふらついてる。……その若干っていうのは、一般的な人が基準だから、トウカにしたら相当何だけど……。一応、傷は負ってないからホイミはかけなくてもいい。でも悠長に休んでいる暇はない。そして、肩を貸すほどふらついてはいない。……でも顔色は最悪。受け答えに問題はない。

 

 僕にどうしろって言うんだ。

 

 魔物は見える範囲にいないから、心持ちトウカに気を使うぐらいしか出来ない。

 

 発見した先のアンデットの部屋にそっと足を踏み入れ、ゼシカの放ったメラが先制攻撃するのを見届けながら僕は剣を引き抜いた。トウカをかばうのは難しいかもしれないけど、やれるだけのことはやろうと決意して。

 

「……苦しみの限界突破ァ!」

「おいっ!」

「トウカの兄貴、治ったでがすか!」

 

 トウカは戦力として考えないでおこう……とか考えていたら、妙に力のこもった声が聞こえた。無論トウカだ。……その髪の毛、真っ白だね。ここから出る時に戻るといいね……。

 

 リーザスの塔でも見た、真っ白の髪の毛に……紫色の目という謎の配色のトウカが飛び出した。素手で。前は目は緑じゃなかったっけ? ……今はどうでもいい。取り敢えずこの亡霊を何とかすればなんとでもなる。

 

「……ホイミ!」

 

 にしても、苦しみの限界突破? 結局は苦しいんだろ、気持ちの上で吹っ切れただけなんだろ! 何時もじゃありえないのに正面から攻撃を食らうとか……そのまま吹き飛んで気絶するとか……らしくないな、もう! あぁ何時もの頼れるダメージルーキーはどこに。バトルマスターでも戦闘狂でもいいからカムバック、ノーマルトウカ。取り敢えず傷は治したから、うん。三人で挑もう……。

 

 心配でたまらないけど、トウカみたいな重い防具の塊を抱えて撤退出来るわけ無いじゃないか。あんなにトウカはふらふらになってもフル装備を外してなかったけど、僕にあれを運ぶのは無理だから。背負った瞬間に潰れるよ、物理的に。

 

「ヤンガス! かぶと割りで攻めて! ゼシカ! ルカニを試してから双竜うちで攻撃して!」

 

 ……作戦、命令させろ。絶対に気は抜けない。この人は、トウカがほぼ一人で倒したあのオセアーノンよりも強い! あの時みたいに単純な動きじゃない!

 

 トウカが何時も斬りかかる時のように体重を込めて槍を振り回し、亡霊を切り裂く。見慣れた動きを自分ですることはあまり違和感が無く、妙にしっくりとする。ザシュッと切り裂いたアンデットの腕からは無論、血なんて出なかった。腐ったような肉がぼろぼろと崩れて、嫌な匂いのする臭気が飛び出しただけだ。

 

「オオォオオォォ……」

 

 ……アンデットなのに、何故か首にロザリオを下げている……ああ、そうか。このアンデットは、比喩でも何でもない本物の亡霊で、ここの、修道院の人だったんだ。そういえば、この場所が廃墟なのは疫病が流行ったからだって、聞いたな。

 

 なんて哀れな人か。ただ祈るように呻き、魔に犯された体は最早言うことを聞かないんだろう。

 

「……ゼシカ、ヤンガスを支援して攻撃! ヤンガスは魔神斬りを!」

 

 ……トウカの為にも、この人の為にも早く終わらせないと。呻く声に、たまに言葉が混じっているのが、微かに聞こえる。神よ、救いよ、助けて、苦しい……そんな声が。

 

「きゃっ!」

「ゼシカ!」

 

 邪悪な紫の光が亡霊の手から発せられる。それは勢い良く後衛のゼシカにぶつかり、ゼシカは吹き飛んだ。唸りを上げて斬りかかるヤンガスの攻撃も、効いてはいるだったけど、死人に痛みなんて無いのだから動きが鈍るはずもない。

 

 僕はゼシカにホイミをかけてから、勢いをつけて亡霊の背後から襲いかかる作戦を取る。進む力を利用して槍を突き付けに、駆ける。でも、亡霊は僕が迫ることを人間を超えた速度……トウカでもやるけど……で僕に振り返り、手を向けてきた。杖が振られる。……嫌な予感がするけど何かされるより先に攻撃すればいい、よね。

 

「オオオオォォォオオオオオオオッ!」

「うわっ!」

 

 言葉にもならないおぞましい叫び声と共に、炸裂した火炎の中級魔法。僕の使えるギラの上位転換ベギラマだ。それをほんの顔の先で放たれた。……なんとか直撃は避けたけど、火傷は流石に……。

 

「大丈夫でがすかっ?!」

「ヤンガス! 後ろ!」

 

 すぐに駆けつけてきてくれたヤンガスも亡霊のベギラマの餌食になってしまう。再び赤い光を亡霊は手に灯す。このままじゃ、後ろで警戒しているゼシカも、危ない! ああ、なんてことだ。それだけじゃない。このままここでトウカに魔法が飛んだら、魔法に弱いトウカが無事なわけがない。早く、この亡霊を……!

 

 取り落としていた槍まで跳ぶ。バッと振り向く亡霊からはベギラマがまた飛んでくる。今度は避ける余裕はなく、そのまま自分からぶつかって突っ切った。燃え上がる炎に囲まれて痛みが激増するけど、そこを気にしている暇はなかった。炎に囲まれていた僕の動きは見えていなかったようで、無防備になった今しかチャンスはない。

 

 痛みを堪え、渾身の力でトドメとして心臓を貫いた。勢いをつけて……ひと思いに。磨きに磨いた鉄の槍は煤けていたけど、それも構わず、亡霊を貫き……亡霊、いや、「彼」は朽ち果ててゆく。

 

 その姿が輝き、塵となって空気に溶けてゆく。槍から伝わる手応えが消えてゆく。同時に天から光が降り注いだ。僕達にも。それはとても温かな光、柔らかな光……彼が二度目の死を迎える。

 

「オォ、神ヨ今ソチらに向かいマス……!」

 

 一層眩ゆくなった光が、視界も何もかもを包み込んだ。

 

 じくじくと痛んでいた傷までも和らいでいくのは、気のせいだろうか。

 

・・・・

 

 亡霊からの光はすぐに止んだわ。あんに大怪我だったエルトも光が止んだ頃には服まで元通りになっていてちょっと皆できょとんとしていたぐらい。亡霊のいたところには光り輝く金のロザリオが、座り込んでいたエルトの手のひらに落ちてきただけで何も残ってはいなかった。

 

 で、戦いの後には急いでマイエラ修道院に戻らなきゃいけないんだけど……その前にこの死闘では役立たずだったトウカを起こさなきゃいけないわ。最早体力も傷も全快して魔力まで元に戻ったエルトやヤンガスでも金属製の重い防具の塊であるトウカを運ぶのは辛いらしくて。あたし? 論外に決まっているでしょ。あの二人ほどの力はないわよ。……多分この問題の張本人であるトウカには可能なんだろうけどね。

 

 ちょっとあたしもトウカを揺さぶってみたけど、重いにも程が有るわよ。あの装備であの速さで駆けまわったり戦ったりしているトウカって、トウカって……!

 

「…………、どうしようかな」

「叩き起こせば? それじゃ起きないの?」

「まぁ、一般的にはそうだよね……」

 

 気絶したトウカを起こす時、エルトは何故か躊躇しているみたい。傷はあの光が回復させたし、トウカの体調を悪くしたであろう悪い魔力は綺麗さっぱり無くなったし、流石に持ちあげれないからって引きずるのは可哀想だし……さっさと起こせばいいのに。……あら?まだ髪の毛元に戻ってないわよ?さっきみたいな白色じゃなくて、なんか光っているけど……。

 

「僕が気にしてるのはさ……トウカお得意のオートカウンターかな」

「……何でがすか?」

「トウカはね、一度寝込みに暗殺されかけたってシャレにもならないことがあったんだけどさ……うっかり暗殺者の急所を一突きしてさ……そいつ、生きてたけど、再起不能な状態でさ……」

「す、凄いでがすね……急所でがすか……」

「ちなみに心臓でも頭でもないって言っておく。話を聞いた時、僕ぞっとしたよ……絶対トウカのカウンターだけ食らわないって決めたんだ……」

 

 ……反撃を恐れてるわけね。そこまで恐れるのはちょっと分からないけど……。でも、あの力で殴られるのはたしかに怖いわね。

 

「……味方と敵の区別はつかないのかしら。その暗殺者と違って殺気がないなら……」

「曰く、完全に無意識だったって。……それにトウカの家はすごい警備だからそんなに寝てるときにオートカウンターが発動したことはないんだ……だからデータがない……」

「驚かすために遠くからメラでも掠らせればいいんじゃない?」

「トウカ死ぬって」

 

 ……流石に魔法に弱くてもそれはないと思うわ。あんなに強い人がメラが掠るぐらいで死ぬかしら。一般的なご老人でも酷くとも火傷で済むわよ。回復にだって薬草一つでお釣りが来そうよ。それに掠らせるだけよ。本当に当てるわけじゃないんだからそもそも火傷させないように熱さだけにするつもりなんだから。

 

「トウカは……えっと。知ってるかもしれないけど、魔法耐性がマイナスなんだよ。むしろ常に弱体化してるみたいな体質でさ」

「……それが原因かしらね、魔力に弱いのは」

「多分ね。だから魔法を近付けるのは避けてるんだ。ホイミでも異常に効くからね……ベホイミ以上にさ」

 

 想像以上ね。……ということは魔法は駄目ね……。あら、魔法は駄目?

 

「キアリクって睡眠解除も出来たわよね?」

「残念だけど使えないなぁ……ヤンガスは?」

「無理でがす……」

「じゃあ、満月草はないの?」

 

 この前キアリーを覚えたエルトなら出来ると思ったのに……。あたしは攻撃魔法や妨害魔法しか使えないし、ヤンガスも無理……なら満月草って考えるわよね。

 

「……そういえば、あったなぁそんな物も」

「あなたたち、旅の基準を忘れてるの?」

 

 魔物と戦うんだから常備は勿論、薬効ぐらい忘れないで欲しいわ……。そんなことも覚えていない旅人って、わりと早死すると思うのだけど……ああ、それを補って余りあるトウカの戦闘力でカバーしてたの?どこからでもアモールの水が飛んでくるし……。

 

「……なら、これを……」

 

 エルトは少し迷いながらも、袋から満月草を出して、そして、いきなり気絶しているトウカの口に満月草をねじ込もうとして……なんて事を!

 

「……、おはよう」

「あ、効いた」

「そんな馬鹿なこと……あら」

 

 ……そういえば即効性だったわ。あまりにも行動が衝撃的すぎて忘れてたわ……。……目覚めた瞬間から口にねじ込まれていた満月草を何事も無かったように食べてるトウカも常識知らずは相当ね……それ、林檎じゃないのよ。本当はもっと丁寧に与えるものよ。……でも、エルトがこの状況でトウカが満月草を使う場合、エルトに叩きつける姿が想像できたのだけど……マジックアイテムに似た満月草はそれでも発動するけど、まさか、ね……。

 

「……うん、激まずい。ごめんね、迷惑かけた……。もう完全復活したから大丈夫だよ」

「本当だよね?」

「そんなところでボクは嘘を吐かないよ」

 

 困ったように眉を顰めたトウカは勢い良く立ち上がったわ。そして地面にめり込んでいた愛刀をひょいと持ち上げて、訝しげに自分の手を見つめた。相変わらず色の抜けた髪の毛を弄ると、手袋から手鏡を取り出して顔を見た。どうなってるか、確かに気になるわよね。

 

 顔を上げたトウカは先程までではないけれど、血の気が引いた顔色になっていたの。でも、頭をぶんぶんと振って動揺を振り払ったトウカは、部屋の奥にある洞窟へ真っ先に足を踏み入れた。




満月草「えっ」


原作との変更点。

なげきの亡霊のベギラマの頻度増加、詠唱速度上昇。通常攻撃にスタン(1ターン休み)効果追加。通常攻撃上昇。なげきの亡霊の行動を1ターン二回ほどに。HPはやや上昇で。仲間呼びまでするとエルト→ヤンガスと戦闘不能になって最終的に全滅しそうなので削除。

そして空振りなんてしてたらこちらも全滅しそうなのでヤンガスの魔神斬りは必中です。代わりに消費MPを上げている(約3倍の10)ので原作よりも連発できません。今のところMPマックスで三回ぐらいが限度。……それで苦戦されてトウカが離脱しているシーンで頭の中で全滅されてもどう書けばいいのか分からないのでヤンガスのMPは原作の1.2倍です。相手の強さが数倍だったらそれぐらいはいい気もします。(各パーティメンバーに何かしらの強化を施していますが後ほど)

魔法に関してはドラクエ10の様に距離を取ればグループ攻撃魔法も食らいません。(ヤンガスが受けた時はエルトの盾になる形になっていたのでエルトは受けていません)

これでもトウカの戦線離脱がなかったらここまで苦戦しなかったはずなのでイージーモードだと言いはります。

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