【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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27話 文句

・・・・

 

「……世界地図が何の詫びになるんですか、エルトさん」

「普通はなるもんですよ、トウカさん。……まさか暗記してるとか言わないよね?」

「言うから、覚えてるから詫びにもならないって言ってるんじゃないか」

 

 ボロボロの世界地図と、個人的な理由で嫌い、いくら普段の生活第度が悪いからって、体の良い厄介払いとして追い出される哀れなククールさんを旅の仲間に加えることの、どこらへんが詫びなの?

 

 ククールさんは、動きを見るに確かに戦力にもなるし、聖堂騎士である以上回復魔法を使うだろうし、私たちにはない角度で戦えるだろうけど……本人の意志は? どこ?

 

 それにさ、繰り返すけど世界地図は頭に入ってるんだけど。我ながら完璧にね。……それも死に物狂いで勉強したからさ。

 

 義父上と義母上に認められたくて、恩に報いたくてね。……まぁやり過ぎって怒られた若気の至りの一つなんだけどさ。ついでに言うと私が家から持ってきていないとでも。なんだかんだ言っても、私は貴族なんだから……。

 

 その上今すぐここで書けって言われても出来るんだけど。紙と羽ペンとインクならあるし。

 

「……さぞかし高等教育を受けられたのですな」

「そうですよ」

「少しは謙遜しなよ、トウカ」

「実際高等教育だったんだもの」

 

 この世界の高等教育ってね、数学とか理科系のは結構劣ってたけど、他は前世と変わりなかったりした勉強の数々だよ? それに経済学とか、人の上に立つものになるための教育とか。使えないけど魔法の勉強とか。……お世辞にもこの世界は前世ほど発達してるって言えないんだから、どこをとっても高等教育だよ。

 

「……しかし困った」

「もっと困って下さい」

「…………。あなた方にお渡しする物が思い付きませんな」

「ちなみにお金の援助は要らないんで」

「……トウカ基準……」

 

 私個人って意味で私財を投げ打てば余裕だと思うな。あとマイエラ修道院はモノトリア家が大量に寄付してるんだからそれ以上にもらわない限り意味ないし。返せる額だとは思わないけど。返してほしくもないし、今後の寄付は私が直々に行ってやる。勿論、ドルマゲスをぶっ飛ばしてからの話。

 

「トウカの兄貴が怒ってらっしゃるでがす……」

「トウカが怒るのは当然よ。……やり過ぎだけど」

 

 さっきからマルチェロ団長は冷や汗を頑張って隠しながら怒りを押し隠すなんていう器用な真似をしてるなぁ。あははは。空々しいけど、私が片手を常に剣に添えてるからかなあ。

 

 それとも前に拾った、誰も装備しない、要らない銅の剣をぐしゃってして丸い塊にした、私なりの暇つぶしを見ちゃったからかな。見ちゃった、というかわざと見せたんだけど。

 

 鉄格子のはさ、残骸を見るだけだったからインパクトが薄いと思ったからそれより脆いもので派手に実演してみただけなんだけど。勿論それは分かりやすい脅し。……あの鉄格子の時のほうが簡単だったのは何だったんだろう。

 

「……トウカや」

「はい、陛下」

「それぐらいにしなさい」

「はっ、申し訳ございません」

 

 ……しばらく反応を楽しんでいたら、陛下にお咎めをもらった。 話が進まないし、時間の無駄だというわけですね、陛下。了解いたしました。さっさとククールさんを連れていきますとも。お詫びに何を貰ってもあんまりなんだけどな。

 

「わしが化け物扱いされたことを怒ったのじゃろう?」

「勿論です、陛下。私は陛下が慈悲深く、この者をお許しになろうとも、陛下に無礼を働いた者を許しません。少しならともかく、この者は陛下を牢に入れるという暴挙をしたのです。ですから、望んで下されば今すぐにでも切り捨てます」

「やめい。考えるのじゃ……彼を無駄に脅すことはトロデーンの恥になるかもやしれんぞ? 冷静になるのじゃ」

「それは……。……」

「トウカ、口を暫し閉ざすだけでよい。お主がわしたちの事を人一倍大切に……家臣たちの中でも特に想っておるのは分かっているのじゃから」

 

 ……私が陛下をお守りするのは、私自身の忠誠心じゃないと、思うんだ。そのことを陛下は知っておられないから、そう私を高評価なさるのだ。小狡い心を、私は押し隠しているから。

 

 私は、私自身が家族になってくれたモノトリア家に捨てられたくないだけなのに。打算的で、自己満足でやっているだけなのに。そんな汚れた忠義に、陛下はそこまで私の為に言葉を下さるのですか。

 

 どうして。エルトは優しいし、私の親友であってくれる。ヤンガスはエルトを手伝っただけの私を敬う。ゼシカは本物の化け物染みた力を持つ私を見ても臆さず仲間でいてくれる。あの鉄格子みたいにぐしゃぐしゃにされてしまうんだって思って怯えてしまってもおかしくないのに。

 

 マルチェロ団長は、オディロ院長を守るため、というなら決して間違った判断をした訳じゃない。鬱憤を晴らすためにやった私の方が、悪いのかもしれないのに、無理難題を押し付けたみたいだ。

 

 口を閉ざそう、ご命令のままに。私の全ては、義母上と義父上のご意向のままに。つまり、モノトリアとして、王家のお方の、お言葉のままに。

 

「……陛下」

「なんじゃ、エルト」

「トウカはああみえてもネガティブにすぐ陥る思考回路なので……無言で自分を責めています。多分とんでもない方向に思考がとんでますよ」

「……扱いに困るの」

「ゼロか百ですから……」

「あやつの父にそっくりじゃの……」

 

 私は義父上に似ているの?なにそれ嬉しい。

 

 単純な私はその一言だけで機嫌よく無言でにこにことして、逆にマルチェロ団長に引かれていた。なんで。ゼシカもなんで引くのさ? 忠誠心が重い? 重い分にはいいんじゃないの? 軽いよりは。狂信的? 妄信的? それは褒め言葉だって!

 

・・・・




トウカは充分トロデーン王家狂信者です。

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