【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

30 / 173
29話 道中

・・・・

 

 平穏だった草原に、緊張が走った。それは簡単な話で、魔物が現れただけ。でも、命のやりとりをする以上、あたしたちは武器を構えて身構えたわ。

 

 そして、最早普通のコトだけど、一番最初に動いたのは魔物ではなかったわ。勿論、目の前の魔物を切り裂きつつ突撃し始めたトウカ。

 

「……嘘だろ」

「アンタもさっさと戦いなさいよ」

「あぁ」

「……駄目だわ、意識が全部持って行かれちゃってる」

「あ、ああ」

 

 何かトウカに幻想でも抱いていたのかしら、この男は。小柄でも彼は世界最強の剣士トウカ。それに気づかなかったのかしら? それに、目の前で繰り広げられた、頑強なはずの金属が粘土扱いされていたあれを見て、まだトウカが自分より弱いとでも思っていたのかしら。

 

「ふっははははははっ! あはははっ! 戦え戦えっ!」

「ちょっと、トウカ!」

「トウカの兄貴、どこへ行くんでがすかーーっ!」

 

 まだまだ新入りだったころには慌ててトウカを追いかけたあたしも、もう慣れてしまった、「ハイになったトウカが魔物を狩りながらどこまでも走っていく」構図。

 

 エルトが追いかけ、ヤンガスが慌てるのは前と変わりないけど、もう分かっちゃったの。彼、放っておいても帰って来る。

 

 でも、今はそのことよりも、隣で呆けるこのククールが問題ね。いくらトウカが間引いてくれたって、魔物はそれでも居るのよ? 気を抜いたら怪我をして、最悪命を奪われるのには変わりないのに。

 

「ヒャドッ! アンタ、前を見て!」

「……っ、悪いな」

 

 でもやっぱり初めて見る人間なら思わず呆然としてしまうのは仕方が無いかもしれないわ。ククールはレイピアを一応引き抜いたものの、戦いはあまりにおざなりで疎か。寸前までトウカの見事な剣捌きっぷりとか、パワフルなヤンガスの斧捌きとか、とても早いエルトを見ていたから、打突武器は……あの三人に比べてしまうとしょぼく見えるだけかしら。

 

 それは失礼ね。そうだわ……後衛に回されるぐらい、エルトは回復魔法に期待しているのかしら。あたしが後衛にいるのは攻撃魔法を魔物に邪魔されないように打つためだから。

 

 とりあえずククールについては「慣れて」としか言い様がないから置いておいて。あたしはとりあえずヒャドを唱えて前線の加勢するのだった。

 

・・・・

 

 なんというか、想像以上にククールの動きがぎこちない。戦い慣れは……まあ、しているけど。ドニとマイエラ修道院を往復するぐらいは余裕だけどそれ以上ではない、みたいなね。

 

 対人慣れは……分からないけど、多分まあまあ。ここで一応魔物と戦えているのはひとえに慣れ、だよねぇ。ここらへんの魔物は何年も戦ってきたみたいだから。……新しい魔物が出たら危ない証拠なんだけど。

 

 単騎突撃、なんて私はいつも言っているわけだけど、これは魔物や地形の調査も兼ねている。たまに飛び出してどっかに行きながら戦い続けているのは大体そう。勿論、テンションが上がりすぎて半分暴走しているものあるんだけど……それについては実に申し訳ないとは思っている。

 

 特に回収しにくるエルトとか、心配しないでいいと何度言っても心配してくれるヤンガスには。ゼシカは慣れてくれたようで何よりだけど。いやあ、人間って適応力がすごいねえ。

 

 で、調査している理由は陛下や姫の安全を確保するためっていうのが殆どで、残りは自分たちの安全のため、それから……私情だけど世界を見るため。この世界は前世よりも沢山の美しい自然があるんだ。

 

 それを見なきゃいけない気がして。それで迷惑をかけている自覚はあるんだけど、それだけは止められないかな。そりゃあ陛下にお止めになられたり、姫に咎められたら止めるしか無いんだけど、とても寛大なお二方は止めないでいてくださるから……。

 

 にしても、魔物ってのはほとんど人間を見た瞬間に襲ってくる。何でだろう? 自分より弱いやつだとものすごい勢いで逃げるから生存本能はあるみたいなんだけどな。自分のほうが弱いのに攻撃してくる奴はただの馬鹿だとは思うけど。たまにいるんだけどね。立ち向かう勇気と逃げない無謀っていうのは違うんだけどな……。

 

 魔物は言うほど頭は悪くないんだけど、たまには人間みたいに馬鹿な奴がいる。どこでもいっしょみたいだね。……ここまで分かっていても、魔物にも確かに心があるって分かっていても自ら戦い、殺し続ける私は狂っているんだろうか。

 

 地球の、しかも日本で生まれておきながら倫理観なんて全部変わってしまったし……。

 

 我ながら何でだろう。彼女の意思を押さえつけたからかな。

 

 もうどうでもいいんだけど……ためらったら何も守れないのは分かってるし。守れない私なんて要らないから……悪いけど攻撃の意志が少しでもあるなら魔物は皆殺しかな。敵意がないのはたまにいるから、そういう魔物だけは放置だけど。

 

 それでも慣れ合う必要はないと思うんだ。それから、魔物だからってだけの理由で目の敵にする必要もね。

 

 追いかけてくるエルトとヤンガスの足音に振り返りながら最後の一匹の首をストンとはねた。横薙ぎ一銭、片手で十分。倒した敵はスライムベスだから首って言っていいのかわからないけど、……ああ、正しく言うなら真っ二つかな。目と口の間で切ってみた。

 

 ……前みたいに料理……滅多斬りにはしないよ? あの時より魔物の数は減ったし、ふざけたら怪我するかもしれないから。今はそれほど創作意欲も湧かないし……自分の発想の限界にぶち当たった気分かな。

 

 淡々と、というわけじゃないんだけど、結構機械的に魔物を倒している自覚はあるなあ。それは命を奪うただの兵器になってしまった気がするから、なるべく「戦い」自体を楽しむようにしている。それはそれで狂っていると思うのは気のせいじゃない。

 

「トウカ! あんまり向こうに行かないで!」

「ごめんよ?」

 

 おっと。これは本気で説教される前に戻らないといけないね。キレたエルトに怒られるのは勘弁してもらいたいな。

 

「魔物は?」

「トウカがだいぶ倒してくれたから全部倒せたよ」

「それは何よりだね。ククールは?」

「……自信喪失中かな」

「そうか。ゼシカは怪我はしてなかった?」

「ちょっとだけ。それはククールがホイミしてくれていたからもう大丈夫だって」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。