【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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30話 道中2

 確信犯気味だったけど、随分と遠くへ行ってしまっていたみたいで戻るのには時間が結構かかってしまった。もはや陛下にも姫にも半分呆れを含んだような、微笑ましいものでもご覧になられたような、そんな感じにしか見られなかった。

 

 若干、若干だけどくすぐったいというか、うん。恥ずかしい。体の年齢でも十八歳で駄目な行動。精神年齢は……おっと、考えてはいけない。三十路というのは考えないでいたいな……。……体の年齢に割と引っ張られているからそんなに落ち着いてもいないし、理性的でもないけどね……。

 

 そんなことより、かなり落ち込んでいるククールを励ますほうが先かな? 励ます、というかフォロー?

 

「……おぅい?」

「…………」

「酸欠かな?」

「だから、自信喪失してるんだって」

「これ、見たことあるよ。ボクに剣で挑んできておきながら三秒ぐらいで闘争心を失ってしっぽ巻いて逃げるやつの顔」

「……毒舌なこって」

「お、メンタル強いね。復活がこんなに早いのは珍しい」

 

 わざと酷いことを言ってみれば目に光が戻ってきたククールがちゃんと言い返してきてくれた。うん、うん。それぐらい立ち直りが早いんだったら大丈夫だな。これからも大丈夫。ダメな奴はこの時点で再起不能になるからね。極端な話だけど。

 

「そういえば、もうお昼よ?」

「ボクもお腹減った」

「……まだ中継地点になるようなものも見えないのに」

「野営の準備じゃ」

「はっ!」

 

 さてと。ご飯を作るならボクとエルトに任せてもらって、あとはみんなに手伝ってもらうだけでいいよね。

 

「ヤンガスは水汲み、ゼシカとククールは薪拾いをお願い。トウカは……かまどでも作ってて」

「ボクも料理を作るよ?」

「とりあえずかまどがないと駄目だよ。僕は下準備するからさ」

 

 私がかまどを作る? ……成る程。適当な岩でも割って岩を組めってことだよね。確かに力がないと出来ないよね。少なくともゼシカには言っちゃ駄目だよね。……ボクも女何だけどな。薄々気付かれてるかもしれない、とか昔は危惧したけどそんな心配は全部無駄だったし……自負できるのは、このメンバーで私が一番力が強いことかな。

 

 とりあえず適当に転がってた岩をチョップで割ってみた。ひくりとエルトの顔が引きつりかけた。……なんでさ。 やれって言ったじゃない。

 

まぁいいや。気にしたって、エルトといくら押し問答をしたって私がやることは変えないし。やるだけ時間の無駄無駄。

 

 綺麗に割った岩だったものを割れ目から引きずり出し、丁度いい大きさに割るため再度片手でチョップ。今度は手に持ってやってるから落として割らないようにしないと。よし。いい感じに岩のパーツが出来たから、今度は組む。

 

 火をつけてから草に燃え移ったら嫌だから周辺を軽く草むしりしておく。こういうときは軍手変わりに手袋をしてるのがすごく助かるなぁと実感できるね。草むしりしたら地面に岩をめり込ませながらも岩を砕かないように注意して岩をぶっさして組み立てた。

 

 おまけに綺麗に作った一枚の岩に正拳突きを食らわせて真ん丸の穴を開けたプレートを置けばコンロさながら、間違っても即席には見えないかまどの出来上がり。ちゃんと空気の隙間を考えて組んでみたから完璧完璧っと。

 

 一連の行動を見ていたエルトがぼそっと、誰がそこまでやれって言ったよ……的なことを言っていた。いいじゃないか、水汲みや薪拾いより先に終わってるんだから。この間五分。

 

「どうだ!」

「……いっそ芸術的だね、かまどなのに」

「褒めてるのか貶してるのかいまいち分からないんだけど」

「褒めてるよ」

「呆れ三割ぐらいで?」

「勿論」

 

 それは軽く貶してると私は思うな。まぁいい、悪意はないし、エルトだから。最近エルトはなんか冷たいというか、なんというか。多分旅で疲れてるのに私がいろいろやらかしているからだと思う。自覚はまあまああるけど……止めてあげるつもりはないからエルトの言動にいちいち何も言わないでおく。

 

「さて、何しようかなぁ……」

 

 エルトは料理を作るのが割と好きだ。だから傍目から見ても楽しそうに下ごしらえをしている訳。邪魔したくはないんだ。多分申し出たらやらせてくれるんだろうけど……。なんか悪い気がして。本格的に始めるときには大変だろうから手伝うけど。何をしようか……水も薪もみんなが用意するしなあ……。

 

「そうだ、包丁を研ごう」

「止めてよ」

「なんでさ?ボクは武器の手入れをするためにわざわざプロからやり方を習ったっていうのに……」

「トウカが包丁を研ぐと上手過ぎてまな板も真っ二つになるからだよ!」

「お、おうよ……そうか……」

 

 結構な剣幕で言い返された。そうだったな、うん。そうだった。私が気合いを入れて研いだ包丁は最早魔物狩りの武器並みの切れ味を誇る業物になるって父上が褒めてくれた。実際、厨房でコックさんがまな板を真っ二つにしてた。いけないな。……これが俗にいう黒歴史ってやつ?よくわからないけど。

 

「念入りに魔物除けでもしてきたらどうかな」

「トヘロスの魔石の粉とか撒いてみよう」

「ごめん、まさか万単位の値段の高級品を出してくるとは思わなかった。お願いだから止めてよ」

「聖水はさっきまいちゃったし」

「……多分トウカより強い魔物はこの辺りには居ないはずだよ」

 

 それも……そうかもしれないな。何時も私が魔物狩りをして鍛えてたトロデーン地方よりもここは魔物が全体的に弱いから。

 

「そうこうしてるうちに下ごしらえが出来ちゃったから手伝ってよ」

「うん」

「そんなに暇なら剣の素振りでもやってたら良かったのに」

「……それもそうか」

「じゃあちょっと火をおこして」

 

 ゼシカが無言で薪を積み上げてくれていたのでそれをかまどの中に組む。なんというか、ゼシカは大分疲れたみたいでぐったりしていた。そっと私の上着を肩にかけておいた。私のことを男だと思っているみたいだけど、実際は私も女だから……うん。気障じゃないよ。汗臭くはない、よね?自分の匂いとか、よくわからないから自信ないんだけど。

 

「ようし」

「ねぇ、あれは何をしたの?」

「トウカには火をおこすことを頼んだんだけど……って」

 

 疲れてるゼシカが目を見開いてこっちを見ている。料理の手を止めて、エルトも。帰って来たてのヤンガスや、ククールも。え、私そんなに変な事、してる? 単に火を起こそうと適当な枯れ草に向かって自前の火打ち石を叩いてるだけなんだけど。

 

「トウカ、火打ち石ってさ」

「何?火はついたよ?」

「うん、そうじゃないんだ。なんで叩き潰しちゃってるの? 使い捨てじゃないんだよ?」

「分かってるよ? これだって初めて使う奴じゃないし」

 

 なんだ、たまたま火打ち石が砂になる光景を見て私が火打ち石を使い捨てにでもしてると勘違いしたのか。新品の火打ち石をいちいち叩き潰す怪力馬鹿だと思ったのかな……ちょっと傷つくけどそんな勿体無い阿保らしいこと、しないし。したくもないし。

 

「……ゼシカ、そうらしいけど」

「あたしが言いたいのは火打ち石は使ったって砂にはならないってことよ。半永久的に使えるわよ」

「……。え、たまには砂にならないの?」

「なるわけないでしょ……」

 

 お……私は些細なことでも人間ばなれしたことをしていたのか。初めて知った。 ……大昔の野営で義父上が火打ち石を砕いてたのは何だったんだ?

 

「あっしも叩き壊したことはあるでがすよ」

「……そう」

「ヤンガス、如何にも力が強そうな君がフォローしても……」

「ヤンガスでも潰すんだからしょうがないね、そういうことだから!」

「フォローにならないよって、……え」

 

 エルト、私がそんなに傷つきやすい人間に見えたのかね……。ちょっとばかり普通より力が強いのは知ってるし。

 

・・・・

 

 野菜を切るのはエルト担当、味付けその他はあのトウカ担当……。若干不安なのは俺がトウカの性別を男だと確信したからか。

 

 楽しそうににこにこと笑うあの顔は、確かに少女めいた女顔だし、身長も男としては低めだが、あの力は気のせいでは済ませられなかった。

 

 再び、納得しようにも無理だった。俺は、自分が弱いとは思わないが、彼に比べたらただの軟弱野郎だろう。……ヤンガスですらな。

 

 聞くに、エルトとトウカはトロデーン王国の近衛兵らしい。エルトもその細身に童顔な風貌からは想像出来ないほど力も剣の腕も強かったから、あれはお国柄なのか。見た目と強さのギャップはお国柄なのか。トロデ王も王に見えない姿をしているし、そうなのか。

 

「あ、この料理は肉じゃがっていうんだよ。ヤンガスもゼシカもククールも知らないみたいだけど」

「どうやったらこんな味になるの?」

「秘密だよ、エルト」

「そう……」

 

 そっと、肉じゃがというらしいが、初めて見る料理に口を付けた。繊細な性格とは言いがたいトウカ味付けの料理……不安だ。と、思っていたんだが。

 

 なんであいつは女じゃないんだ。おかしい、世界はおかしい。そう思うほど、料理が美味かった。世界はおかしい。不条理にも程が有るだろ。

 

「なんかククールが挙動不審よ」

「ボクが料理下手だと思って警戒してたんじゃないの?」

「トウカの兄貴の料理が不味いわけないでがす」

「器用に百面相してるなぁ……」

 

 こそこそと耳打ちし合っている内容が、何となく胸に突き刺さった。いっそ、無邪気に思えるほど色んな感情が渦巻いているトウカの目が少し、細められた。 黒色がこちらを見据えて離さない。

 

「警戒してるの?」

「……は?」

「え、違うの? なんか、覇気がないし」

 

 覇気がない、か。それは問いかけてきているトウカの性別のせいである気がするんだが……自業自得なので黙っておく。単に、明らかに一撃で俺を葬れる力をトウカが持っているからな気がするが。俺はいつからそんなに臆病になったのか。

 

「出会って日が浅いからじゃないか?」

「そうかな。ボクね、人見知りはする方だけど警戒解くのは早いから、その気持ちは分からないや」

 

 言い切るとパクリと人参を食べて幸せそうにした。もうこれなら男でも女でもいいやと思わせる……守りたい想いが湧き上がるような、ふわりとした笑顔で。いやいや、何度も思っているが、トウカの方が俺より強いんだ。何を考えた、俺よ。気をしっかり持て。

 

 隣にはゼシカという魅力的なレディがいるんだ、何、童顔の少年に見とれているんだ。明らかに年下だろう。……そういえば年齢を酒場で言っていた気がする。……確か、トウカが十八歳だったから、……二つ年下か。何で俺は年齢の対して変わらない野郎に一喜一憂してるのか。

 

「トウカは見極めが早いんでしょ」

「そうとも言うね」

 

 ああ、でも、それでもなお、可愛らしく見えるのは俺の頭がおかしいに違いない。

 

・・・・

 

 休憩と食事を終わらせたのでまたアスカンタへ向けて進む。トウカは休憩の時に聖水を撒き散らしまくっていて、少し服が被ったからか、魔物が寄ってこないと不満げだったけど、魔物が居なくて戦闘もない、実に快適な旅路だった。

 

 ドルマゲスを倒すためには今のままじゃ駄目で、もっともっと強くならなくちゃいけないのは分かっているけど、こんなに平和なのは久しぶりで何時までも続いて欲しかった。戦いなんて無い方がいいに決まっている。

 

 魔物が出ないので別にトウカが単騎突撃しながらどこかへふらっと行ってしまうこともなく、普段前衛の僕やヤンガスが怪我をすることもなく、それがとても嬉しかった。

 

「……気楽だな」

「何時もはこんなことにはならないのよ?」

「そうだろうな、見ている限り」

「ああ、あれのこと?」

 

 ゼシカが指し示して居るのはトウカとヤンガスだった。例の、身長程もある、とてつもなく重い大剣を右手に構えながら魔物の出現を待ち望んでうずうずしているトウカと、武器こそ抜いていないものの、やっぱり何かうずうずしながらトウカの隣で周りを見回すヤンガス。

 

 ヤンガスは最初はそうでもなかったんだけど、トウカを尊敬するあまり、行動を共にしているうちにトウカのバトル好きが少し、うつったみたいだ。長年トウカと一緒の僕も戦いというか、試合なら好き(ただし主には観戦)だからうつるんだろうか、戦闘狂って。 なにそれ怖い。

 

「普段は戦い漬けだった証拠みたいなもんだろ」

「そうね……あたし、短期間であれだけ強くなれるとは思ってなかったわ」

 

 ……主にリーダーである僕のいたらなさと、トウカの強行突破がゼシカに多大な迷惑をかけていたみたいだ。もう少しペースを緩めるべきか、それとも魔物を地域で絶滅寸前まではいちいち追い込まずに進もうか。

 

「全く……人は見た目によらないのは知ってたつもりなんだが、こうも顕著とはな」

「……どういう意味かしら」

「さてな。ま、レディの美しさは違わなかったようだが」

「…………」

 

 流れるように人を口説くようにさらっと誉めるククールにはいっそのこと感心する。会話を聞いていたのか、ヤンガスが忍び笑いをしている。僕も……ちょっと台詞が臭いと思う。正直、ククール並みのイケメンじゃなかったら許されないよね。……イケメンでも許したくないのに。

 

 意外にもトウカは笑うでもなく、ゼシカのように顔を歪めるでなく、無反応だったけど。……ああ、トウカも割とああいう台詞を吐く人間だったね。

 

 まぁ、私欲じゃなく、必要な協力や情報を得るためだけにだけど。あれは立ち振る舞いが優雅なトウカでも許されるよね。僕は絶対にやりたくもないし、やったところで白い目で見られること必至だけど。

 

「ゼシカが性格も見た目も美人で素晴らしいレディなのは今更じゃないか、何言っているんだ。分かりきったことを何度も言っても安っぽいよ?」

「……そうかい」

「ククール、君を非難しているわけじゃない。ただ、ゼシカが美しいことは周知の事実。彼女が不必要に恥じらう事はない。…………、うん、似合わない台詞ごめんね。なんか、歯が浮く言葉を聞かされてみたらククールもきっと客観視出来ると思ってさ……ああ、鳥肌立った……」

 

 ゼシカが頬を染める勢いで演じて見せたトウカ。すぐにブルっと身震いしてみせたけど、ねえ……君、プレイボーイにでもなるの?

 

 ククールの客観視は……要らないと思うけどな。そういう人なんだと思って……。

 

 すると、それまで笑顔だったトウカがふっと暗い表情になる。俯き気味になって……怖い。まき散らされている雰囲気というか、オーラがどんよりしている。ねえ、いきなりどうしたの。

 

「イケメン羨ましい、何をやっても許されるんだから……なぁ、エルトにヤンガスにククール……」

「……トウカや、おぬし、美的感覚は大丈夫かの?」

「父上は母上の顔を見て育ったので大丈夫かと、陛下」

 

 さ、刺されるかと思った。イケメンとか、僕に限ってそれはない。トウカだって似たようなもので、美的感覚は人それぞれ。

 

 ククールに嫉妬するのは分からないでもないし、ヤンガスが見るからに力強い人だから、トウカの嗜好でイケメンなのは分かった。でも、隣のゼシカの顔を見た方がいいよ。思いっきりひきつってるから……。

 

「この見事なまでの童顔を見よ。この、十五、六に見られる悲しい十八歳の顔を」

「……悪くはないと思うんだが」

「そうか、ありがとう」

「トウカの兄貴はいつだって格好いいでがすが、どうしてそう、ネガティブになるでげすか?」

「ボクの振る舞いは人真似だからだけど。主に父上の子供時代。似合ってないでしょ?」

 

 ……ああ。なんか分かった。あの人ならしそうだ。


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