【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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32話 喪

 三年前から、だっけ。いまいち記憶は定かじゃないけど確か、それぐらい前から。アスカンタという王国が喪に服し始めた頃はね。理由は簡単、王が溺愛していたセシル王妃が病で亡くなったから。パヴァン王は悲しんで悲しんで、いまだに立ち直れていないとか。

 

 殆ど関わりのない王国の事情だし、これぐらいしか覚えてないけど……。なんというか……情けない、と不敬にも思ってしまったんけど……。

 

 私はトロデーン王家に仕えるモノトリア家だから、トロデーンの事以外はどうでもいいんだけど、流石に喪が長すぎて外交にもやや問題が出てるからちょっとだけ、呆れていたりする。

 

 王がそうなるのも分からないでもないよ、悲しむのは当たり前だ。でも、そんなに長い間嘆き悲しんでいたってセシル王妃は絶対に帰ってこないし、国民は困るだけ。悲しみを全て忘れろとは言わないけど、そこはぐっと押し込めて政治ぐらいしろっていいたい。国、滅ぶよ?

 

 国民性が血気盛んな国だったらさ、ひょっとしたら革命が起こりかねないよね。この状況。良くもまぁ、無事なもんだよ。

 

 私は、将来的にモノトリア当主となって、陛下や姫様に仕えつつも領地を治める。だからちょっと、この状態は有り得ないかな……。領民のことを一番に考えるのが、上に立つものの定めだろう? そのための特権なんだから……。

 

 因みに、パヴァン王には一回だけど会ったことはある。義父上と義母上に連れられて短い時間謁見しただけだけど。あの時はここまで弱い人だとは思わなかったんだけどな……。普通の王様、優しげなお顔の王様だと思っただけだったのに。

 

「情報収集はどうしようか、エルト?」

「お城の中まで行けばいいよ。昼間は開放しているみたいだし」

「今回は分かれるの?」

「いや……もうみんなまとめて行こう」

 

 城下町の入り口に門兵すらいないから、入り口でさっさと作戦を決めておく。流石に町の方にはいるけど、ここからなら声までは聞こえないね。

 

 お城に入るんだったら、流石に三本も剣を持っていたら、あらぬ疑いをかけられそうだから大剣と短い方の双剣の片割れを仕舞った。それから走りに走ったせいでぐちゃぐちゃになっていた髪の毛を手櫛で撫でつけ、まとめなおし、結んだ。

 

 それを見ていたエルトが慌てたように寝癖を抑えていたけど直ってないよ。バンダナで抑えるとかいう裏技を使ってるけど前髪がけっこう跳ねてるから意味は……お察しなんだけど。ちゃんとしているようでこういうところは疎いね……エルトって。

 

 ヤンガスは何にも気にしてないし、ゼシカやククールは常に私よりも身だしなみをちゃんとしているし。エルトは手を抜く……私はこの様。

 

 パヴァン王には到底会えないなぁ、これじゃ。私だってトロデーンに居たときはしゃんとした身だしなみをして、今じゃ考えられないほど穏やかにしていたことが多かったし、……人は自由を知ると堕落するね。やりたい放題になるね。

 

「よし、行こう」

 

 宣言したエルトに続いて足を踏み入れ、淀んだ空気に沈んだ雰囲気をぷんぷん匂わせたアスカンタに入っていった。

 

 ……道行く人々は、暗い表情しか浮かべていない。外で遊ぶ子供すら、いなかった。

 

 言わせてもらうとすれば、王家仕事しろ。それから貴族も仕事しろ!

 

・・・・

 

 亡くした人を悼むあまりこうまで国を巻き込むなんて。国王としては褒められないこと。愚王として名前が残っても可笑しくないよね、ま、こんな状態で国が存続するのか謎だけど。

 

 またパヴァン王を呆れてから、さっきキラさんというメイドに言われたことを思い返す。昨日泊まった教会のそばの民家に行っておとぎ話を聞いてこないといけない。

 

 正直眉唾だけど、……魔物も魔法も存在し、髪の毛や目の色が変わったりする経験もしたからなぁ……はっきりと嘘だ、信じられないとは言えない。しかも陛下はのり気でいらっしゃるし……。もう夜なんだけどなぁ。今から行くのか……。

 

「……気が滅入る所だったわね」

「どこもかしこも真っ黒でがした」

「そんなに王妃様を愛してるんだったら……なおのことちゃんとすべきだと言いたかったな……」

「……愛って言うのは想像以上に複雑なモンだぜ、エルト。時に人をおかしくする」

 

 城下町を出て、歩き出してすぐに堰を切ったように喋り出すみんな。……ククールの声が若干震えてたのは何でだろう。自分の言うことを信じてないみたいだった。なら言わなきゃいいのになー。

 

 まだククールとみんな、勿論私とも壁があってちょっと悲しい。ククールって、俺はこういう時、こう言うべきだとキャラクターをさも演じてるみたいでさ。どうもエルトみたいに接せない。ちょっと茶化すぐらいかな……。

 

「あのおとぎ話が真実に基づいていたらいいな」

「どうだか」

「ククールは魔法が使えるのにそういうことは信じないの?」

「俺は生まれてからずっとこの大陸に住んでいるが聞いたことがないんでな」

「ふぅん?」

 

 まぁ、それはそれで自分の記憶に基づいて考えているから妥当、かな。エルトもなんか腑に落ちない顔をしてキラさんの話を聞いていたし……。まぁ、私はなんかあるとは思っているけどね。

 

 エルトがルーラで教会まで飛ぼうと提案して、皆が頷いた途端、夜空へ舞い上がる。冷たい風が一瞬、ほっぺたを刺し、暗転する景色。

 

 数秒後には色の戻った世界があるわけだけどこのルーラの感覚は何度経験しても不思議で胸が高鳴る。キメラの翼にしろ、ルーラにしろ、舞い上がる感覚が私に不思議な作用をもたらすみたいだ。

 

 降り立ってすぐに辺り一面にはびこっている魔物を斬り捨てに走る私を尻目に他のみんなはククールとヤンガスを残して先へ行ってしまう。まぁ、それとなく打ち合わせていたんだけどね。さっさと話を聞いてくる組と魔物を狩り倒しつつ陛下と姫様の護衛をする組に分けることはさ。

 

「夜の闇はどうも魔物に力を与えるな」

「ボクも夜の方が力が出るけどねっ!よっと」

「……そうか」

「勿論腕力と握力だけど!」

「……そうだろうと思っていたが」

 

 ヤンガスと背中合わせに戦い、やや後方でククールがレイピアを振る。三人の方が護りやすく攻めにくいと思うよ。人数が少ないと簡単にヤンガスやククールや自分に降りかかる攻撃を払いのけれる。

 

 でも、……やっぱり魔物に対しては数負けするからなんとなく攻めあぐねるんだよなぁ。ちょいちょい攻撃も入れられるし。

 

 大抵は防具のミスリルが跳ね返すんだけど……偶に強い衝撃に息が詰まるんだよ。漫画とかで「かはっ」ってなるあの感じね。打撲は出来るけど血はめったに出ないってわけ。でも痛いものは痛い。

 

「エルトの真似っ!」

「槍も使うのか……」

「無駄口叩いてねぇで戦え、ククール!」

「……そうカッカするな、ヤンガス」

 

 まぁ、ちまちまやってても多勢に無勢。面倒だからエルトお得意の槍を私も使おうかな。私が自分で稼いだお金で特注した、重槍、義母上命名は「アビリティスピア」。重量は優に百キロは越え、切れ味抜群、だけど見た目は軽そう。

 

 この槍は私が仮に武器を奪われても相手は使えない。それに重力を無視する勢いで振らなきゃ本来の持ち味は出ないんだ。 ……代わりにエルトに貸しても振るってくれるかは疑問なんだけどね。

 

 私は魔力がないから、魔力を使う技が使えない。故に先輩兵士みたいに魔物を一閃突きとか、物語みたいにジゴスパークとかは努力しても出来ない。だからこそ、魔法の小細工なしのただただ重い槍なんだけど。切れ味鋭く重いだけ。単純に物理攻撃力を上げれば大抵の相手には勝てるからね。

 

 まぁ、私が薙払いするだけで魔物が大量に吹き飛んでいくんだけどさ。我ながら人外の力……誇りなんだけど、たまに怖くもなるね。

 

「……魔物が全滅したな」

「槍は一度に沢山攻撃出来るから実に便利だ」

「一応聞いてもいいか? お前が剣の方が得意だったとしても十分その力なら槍士として大成出来ると思うんだが、普段は何故使わない?」

「単なる好みかな。普段はエルトが槍使うし……そもそも僕は剣士なんだ。誰がなんと言おうとも、だれが止めても剣士だ」

「よくわからない理屈だが、そうか」

 

 そりゃ槍使うぐらいで私、弱体化なんかしないんだけど……槍は場所を取るからパーティメンバーに被りがあったら少し戦い難い場合があったりするし。

 

 昔から私は剣士、エルトは槍士って決まってたのもある。兵士の仕事中は決まった武器を持つけど、プライベートとかではさ。

 

 ……でもこれ、全部建て前だからククールにはバレると思うんだ。だからちゃんと本音を言ったのに……信じてないね、少なくとも半分くらいは。本当に単なる好みなのに。剣を愛してるというのは他言じゃないレベルで大好きなだけ。

 

「槍は決して嫌いじゃないけど、それよりも剣が大好きだから。……魔物の数を少人数で押すには使わざるを得ない時は兎も角」

「その槍……軽そうに見えるんだが、力の加減が気になってな……いきなり持ち替えても使えるならさぞ練習したと思ってな」

 

 あ、そっちだったの。前にも言ったとおり、この槍は見かけはそんなに重そうじゃないんだ。さっきまでの剣の方が重そうに見える。実際は逆なんだけどね。

 

「見てて」

 

 手に持っていた槍を目の前で地面に落としてみせる。

 

 どん、と音を立てて槍が地面にめり込み、地面にひびがはいる。

 

 目に見えてククールが後ずさった上に顔がひきつったね。 ヤンガス、そんなにこっちをキラキラした目で見ないで、照れる。

 

 これぐらいでは傷ひとつ、歪み一つ出来ないこの槍は便利だね。




質量保存の法則なんてなかったんです。どうでもいいですが、トウカの体重は防具なしで60キロ。筋肉とかのせいですね。骨太でもないですが……とはいってもボディービルダーみたいな体でもないですが。密度の問題ですね(某ケンイチみたく)。

防具ありで200キロ、武器込みで300キロの重量と純粋な物理攻撃が魔物を叩き斬ってます。ドラクエ世界で防具に潰されるなんてことはありません。素早さは下がっているという設定ですが。それでパーティ最速なトウカマジチート。

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