【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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33話 伝説

 さっさと槍を拾い上げてからぶんぶんと片手で回してみせる。後ずさりは止まったけど、ククールの顔色は面白いぐらい真っ青から真っ白に変わっていく。こういうの面白いよね。

 

 悪乗りしてる自覚はあるけど面白いから止めない。可哀想?これからもっともっと精神的にダメージを受けるからリハーサルだよ。ヒトゴロシは何があろうと辛いものなんだから。

 

「……なんでこいつを女だと思ったんだ」

「何か言った?」

「お前がすごいって言ったんだ……」

「あ、逃げないでくれるんだ、ありがとう」

 

 ちょっとうっかり怖がらせ過ぎて嫌われたり逃げられたりしちゃうかも、って思ったけど……。ちょっと安心した。にしてもククールって私にも聞こえないようなぼそぼそした声でたまに喋るね?

 

 面白いからバトンみたいに回してもみた。あ、地面抉れた。

 

「あ、エルト」

「何してるの……」

「大道芸かな」

「……それ、動かずの槍でしょ?」

「やだなぁ、それは使えない人の言い分じゃないか。エルトは持てるだろ?」

 

 キラさんの実家から出てきたエルトの第一声。うん、これが何か分かってるエルトはちょっと暗い顔するね。何人も持てずに諦めていた姿を思い出したの? エルトのチャレンジでは充分持ち上がってたのに。

 

「……そうだね。なんとか持ち上げて落とすことが出来るというか……」

「……怪力の近衛兵だらけのトロデーン兵ってなんだ……」

「最強の兵団じゃないかな。そうボクは思ってるよ」

「大体トウカの存在での」

「ありがたき幸せっ!」

 

 陛下がお褒め下さった。すごく嬉しい。これはモノトリア家で語り継ぐべきだ。私で末代じゃなかったらだけど……。

 

 手袋に槍をしまってからエルトやゼシカに行き先を聞く。なんでも、この近くにある川沿いに歩いて行くと「願いの丘」と呼ばれる場所があって、その頂上に満月の時に行ったら願いが叶うとか言われたらしい。

 

 ってことは当初の目的通り、「願いの丘」へ行けばいいんだね? 不思議なことが起こるとか言われたらワクワクしちゃうね。

 

 願いの丘に進み出してからククールと、あとゼシカに手を調べられたのは余談。頼まれて手袋を外してみたら、あんまり私の手はゼシカと変わりなかった。

 

 ……そりゃ、こんななりでも女だからなぁ。そんなに骨ばったり大きかったりするわけないよね。そうなって欲しかったんだけど……。

 

・・・・

 

 トウカがとんでもない力持ちで強い奴であることは、最早再認識に過ぎない。彼が強い兵士であり、剣士なのだから、槍が使えてもなんら不自然ではない。トウカは男だから、俺が良いところを見せても意味がないのは分かっている。と言うか俺のいいところは魔法以外すべてトウカの方が上だろうよ……。

 

 で、少し話は変わるのだが、俺は自分でもトウカやヤンガスに力で負けているのは分かっている。あの二人に勝てるわけがないのも、勝てなくとも恥にはならないのも、だ。だが、俺より背も低く、童顔でトウカに振り回され気味のリーダー、エルトに負けているかと聞かれれば微妙だ。

 

 確かに彼は強いし、戦闘センスも魔法もリーダーシップもあるのも知ってるが、単純な力で負けるはずがないと思っている。…………さっきまでは思っていた。流石に、エルトになら、と調子に乗っていた。彼はトウカと同じトロデーン近衛兵だった。トロデーンの兵士は多分、皆化け物クラスの猛者なんだろう。

 

 トウカの話を鵜呑み見するなら、エルトはあのトウカの重槍を持ち上げることも、ヤンガスの体重を腕の力だけで支えることも出来る。対して、俺は……そんなこと出来るはずがない。というか、出来るような男は普通、筋肉質の荒くれ者ぐらいだろう。普通は、だ。あいつら普通じゃない。

 

 ということは。俺はパーティメンバーの中で力が一番弱い男になるわけだ。……ゼシカを口説く度、どこか哀れみの目で見られているのはもしかして、同情なのだろうか。

 

・・・・

 

 願いの丘、なんて言ってるけど向かってる感じでは単に山登りでもしているみたいだ。間違っても丘をハイキングといったものではないね。

 

 途中、丘の中を洞窟を通ったりしたし、……さいころみたいな変な強いモンスターもいるし……結構険しい道のりだ。あいつの攻撃でトウカが大出血したのは恐ろしかった。……すかさず放たれたククールのホイミの速度はとんでもなかったけど。……癒やしきれてなかったから僕も加勢したぐらい酷かったから、ナイスだったと思う。

 

 魔物は夜明けだからか、少し減ってきたけど……。あれ、そういえば。夜明けなんだけど。繰り返すけど……。

 

「願いの丘の頂上で満月が登った時に何かが起こるって聞いたんだけど」

「待てばいいじゃない、昼寝でもしながら」

「……そうだね、徹夜だったしね」

 

 まあ、そうだ。野宿でもすればいいだろうね。でも、えっと……。それでも危なくない?

 

「聖水撒いて、トヘロスの魔石を置けば簡易結界だよ。破れる奴はドルマゲスぐらい? 彼人間だけど」

「……陛下、どうしましょう」

「トウカの好きにさせればいいじゃろ」

 

 陛下はトウカの事を信用なさってるから、そうしよう……考えるのめんどくさくなってきた……。

 

 確かにトウカの策に失策らしい失策はないんだけど、トウカ以外が実践出来ないものがある事には注意しないと痛い目見るのは……。

 

 考えないでいよう……。ああ、胃が痛い。目の前でサイコロみたいな例のアイツを半笑いで切り刻んで「サイコロステーキ!」とか叫んでるトウカとか見えてないって。

 

 ていうかさ、トウカ貴族なんだからサイコロステーキなんて食べないよね? 市井のことに相変わらず詳しいなぁ。

 

「登るにつれて、だんだん魔力が高まっていくわね。悪いものじゃないけど」

「そう? ……あ」

「何でこっち見た」

 

 魔力が高い所と言えば、何故か髪の毛が脱色し始めるトウカを思い出した。じっと見てもトウカに別に何ら変わりなかったんだけども。

 

「ボクの家も言いようによっては魔力に溢れる所だったけど、何もならなかったことを知ってるでしょ?」

「……まぁ、そうだけど。また頭痛かったりしない?」

「しないよ」

 

 若干憮然と言い返されたけど、ここ最近のトウカを見てたら誰だってそうなると思うんだけど……。ダメージルーキーに離脱されたらパーティが危ないし、勿論トウカが心配ってのもあるし。

 

「何も感じないし、体調は万全だけど」

「何かあったら言ってね?」

「勿論」

 

 うん、無造作に、またさいころみたいなモンスターを拳で撲殺してるぐらいだから平気なんだろうけどな……。あ、今度は容赦なく蹴ってる。

 

 あ、今度は両手で鋭いかまいたちだ……。え、ちょっと待って。トウカは魔法が使えないんだから、それって、かまいたち(物理)って事だよね? …………それはすごい。どういうことなの。トウカ人間やめたの? えっ?

 

「……何をやっても不可能知らずだなぁ、トウカって」

「片手で槍を振り回しながらよそ見しつつ盾持った手で魔物を撲殺しながら戦えるアンタが言えたもんじゃないわよ」

「……そうかな」

 

 ゼシカに指摘されたことは、確かに僕がやってることだけど……。トウカと比べれば大した事ない小さな事だし、ヤンガスも斧を両手で振り回しながら盾で攻撃を防ぎつつトウカの戦いを眺めているんだから、似たり寄ったりだよね?別に大した事無いじゃないか。

 

 ククールは後方支援の為に魔法を口ずさむのに忙し過ぎてこういうのがやれてないだけだろうし。

 

「ゼシカも魔法と鞭を使いこなしながら話してるよ?」

「……よく見たら分かると思うけど、あたしはアンタ達ほどダメージを与えられてないのよ」

「それは戦闘が仕事に含まれてる僕やトウカやククール、山賊だったヤンガスよりゼシカが強かったら……面目丸潰れだよ?」

 

 衛兵が、何かあった時に現場に向かって、そこにいた女の子が衛兵より強いってことはあるわけないよね……ゼシカなら、そこまで強くなれると思うし、今も人によっては勝てると思うけど……。

 

 あ、僕も槍みたいにやや後方からの攻撃がメインじゃなかったら危なかったかもしれない。トウカが魔物を減らしてなかったら今頃全滅してたかもしれないし。

 

 ……‥ま、前衛で中衛の武器を振り回しているわけだけどさ。リーチが長いと攻撃を受けにくくていいよね。

 

 ここにきて一気に魔物が強くなったからね。修道院跡地のレベルじゃない。特に攻撃が痛いのなんの。怪我をした瞬間にククールからホイミが飛んできたのも納得なぐらい、ドバドバ血が出る。

 

 なんかククールはトウカの回復に躍起になってるのが分かる気がするよ。だってダメージが痛すぎるのにあんなに前で単騎突撃しているんだから。笑いながら、楽しそうに。……ホラー要素満点だね。

 

 ちなみにトウカの単騎突撃っぷりは、トロデーンで魔物狩りをしてたときからやってたらしいし、散々トウカのお父さんが止めに止めても聞き入れてなかったから今更止めても無駄だと悟ってるよ。

 

 ……もっと魔物が強くなって明らかにトウカが危ないなら無理やりにでも止めるけど。止まるかは不安だけど。

 

 まぁ、大丈夫だよね。トウカは受けた傷よりも振り回した剣によって魔物を切り刻んで受けた返り血で真っ赤なんだけど。黒ベースの色だから良く分からないけど…………多分服にはあまり飛んでないね。

 

 剣だけが血塗れなだけ。じゃああまり怪我していないと安心したらいいのかな。それでもさっきみたいに大出血されたら嫌なんだけど。回復過多でも、さ。

 

 魔物の攻撃が飛び交う戦場で盾と身のこなしによって出来るだけ攻撃を避けつつ僕はトウカの元へ向かう。何発かは受けてしまって、痛みに少し顔が強ばるけどその度にククールからのホイミの有り難さが染みる。だけど、そんなに連発して魔力は大丈夫なのかな?

 

 トウカの元に近づいた理由は後ろは三人でも何とかなるけど、最前線で一人というのはトウカでもかなり時間がかかりそうだったから。

 

 一匹一匹丁寧に斬り倒していたらそりゃあ倒せるけど、そういう訳にもいかないから横薙ぎしたり、何発かを流れにして切り刻んだ五月雨斬りとかをしたりと一撃のダメージが少し小さくならざるを得なくて、何匹かはあのトウカの攻撃を受けても生きていたりするんだ。

 

 トウカは無意識だけど、魔物が生き残らない前提で戦っているから少し隙が出来てるのが僕にも分かって危ないって思うんだ。 だからこその加勢ね。




サイコロン「たまたま60ダメージ与えたら味方がみんなひき肉かサイコロステーキになったんですがそれは(ぐしゃっ)……」

この時点でのトウカのHPは70ちょっとなので死にかけです。トウカは力と賢さと素早さばっかりのキャラクターなのでHP・みのまもりはゼシカ以下の時も。

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