【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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サブタイトルの読みは「ならずもの」です。


37話 破落戸

 相変わらずとんでもない速度で爆走して帰ってきたトウカ。にこにこ笑顔、というわけではないけれど……そう、堪えてもいなさそうだ。こっちはトウカを探すのに必死だったというのに……!

 

「何か言い訳は、トウカ?」

「言い訳なんかしていいの?」

「……まぁ、それぐらいならね」

「宿場見つけてテンション上げながら魔物大虐殺して帰ってきた」

 

 今日も今日とて大暴走したトウカは普段ない邪魔な木々のせいか、帰ってくるのが遅かったし、服には……怪我するのに懲りたのか、洗うのが嫌なのか一滴たりとも血がついていず、土埃すらないのに、剣はべったり血やら体液やらをつけて帰ってきて流石にみんな何ともいえない表情にさせたりして。

 

 爛々と輝く黒色の目に、反省がまったく見られないから流石に正座とお説教タイムに突入させた。トウカは賢い。だからちゃんと学習はするんだけど反省を生かしつつもまだまだ考えが甘いんだ。

 

 それにトロデーンにいた時に比べて自由に行動出来るものだから十八年間トウカが抑え込んでいた気持ちが爆発したのか、結構やりたい放題。

 

 トウカの欲望……という名のただの戦闘欲とでも言えばいいの?それを爆発させて、戦闘狂っぷりを発揮し、大暴走する。魔物を倒してくれるのは頼もしい。でも、それだけ出来ればいいってもんでもないでしょ……。

 

「……僕は心配だよ」

「……?」

「親友が怪我しそうになることも、僕自身がこうやってトウカを縛ることでトウカがどうなってしまうのか分からないことも」

「ごめん。だけど、ボクは、弱くなんかない……弱くなんか……」

「動揺した? ねぇ、もう少し考えて。それだけでいいから」

 

 だいたいおかしいもんじゃないか。なんでちょっと自由になっただけでここまで行動が豹変するの? そりゃあ昔から彼は戦闘狂だったさ。でも、こうだったっけ? 紳士的で、挑まれた試合や魔物の討伐ぐらいしか戦わない剣士だったんじゃなかった? ずっと自主練ばっかりやってなかった?

 

 それに、もし僕が今のトウカの様に一人魔物に突っ込んで行ったら、トウカは間違いなく僕を追う。なのに僕がトウカを追ったら……それもトウカが危険な場面で追ったら困った顔をするんだ。そして何も言わずにみんなみんな守るんだろう、何もかもから。

 

 僕は親友として、仲間として、同僚として、幼なじみとしてトウカに怪我して欲しくない。いつもなら何も言わないけど、トウカはいつまでたっても分かってくれないから……心配していることを見て見ぬフリするんだから……。

 

 そんな思いを込めて、じっとトウカをみた。みるみるうちにトウカの目から力が消えた。全身に張り詰めていた殺気も消える。凛とした雰囲気も消える。残ったのは、幼い子供のような、怯えた目。……なんでさ。

 

「ごめん、ごめんなさい……嫌わないで」

「いや、そんなことで嫌わないけどさ……?」

「トウカ? どうしたの?」

 

 トウカは何故か妙に怯えた。べつに泣いているとか、震えているとかじゃなくて目が希望を何もかも失っているような……。怖がっている? また? あのトウカが?

 

 流石のトウカも無傷ではすまないような、大量の魔物に囲まれて、兵士の仲間がバタバタと倒れるような場面でも、トロデーンがいばらに包まれて途方に暮れた時でも……ここまで怯えたっけ……? ここまで、泣きそうだったっけ?

 

 ……勿論、僕はトウカを泣かせようとか、困らせてやろうとか思ったんじゃない。

 

「嫌うわけないから。ただあんまり暴走しないでっていうだけで」

「……分かった」

 

 それから、トウカが隊列を乱したことはない。むしろ怪我を負おうと意識が遠のこうと意地でもついてきて、逆に困ったぐらいだった。単騎突撃はしていたけれど、あっという間に僕らの隣に帰ってきていた。

 

 何故、この時ここまでトウカが怯えたのか。泣きそうなまでの「嫌わないで」の言葉の意味。

 

 八歳未満のトウカを知らない僕が、それよりも付き合いの浅いヤンガスやゼシカやククールが真実を知るのはずっとずっと後だった。

 

 「嫌わないで」、「ごめんなさい」。これは僕達に言いたかったものでなかったことを、後で知る。

 

・・・・

 

 かなり遠い距離を移動して、埃っぽい町に着いた。

 

 ならず者たちが集まる無法地帯と名高い……ゴミ溜めのような所、それがヤンガスの故郷パルミド。間違ってもお貴族様のトウカや、エリートのエルト、お嬢様のゼシカや一応王族らしいトロデ王や馬姫様が来たことがなさそうなところだ。

 

 俺も……まぁ、一応由緒正しいと言われている、クソみたいな聖堂騎士団員である故に来たことはない。ヤンガスのみが勝手を知る危ない場所だ。……早速ゼシカの側に何気なく寄ってレディを守ろうとしたが、さっさとエルトの方へ行ってしまった。

 

 一人で居るのも身の危険を感じた俺は、安全な方へ行く。物珍しげにキョロキョロしているトウカの方だ。一番安全には違いない。だが、反面見ていて危なっかしいガキ、という印象があるからだ。見た目だけは、この中でもかなり幼く弱そうに見えるからだ。

 

 あんな頼りないやつでも、十八歳の野郎でとんでもなく腕は立つが……スリだの追い剥ぎだのする奴に本当の腕っ節なぞ分からないだろうからな……。面倒事は厄介だ。「うっかり」トウカが何かをしかねない……と、少し「前科」がある故に、思うのだ。そんな奴ではない……とは思う。だが、その考えを簡単に吹き飛ばすほど奴は強い。

 

「おお、おお!」

「楽しそうだな」

「そう、ボクは今、最高に楽しい! 警戒をこんなにしつつもキョロキョロしたいこの状況は本当に面白いし、楽しい!」

「……考え方が独特ね」

 

 俺もゼシカに賛同だった。警戒することが楽しいとか……普通ではない。根っからの家臣根性なのか、こいつは。エルトも結構な忠臣だとは思うが、トウカはそれを簡単に超えている。警備が楽しい? 思ったこともねえな。暇で、退屈。そんなもんだ。

 

「本当にわしのことを気にしないのじゃな!」

 

 ……ま、そのトウカが全力で守ろうとしているトロデ王がどっかに行きそうなのを止めておけばいいか。

 

 にしても、だ。こんな街に居る情報屋の情報が信じられるのか? ヤンガスの知り合いらしいが、法外な金を要求したり、危ない仕事をさせられたりしないだろうな? そんなのはごめんだ。


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