【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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38話 盗人

「まずはヤンガスの言っていた情報屋さんのところへ行けばいいよね」

「そうだね。案内頼むね」

「勿論でがす」

 

 すれ違いざまに財布でもスリ盗ろうとしたのか、怪しい男が笑顔のままのトウカに手を思いっきり弾かれて悶絶しているのを横目で見る。なるほど、治安が悪いな……。ああいう輩には絶対に近づかないとして。やはりトウカの隣は安全圏だな。

 

 サラッとトウカが弾いた奴を踏みつけるエルトが怖いが、まあいい。ゼシカですら何の反応もせず、一番気にしたのがトロデ王なのもいい。俺の胃がそろそろ慣れてきたのは良い傾向か。

 

 問題にしたいのはサラッとヤンガスが細い脇道に入ったことか。トロデ王を酒場に置き去りにする予定である所もだが。おい、トウカとエルト。大丈夫なのか、それ。

 

「陛下もお一人で過ごされたいときはあるんだよ」

「ボクは陛下の言葉の全てに従う。故に反論なんてないね」

「へいへい。聞いた俺が野暮だったよ」

 

 せっかく心配してやったというのに、帰ってきたのは忠臣の言葉ってわけか。そりゃそれもいいが、本気でここは危ないんだぜ?ぬくぬく育った王国民とお貴族様じゃ分かんねぇかもしれないがな。何が起こるかも分かんねぇっていうのに……。

 

 手慣れたヤンガスが階段に案内し、建物の上へ向かう。じゃりじゃりとした砂っぽい石畳をのろのろと気だるく歩きながら、ぬるい風に揺れるトウカの髪をなんとなく眺めていた。

 

・・・・

 

「陛下、情報屋は留守にしておりました」

「そうか。それは仕方ないの」

 

 尋ねるのは今度出直すとして、彼が帰ってくるのは何時ぐらいだろう?何泊ぐらいするべきなのか、それとも望みは薄いけど、今まで行った町や村に行き直して新しい情報がないか探ってみるべきかな。

 

 そんなことを呑気に考えていた時。外から姫の、大きないななきが聞こえてきた。明らかに、何かがあった。

 

「!」

 

 報告していたトウカが、さっと素早く陛下に一礼すると矢のように速く外に飛び出していった。慌てて追いかけ、その先にいたトウカは側にいた道端の男を締めあげていた。男が意識を失いそうなのを見て、ヤンガスが慌てて止める。

 

 そう、外には姫様はいなかった。勿論、勝手にどこかに行かれる方ではない。その上、さっき聞こえたのは間違いなく悲鳴。攫われた、……いや、この場合は不敬だけども、盗まれたと言うべきだろうか。

 

 僕は、鬼気迫る勢いでその場にいた男を揺さぶろうとしているトウカをそっと止めた。僕は冷静だ。取り乱しちゃダメだ。今は行動はトウカに任せて、リーダーとして最良の判断を下さなきゃいけないんだ。この男から情報を聞き出して、ヤンガスに心当たりを聞いて、……。よし。

 

「この場であったことをすぐに言え。言わないとちょっと手が滑って君串刺しになるかも」

 

 トウカが脅しちゃった分、僕は少しでもこの人を落ち着かせて、正しいことを知らないと。にっこりとした笑顔を作り、背中の、錬金したばかりの真新しいホーリーランスに手を添えた。

 

「……エルト、やっていることがトウカと一緒だぞ……」

 

 聞こえた声は無視して、僕は冷静にそいつを問いただした。

 

 

 

「酔いどれキントだって。そいつ殺そうね」

「トウカは黙ってて……そうすべき時はそうすべき時。今は早く姫様をお助けしないと……。ヤンガス、何度も悪いんだけど、そいつの居場所分かる?」

「大体は」

「頼むね」

 

 先頭を駆けるヤンガスを追って、僕達はその元凶のもとに向かう。途中、道を塞いでゴールドを要求する男が居たけど、トウカが僕が何かを言う前に首筋に手刀を叩き込んで気絶させていたから邪魔にもならなかった。道の真中で寝転ばれてても邪魔になるから、わざわざ端に寄せてくれた。

 

 瞳孔がカッ開いている、としか表現しようのない怒りに満ちたトウカと、多分傍目には無表情だろうけど、気を抜いたら怒りが外に漏れだしそうなほど腹の底から沸き出る怒りを無理やり押さえつける僕。

 

 そのキントをボコボコにする気満々のヤンガスとゼシカ。蹴りの一発ぐらいは何も言わなくてもやってくれそうなククール。

 

 このメンバーで、怒鳴り込めばすぐに姫様は返ってくる。そう思っていたのだけど、僕の考えはどうにもこうにも、甘かったのだ。

 

 僕の半歩ほど前をゆくトウカの足元からビシリビシリと石畳の砕ける音がリズミカルに聞こえていた。途中から怒りが更に増したのが、ザクリザクリと完全に足を突き刺していたようなのには流石に閉口したけども。

 

・・・・

 

「……、殺さないけど、どんな結果でも半殺しにはする」

「やってしまって良いぞ」

「有難き幸せでございます。しかし、私の不注意が元なので……どうか、全てが済んだ後に私に罰をお与え下さい」

「そんなことをいう暇があったら、早う行かんか!」

 

 キントの家と分かったぼろぼろの家の扉を、音を立てないように配慮して開ける。そっと足音を消して六人で進み、姫を売った金を数える男の背後に回る。

 

 ヤンガスがキントに詰め寄り、情報を吐かせた。トウカが最初、やろうと名乗り上げていたけど、……見くびられても面倒だし、それでトウカがキレたら余計に面倒なことになりそうだったから却下した結果だった。

 

「……ふうん」

「その1000ゴールドは渡す! 許してくれ!」

「闇商人、だって?」

「そうだ!」

「ヤンガス、知り合いだよね?」

「勿論でがす。交渉すれば大丈夫でがすよ」

 

 ひとつふたつと頷いたトウカは、手袋も手甲も外して素手になった。そして、早口でまくし立てながら傍目から見ても軽いパンチを繰り出していった。

 

「お前がしたことは世間的には窃盗罪だが、実際の罪状は誘拐罪だ。知らなかったとしても窃盗が犯罪なことぐらいは分かっているよね? 魔物の姫だ、とか好き勝手言ってくれたけど、その言葉で不敬罪も追加ね。お前が攫ったのは姫様だ。だから国に喧嘩を売ったって訳だ。国に喧嘩を売ったってことはボクにも喧嘩を売ったってことね。

あはは、異論は認めない。聞こえないなあ、ちょっと頭に血が上ってるんだよね。あんな所に馬を放置しているのが悪い? 盗むほうが悪には違いないよね、そこに間違いはあるかい?

ははっ、こんな目に合うなんて思ってもなかった? 知らないなあ。運が悪かったんだね。でも、泥棒に運の悪いも良いもないね。盗むからにはそれ相応の罰を受けるということに同意したんだよね? してるよね? してなかったとしても止めないけどね。

本当はお前を殺してやりたいし、殺さないとしても潰してやりたいんだけど、どことは言わないけど。でもそれは流石にお目汚しだよね。

陛下にそんな汚いものを見せる訳にはいかないよね。ボクもそんな気持ち悪いことしたくないからね。温情だよ。これでも普段魔物狩りをしてる時に比べたら、ほとんど力を出してないようなもんなんだから。

こう、撫でるようにしてるだけさ。痛い ?苦しい? ふふふふふ、もっと痛くしてやろうかな……」

 

 その時、始終トウカは半笑いだったとだけ伝えておく。いっそ優しい攻撃だったけど、キントはぼろぼろになっていた、とも。

 




男「」
ゴロツキ「」
キント「」


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