【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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39話 闇商人

・・・・

 

 恐ろしいまでの、激しい怒鳴り声が酒場の方から聞こえて来た。いや、怒鳴り声や喧嘩の騒音なぞ日常茶飯事だが、ここまで命の危険を感じる程の殺気混じりなのは初めてだった。

 

 扉越しだというのに首筋に磨きぬかれた刃を当てられたような……所謂「堅気ではない」奴らと日常的に取引していても、冷や汗が堪え切れないほど恐ろしい。

 

 これは一悶着あるなと、貴重品を片付けようとカウンターに手を掛けた、瞬間だった。酒場側の扉が爆発した。正確には、爆発したように開かれた、だったが。

 

 ドアノブはへしゃげ、建付が悪くなったのだから、魔法の直撃でも受けたようであったからあながち、間違いにも見えないだろうが。

 

「……! なんだ、ヤンガスか……いい盗品でも入ったのか?」

「いや、別件だ」

 

 現れたのはちょいと昔に来て以来、姿を消した山賊ヤンガス。勿論知り合いであり、常連客だ。見慣れた顔に心底安心した。怒っている様子はない。

 

 ……後ろに控えているお人好しそうな青年や強気そうな女や赤服の騎士は誰だろうか。ヤンガスの仲間……だろうか。違和感があるが、雰囲気としては仲間だろうか。

 

「ここに白い馬と馬車が売られてこなかったか? 俺の兄貴の大事なものなんだ」

「ああ、あの白馬か。あれならさっき女盗賊ゲルダが買っていったぜ」

「ゲ、ゲルダ?……兄貴、どうしやしょう」

 

 兄貴? ヤンガスの? この、明らかにヤンガスよりも年下のこいつが? 槍を背負っているが、そう腕が立ちそうもない……ようには見える。おいおい、ヤンガス、何がどうなっているんだ……。普通は逆だろう……。

 

「げるだ? 誰それ」

「あっしの……昔からの知り合いでがす……」

「仲が悪いとか?」

「……それは何とも……」

 

 必死で意識の外に出していた、小柄な少年がヤンガスと話し始める。身長よりも長いであろう、がっしりとした剣を背負い、こっちを突き刺すような殺気を纏い、ギラつく左目を怒りに任せて見開いている、恐ろしい人物。

 

 薄々感じていたが、この少年がこの扉を破壊した張本人だろう。……命の危険を感じる故に、そのことを指摘すら出来ないが。

 

 魔法を使っているわけではなさそうだが、目視できそうな程怒っているのは分かる。そして、彼が相当な手練であることもだ。

 

 少年、剣士、隻眼……そしてこれほどまでの手練といえば世界広しといえど「剣士トウカ」ぐらいしかいそうにないが、本人であっても無くても恐ろしい。これ以上機嫌を損ねてこれ以上店を破壊されても困る。

 

「ゲルダの住処は分かる?」

「分かりやす、兄貴」

「すぐ行こう」

 

 燃える瞳をこちらにチラリと向けて、黙っていろと言わんばかりに牽制してきた彼は、外側の扉をぶち抜くようにして出ていき、残りの仲間も続いていった。

 

 あとに残ったのは壊れそうな扉と、重い物を引きずったような跡が残る床と、拭えぬ恐怖心だけだった。

 

・・・・

 

「ゲルダというのは、女の人であるようだけど、どんな人?」

「性格のきつい盗賊でがす。一軒家にアジトを構えているんで、パルミドには住んでないでいないでがす」

「そう。交渉はできる?」

「……申し訳ないでがすが、素直に返すやつではないでがすね……」

「実力行使は?」

「あいつは頑固でがす……」

 

 チッと隠そうともしない舌打ち。一層、膨れ上がる殺気と怒りに遠くの方に見えていた魔物がものすごい勢いで逃げていくのが見えた。あれは……サルみたいな魔物、かな。なんとかゴング? だっけ。

 

 軽く現実逃避しながら、聖水よりも魔物を遠ざけるトウカのお陰で魔物と全く遭遇しない、ある意味ではとても平和的なフィールドを進んでいく。戦いながらではないから進む速度は何時もの比ではなかった。

 

 でも、我を忘れているのか、何時もの軽い走り方ではなく重く体重を乗せて走るトウカのせいで怪しい足あとがまた出来ているのがなんとも言えない。そろそろ自覚して欲しいところだけど言っている場合ではなくて……。

 

「……殴っても蹴っても聞いてくれないなら、お金? それとも宝? なんだったら応じるのか……」

 

 それから、我を忘れると心の声が駄々漏れになるところも自覚してほしい。たまに物騒な事も言ってない? いちいちククールも反応しないで……慣れてよ。

 

「ああ、姫様、どうかご無事で……!」

 

 そういえば、普段「王家を守る」とばっかり言っているから忘れがちだけど、トウカって正確には「ミーティア姫の騎士」だったね……。幼なじみの僕もだけど、父親であられる陛下もだけど、気が気じゃないんだろうな……。

 

 皆の心の内とは真反対によく晴れた天気で、空気は爽やか、風は気持ちよく……なんて言っている場合じゃないけど、そのせいでかいた汗をぐいっと袖で拭う。遠目に見えてきた堀の付いた家らしきものに向けて全力疾走をし始めたトウカを追いかけて僕達もまた、一層スピードを上げて駆け出した。

 

 ……、後で叱られたのだけど、陛下のことを何も考えていなくて、スピードを出しすぎたことを正座で反省することになったのはまた別の話だった。不敬だけれど、普段馬車で移動している陛下が僕達が全力疾走するまでは普通に付いてこられていたことの方にびっくりもした。流石です陛下と讚えるトウカは平常運行だった。

 

 それから、ゲルダのアジトで、木の吊り橋を破壊しないようにトウカが橋を飛び越えていたのを、初めて見るククールが完全に引いていた。だからいい加減に慣れてよ。




闇商人「怖かった」
トロデ「」

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