【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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トロデーン編
46話 山小屋


 朝一番、エルトの唱えたルーラによって、あたしたちは今まで経験した事もない長い距離を飛んだわ。こんなに長い距離を旅したなんて……。それでもルーラは限りなく短時間にあたしたちを運んだ。降り立った地の空気はパルミドより暖かく、懐かしい匂いを含んでいた。

 

「はい、邪魔!」

 

 少しふらふらとするほど風を浴びたというのに、変わらず元気なトウカの声。ああ、また魔物を一掃しに走るのかしらと思っていたら、聞こえて来たのは激しい爆発音。例えるなら、あたしのイオラのような……いいえ、ようなじゃなくてそのまま、イオラの。

 

 彼は魔法が使えない。なのに、爆発?

 

「なんでそんな雑魚に爆弾岩の欠片を使うかな!」

「数が多いからさ! ほら、見てよ! 剣士像の洞窟なんてメじゃない程の数だ! さっきので全滅したけど!」

 

 疑問はすぐに解けた。空中で爆発したのはトウカが魔法を使ったのでも何でも無く、魔物の欠片を放ったからだった。中級攻撃魔法イオラと同じぐらいの威力を放つ、爆弾岩の欠片を。なるほどね、それなら一瞬でトウカも弱い魔物を片付けられるわね。

 

 ……声は元気が良かったけど、トウカが悲しそうな顔をしていたのは、気のせいかしら。やっぱり、彼は魔法を使えないことを気にしているのよね。

 

「さあさあ行くぞ! 目指すは荒野! 岩塩の産地だ!」

「うわ、魔物がトウカを見て逃げてる……」

「余計な戦闘は要らないからそれでいいのさ」

 

 あら、意外。誰が見ても戦いが好きなのが分かるトウカなのに。彼は確かに無益な殺生を好むタイプではないのだけどね。

 

「先は長いんだから飛ばすなよ……」

「おう!」

 

 まだ何もしていないっていうのに、ククールはもう疲れたようだった。……一昨日のベホイミとベホマのオンパレードは、堪えたようね。丸一日、アスカンタまで戻って休息を取ったのに……まあ、分からないでもないのよ? ヤンガスの話ではずっとベッドに倒れ込んでいたというし。

 

 ギラリと輝く剣を……ヤンガスの話では半日は磨いていたという……抜き放ったトウカは意気揚々と先頭を歩いていった。時折聞こえる爆発音は爆弾岩の欠片かしら。……ねえ、あたしの出番は?

 

「トウカが槍を持った時の気持ちが分かるでしょ……」

「そうね。でも、あんなに使って大丈夫なのかしら?」

「ああ、それは大丈夫。自分で使いもしない魔法の聖水をあんなに蓄えていたんだから、使う可能性のある物ならもっと持ってるよ……いや、トウカの父君に持たされている、と言うべきかな?」

「……そうなの」

 

 現れる魔物は、最初は弱かったのだけど……進んでいくに連れてどんどん強くなっていき、パルミド周辺と変わりない強さにまでなっていく。……なんでここまで魔物の強さが変わるのかしらね。数だけは減ったのが幸い……かしらね。強い魔物ばかりになったときにはもうトウカは前の方で単騎突撃していたわ。

 

「……ベホイミ」

「お疲れ様」

「サンキュ。一昨日よりはましだから問題ない」

 

 確かに、広さがあるここなら避けやすいわよね、比較的だけど。結構離れているここからでも跳んだり急進したりしたりして躱したり倒したりしているのがよく見えるわ。あんなに動いて体力は大丈夫なのかしらと考えていたのがもう昔のように感じるわ。

 

「向こうの方に山小屋があったよ!」

「そう、報告ありがとう」

「ん! じゃあまた行ってくる!」

 

 あら、ほんとだわ。確かに丘のてっぺんに山小屋があるわね。休憩できたりするのかしら? ……と言っても、まだまだ遠くて、小さく見えているだけなのだけど。着いた頃には昼になってそうね……。

 

・・・・

 

 なかなかいい眺望だね。ここからなら荒野が一望できる。さてさて、情報屋さんが言っていた船ってどこにあるんだろう。

 

「おや、旅の方ですかな?」

「はい。あなた方は商人ですよね?」

「勿論ですとも。ここらの岩塩は良いものですからな」

 

 うん、知ってる。様々なことを幼い時から教えられてきたけど、例外なく教えられたからね。トロデーン城に近いここならなおさら、詳しく詳しく教えられてきた。地域の風土や名産品についてね。貴族として恥じないように。

 

 それをおくびにも出さずに相槌を打ち、やんわりと会話を打ち切らせてもらう。悪いけど、今は会話するよりもさっさと船を探さないとね。

 

「あれかな?」

「あっちじゃないの?」

「こっちのやつだろ」

 

 意見が割れてるみたいだけど、明らかに形が違う、質感が岩じゃないのは一つしかないでしょ……。隻眼だから視界は狭いから、物に気付かなかったりはするけど、視力は悪くないんだからな! あれだけ勉強したのに悪くならなくて心底良かったと思ってる。

 

「行ってみようよ」

「そうでがすね」

 

 荒野に向かって柵を乗り越え、飛び降りようとしたら、全力で皆に引き止められた。右手をエルトに、左手をククールに、背中をヤンガスに、柵と私の間に滑り込んで止めたのはゼシカ。

 

 ……全力だね。三人ぐらい簡単に振り切れるけど、ゼシカが止めた時点で止まったんだけどな。そこまで飛び越えて欲しくないなら口で言って欲しいんだけど。

 

「トウカ」

「……歩いて行くよ」

「陛下や姫様はさっきの降り方で行けたと思うの?」

「そっちじゃねぇよ!」

「そうじゃないわよ!」

 

 確かに、軽率な行動だった。陛下や姫様にご迷惑を掛けてしまう所だった。もっと慎ましく大人しく、冷静に状況判断できる義父上や義母上みたいな人間にならないといけないな。

 

 これ、来年の抱負にしようかな……来年なら私は当主に……なってるはず、だから。どうにもなっている姿が想像できないのだけど、不吉だから絶対に誰にも言うもんか。


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