【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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52話 洞窟

 ゆらゆらと揺れる炎に照らされた洞窟を、足音を隠さずにずんずん突き進む。どうせ、外ほど広くないんだから嫌でも鉢合わせする。

 

 なら、むしろこっちから喧嘩を売ろうと思って。……というのが私の意見で。口に出してないけど、皆の足音も隠そうとはしてないぐらい大きいから、わざわざ伝えようともしてないんだけど、みんなかなりイライラしているね?

 

 私も確かに憤りを感じるし、無用な時間を使わなきゃいけないのは我慢ならないことには違いない。でも、まぁ……これ、ていうかこの事件。

 

 明らかに人間じゃなくて、犯人は魔物だよね? ここまで来ると、さすがに正体が分かってくるというか……。この辺りで沢山出てくる、このもぐら型の魔物……こいつらならアスカンタの宝物庫をぶち抜けるだろうし、数が多いから短期間で財宝を運び出せるだろうし。

 

 ……全部仮説だけどね。ちょっと都合のいい考え過ぎるから皆には言わないでおく。だって、これ以上皆にヘイトを溜めてどうするのさ?戦いに憎しみはありすぎるのも考えもの、だよね?私が言うなって感じだけど。

 

「……もぐらの魔物って喋るんだ」

「もぐらに限らず、魔物って結構人間の言葉を喋るものだよ。有名なのはスライム系、かな?どこに声帯があるんだかわからないけど」

「セイタイ……?ああ、喉の事か。確かに何処にあるか分からないよね」

 

 ……一瞬、この世界にない事を喋っちゃったかと思ってびっくりしたよ。人体の構造についての研究は、そりゃ、前世の日本の方が上で、認知度も、ねぇ。中学生で知ってる常識が通じないときが未だにあって、たまにカルチャーショックだよ。

 

「……力ずくで取り返すしかない状況だが、勝算はあるのか?」

「大丈夫、だと思うよ。気は抜かないけど……」

「確かにここの魔物に苦戦はしないわね。もぐら達が言う、ボスがどうかは分からないけど」

 

 群れのボスって、体が大きかったり、力が強かったりするのが相場だよね。統率力もあって、厄介なはず。今から胸が高鳴るなぁ……ふふふ、どんな奴なんだろうな。

 

 やっぱりもぐらのボスはもぐらだよね? ってことはかなり力が強いはず。イメージ的には魔法は使いそうにないけど……でも、見た目とか、先入観に騙されたりしたら痛い目に合うから気をつけるべきだよね。左手の手袋を使い忘れないようにしないと、前みたいに酷い目に合いそう。

 

 どうやって、どんな風に戦おう? 急所めがけて斬り込みをかける? 防戦して、隙を狙う? 広範囲を刻んだ方がいいかな? 首をとる?

 

 ……いやいや、平和解決を心がけないと。最初から奇襲をかける気はないし。話し合いで解決したいもんだね。無理でも、脅すぐらいで済んで欲しいもの。流血沙汰はちょっと勘弁願いたい。……戦いたい事に変わりはないけれどね。なんだか、理性と本能が食い違ってる気がするんだけど。

 

 にしても。早くここから出たいな。戦いたい想いよりも。朝、私は誰よりも自由だった。あれぐらいの自由が何よりも好きだな。

 

・・・・

 

「……長い」

「同感でがす……」

 

 もぐらの洞窟は広かった。いや、深かったと言うべきかな。同じ洞窟でも、滝の洞窟とは比べものにならないよ。剣士像の洞窟は……ちょっと種類が違うからいいとして。

 

 進めど進めど魔物は襲ってくるし、至る所でもぐらが出るし。なかなか最深層に着かない。アスカンタから奪った宝は多分、仕舞い込んでいるだろうから、奥を目指して居るんだけど……うーーん、なかなか上手く進まないね。

 

 にしても、もぐらたちはボスがどうだの言ってるね? そいつが宝を独り占めにでもしてるのかな? その割には……まあまあ慕われているみたいだけど。以前は良かった、みたいな話をよく耳にするけど……まさか、オセアーノンみたいに何かしらの外的要因でボスが豹変した、とか?

 

 その要因が、ドルマゲス絡みでない事を切に祈るよ。もちろん、ドルマゲス絡みでも情報が全くない今、いい情報源になるんだろうけど、苦戦したくないから。あいつが何かをすると本人の意志とかは関係なく凶暴になるみたいだし。

 

 ……そろそろでこぼこな地面を歩いてきたせいか、足が痛くなってきたよ。……あ、ありがとうククール。すかさずホイミが飛んできた。最早、回復魔法のプロだよね……タイミングも、使う魔法も。神父様みたいに人の命を復活させる蘇生系の最高峰、ザオリクさえ習得しそうな勢いだよね。それは、出番がないのが一番だけど。

 

「出会い頭にスコップを振り上げて襲って来るなら、首を飛ばすことをお返しだっ!」

「……鮮やかな手腕だね」

「もう一丁っ! 六体一気!」

 

 前方で一人喧しいトウカにはぼそりと呟いた言葉は届かなかったけど、まぁいいか。魔物を倒し続けるあまり、トウカは魔物が消える青い光に完全に包まれていて、ちょっと近寄るのは躊躇するし。

 

 狭い空間なのに大剣を振り回しているのもあるけど。今こそ双剣を使う時じゃないのかな? 好きにすればいいけど、たまに洞窟の壁まで一緒に削れ飛んでるのは気のせい……じゃないよね。結構豪快に抉れてるし……。ちょっとだけ、身の危険を感じるよ……もぐらたちの土木技術を信じよう。

 

 


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