【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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55話 古代船2

 急いでアスカンタから出て、全員揃ってククールのルーラでトロデーンへ直行した。本当のことを言うと、みんな疲労困憊で一泊ぐらいしたかったけど……もし、船が手に入るならそれからでいいだろう、というのが陛下のお考えだ。

 

 破れた服のままで着替える間もなく空を飛ぶことになったトウカがちょっと可哀想だった。だって、空って寒いでしょ? ……その鎖帷子の下も服を着てるって? そう……なんで君が普段、あんなに動きまわって汗をかかないのかが疑問だよ。そんな厚着しててけろっとしてるし。

 

 ともかく、もぐらのアジトで時間を取られてしまったから……もう月が出ているんだ。まんまるな月が、アスカンタでは見えていたし、急がないと。月の扉が閉じてしまったら、一日無駄だ。下手したら一ヶ月ぐらい足止めされてしまう。

 

 前回鍵を開けておいたお陰で外の扉からあっさりと図書室に入った僕たちは、躊躇も何もなく壁に飛び込んだ。勿論正確には壁に映し出された月の扉に。向かい入れてくれるように開いていた扉に吸い込まれる感覚も、慣れてしまった。

 

 不思議な世界を駆け抜け、建物に入るとイシュマウリさんはゆったりとこちらを振り向いて歓迎してくれた。月影のハープを半ばつきつけるように渡すと、苦笑しながら、僕達と古代船の元へ向かいましょうと言った。

 

・・・・

 

 奏でられるハープの音色。前とは比べ物にならないほど沢山周りに海の幻影が映し出された。でも、船が浮かび上がるほどはない。……ねぇ、これ、本当に船が使えるようになるの?

 

「……なんということだ。月影のハープでも出来ないとは」

「それ以上の楽器はないのですか?」

「私の思い当たる範囲ではない……ん?」

 

 残念そうに首を振ったイシュマウリさんは、ふとこちらを振り向いた。

 

「こちらの姫は……姿は変えられているようですが、美しい声の持ち主ですね……。貴女となら。どうか、歌って下さりませんか」

 

 視線の先にいたのは、ミーティア姫だった。確かに、姫の歌声は素晴らしい。透き通っていて、心に訴えてくるものがある。世界一に違いない……あれ、なんでイシュマウリさんは私も見るの? 私は姫様じゃない。

 

 というか、性別だけなら女だけど……あ、貴族の娘も「姫」って言わないことはないね。そういう意味なのか……? イシュマウリさんなら性別がバレているかなって……人ならざる者だし……思ってたけど、ねぇ、人違いだって。普段から歌なんか歌わないし。脳筋に何を求めてるの?

 

「トウカさん、貴女もです」

「ボクは歌えませんよ?」

「……トロデーン王家の影が何を言っているのです」

 

 ……、ああ、まあ、そうともいうよね、モノトリア家って。進んで王家の裏仕事をこなすし。でも、勘違いしてもらいたくはないのだけど、モノトリア家は古代人の血を引く家系で、尚且つ「モノトリア」の血を絶やさないようにしているんであって、トロデーン王家の血を引く家系じゃないんだ。

 

 普通、貴族って王家の血を引くことによって力をつけようとするけど、そんなことを一切しないし、それは存在目的に全く関係ないから、例え子供と年齢が近くても申し込まないらしいし。だから、私にも義父上にも義母上にも王家の血は一切流れていない。

 

 「トロデーンの影」ではあるし、「トロデーン王家の騎士」でもあるから、「トロデーン王家の影」って言われるけど……よくある安っぽい小説の設定みたいに実は王位継承権が……とか、ないから。トロデーン王家の影だから歌えって……意味がわからない。

 

「……ボクが歌うのか……」

 

 でも、目を逸らさないイシュマウリさんに、負けた。真摯な目だったから。それに、沈黙していても仕方がなかったし……あと、みんなからの視線が痛かったから。うん、さっさとするからこっち見ないで。

 

 にしても……この、変声チョーカー外さなくていいよね?それは断固拒否、だよ。……声を強制的に低くしてて歌えるかなあ……。

 

 焦る私を構わずイシュマウリさんも、姫様も美しい音楽を奏で始めてしまった。……ええい、腹をくくるよ! 下手くそでも音程を外しても知らないからな!

 

 どうにでもなれとばかりに、メロディーに合わせて、昔トロデーンで聴いた姫様の声を思い出し、そのアルトパートになるように歌う。ソプラノはチョーカーを外さないと無理だったから早々に諦める。無理に高音を出そうとすると声、掠れるし。

 

 思いの外、およそ十八年ぶりの歌は……まぁ、素人にしては良かったんじゃないかな。その程度だった。当たり前だけど姫様とは比べものにならない。恥ずかしい、いっそ穴に潜りたい……。

 

 でも、それより……歌う事に胸の内から、無理矢理押し込めていた何かが解放されていく感覚が気になった。その、押し込めていた何かの正体も分からないけど……明らかにそれが解放される度に海はより一層本物の様に煌めき、船がゆっくりと浮上していくんだ。……ということは私も貢献したってこと?

 

「……海が」

 

 私達は完全に浮かび上がった船に見とれた。イシュマウリさんがハープを掻き鳴らすと、光の階段が私達を誘う。体が浮力によって浮かび上がった。……全部幻影なのに不思議だなぁ。

 

 そっと水をかき、泳いで階段へ向かう私達を見て微笑んだイシュマウリさんは、光の粒となって、融けるように姿を消していった……。……なんとなく、もう会えないような気がする……。

 

 ……さあ、出航の時が来たようだ。半ば呆然としたようなエルトを舵の所に連れていくと、私は地図を広げ、星を見るために上を向いた。




トウカの歌=魔力によってイシュマウリと姫の歌を増幅。

当然トウカはこの世界の(語弊あり)生き物ですから、魔力ぐらいあります。ただし出力装置が正常だとは言っていません。……一回リーザスで爆発させてますが。多分、月の精霊ならハードディスク触るだけで中の画像ぐらい見れると思います(適当)。そんな感じでトウカが初魔法……っぽい何かをしました。普段一切使わず蓄積されて凝縮されたそれを利用。
あと、トウカの歌は普通です。上手くなく下手でもなく。あ、イシュマウリには性別バレてます。
トロデーンの影どうちゃらはトウカの見解で半分正解ですが、残り半分は後日に。もちろんトロデーン王家の血は引いてるわけ無いです。

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