【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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59話 航海3

・・・・

 

 航海は、取り敢えず命の危険は感じない程度には平穏に進んでいった。それもこれも、夜になろうと構わず、空が綺麗だとか、月が美しいだとか言いながらも、君主には見せたくない程あれな……俗に言う「グロい」戦い方で魔物を潰しまくっていたトウカを説き伏せて、一時間ごとぐらいに聖水をまいて休憩をはさみつつ進んだからだと思う。

 

 その聖水が海の強い魔物どもに効いたのは……ひとえにトウカの存在があるからだろうけど。なにか言ってくるかなとは思ってたのだけど、思いの外何も言わずに聞き入れたトウカは夜は月見したり昼は釣りしたりと休憩時間も楽しそうだった。

 

 時折彫刻のように立ち尽くしていて、立ったまま寝てるんじゃないかと心配にもなったけど、単に潮風を浴びることに改めて感動していただけだった。……トロデーンは間違っても内陸部にある国じゃないけど、こんなに冷たくも清々しい潮風を浴びることなんか、ないしね。

 

 夜中は仮眠をとるために三時間ずつ聖水をまいて、三人と二人に別れて交互に眠った。見張りだから戦う予定はないんだけどね。……回復の関係上、トウカは僕じゃなくてククールとペアだった。

 

 戦わなかったはずなのになんでククールはあんなに疲れてるんだろう? 三時間睡眠はきつかったのかな……ククールって夜更かし、誰よりも得意そうだけど。人は見かけによらない……か。

 

「違えよ」

「え、何が」

「見張りつっても普通は黙って見てるもんだろ」

「……あぁ。釣りかな? 付き合わされたんだ」

 

 釣りもそんなに疲れることじゃないと思うんだけどね……。かかるまでは座りっぱなしでしょ? 横でトウカが待ちくたびれて腹筋でもしてても、それにまで付き合う必要はないし。

 

「……なんでそんなキワモノ扱いされてるの、ボク」

「してなかった? ……ごめん」

「ボクがしてたのは腹筋じゃなくて素振りだっていうのに……甲板に寝そべるのもいいけど、やっぱり潮風を体全体で浴びるべきだよねっ!」

「……、……ああ、そうだね。そうそう、聞きたいんだけどトロデーンでの冷静冷徹なトウカはどこへ行ったの?」

「ボクはもともとこんな人間だ。一番エルトが分かってることだろ」

 

 ……トロデーン時代のトウカだって戦闘狂で、感性が普通の人とは違っていたけど、それは庶民じゃなかったからで済ませられたんだけどなぁ……。でも、そういったことがだんだん共感出来るようになってきた今日このごろだけど、完全に毒されているよね、僕。はっちゃけ過ぎだよ、トウカ。

 

 ってことは、夜、すごく眠い中釣りさせられて、真横で命の危険を感じる速度で真剣の素振りされたククールは疲労困憊ってこと?

 

 お疲れ様、としか言い様がない……。僕はゼシカとヤンガスと、背中を合わせて座って見張りしながら眠らないようにしりとりしてただけだっていうのに……そんなデンジャラスなことがあったんだね……なんか、ペアを決めた責任を感じるから次からはトウカとのペアは僕、かな……トウカの素振りなら薄皮一枚の距離でやられようと、実際には切られないことを熟知しているから怖くないし。慣れって素晴らしいよね。

 

「あんたたちっ! 魔物来るわよ、何喋ってるの!」

「ごめんっ!」

「今行くっ!」

「おう!」

 

 操舵する場所で何話し込んでるんだってことだよね。本当に申し訳ない……。

 

 走って甲板に降りていくククールと、ひとっとびで甲板にジャンプ……というかダイブしたトウカが着いたぐらいから、魔物がまたわらわらと船に這い上がり、僕達に襲いかかってきた。最早慣れたように背後の魔物をベギラマで燃やし尽くし、剣気を飛ばしてこっちの魔物を切り刻んでくれるトウカに甘えながら僕は舵をぐっと握りしめた。

 

・・・・

・・・

・・

 

 おお……大地だ。懐かしき、大地が見える! ずっと船の上で揺られながら過ごしていたら、しっかりとした地面が少し恋しくなっても仕方ないよね。

 

 感動しながら自分で干して炙った魚を噛み切り、咀嚼していたら、みんなに微笑ましいものでも見たかのような生暖かい目で見られた。陛下と姫様にまでだ。流石に要件があるわけでもなく、お声をかけられてもいないから、干魚を食べるのは辞めてなかったんだけど。……やっぱり見苦しいかな?

 

「……それ、美味しい?」

「何言ってんの、エルトも美味しいって言ってたじゃないか」

「最初はね……でも同じ魚を何十匹も並べられて、十何匹も食べてたら、……飽きない?」

「飽きないね。だって、マナーもへったくれもない食べ方をしても怒られないし」

「……マナーもへったくれもないっていうのは、手刀で魚の頭叩き落として海に放って魚呼んで、釣りしながら食べてるってこと?」

「うん」

 

 でも、もう着くから釣りはやめないとね。即席で作った割になかなか役に立ってくれた釣り竿を船の中に仕舞って、最後一欠片を飲み込んだら、それを見ていたククールがぼそっと言ってきた。

 

「……猫みたいだな」

「猫みたいにボクは可愛らしくないよ」

「……、……ネコ科の動物みたいだな」

「うん、それが正しい」

 

 どっちかっていうと、私は猫ちゃんじゃなくて無慈悲な虎とかのほうが似てるんじゃないかな。狩りするしね。

 

 とうとう、船板が大地とご対面した。どんな魔物が出るかわからないから、私が一番乗りでいいよね?え、本当にいいの? やった。

 

 片手に大剣を構えながら、トンっと柔らかな土の上に降り立った。じんわりと感じる生命の息吹。潮風に混じる土と緑の香り。心底安心するしっかとした大地。見渡すかぎりの、大地だ。とうとう、私達は新たな大陸へ到着した。




次からようやく進みます。とは言えラパンハウスなどの物語に差し障りの無いところはスルーして番外編にまわし、長々としたイベントもないので「ベルガラック編」というものはありません。勿論ベルガラックにも寄りますが、「陸路編」ということになります。

そろそろトウカがデフォで剣気(物理)を飛ばし始めたので名前をつけます。とはいえオリジナルなので分かりやすく「カッターアタック」とでもつけておきます。
……書いておいてなんですが、この貴族の令嬢はどこへ向かっているのか(今更)。

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