【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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74話 試練

 王家の山はわりと遠かった。でもそれは私の勝手な想像よりはってだけで、みんなの体力が底ついてもう明日にするしかないとか、着くのが遅すぎて明日にしようとかそういう事はなくて安心したよ。まぁ、あとから考えたらそれくらいの距離だろうね。本来この試練ってのは王子一人で行うみたいだから。

 

 こういうさ、私たちみたいな護衛とかは……反則じゃない?一人や二人じゃなくて、五人もつけてさ。正確には七人だけど! ……そういえばサザンビークの姫、はどうするんだろう?男児の試験だからいらないのかな。いないから分かんないけど。

 

「フン、ようやく到着か」

 

 私たちみたいに駆け巡って馬車を守って戦ってもいないばかりか、ここまで自力で走ったり歩いたりしてない癖によく言うよね?肥満体だから多分自力で歩いたらこの所要時間の三倍じゃきかないと思うんだけど?

 

 ……おっと、口が悪いね。乙女にあるまじき事だ……笑わないでよ。乙女って言葉がいくら似合わないっていったってさ。

 

 チャゴス王子は偉そうにふんぞり返って馬車から降り、そしてポケットから何やら小さな瓶を取り出した。ピンク色の何かが入っているように見える……けど。試練で必要、なのかな?

 

「これはここにいるトカゲ共に気づかれにくくするためのトカゲのエキスだ。これを浴びて置けば後ろからこっそり近づく分にはバレない。浴びておけ」

「承知いたしました」

 

 恭しく胸に手を当てて了承し、丁寧に受け取る。ふうん……匂いからバレにくくなるってのは便利だね? それにさ、臆病らしいその「トカゲ」に気づかれにくくなるってことは反対に逃げやすくなるってことじゃない? 気づかれてないままならさ。いざという時の生存率も上がるのかな……。

 

 ……うわぁ……なんか、開封したらすごく生臭いんだけど。うへぇえ……流石にこんなの嬉しくないし、不快だ。でも、どんな魔物にも効力があるこういうエキスがあるならこれからの旅も楽になっていいのにね。でもこれで奇襲しやすくなるよ! その点についてはありがとう王子! ……魔物を倒さない選択肢だって? あるとでも思った?

 

 まずは王子の頭に念入りに、念入りに、念入りにエキスを振りかけると、私はみんなにもかけていき、自分にも振りかけるとしっかりと残りは封をして仕舞っておく。これ、粉、だね。

 

 もしも試練が予想以上に長引くようだったらせっかくつけたこのにおいもなくなっちゃうだろうし、野宿でもすることになったらかけ直した方が良さそうだし、瓶が割れるようなことがないようにしないとね。

 

 ……でもこいつの前だから普段みたいに手袋にのせて収納して……っていうのは出来ない。というかしない。見られても困らないし、私がモノトリアな事ぐらいわかってるんだからいいけども、なんか、ね。そのことは失念してて欲しい、私のことは何でも。私がここまで嫌になる人間も珍しいなぁ……。

 

 そして王家の山の管理をしている方々にいろいろと話を伺ったのだけど、それはまぁ、別の話ってことで。

 

 軽く説明するとね、何でも自生してるのか植えてるのか分からないけど、特有の木の実があって、それが大トカゲことアルゴリザードの大好物だから匂いに寄ってくる?とかかな……。うーん……見つけたら倒したらいいんでしょ? 誘き寄せるってあるのかな。あったら面倒臭いなぁ……ってらしくないよね!

 

 出会ったら倒すのみ!何だか天然記念物っぽいからサイコロステーキやミンチは怒られそうだから殺さず気絶ぐらいで! こてんぱんにしようね、ストレス発散だ!

 

・・・・

・・・

・・

 

 生臭いトカゲの匂いに鼻が麻痺してきた頃、僕達は背や側面? が赤くて、腹が白い……チャゴス王子の言葉を納得せざるを得ないほどトカゲっぽい魔物を追跡していた。苦手なだけあって言い得ていると思う。うん。

 

 とっても臆病らしいから、トウカはそろそろと近づいているものの剣の煌めきとかで気づかれないように素手で向かってるほどだ。僕は槍だから、鞘に収めることは出来ないし、反対に抜いているんだけどね。ほら、切っ先が上向いてる方が太陽の光で反射するから逆に目立っちゃうから。

 

 僕の後ろ……つまり殿(しんがり)にいるチャゴス王子は僕達の動きを挙動不審になって眺めて、そわそわと短剣を触ってみたりきょろきょろとしていたりガタガタ震えていたりと実に器用で……ちょっと気になってしまうから動くのやめて欲しいけど……今か今かと待ち構えてるみたいだね、うん。トウカ理論ならね。

 

 だから待たせるのも悪いし早く戦闘に持ち込んで欲しい。アルゴリザードを倒す時には彼、参加せざるをえないだろう?戦場のど真ん中で腰抜けてしまったらいいのに……なんて考えてないさ。逃げ出さないか今から心配なぐらいだよ。

 

 と、その時。トウカが一気に魔物との距離をつめて大剣を抜き、踊りかかったのは。流石は我らが単騎突撃の頼れる騎士、大胆だ。しかもヒットアンドアウェイはいつも通り冴え渡っていて、ざっくりとそのアルゴリザードの肩を切り裂いた途端、僕の隣ぐらいまで大きく後ろに跳躍して戻ってきた。

 

 すぐにゼシカが詠唱して追撃に備えているのを尻目に襲いかかってきたそいつの腹を突き刺すように僕も攻撃。近寄らせないようにするだけだからそんなにダメージも与えられないだろうけど……。でも、普段圧倒的な数の差の暴力にうたれているもんだから、一対多数で危機感なんて覚えるはずもないよね!


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