【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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75話 紅玉

 僕は槍を周りの仲間に当てないことだけに……一応後ろでもたついている王子にも……気遣って、少しよたよたとしながらも再び僕らの方に突撃してきたアルゴリザードに向けて槍を薙ぎ払った。その白い腹に横に鋭い線が鮮血を吹き出しながら描かれるも、もう慣れたことで誰も狼狽えない。

 

 にしても、トカゲって……赤い血なんだね。動物系のモンスターは鮮血が多いし、魚系も赤いけど……トカゲもなんだ。トウカがテンションをあげちゃうね……。

 

 その「少しばかり」刺激的な光景に狼狽えたのは王子だけでこっちが攻撃されたわけでもないのに無様に悲鳴をあげている。それを見てさ……ちょっとだけ、正直スカッとしたんだけど僕、何かに毒されてないかな?

 

 ククールも口の端を釣り上げて鼻で笑ってるし。笑ってる暇があったらなんかしてよ。今は例の打たれ脆い剣士さんが怪我の一つもない珍しいチャンスなんだから。

 

「あっは! 打たれ強いねぇ! わくわくするよ!」

 

 トウカが笑いながら、彼女の背の高さほどある大剣ではやぶさ斬りを仕掛ける。それは見事両方命中、今度は煮物にでもするように腹に十字の傷が刻まれ、アルゴリザードはまたまた怒り狂って突進してくるもトウカは剣で打ち返してしまった。

 

 両手が槍と盾で塞がってなかったら思わず拍手したいような見事な剣さばきだった。斬ってないけど。そんなこと言ったらいつも拍手の嵐かもしれないけどね。

 

 確かに、アルゴリザードはククールのバギマに刻まれてゼシカのメラミの連打に焼かれてもなおなかなか強い生命力を見せつけてくれるし、打たれ強いよね。あ、ゼシカがヒャダルコに切り替えて試行錯誤してる。

 

 つまり……トウカにとっては久々の強敵ってことですごく楽しいんじゃなかろうか。そういう奴らがこのとおり……何匹もこの王家の山にいるって分かったら……抑えるの大変だな。怪我とかむやみにしないように僕じゃなくてククールが大変になってくる。……ほら、回復役だし。丸投げするなって?

 

 まぁ、……そこまで心配いらないか、流石はトウカ、たったの魔物一匹をぼこぼこにしてる現状では怪我しそうな気配もないし。

 

 そこで、今までただ(おのの)くだけだった王子が動いた。恐怖に顔を歪ませて、そのちっぽけな短剣を引き抜いて……失礼、短剣の名手ならこの小さな短剣でも素晴らしい戦いぶりを見せてくれるはずだ……見たこともない俊敏な動作でアルゴリザードを一突き。

 

 短剣の先っちょで軽くちくっとしただけのそれは防御力がほかの魔物に比べてそこそこ高いとはいえメタルスライムとかはぐれメタルに比べれば烏滸がましい、つまりちっちゃな出血ぐらいはその立派な体格があるなら出来るはずで、どんなに王子が震えまくっていても一ダメージぐらいは与えられるだと読んでいたのに……何の損害すらアルゴリザードに与えることも出来ずにいたんだ。

 

 想定内、だけど……ここまでは正直ね。でも刺した次の瞬間にはすたこらさっさとそのまま逃げ出してしまうのはちょっと想定外だよ! そこまで役立たずとは! やる気なしの意気地なしだなんて!

 

 一人だったらこの試練、絶対の垂れ死んでたこと間違いなし! 保証する! ……ちゃんとここに来て戦っていたら、の話だよ! そもそもここに来ずに……ベルガラック辺りに逃げてたとは思うけど!

 

 この判断、サザンビーク国王はすごく正しかったな! 僕らがいなきゃ王子は死んでるなんて! もうちょっと彼を鍛えようとは思わなかったのかな……違うな……王子が全部逃げ続けたんだ。

 

「こんなに楽しいのになぁっ! あははっはは!!」

「いやそれはそれで怖いよ!」

「それは失礼!」

 

 笑いながら魔物を切り刻むお嬢様も規格外だから彼と比較するのは間違っているけど! ざくり、ざくりと切り裂く程度だからいつもよりは控えめだよって、そういう問題じゃないし!

 

「ミンチは駄目、サイコロステーキも厳禁! ボクって優しいよねぇ! 天然記念物のアルゴリザードくん! メスだったらごめん!」

 

 なんて言いつつトウカは最後にトドメとばかりにアルゴリザードを……曰く鉄板入りのブーツで重く蹴っ飛ばした。頭ではなく腹なのが、そして内蔵破裂しないように僕から見ても分かるほどの手加減をしてるのは……殺しちゃ駄目だからしているだけだけど……確かに、彼女の優しさなんだろうね……。

 

 なんだろう、たったの二回しか攻撃してないのにどっと疲れた。ホイミいるか? と聞いてくるククールは優しいな……ヤンガスが競ってベホイミがいるか聞いてくれるけど……どっちも要らないよ、ありがとうね……一応最前線にいたトウカにしてあげたらいいんじゃない? え、もうしたって? 流石はククール。

 

 さっきの王子よりもよほど明確に命の危険を感じて、責めようもない逃げをうったアルゴリザードは小さな赤い宝石を落として逃げていく。あれが……なんだっけ。アルゴンハート、だっけ? 目的の。

 

「きらきらしてる……赤い色。世界三大宝石のひとつ……」

 

 さっきまでのいっそ狂気的な笑顔を引っ込めて真面目な顔になったトウカはそれを拾い上げて太陽にかざした。確かに輝いて、綺麗だ。血より淡い赤色。なんだか守りのルビーより上品な輝きに見える。そして力が湧いてくるような感じがするね。仮に、装備品にしたら力の指輪や豪傑の腕輪と同系列かな?

 

「失礼いたしました、王子。こちらが戦利品のアルゴンハートです。お納めください」

 

 トウカはそれをぜいぜいいいながらこっちに走って戻ってきたチャゴス王子に慇懃無礼に手渡した。いや、傍目にはただただ丁寧にしか見えない完璧さだけど、僕らにはわかるってだけのことで。

 

 受け取ると一変してまた偉そうな態度に戻った彼は受け取るとぞんざいにそれを見、なんと僕に投げ渡してきた。キャッチは簡単だったけど、なんてことをするんだよこの王子は!

 

「こんな小さいものより、もっと大きなアルゴンハートの方がぼくにふさわしい!次だ!」

 

 ……人間ってさ、失望の底ってあるのかな? 僕まだ彼に失望できるなんて。ほとんど戦ってない癖に、ほんの一ダメージも与えられない癖によく言うよ……。

 

 表情のひとつも動かさずに了承したトウカはすぐにくるりと僕らの方にふりかえった。その左目には逆に純粋にも思えるほど楽しげな闘争心が宿っていて、嗚呼始まったぞ、なんて思える。満足するまで……チャゴス王子ではなくトウカが……帰れないな、と。




アルゴリザードのHPを本家様より高めに設定してします。アルゴングレードにはもう少し苦戦するように補正をかけようと予定してします。

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