帰路につく。とはいえ、ただ帰っただけだけどね、ククールのルーラでびゅーんって。夜だし疲れたし体力もみんなの魔力もないし魔法の聖水は勿体無いしで徒歩で帰るなんてとんでもない!まあこればっかりは王子と意見が一緒だったみたいだけど仕方ないよね。
すでに日はすっかり傾いてる。暗いサザンビークって石造りに松明が映えて綺麗だね。星空も大自然の中でほどたくさん見えたりはしないけど……前世の都会に比べれば空気が綺麗で電気もないから美しい。ふふん、でもトロデーンの方が綺麗だったんだから!
……って何競ってるんだろう。
……あれ? 出発した時にはなかった露店がいっぱい出てる。暗いからお店、閉まっちゃってるけど。なんかのイベントの開催かな……。……あー、バザーだ。話には聞いてるけど参加したことはないやつ。
結構大きな催しらしくて……用が済んだら寄って行きたいな。無駄にはならない、と思う。ほら誰かさんの槍とか無茶な使い方されてギシギシ軋んでるんだから買い直しのためにもさ。折れるんじゃない? 大丈夫? ドルマゲスと前にちょーっと軽くぼこぼこにされちゃった時も折れてたしエルトの槍は色々不安だよ……。
そうそう、ククールはもう杖使えばいいんじゃないかなって、ククールは今度こそちゃんと守るからさ! だから回復に専念して! ……ごめんそんなにショックだった? 君のレイピアが弱いわけじゃないよ!
それは確かだから! 決して弱くないから! 最近は特にとっても鋭いよ! 嘘ついてないって! でもしっかり守るから、今度は安心して! 私が守るよ! ……崩れ落ちた! エルト! ククールが! え、大丈夫だって?
私の剣も、こんな使い方じゃ普通の剣ならとっくにお陀仏してるけど特別製だから問題はないね! でも私も盾が欲しいな……ずっと使ってる訳じゃないけどこれからもっと魔物が強くなるなら使う機会が増えそうだし! ドルマゲスをぶっ倒す時でも必要だよね!
盾って剣ほどじゃないけどいいよね! 守ってよし殴ってよし振り下ろしてよし! 物理攻撃からも、魔法からも、ブレスからも身を守れる優秀な防具として、そして素敵に丈夫な鈍器として!
「おい、お前達」
なんてさっきまでの死闘なんてなかったように我ながらルンルンで予定を立てていたら、なんだか王子も浮き足立ったように私たちに声をかける。さっさと帰って自分の部屋に戻って……報告は明日にするのかなって思ってたらそうじゃないらしい。
なんでもこの……バ……王子もこのバザーは毎年の楽しみで、それを楽しんでから報告したいらしい。だから宿に泊まるって。
いやいやいや、自分の儀式の方が大事じゃないの?結構旅人の中では……しかも魔物倒しまくって旅してるから強さでかなりいい線いってると思う私たちが死人を出すかと思ったほど強かったアルゴングレートの落としたアルゴンハートはどこに出しても恥ずかしくないと思うんだけど!
バザーの後とか、馬鹿かな! 言わないけど! ここでおじゃんとか嫌だし! ゼシカが肩叩いてくれた! うん、分かってくれるんだね!
「では宿を」
「寛大な僕は宿代を払ってやる。……言うんじゃないぞ」
……こんなくだらない事で口止めするんだね、この王子は! まぁ払ってくれるなら払ってもらうかな。だってカジノとか行っちゃうチャゴス王子だよ?
その資金が少しでも減るならいいんじゃない? クラビウス王の胃のためにさ! あとサザンビークの国民のみなさんの不信感が少しでも減るように……。なんてこの程度じゃ無理なんだろうな。
適当に渡されたらしいお金で……みんな若干嫌な顔をしつつも宿に入った。残ってる部屋の問題でみんな同室になっちゃうっていうね!
お金余ったけど後で返さないとなぁ……。にしても、護衛のそういう金を払うってところはやっぱり上に立つっていうかそこのところは教育されてるのかな? うーん、ただの口止めって可能性の方が高いかなぁ……。
その後、ゼシカにやったらめったらどんな服にでもリボンが付いているって何時か言ったのを思い出されちゃって、ただの寝間着なのにこんなところにヒントがあったなんて……とか捕まったり、男三人、女二人でベッドが一つ余る六人用の大部屋しかないという、まぁ飛び入りで泊まったから仕方ないのだけど……不運を嘆くククールがいたり、デリカシーというかやっぱり色男って気にするのかな、そういうの!
いつも通り剣を抱きしめ、枕元に双剣を並べておやすみなさい! なんでみんな私を恐ろしいものを見るような目で見るのかな!いつもの事じゃないか!
疲れたから布団に潜ってすぐに意識がフェードアウトしていったけど仕方ないね!夜の鍛錬をサボっちゃったけどそんな日もあるさ! ちなみに次の日、みんなと同じぐらいに目覚めた私は朝の鍛錬まで出来なくってあまりの困憊っぷりにびっくりもしたよ! そこまで疲れてるとはね!
寝たらさっぱりすっきり爽快だったから、引きずることだけはないよって笑ったらまだ疲れてるみんなは頼もしそうに、あとちょっとだけ呆れたみたいに笑い返してくれた。
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