【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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※オリ展開甚だしいのでスルーしてもいいかもしれません。
※スルーの場合は次話普通に泉に向かうってことだけで理解できると思います。


84話 剣士

「陛下……お話したいことがございます」

 

 鋭い破裂音とともにトヘロスの魔石とかいう馬鹿高い高級品を地面に打ち付けて砕き……決して簡単に砕けるものではない……、聖水を振り撒く。本気の、魔物避けだ。それをいとも簡単にトウカは、した。……いくらかかったんだそれ。

 

 武器を何一つ身につけていない彼女は、短剣すら隠せないような、寒さまで感じそうな薄着で跪き、首に巻いていたチョーカー、もとい変声器を外す。

 

 鎖帷子や服の重ね着をしていないトウカは後ろから見ても少女らしく酷く華奢で、武器を隠しようもない緩やかな服は……正直俺より逞しくどんな魔物でも投げ飛ばせそうな力を持つ腕を隠すから尚更だ。……細身でもついた筋肉だけはマジだった。着せ替え人形にしようとしていたゼシカが黙って半袖を選択肢から外していた。

 

 チョーカーを外した途端、露わになる古い傷跡。首の後ろにまで及ぶそれはここからでも見えてしまう。痛みはないと説明されていても思わず息を飲みそうになる……目立つ傷跡にトロデ王は訝しげに佇まいを直した。すべてを話す、そう決めている背はいつも頼れる剣士とは思えないほど小さく見えたが、堂々たる姿は……ああこれが貴族か。本物、か。

 

 跪いているから、こちらからはトウカの顔は見えない。彼女の表情は少しも分からない。ただ分かるのは感情の揺れを感じさせない静かな声、そして理解しているのは恐ろしく王に従順な彼女が何をしでかすのか分からない、不安。

 

(わたくし)、トウカ=モノトリアは」

 

 アルトの声は、うっかり俺が魅了されかねない……いや既にされた……高い少女の声に変わった。ただただ圧倒的な強かな剣士、誰よりも勇敢で獰猛とすら思える存在から発せられる少女らしさは馬姫すら固まる。

 

 もっとたじろげばいい、と思ってしまったのは俺の勝手すぎる意見か。レディは騎士に守られればいいんだ、花と平和に過ごせばいいんだ、断罪なんてされる必要は無い、なんて言うのには彼女は強すぎたし、断罪なんてと言うのには彼女と過ごした時間が短すぎる。

 

 彼女と俺は仲間だ、かけがえのない。だが俺は「十年ともに過ごした親友」ではない。「初めから旅に同行していた仲間」でもない。途中加入の、厄介払いされた問題児の騎士だ。今俺は何も、言えない。

 

 隣で唇を噛み締め、言いたいことをすべて飲み込んでいる近衛兵も……親友について言いたいことはあれど君主の前では口ごもっているんだろう。まったく、権力なんて嫌になるぜ。この王は変な使い方をしない、と信じたいが。

 

「私は、女です、陛下、姫。どうか、お二方を騙していた罪、お裁きください」

「……なんと?」

「モノトリア家長子……トウカ=モノトリアは女でございます。男のみ志願できる兵に女の身で志願し、あまつさえ近衛となり、御身を騙してお側におりましたこと、声を変えて生活しておりましたこと……お裁きください」

「……ふむ……顔を上げよ」

「はっ」

 

 貴族サマの内々の事情なんて分かるものか、男児が生まれなかった貴族は養子をとってまで存続したりするってのは知ってるが。だが……そういえばモノトリアか。血筋の問題でトウカは養子にされたってことだろうな。これだから……。

 

 俺がもっとヤンガスのような筋肉質の力持ちでエルトのように隣にいた立場の男だったら気を利かせることも出来たんだろうがなぁ……なんて美意識が風邪ひいちまう。あぁあぁ。トロデ王、変な事言ったら承知しないからな。

 

 にしても「ヤンガスみたいな強いひとがいい」とかトウカが言い出したら俺はどうすればいいんだ。「エルトみたいな強いひとがいい」でもあんな槍振り回す童顔にはなれないんだが。

 

 要求がかっこいい人、だったらな……。俺じゃないか。

 

 クソッ思考がまとまらねぇ。

 

・・・・

 

「騙して、と申したな」

「はっ」

 

 陛下は君主、姫は大事な恩人、トウカは親友、ヤンガスはトウカの味方、ククールは多分思考がめちゃくちゃになってる、だってすごく百面相してから無表情になってしまったから……、ゼシカは……どうだろう。彼女の意思のおもむくままだろうな。ってことは……。あぁちょっと、思考読んで肩を叩かないでゼシカ。分かってる、君のことはわかってるさ。

 

 親友がどういう処分をされるのか分からない僕も……ククールのことを言えないくらい相当混乱してる。ククールがあれからひたすら無表情なのは怖すぎるけど、あそこまでではないって信じたい。無理か、同じくらいかも。

 

「具体的に……兵の志願。他に声を変えていたということじゃな?」

「その通りでございます」

「ふむ、しかしわしの知っているトウカ・モノトリアは養子、モノトリア長子と名乗っておるが……いつ男と嘘をついたのじゃ?」

「兵の志願であります、陛下」

「ふむ、書く欄がないように記憶しておるがの……トウカや」

「……それは」

 

 あれっ? 心配することない? 平和な感じ? と、うっかり楽観してしまいそうになる。陛下の声はなんとなく優しく思えた。もちろん、深刻な場面で深刻な声なんだけれど。……そういえばトウカが女の子ってわかれば、トウカは姫と同い年の女の子ってことで……陛下が甘くなる対象、だね。屈強な男が何人相手になっても勝てないけど……。

 

 陛下の目は、優しい。

 

「トウカや」

「はっ」

「何故今、教えたかは聞かんぞ」

「……はい」

 

 そこは聞いても別にトウカに傷は行かないんです、陛下と言いたくなるぐらいには余裕が出てきたかな……。

 

 茶化してるんじゃなくて、別方向に頭を動かさないとトウカが剣を持ってない違和感で頭が焼き切れそうなんだ。

 

「裁け、と言ったな。トウカや」

「はっ」

「では、こうしようの。トウカ・モノトリアよ。近衛の任を解く!」

「畏まりました!」

 

 ……え? 血を吐くようにトウカが、返事が叫んでいるように聞こえるんだけど。トウカ……確かに、女の子だけど……まさか、ずっと、生まれてからずっと近衛になって陛下と姫をお守りするために、そのために努力していたのに……トウカの、近衛の、任を、解く? まさか、ご慈悲を、陛下!

 

 というかトウカで駄目ならトロデーン兵は全滅……ってほぼ全滅してるんだった! 全滅ですよ陛下! トウカ手放したら絶滅ですよ陛下! 僕じゃ駄目です陛下ぁあ!

 

「おお、()()トウカよ。何故おぬしのような人材がどこにも所属していないのじゃ? ふむ、我が家臣とならんかの?」

「……は?」

 

 ……えっと? つまりは?

 

「ふむ、なるかの。よろしい、腕を見込んで近衛かの」

「えっと、陛下……?」

 

 困惑してるね、僕も理解出来ないよ、トウカ。君だけじゃない。みんな唖然としてるから。

 

 つまり陛下は……その、つまり……うう、理解が追いつかない。

 

「剣士トウカ、女の身でありながらこれまでの旅での功績は見事であった。なんら栄誉あるトロデーン近衛兵として不足はないの。特例はいつの時代も付き物じゃよ」

「……陛下、私めをお裁きください……ご慈悲は……」

「のう、トウカや。頭の固いモノトリアはいつでもそうじゃ。国を築いたその日からモノトリアはトロデーンの従者じゃった」

「……」

 

 陛下はトウカ・モノトリアじゃなくて、剣士のトウカに近衛になれって命令してるってこと? えっ同一人物じゃないってことにしようと? それで許すってことですか? それじゃあ今までのトウカの実績も努力もなしってことになるんじゃ……そういうペナルティってことなのかな……。

 

 理解が追いつかないよ。

 

「どうして従う?どうしてわしらに……どこでもやっていける名誉を持つ者が集うのか? 分からんのじゃよ、トウカ。

わしたちはそれに報いねばならん。トウカよ、十八の娘でありながら……いや、それ以前から、王族や国のために尽くしたおぬしは、騙していた訳ではないのじゃ。そうだとしても、……わしたちは返せるものはないのじゃよ。それでも国を救う、その手伝いをしてくれるかの」

「……もちろんでございます」

 

 陛下としては罰を与えたくないけどトウカが求めてきたからこういう形にしたってことなのかな……。

 

 僕はそんな、縛られるような血筋とか無縁だから。だから分からない。分からないから、……トウカが今何を思ってるのかなんて想像もできない。

 

「うむ。ではこの話はもう終わったの」

「……すべては陛下のお心のままに」

「それはやめるように言っても……モノトリアはやめんのう」

「我が黒き血は、守り通さねばなりません。トロデーンのその尊き地で、継がなくてはなりませんので」

「弁明も、父と同じよの」

 

 話が、終わっちゃった。始終おいてけぼりにされた僕達は……無表情に頭を下げたトウカを囲ってそのまま城下町に連れ込むことぐらいしか出来なかったのだけど、陛下の小さなウインクが妙に頭に残った。

 

・・・・

 

「……これで同じだよ、エルト」

「どういうこと?」

「私はトウカだ。そうだよね? 私は剣士トウカ。モノトリアとしての兵士じゃないんだ……」

 

 寂しそうな目をしていた、と思ったら彼女は不意に僕の手をがっしり握った。にこにこして、どうしてか嬉しそうにも見えたんだ。

 

「これで対等だ、エルト」

「……あぁそういうこと」

 

 そんなに強い剣士で何が対等だって思うんだけど、なんだ。僕は能天気だったけどトウカは気にしてたんだ。

 

「僕らはずっと親友じゃないか」

 

 手を取って、笑う。それだけで安心が伝わってくる。嫌われるのを何より怯える親友は、対等にもこだわっていたけれどもう……それも叶ったってわけで。

 

 女の子だからなんだっていうんだ。この感情は恋に変わらないって、ちゃんと理解してるから。というか僕には既に……。ううん、それは今はいい。ただ、別に君が気に病まなくたって僕はトウカの親友だから気にしなくてもいいってことなんだよ、ね。




語られなかった裏事情

トウカ=ルゼルで兵の志願書が書かれているので、まさしく代わりとされていました。なぜ通ったかわからない、ルゼル(斜線で消す)トウカ=モノトリアと書かれた志願書、というわけです。これを破棄してまっさらのトウカ=モノトリアでスタートというわけで別人扱いという解釈と言いますか。これが語られていませんが「兄の成り代わりだ」の所以です。

男装のトウカと今のトウカを別人扱い……と書類の上で。

まぁオリ展開なので深く考えずスルー推奨です。

ちなみにサブタイトルで「彼」、「彼女」、剣士はトウカってことですし、聖騎士はククールってことなのはお分かりだと思いますが、その別バージョンとしてエルトは勇者または槍士、ゼシカは魔道士または魔女、ヤンガスは斧使または山賊などで表現するかも……ということで恒例の「未定です」。いつも行き当たりばったりです。

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