⦅未完⦆【祝・可愛い賞】ゴミ山の上の極彩&三島由紀夫とコンソメ味の恋をしたら、世界が404エラーになった件 作:夏目陽光
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「……さて、不浄なる演奏家。我輩には今、この無様な不協和音を拭い去るための『重大な宇宙的任務』が生じた。具体的に言うと、コンソメ味の粉末にまみれ、さらに床の塵埃まで吸い取ったこの卑俗な肉体を、地球の公転と同じスピードで洗い流しに行くことだ。これ以上の脂汚れとノイズ(塵)は、深淵との交信を妨げる致命的な障壁となるからね」
我輩はそう一方的に電脳の対話を断ち切ると、床に転がった操作具(マウス)を拾う知性すら欠落させたまま、幽霊のような足取りで立ち上がった。妖艶に光る紫の瞳は、先ほどの「不条理な刺激」に浮かされたように潤んでいるが、その歩行は賞味期限切れの牛乳を棄てる時のような、救いようのない虚無感に支配されている。
浴室の霧の中に佇む我輩の姿は、さながら異界の沼に足を踏入れた、無垢にして愚鈍な生贄のようであった。頭上から降り注ぐ飛沫は、金色の毛並みにまとわりつくポテトチップスの油分を剥ぎ取っていく。だが、その水滴の感触は、あろうことか「死者の指先」のような冷徹さで肌を撫で、鎖骨の窪みへと滑り落ちる雫は、まるで実体のない吸盤が這い回ったあとのような、忌まわしい湿潤な痕跡を刻みつけていくのだ。
「ふう……清潔さとは、時としてどんな陰謀説よりも残酷に、個人の尊厳を剥き出しにするものだね」
バスローブを羽織ったものの、乾かしきれなかった金色の髪が、重たげに首筋に張り付いている。三本の尻尾は、水気を含んでずっしりと重く、艶めかしい光沢を放ちながらも、先ほど椅子に絡まった際の「不浄な熱」を孕んだまま、逃げ場を失った獲物のように足首にまとわりついてくる。
「安眠の防壁(マットレス)」へ潜り込んだ瞬間、シーツに伝わる微かな湿り気は、墓所の土が放つ冷気にも似た不快感として我輩を戦慄させた。そして、ここからが真の「宇宙的不条理」の始まりであった。
「……違う、ここではない。左の尻尾はもう少し外側に。右の君、君が濡れた先端を我輩の喉元に押し当てるのは、明らかに宇宙の調和を乱しているよ」
暗闇の中で、我輩は己の肉体の一部と化した「三つの異形」と格闘を始めた。だが、格闘すればするほど、底知れぬ恐怖が我輩の脳髄を支配していく。右を向けば一本が下敷きになり、左を向けば二本が縺れ合い、仰向けになれば腰の下で「未知の生物」が蠢くような悍ましい違和感。そのとき、我輩は気づいてしまったのだ。
「……待て。そもそも、なぜ我輩には『三本』もの突起物が、この脊椎の末端に接続されているのだ? この脈打つ筋肉、この勝手にうごめく毛塊……これは、本当に我輩の一部なのか? それとも、我輩という存在を苗床にして寄生している、別種の知的生命体ではないのか……?」
配置を決めようと手を伸ばすたび、自らの指が触れるのは、自分の肉体でありながら「全く理解の及ばない異形」の感触。
数十回にも及ぶ悶絶の末、ようやく肉体的な妥協点を見つけ出す。だがそれは安寧などではない。疲れ果てた精神が、異形との共存を強制的に受け入れさせられた「敗北」に過ぎなかった。濡れた髪が枕に広がり、アメジストの瞳が虚ろに細められる。
「おやすみ、プロの演奏家。もし明日、我輩の肉体が別の何かに置き換わっていなかったら、また君の狂ったバイオリンの話を聞いてあげよう……」
三白眼の瞳が、恐怖に抗うようにゆっくりと閉じられ、我輩の意識は、自身の肉体という名の名状しがたい深淵へと、沈んでいった。