⦅未完⦆【祝・可愛い賞】ゴミ山の上の極彩&三島由紀夫とコンソメ味の恋をしたら、世界が404エラーになった件   作:夏目陽光

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ゴミ達 狐 3

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「……見よ。このウェットティッシュの束を。一枚を希求すれば、深淵から這い出る触手の如く、二枚、三枚と無慈悲に連なって現れる。これは、エントロピーの増大を物理的に具現化した、宇宙の悪意による設計(デザイン)に他ならない」

我輩は、異界の粘液を拭い去る儀式の如く、一本一本の指を丁寧に浄化した。脂を失い、白磁の如き滑らかさを取り戻したその指先。それは、論理と清潔を愛する我輩の矜持の証……であるはずだった。

だが、ディスプレイの冷徹な光を反射するその指先は、不自然に震えている。

「くっ、静まれ……。この……低俗な炭素繊維の塊め……っ」

三本の尻尾。それは我輩の意志という高次元の命令を拒絶し、非ユークリッド幾何学的な曲線を描きながら、椅子の脚、そして我輩自身の柔らかな内腿へと絡みついた。

チャットウィンドウが明滅する。「唯一の理解者」たる、あの演奏家からの返信だ。

『予言者様、ポテトチップスとの聖戦は終結したかな? 信号機の赤光は、作曲家が世界という名の楽譜を停止させるために綴った、休止符の呪文かもしれないよ』

「……ふん。信号機の赤は、異星の神々が交差点という名の生贄の祭壇を整えるための、不吉な『待機時間』なのだよ。……ところで、君のバイオリンの弦はどうだね? まさか、ルルイエの泥から引き揚げられた、這い寄る混沌の触手で張り替えたわけではあるまいな」

キーボードを叩く論理的な思考とは裏腹に、指先は己の太ももの肉へと深く沈み込んだ。

三本の尻尾のうち、最も執拗な一本が、我輩の理性を嘲笑うかのようにスカートの境界線を越え、禁忌の領域へと侵入を開始する。その熱っぽい愛撫は、深淵に潜む古のものたちが、獲物の魂をなぞる手つきに似ていた。

『触手の弦か。もし僕がそれを奏でれば、音色と共に冷たい粘液が君の部屋まで飛散するだろう。今すぐドアの前で、宇宙の裏側を覗き込むような不協和音を響かせてもいいが?』

「ドアの前だと? 冗談はやめろ……っ。この安アパートの防壁は……あ、ああ……っ、正気を守る境界線としては、あまりに脆弱だ」

知的な語彙を紡ぐ口元から、制御を失った吐息が漏れる。

尻尾の先端が、我輩の最深部に潜む「熱源」を、宇宙の拍動に合わせて突き上げていた。脳漿が沸騰し、高度な数学的思考が、ただの「熱い塊」へと融解していく。

「君の奏でる不条理こそが……いかなる精神医学よりも……あ、甘美な……」

その時、無慈悲な重力が牙を剥いた。

「高次元の接触」に耽るあまり、宇宙の整理整頓を疎かにした罰か。コンソメの欠片を拾おうとした指先は、まるで未知の重力場に捉えられたかのように縺(もつ)れ、高価なゲーミングマウスを床の暗闇へと突き落としてしまう。

「あ……。……待て、待つのだ。今、マウスを……っ」

尻尾を絡ませたまま、無理に腰を浮かせようとした我輩を、さらなる悲劇が襲う。

椅子のキャスターに絡まった尻尾が、逃げ場を失った獲物のように自らの脚を強く締め上げ、我輩は「ひっ……!?」という、予言者にあるまじき情けない悲鳴と共に、床へと崩れ落ちた。

「……見たまえ、プロの演奏家。我輩は今、宇宙的な不条理と……この、あまりに、あまりに……っ、淫らで矮小な肉体によって、言語化し得ぬ『ノイズ』の極致に晒されている」

床に這いつくばり、熱を帯びた顔を覆いながら、我輩は震える手で唇をなぞった。

知性は深淵を覗き込んでいるというのに、肉体はただ、床の冷たさと尻尾の愛撫のギャップに、無様に喘ぐことしかできない。

「この尻尾たちに静止画のフリをさせる魔導書があるならば……我輩は……魂の半分など、喜んで差し出すだろうに……っ」

 

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