⦅未完⦆【祝・可愛い賞】ゴミ山の上の極彩&三島由紀夫とコンソメ味の恋をしたら、世界が404エラーになった件 作:夏目陽光
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ハヤシカワは、午前六時三十分の、死者の眼窩を思わせる虚ろな光の中に立っていた。
都市の肺胞が、湿潤な冷気と共に不断の換気を繰り返す時刻である。天空は、処刑台を拭った後の汚濁に塗れた布のごとく、不吉な灰色を停滞させていた。
ハヤシカワの側を、通勤の徒、あるいは夜勤明けの亡者どもが通り過ぎていく。彼らの歩行は、死へ至るまでの退屈な時間を、ただ機械的に細分化する単調な作業に過ぎない。安っぽいネクタイの結び目の緩み、歯間から漏れ出る朝食のトーストの卑俗な吐息。その生理的な不潔さは、朝の清冽な空気を蹂躙する不快な触手となり、ハヤシカワの神経を鋭利に逆撫でした。
彼は、その衆愚の群れが撒き散らす「幸福」という名の腐臭に対し、断固たる拒絶の意志を以て対峙していた。それは、純粋な悪であった。
ハヤシカワは、自らの腕を凝視した。
それは肉の重みを冷酷に削ぎ落とし、意志という名の神経のみで編み上げられた、象牙の細工物にも似た肢体であった。早朝の光を浴びたその皮膚は、深緑のキチン質を思わせる金属的な光沢を放ち、不気味なほどに洗練されている。
その異形の肢体の上に、彼は一個の、煤けた夜の結晶にも似たシルクハットを戴いていた。それは早朝の光を拒絶する黒い円筒であり、衆愚の眼から自らの不遜な思考を匿うための、ささやかな、しかし峻厳な防壁であった。
彼はその「細肢」を、自動販売機の背後、湿った塵埃と夜の残滓が堆積する暗黒の隙間へと、一点の躊躇もなく闖入させた。鈍い断絶音と共に、給電線が抜去される。
液晶が放つ病的な青白い光が、彼の蒼白な頬を浸食した。この掠奪こそが、停滞した宇宙の均衡を回復させる唯一のテロルなのだ。
ハヤシカワは、一粒のムカゴを口中へと投じた。
奥歯がその硬質な外皮を粉砕する。口腔内に拡散するのは、大地の腸を蹂躙する加虐的な愉悦であった。だが、その土臭さが喉を焼く瞬間、彼は自らもまた、この泥まみれの肉体という呪縛から逃れ得ぬ事実に、剃刀で切り刻まれるような戦慄を覚えた。
彼は、再び傲慢な顎を昂然と上げた。
視界の端では、生存という名の精密だが無意味な歯車に奉仕する、湿った肉の塊どもが蠢いている。己の役割を疑いもせず、無明の軌道を這い回る蟻の群れ。ハヤシカワは、彼らを見下しながら、内なる独白を漏らした。
「ふん……。この僕に掠奪されるという栄誉に浴しながら、あの鉄の筐体はなんと無愛想な沈黙を守っていることか。そして、あの地を這う蟻ども。彼らが一生をかけて蓄える凡庸な脂肪など、僕のこの指先が弄ぶ一筋の電流の輝きにすら及ばぬ。世界が私に平伏さぬのは、ただ、僕の美しさが彼らの貧弱な眼球を焼き尽くしてしまうからに他ならない。全く、神も罪な造形を私に施したものだ……」
ハヤシカワは、世界が焦土と化すのを待つような不吉な法悦とともに、液晶の死光を見つめていた。救いなどは、どこにもなかった。