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その少女達は、怪獣である。
「早く暴走を止めないと!」
名前は、ミクラス。腕とは不釣り合いなほどに大きい褐色の手と赤と青が特徴的な角を持つ少女が仲間の二人へ呼びかける。
「しかし、強すぎますよ。三人じゃとても……」
名前は、ウインダム。身体を金属で覆い何かの目のようなゴーグルを持つ少女は苦戦しているのか片膝をついていた。
「でもここで食い止めないと、ボク達でやらなきゃ!」
名前は、アギラ。鋭い爪とトサカのような角と襟を持つ少女は必殺の連携を二人に指示した。
「ウウウゥ……」
気流乱れる中三人が対峙していた少女もまた、怪獣である。
赤い衣服(に見える怪獣の殻)と金色の鎧を身に纏い、長い左の爪と身の丈程ある双刃刀を右腕のみで振るう姿は戦士のように見えるが、その目は正気を失っている。
かつて、この世界には怪獣と呼ばれる生き物がいた。
人類と怪獣との長い戦いは終結し、平穏が訪れたそんな時代に、怪獣の魂を宿し変身できる少女"怪獣娘"たちが現れる。
アギラ、ウインダム、ミクラスの三人はその怪獣娘の救助と指導を目的とする組織
「ウインちゃん早く!」「はい!」
暴走した怪獣娘をミクラスがなんとか羽交い締めにし、ウインダムは頭のランプからレーザーを発射しなんとか弱らせようとする。しかし──
「はっ、弾かれてます!」
金色の鎧がレーザーを乱反射させたため効果が薄く、今にもミクラスの拘束は解かれてしまった。
「ッ!!」
「ううううううーーーーああああああああッッ!!」
しかし怪獣娘が逃げるより速くアギラは角による突進、腹部を狙ったワンポイント攻撃を仕掛ける!
「……」
「うっ、うくっ……」
結果は相打ち。怪獣娘は素早く双刃刀をアギラの角へぶつけ、刃と角は折れてしまった。
「アギさん!」「ッ!」
しかし怪獣娘の武器はこれだけではない。残った左の爪が今アギラを引き裂くその時!
ガシャーン!!
頭上に建物はない。しかし二人の頭にはガラスの破片のようなものが降り注いている。
破片に目をやったアギラはその目を疑った、足元にあるの破片は澄み切った空。今広がっているそれなのだ。
怪獣娘も混乱しているらしく、思わず二人は空を見上げた。そこには割れた空から真っ赤な空間が顔を覗かせている。
「そこの怪獣娘さん! 早く逃げて!」
裂け目から聞こえた声に一瞬早く動いたのはアギラ、急いでその場から離れた。
怪獣娘はアギラを追いかけようとするも間に合わない。裂け目から落ちてきたものは──無数のミサイルだった。
けたたましい爆音とともに爆撃され続ける怪獣娘を助けることができない三人は、ただそれを見守るしかない。
しばらくし爆撃が止んだ煙の中から現れたのは、大人しくなった怪獣娘をおぶっている小さな少女。
しかしその頭には見事な一本角、左右には小さい角が生えていた。おそらく怪獣娘だろう。その後ろには先程の裂け目が広がっている。
「お疲れ、この子は貰っていくよ」
「あっ待て……っ!」
ウインクをして裂け目に入っていく少女を追いかけられない。三人の疲労はすでに限界を迎えている。
何が起こっていたのか把握できない三人は、ただそこに座り込むのみだった。
* * *
エースキラー……エースキラー……
誰かが呼ぶ声、自分の名前ではない。それなのに何故、自分が呼ばれているように感じるのだろうか。
起きよ! エースキラー!
──声に促されるようにハッと起きたそこは、赤に包まれた世界。壁も地面も無いそこに、おれは
しかし目の前にはそれを区切るように小さな部屋が設置され、3人が座れる程度のソファと、小さなデスクにノートパソコン。
そこの横にはお香が焚かれていて、甘さの中に少しスパイスの効いた香りが漂っていた。
傍らには上半身が房で覆われている黒髪の少女、手には爪となんとミサイルがある。
そしてもう片方には、橙色の髪の小さな少女がこちらへ微笑みかけていた。その顔の天辺には見事な角が生えている。
どちらも人でありながら、人とは違う空気。
そして目の前の部屋で立っている紫色の髪をしたエジプト風の女性は、おれがチラリと見たお香に目をやり
「これはキフィという香水を通常の10万倍更に薄めた特別なお香。この香りが芳しく感じるなら、貴方も……」
「ここは……?」
「……異次元。座標はGIRLS本部の裏だよ」
「ここは国際怪獣救助指導組織、通称GIRLSの超本部。ようこそ、新しい
「……?」
「も~スフィンクスったら、そんな説明で理解できるわけないじゃん」
「この下り何回続けるつもりなんですか?」
砕けた雰囲気となった両脇の二人が、目の前の女性に近寄っていく。
「ごめんなさい。どうしてもこのフレーズ、言いたくて。緊張しないでください、神張エキラさん」
「どうしておれの名前を」
怪獣娘
かつていた怪獣という存在の魂を持つ、怪獣に変身できる少女が現れたという。
おれもその一人であり、今怪獣娘として彼女達に保護されているということらしい。
「私はバキシム、よろしくっ」
そう言った小さな少女に生えている角は本物の質感を持つ怪獣の角だったのだ。
「あたしはベロクロンなんです」
その黒髪の少女に備わっているミサイルも、本物ということだろう。
「そしてわたくしがスフィンクスです」
エジプト風の女性は二股の尻尾を揺らしながら言った。
「でもおれ、何も分かりません」
「当然です。貴方に眠る超獣の魂、カイジューソウルが暴走を起こしていたために、その間の記憶が抜けているのです」
その言葉に慌てて立ち上がり、かと言って何かをやれるわけでもなくソワソワする。
その様子を見たスフィンクスに、部屋の椅子へと誘導されるまま座った。
GIRLSにとっては暴走は珍しくないため、被害は最小限に抑えられたらしい。
──再びキフィの香りが鼻をくすぐる。
「あの、さっきから超獣って何ですか?」
「えぇ、彼女達は厳密には超獣なの」
* * *
──ここはGIRLSの会議室
白黒の獣殻に非常に長い尻尾を持つ怪獣娘、エレキングがそう言う。
「貴方達の目の前に現れたのは一角超獣バキシム。ミサイルはおそらくミサイル超獣ベロクロンのものね」
「怪獣とは何が違うのでしょうか」
そう問うウインダムに横のミクラスがうんうんと頷く。
エレキングはその質問について映像で答えた。
かつてヤプール人という異次元からの侵略者が扱った怪獣を超える生物兵器が超獣。
異次元を移動し防衛軍の基地を奇襲するバキシム、大量のミサイルによって防衛軍の航空部隊を全滅させたベロクロン。
他にも様々な映像を見たミクラスとウインダムは恐るべき戦慄に震え上がった。
「まぁまぁ。今回は皆さんを助けるために出てきたんですから、悪い子ではないですよ~」
赤い髪をなびかせる小さな怪獣娘、ピグモンが二人を和ませようとする。
「謎なのは、その二人とスフィンクス以外の、言わば超獣娘は全てGIRLSに登録されていないこと」
「怪獣娘の反応がありながら発見されなかった事件は何度かあります。もしかしたらその二人、いえ三人が隠してきたのかも」
「何のために?」
その質問にはエレキングもピグモンも首を横に振った。
「とにかく、シャドウジェネラルの件が落着したわけですし、今はこの超獣娘の調査をGIRLSの活動とします」
──何かを考えていたのか、今までの話を片頬杖をついて聞いていたアギラが初めて声をあげた。
「じゃあ、私達が戦ったあの暴走した怪獣娘は?」
「それが一番の謎。おそらく超獣なのでしょうが、貴方達の証言を元にしても断定しきれない」
「じゃあおれが何者なのかは、誰も分からないと?」
* * *
不安になるエキラにスフィンクスは首を横に振った。
「あてはあります。貴方がうわ言で言っていたエースキラーという名前です」
自分が聞いていた夢のうわ言がバッチリ聞かれていたことに耳まで真っ赤になったが、今はちゃんと話を聞くべきだろう。
「そういった超獣はいませんが、名前と見た目を考慮するに似た超獣はいた。おそらくその同種。
──そして何よりカイジューソウルがそう言ってるから、貴方は超獣娘です」
……ほとんど勘だ。項垂れたおれの肩にバキシムが手をやった。
「一言文句を言いたくなる気持ちも分かるけどさ、私達のリーダーを信じて」
悪い人ではないのかもしれない。
「どうにか、何か手掛かりはないのですか?」
「逆に聞かせてください。何故そこまで知りたいのですか?」
一つため息をついて
「それさえ分かれば、自分が何者かになれると思って。エキラなんて変な名前を付けた親の子供じゃなくて、もっと……」
「ふむ、では貴方に名前を与えましょう」
すぐには意図を理解できなかった。
「貴方はこれまでのエキラの人生だけでなく、これからエースキラーとしても生きることになります。
しかし、今の様子では満足に生きることも難しいかもしれません。今から貴方はエキラとエースキラーで、エスと名乗りなさい」
会釈をする。
人であり超獣である、それは結局何者なのかは不透明なままだ。それでも、この定義は不思議と認めることはできた。
「じゃあ私達も作ろうよっ。私の本名は藤川レベッカ、ベッキーとバキシムでバッキーね。ベロクロンの本名は福地クロコだから、クロコで」
「変わってないんですが!?」
そんなやり取りに思わずクスリと笑う。
「何でこんなことを」
「仲間だから、なんでしょ」
「そうそうっ。じゃあスフィンクスは…本名知らないしフィンフィンでいい?」
「必要ありません! せめてその愛称だけは絶対にやめなさい!
──気を取り直して、エスに初めての任務を授けます」
コクリと頷く。
「何もするな」
「は?」
「──と言いたいところですが」
「何で言ったんですか?」
「うん、普通の超獣娘ならそう言って活動を禁止させていました。
ただ、何の超獣か分からないこと、何よりGIRLSに貴方の存在がバレてしまった以上わたくしが貴方を管理しなければならなくなりました。
少なくともその力を使いこなせるようになるまではわたくしの指示を受けること。いいですね?」
黙ることでイエスと伝える。
「では、エスの暴走騒ぎで対処が遅れている新しい超獣娘の保護へ向かってください。位置はバキシムに教えました」
「よし、じゃあ二人共! この方角をずっと真っ直ぐね?」
「真っ直ぐって、まさか……歩き?」
「大丈夫です。異次元には壁も無いので最短ルートで通れるんです」
異次元を移動すると聞いてワープでないと予想などできるだろうか?
しかし元々負っていた傷も今では痛みがなく、何故だか歩ける気がする。これが超獣娘の体なのだろう。
「いやそうじゃなくて、GIRLSなら何か移動手段の支援とかあるものじゃないんですか?」
「わたくしがGIRLSから受けている支援はごく一部、つまりお金がありません。まぁ全速力で行けば日が変わるまでには終わるでしょう」
──やっぱり歩けないかもしれない。
こうしておれの超獣娘の仕事は、ひたすら歩くところから始まった。
私たち!超獣娘!? 完
26.5.24修正
エースキラーの一人称を『オレ』から『おれ』に変更しました。